【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
凍結した富士山より離れ、公道のアスファルト道路を見つけた緑谷は、湧水と藤見と共にそこへ着地した。さて、スマホの電波は届いているかと懐から取り出せば、画面には『不在着信』と表示がされていた。
「よかった携帯繋がってる」
画面をタップし、誰からの不在着信かと見れば、A組委員長の飯田からだった。恐らく率先して、雄英A組の登山ルート捜索隊に連絡を取っているようだ。緑谷はすぐ連絡を取らねばと通話表示をタップした。
スピーカー機能をオンにし、聞き取りやすくして、呼び出し音が一度鳴り切る前に通話は繋がった。
「もしもし、飯田くん?」
『緑谷くん!良かった無事なんだな!?』
ようやく応答があって安堵したのが声からわかった、さっさと状況と無事である事を伝えなければと、そのまま緑谷は話した。
「うん、同じチームの湧水くんと藤見くんも無事……そっちは?」
『登山者の避難も完了している、同じ生徒達も何とか下山したよ、他のトレッキングルートを捜索していた捜索隊も連絡取れて、キミ達が最後だった』
中々に速いスピードで、富士山は凍結していた。先にこちらの移動用バスを登山者避難に使ったのが幸いだったようで、待機していた合宿参加者も、他のトレッキングルート捜索舞台も無事下山したようである。
やはり、あの脳無らしき化け物との戦闘があったから脱出が遅れたようだ。緑谷は凍結した富士山を一瞥し、尋常では無い事態であるが故、飯田に全て話す事にした。
「飯田くん、先生方に伝えてほしい……こっちで、脳無らしき化け物と遭遇して交戦し、討伐したと」
『何だって!?脳無!?』
「分からない、あくまでらしき、酷似した化け物だった……合流したいんだけどどうしたらいいかな?」
『ちょっと待ってくれ、相澤先生に繋ぐ!』
話が話だったようで、飯田は先生方に繋いで判断をして貰うと、電話は切らずにそのまま相澤先生にスマホを渡したらしい、物音が少し響いてから相澤先生の声が聞こえた。
『緑谷か、無事で良かった……で、脳無と交戦したと?』
「まだ未確定です、酷似はしていましたが……」
『分かった、こちらも青年の家まで全員で戻っている所だ、悪いが現地まで戻れるか?』
「了解しました、イレイザーヘッド、ではそちらで」
相澤先生から、合宿地の青少年の家で合流と指示を受けた緑谷は通話を切った。そして……後悔が胸の中にじわじわと広がり始めた。
悪夢の中で見た"死柄木弔"と"AFO"が、予知夢の様な、虫の報せだったのだと。出発前に話をしておけば、こんな事にならなかったのではと奥歯に力が入った。
「2人とも捕まって、このまま僕が合宿地まで飛ぶから」
「お、おう」
「承知した」
そんな表情が、滲んで浮かんだかもしれない。緑谷がまた飛ぶと伝え、聞いた藤見と湧水は、少し動揺した反応を見せながらも再び緑谷の体にしがみつく。
切り替えろ、緑谷出久。
被害は出ていない、登山者は避難できた。
これからあの異常な富士山をどうするかだけ考えろと、再び緑谷は自らを空に引き寄せ飛翔した。
合宿会場の青少年の家に帰還した緑谷達を出迎えたのは、各校の教師陣だった。今回の凍結した富士山、さらには緑谷達が交戦した『脳無』の情報を集めて、まとめる必要があった。
他の生徒達はそれぞれ宿舎にて待機を命じられた中で、授業に使われている敷地内研修館の、研修室の一室に集められた生徒たちと先生団による会議が行われた。無論、その中には緑谷の姿もあった。
「ではぁまず……空中から登山客の捜索を行ってくれていたぁ、常闇くんからぁいいかなぁ?」
「承知しました」
空中からの捜索を引き受けていた常闇が、姫鷹先生にまずはと促されて、椅子から立ち上がった。
