【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
緑谷出久の夏休み
脳無大量発生のその後……全国ヒーロー科合同勉強合宿は順当に行われた。
あの事件以降から、めっきりアクシデントは起こらなくなり、雄英高校ヒーロー科2年団はひたすら勉強の遅れを取り戻し……見事に3ヶ月の範囲を頭に詰め込まされた。
そして真夏は8月の下旬……雄英高校ヒーロー科2年団はその後どうしたのかと言うと。
「はー……素麺美味しい」
「まだあるわよ、食べる?」
「うん、食べる」
夏休みに突入していた。そんな緑谷出久は、母の引子と二人で昼食に素麺を啜っていた。
『ヒーロー科に休み無し』と言ったのは、A 組担任の相澤先生である。去年こそ夏休み初日からヒーロー科は、プロヒーローの『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』の下、個性伸ばし合宿を行い、合宿襲撃事件後は仮免試験まで雄英高校にて圧縮訓練を課せられていた。
ただ、ここまでのカリキュラムの詰め込みはそもそもが『ヴィラン連合襲撃事件』による、即時対応できる強さが必要となった為の前倒しが理由である。本来ならば一年間でしっかり基礎を固め、それから2年生の6月、受からなければ9月の仮免試験で仮免許取得が雄英高校ヒーロー科本来のカリキュラム方針である。
本来ならばこの8月下旬は雄英高校ヒーロー科で、6月試験に受からなかった、事情で受けれなかった二年生が必死の猛特訓の期間となる。唯一、今年に普通科からヒーロー科へ編入した心操人使だけが当てはまる。
となれば、受かって仮免持ちの他の生徒はと言うと……はっきり言えば『暇』ができたのだ。勉強合宿で高校2年の範囲を取り戻し、短いながらもたった10日程度ながら雄英高校ヒーロー科二年生に『夏休み』が与えられた。
「大戦の活躍で推薦で仮免取得……とかしてくれないのかなーなんて思うんだよね、このまま休むのが忍びないなと……」
「大変ね、その心操くんって子……」
真夏の真昼、中央に鎮座した氷水の張られた容器に漂う素麺を箸で引き上げ、自らのつゆに漬けて一気に啜る緑谷出久の話に、母である緑谷引子は傾聴しながら同じ様に素麺を啜った。
緑谷家の真夏の昼食は素麺であった。こうして母親と食事という『当たり前』が無くなっていたのが去年の事で、しみじみとあの時から平和になったんだなと噛み締め、薬味のネギをつゆの張ったカップに散らして、出久は素麺を引き上げてつゆに漬け込み啜る。
「あれから右目はどうなの、母さん」
出久は母に尋ねた、雄英に避難していた時のこと、一人でヒーロー活動で戦っていたところをクラスメイトとオールマイトに連れ戻されてから、自分が帰ってくる事を良しとしなかった避難民が石を投げて来た時に、母の引子は出久をかばって右目を負傷した。
眼帯を付けて治療していたが、それも取れたものの、引子はまだ通院しているのであった。
「やっぱり視力落ちたみたいでね……父さんすごく怒ってて、被害届も出して民事訴訟起こしたのよ、今は弁護士さんが色々してくれてる」
今こそ、Iアイランドに帰った父、緑谷久はやはり怒っていたようで、既に弁護士を雇い民事訴訟を起こしたのだと引子は語る。
「……和解するの?」
「最初は考えてたけど……出久の事を言い訳にされたから徹底的にやるつもり」
出久は和解で持っていくのかと尋ねたら、引子は最初はその流れで行く気らしかったが、当時の出久を言い訳として出されて徹底抗戦を決めたらしい。何言ったんだ相手の、確か……岩石を生成する個性の人だったか?その人はと、出久は素麺を啜りながら思った。
出久からしても、母が片目を失明しかけた以上許せる気にもなれなかったので、気持ちは父と同じだった。
「ご馳走様、まぁその……無理しないで?もし必要なら出廷するから」
「大丈夫よ出久、心配せずに貴方は貴方の事やりなさい」
十分に素麺を楽しみ、カップと箸を置いてから出久は、必要なら協力するという息子の申し出に、引子は必要ないからと笑って断った。そんな事に大人として、貴方を巻き込みませんからと顔に書いてあった。
椅子から立ち上がり、流しへ箸とつゆを入れたカップを持っていきスポンジを持ち自ら洗いつつ、それにしてもと出久は母に尋ねる。
「なんか、今日の素麺美味しかったな、いいの買ったの?」
そう、なんだか今日の素麺は美味しかった。何となくだが、いつも口にしていたやつと違うなと出久は感じたから、他愛ない会話として聞けば、母はまだ啜っており、飲み込んでから出久に答える。
「お中元が届いたのよ、揖保乃糸の特級品でね?置き配ボックスに入ってたのよね」
「へぇ……まさか母さんの実家?」
「いや、緑谷久へって書いてたから、久さんの友人じゃないかしら?電話で聞いたら少し黙って、友人からだろうから食べていいって」
お中元……緑谷家にはあまり馴染みのない行事であったりする。その理由はまさしく、緑谷出久が理由であった。何しろ出久の個性『脊髄ぶっこ抜き』が発現し、この個性故に出久は幼少期に親戚から色々迫害を受けたのだ。
だから、母の引子も父の久も、出久を守る為に親戚どころか両親と絶縁している。決して互いに関わらぬようにと……。
出久も、微かにその時の記憶を断片的に覚えていた。確か、そう……母の実家の大層広い庭園を歩いていたら、親戚の子達に個性を使われいじめられて……そこでやり返して全員脊髄ぶっこ抜いたから大騒動になったなと。
その親戚の子達を束ねて、偉そうにリーダー面してたのが……今多分獄中に居る『あいつ』だったのだろうと、記憶の奥底に封じていた景色を緑谷は再封印した。
だから、その高級素麺は親戚ではない、父の友人からだろうなと母は語った。
「部屋戻るよ」
食器を洗い終えて母にそう伝え、ダイニングから出る出久の背中に、引子は声をかけた。
「あ、出久?母さん今日ちょっと家を留守にするから、帰ってくるの明日になるからね」
唐突だった。家を空けるという母の話に、出久は振り返る。
「えっ、何?用事?」
「中学時代の友達がね、帰省してて良かったら会わないかって」
「あー……了解、ゆっくり楽しんできて」
母さん、友達居たんだ……あまりに失礼だが、ずっと家に居て好きな事もあまり出来なかったろう母の、久々の自由を邪魔する権利も無いので、出久は母を送り出す言葉を残し、部屋に戻った。