【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
あれだけ多忙で、ひたすら走り抜けた日々から、こうも長期休暇を与えられると何だか落ち着かないと、緑谷は真昼のエアコンが効いた自室で暇を持て余していた。
寮生活の時は日曜日の完全オフ以外、勉強に訓練にインターンに忙しかったし、日曜日は泥のように眠っていた。AFOとの戦いの時にはより過密なスケジュールだったし、それも無くなって、平和になっているのは事実なのだ。
むしろ、今この状態こそ『普通の高校生』なのだろう。しかし……その『普通の高校生』に戻るには、自分やクラスメイト達はあまりにも場数を踏みすぎたのかもしれない。
まさかワーカーホリック?PTSD?何かせずにはいられないなと、ベッドで寝返りを打ちながらこのモヤつきを解消する術を緑谷は探す。
「何か特撮でも見ようかな」
そしてここに行き着く、困った時の特撮コレクションだ。ウルトラマンでも見るか……いや、敢えてここはビーファイターカブトとかもいい……シャンゼリオンは?牙狼もいいな……ラックのブルーレイボックス達を眺めて、スマホに契約済みの円谷イマジネーション、東映特撮ファンクラブも確認しながら暇つぶしのお供を選んでいると……。
スマホの画面が切り替わり『麗日』の文字が表示された。麗日お茶子から電話が来たのであった。
「はい、緑谷です」
『あ、出久くん?いま大丈夫?』
「うん、暇してたから」
電話越しに、麗日の声を聞いて少しだけ気分が高揚する。思えば文化祭からはヒーローとして、お互い戦場を駆け抜けて、超えた先では復興支援、そして勉強合宿と立て続けに色々あったから、こうして普通に喋る事は少なかったなと思い返す。
……というか、そうだった。
自分は、麗日お茶子と付き合っている。さらに言えば……八百万百とも付き合っているのだった事を緑谷出久は思い出していた。
文化祭の準備期間中の夜中……寝落ちしたら運ばれて、二人に下着で迫られたのだ。その時に、二人と交際する事になったが……期間が期間故、形骸化しているかなとすら思っていたのだ。
『えっと……それでね、出久くん……今日の夕方は空いてるかな?』
そんな彼女から、夕方は暇かと尋ねられ……緑谷は無論暇なので言葉を返した。
「うん、空いてるけど……」
『やったら、雄英の近くでお祭りがあるんやけど……一緒に行かん?』
そして、麗日からお祭りへの誘いを受けたのだった。夏祭り……思えばまだ小さな頃こそ両親と行ったが、中学時代は友人も居らず、一人で行くには虚しかったので緑谷は行ってなかった事を思い出す。
夏休みなのだ、しかも高校生の夏休みで、祭りなんて来年の3年になったら行けるかわからない。
「いいよ、行こう、待ち合わせ場所はどうする?」
麗日お茶子からの誘いに、緑谷は喜んで呼ばれる事にしたのだった。
夕方……登校路を歩き、電車で最寄りの駅へ降りて、祭りの会場へと歩く。思いの外大きな祭りなのだろうか、確かに浴衣姿の人々を多々見かけた。
……いや本当、平和が戻りつつあるんだなと緑谷はその光景に胸が暖かくなった。2ヶ月前には瓦礫の山だったのが、それがもう家屋もビルも店も元に戻っている。個性という物があり、海外ヒーローたちの協力による復興の凄まじい事……。
「あ!居た居た、出久くん!」
歩道を歩く中で、知った声がかかる。カラコロと下駄を鳴らし、薄桃色の下地に梅の花の浴衣で、麗日お茶子は小走りに緑谷の下へ来る。
「緑谷さん、お待ちしてました!」
その隣にまた一人、八百万百もまた江戸切子柄に、小豆色など深い赤色の落ち着いた浴衣で緑谷を迎えた。
緑谷は……しまったと今更になって後悔した。
緑谷出久痛恨の失敗!シャツにジーンズ!!ラフな格好!!ラフな姿!!甚平があったのに着て来なかった!!浴衣でお祭りデートできたじゃあないかと!
だがしかし……こうして二人の女の子の浴衣姿を前にして、緑谷もやはり年頃の男の子であるわけで、しばらく声を出せなくなったが、すぐに絞り出した。
「その……すごい似合ってるね、二人とも、ちょっと固まっちゃった」
「そう?よかった、実家から持って来といて」
「あ、ありがとうございます緑谷さん」
正直に、飾り気なく二人の姿を褒めると。反応は二人とも違った。赤らみながらもストレートに嬉しさを表す麗日に、恥ずかしがりながらも喜ぶ八百万……。
……天国か?ここはと緑谷は考え直した。実はAFO倒した後に病院で自分は死んでいて、間際に見せている幻影かと疑いたくなった。何しろ女の子とお祭りデートなんて、中学時代まず無理なくらいに嫌われていたし、今後も無いと諦めていたから。
「花火までまだ時間あるし、出店回ろうか二人とも」
さて、固まっている場合ではない。花火もあるからせっかくなのだから出店を回ろうと、麗日が二人の手を取って歩き出した。
「あの、緑谷さんに麗日さん、私……こういった縁日や屋台は見た事あるだけで初めてなのですが……」
「そうなんや!え、でも花火とかは見るよね?八百万さん?」
と、ここでお嬢様らしい事を八百万が言うと、麗日はそれは何となく予見できたと彼女は頷く。しかし花火は流石に見た事ないわけがない筈だろうと尋ねた。
「ええ、ただ……お父様達と普通の場所ではなく、スペースがある場所で他の大人達と見てたりしましたわ」
「……あ、来賓席!?」
「出資者側や、寄付したり主催者席の……」
八百万が見ていた花火は、普段庶民や一般参加者が場所取りに勤しむ中、優雅に余裕のある場所から見ていたのだろう。彼女のお嬢様ぶりが伺える話に緑谷も驚いた。
「じゃあそんな八百万さんに、屋台案内と行きましょうか麗日さん」
「……」
「……」
それなら花火まで屋台案内をしようかと、麗日に言う緑谷だったが……なぜか二人して緑谷の声を無視したのだった。あれ……やらかしたかとなった緑谷は……はっとすぐ気付きながら、恥ずかしくも二人に言い直す。
「行こうか、お茶子さん、百さん」
「ん、行こう出久くん」
「よろしくお願いしますわ、出久さん」
名字でなく、名前を呼んで二人は笑顔を向けた。恥ずかしくも、その二人と共に緑谷は祭りの屋台へ歩き始めた。