「空から富士山の登山道とトレッキングコースを確認していましたが、富士山嶺全体を覆う様な濃霧が途中発生していました、また、明らかな気温低下を感じて即座に高度を下げたものの、それをものともせず一気に気温低下が広がり、山頂から富士山が凍結する様を確認しました」
山頂から、一気に凍結が広がったのを目撃し、さらに気温低下まで体感した事を報告する常闇に、よろしいと言って姫鷹が座らせれば、聖愛の教師団の一人、黒薬がホワイトボードにそれを書き記した。
「ではぁ、誘導班の爆豪くん?キミの目撃証言をいいかな?」
爆豪も、この場に呼ばれていた。"目撃証言"というが、何か見たのだろうかと、自分たちが捜索でトレッキングコースを歩いていた間、登山口で何があったのかと緑谷も知る為に傾聴した。
「……濃霧の中に妖しい光を見た、最初は救助要請の信号弾と思った……だがあれは、何か巨大な生物の目じゃあないのかと今は思ってならねぇ」
「ふむ……生物の目、かぁ」
クラスメイトで、同じ死線を潜った幼馴染が、らしからぬ目撃情報を語る。だがこの個性社会だ、何よりかつての死柄木達との戦いで『ギガントマキア』というヴィランも居たし、マウントレディという巨大化の個性を持った者も居る。
見間違いじゃないのかと、口から出そうになりかけた緑谷だが飲み込んだ。
「爆豪、それなら俺も見たかもしれない、霧に紛れた赤い妖しい光が二つ、違うか?」
「それで間違いねぇ」
それどころか、常闇も見たと発言したのだ。爆豪は常闇から尋ねられて、同じものを見たと分かり、見間違いではないという事がより補強された。
「俺たちも見ました、凄まじい突風の後に、富士山側から風が吹いて見上げた先に赤い色の光が二つ……」
「地鳴りのような振動もこちらではありましたね、そのあと痛いほど冷たい突風が来て……」
また別のトレッキングコースを捜索していた、轟と花霞桜も目撃したと手を上げ答えた。
自分達は脳無と対峙している中、他の面々は『巨人』らしき物を見たらしい。自分達が捜索していた方とはまた違う事が起こっていたのかと、緑谷は左右にそれぞれ座っていた同じ捜索メンバーの藤見、そして湧水にそれぞれ視線を向ければ、二人とも頷いた。
「成る程ぉ、あの富士山で、どうやら何かが起こっているらしい……して、緑谷くん?そちらでも異常事態がぁあったと?」
「あ、はい……」
姫鷹が話を纏め、そしてそれらの騒動とはまた別に、緑谷達が遭遇した事件も報告をとそのまま繋げ、緑谷は立ち上がった。
「えー、御殿場5合目登山口から、富士宮口5合目を往復するコースの途中で、脳無らしき者と遭遇し交戦、これを撃退しました」
「あ?脳無!?」
「大丈夫だったのか緑谷?」
今ここで初めて聞いたと爆豪は声を荒げ、心配する声が常闇から即座に出てきた。大丈夫と頷いてから、緑谷は懐から保管ケースを取り出しつつ教師陣が座る前に歩いて出て、その中身を開封しつつ、テーブルに回収した『結晶』を出した。
教師陣、及び集められた生徒達も緑谷が回収した結晶を見て、首を傾げる者が大半だった。
「これは……」
「交戦した脳無らしき生物が、崩壊してできた結晶の一部です」
が……この結晶を見て気付いた者が数名、爆豪、轟、そして常闇と……相澤先生である。
「緑谷それは……」
「因子血晶か?」
相澤が尋ねる最中に常闇が被せた様に尋ねてしまった。聞き慣れない単語だと、他の教師団や捜索隊の生徒達が首を傾げる。
これが出てきた以上、この場に居る全員に話す必要ができてしまった。緑谷は相澤先生に、話をするべきかと確認の目線を送ると、相澤は立ち上がった。
「皆さん、この結晶に関しては少し話がややこしくなりますので、俺から語らせていただきたい……AFOと死柄木討伐作戦に関わる、秘匿情報でもありますので」
「秘匿情報?」
「ええ、何せあの戦いはAFOへ情報漏洩を避ける為に、緘口令や関係者以外への連絡を避けていましたから……」
こうも晒されてしまったからか、それとも戦いは終わったからか……話すべきと決めた相澤に、他の教師達からも注目が集まる。まさかあの大戦から数ヶ月、AFOに関係するかもしれない事案が出てきた以上語らねばならないと、相澤はこの合宿の引率として決断したのだった。
『因子血晶』
まず、この単語自体は緑谷が呼称し、名付けたので正式な名前ではないが、他に呼称名もない為、そう呼ぶ事になっていた。
そもそも、この因子血晶の始まりは、AFOとの決戦の前、雄英を出奔した緑谷出久が、自らの個性が一時的に強化され『AFO'』に変異した事により生まれた特殊な結晶であった。
この血の色をした結晶には『個性』が封じられており、緑谷は他者から因子血晶の形に『個性を抜き取る』事が一時的にできるようになってしまった。それから、オールマイトの個性『OFA』を奪い、自らの力としてかつてのオールマイトの様に『象徴』として、崩壊した日本でヴィラン掃討を一人で行おうとした。
つまり、因子血晶はそもそもの話……『緑谷出久の個性でのみ産まれる産物』の筈であった。
しかし……今ここに、それらしき『破片』が、回収された。しかも『脳無』らしき化け物を討伐した際に、その肉体が結晶化したその一部であると言う。
「なぁるほど……AFO因子を撃ち込まれて個性がぁ……」
「なんとも酷い事を……」
その話をする以上、緑谷出久の肉体に宿る『AFO因子』に関しても、相澤と緑谷本人からも語られ、作戦の渦中には居なかったが地方の解放戦線に対して鎮圧や戦闘に参加した教師陣や、呼ばれた生徒達と驚愕した。
「しかし、これがその……因子血晶というのであるならば、何故現れたんだ?そもそもキミや湧水くん、藤見くんが対峙したのは脳無なのかい?」
勇学園より、養護教諭として引率の一人で参加した科内から尋ねられる。緑谷出久の『個性』ありきで出てくる筈の物質が何故現れたのか?そもそもキミ達が討伐したのは、本当に『脳無』だったのか?と。
相澤が、どうなんだと隻眼の目線を緑谷に送ると、緑谷は困り顔となって答えた。
「脳無……とは思えないんですよね、そもそもあんな、言葉でしか説明できませんが、倒した亡骸が結晶化する、なんて今までの脳無には無かったですし」
緑谷は頭の中の違和感を皆に話した、死に方が『脳無』より外れていたと。
かつて、雄英に侵入した死柄木達ヴィラン連合が引き連れた脳無も、緑谷が脊髄をぶっこ抜き機能停止した後も『死体』は残った。
保須の脳無も。
九州の蜘蛛型ハイエンド。
大戦時の奥渡島で瞬殺した二体も。
亡骸は残っていた、だから脳無研究の標本、検体としてセントラル病院に引き取られ、スピナーの脳無化を防げたらしい。
だが、緑谷達が対峙した個体は違う。結晶となり、砕け散ったのだ。その一部は今緑谷が持ち帰った。
「どんな脳無だった、緑谷くん?何かしら映像を撮影していたりは……」
聖愛のヒーロー、アーミー・マチルダこと、黒薬先生から交戦記録となる映像は撮影していないかと尋ねられ、これにも緑谷は申し訳なさそうに答えた。
「すいません、結晶化後の写真くらいしか……」
「映像ならば、拙者が撮影しています」
「えっ?」
が、ここで、緑谷の隣に座っていた湧水が立ち上がった。緑谷、そして同じ班の藤見もこれには驚き顔を向けた。湧水は、ヒーロースーツ代わりとなる、忍び装束の頭巾を外すや……露わになった頭部右耳にはめていたらしい機材を外し、手のひらに置き見せた。
「拙者、単独で勝てない場合やヴィランを取り逃がした際の為に、ヘッドマウントカメラにて記録をしているので、緑谷殿と藤見殿と共に対峙した脳無との交戦記録ならこちらに撮影しておりまする」
なんたる僥倖か!まさか映像を撮影していたとはと、教師陣も呼ばれた生徒達も大半が唸りを上げた。
「よくやったぁ湧水!早速プロジェクターとPC用意して映像再生急げぃい!」
「御意!」
これで一つ、対峙した脳無が何者かを皆で共有、考察する事ができる。歓喜に言葉遣いが荒くなる姫鷹の指示に湧水が動けば、教師陣もプロジェクターとPCを用意する為動き始めた。