【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
始まったブザーと同時に、緑谷は障子に目配せをした。後輩二人の個性を知らぬままの訓練、アドリブながら障子目蔵の個性は無論知っている。
「障子くん、僕が抱えて空を飛ぶから捜索をお願い」
「分かった」
「二人は僕がインカムで救助ダミーの位置を指示するから、そこへ行けるかな?」
「分かりました緑谷先輩、任せてください」
「あ……はい」
どっしり自信満々に胸を張る斥野に対し、自信無さげに頷く光、その返事を聞いて緑谷は自らと、障子を個性の『引き寄せ』により、空へ吊り上げ浮遊する。
障子目蔵こと『テンタコル』の個性"複製腕"は、障子の左右の腕とは別に、それぞれ肩から生えた翼膜により繋がった触手、その先端から新たな目、耳、腕、口などを更に生やして複製できる。
複製した器官は本来の自身の物より更に強化されており、障子はその個性により捜索、索敵を行える。また、彼自身が『異形型』の個性故に、通常の人間から離れた膂力も有しており、戦闘もこなせるオールラウンダーである。
緑谷と共に飛翔した障子が、早速左右の触手から耳に目玉と次々複製し、グラウンドβに散らされた救助ダミーを捜索する!
「緑谷、2時方角に2名、10時方角に1……8時方角に3、4時方角に2名」
流石素早いテンタコル、捜索の個性があるだけでやはりスピードが違うと、緑谷はインカムを操作して下で待つ一年の二人に指示を飛ばした。
「聞こえた?じゃあまず……」
『俺は8時の方行きますよ、緑谷先輩』
指示を出そうとした瞬間、斥野はそういうや、自ら動き出した!下から見ていた緑谷は、彼が8時方向へ向くや"ドンッ"と衝撃音を鳴らし、自分が浮遊する高さまで飛んで来たのを目にした。
どんな原理かは知らない、しかし斥野の個性は『飛行可能』な個性らしい。何かに弾かれた様な飛び方……いや跳び方だったなと、自ら率先して早く動けるあたり、彼の自信や行動力は見事と言わざるを得なかった。
「じゃあ光くん、キミは……」
「緑谷、近場なら10時方角がすぐ行ける」
「10時の救助ダミーを回収に向かって欲しい」
『わ、分かりました』
対して、光くんは通信を聞いていたが、指示を待ってから走り出した。彼はどうやら移動力が無いようだ……反応も少々鈍く、褒められたものではないが、まだ"一年の二学期だからこんなもの"なのか"もう一年の二学期でこの程度"なのか、判断し辛いなと、走り出した光を緑谷は目で追った。
「緑谷、俺たちも行こう、俺は4時方向に」
「了解、各個で救出に当たろう、2時方向は僕が行く」
緑谷は障子を、近場のビル屋上に下ろしてから、自らも2時方向に自らを引き寄せ飛翔した。ふと、視界の端で障子が複製腕から更に複製腕を形成して、ロープのようにして移動しているのを見て、最初の引き寄せで引き上げたのは時間ロスだったかなと反省した。
まぁ反省は後、兎も角今は救助だ、緑谷出久。自らを引き寄せ飛翔しながら、障子くんの索敵したダミーを探し、そして見つける。
「無造作な……ああ、そういう事か」
路上に二つ、無造作に投げ出されていたダミーに、まさか手抜きかと思ったが、周りを見て理解する。緑谷の到着した地点の建物は、崩壊や破砕の跡がそのままであった。
基本、グラウンドβは演習で倒壊したり崩壊した建造物はセメントス先生や、雄英ロボが建て直すのだが、一切手付かず直されてない。
救助訓練で、この状態に晒されたダミー……このダミーは『事故、もしくはヴィラン犯罪の余波により意識不明の重体』と仮定せよ、という事だろう。
ならば、ただ運ぶだけではダメだなと、緑谷はそのダミーをまず、楽な体勢にそれぞれ並べた後、引き寄せの個性を頭部、頸部、背中、腰、膝、足首と多重方向から引き寄せて、優しく二体とも宙に浮かせた。
優しく丁寧に、素早く運ぶ!さながらファーストクラスで快適に眠る旅路のように!ここまで多重かつ細かく『引き寄せ』を使えるようになったのは、インターンのエンデヴァー事務所での日々、そしてエンデヴァーから『個性を日常で使い常習化』せよ、という鍛錬法からだろう。
今なら、このままあと二人は同じように抱えて飛べるなと、全く脳への熱を感じないくらい個性を使いこなせている事に、緑谷は笑みが思わず溢れながらインカムを操作した。
「こちらイズク、2名確保して輸送中、どうぞ」
『こちらテンタコル、こちらも2名確保して輸送中』
早いな、流石障子くん。さぁ次はとなると、通信が入った。
『こちらネクストマイト、救助ダミー3つ回収しました』
……ネクストマイト?
斥野が名乗ったヒーローネームに、緑谷は顔を少し顰めたが、すぐに光はどうなったかと通信を繋いだ。
「こちらイズク、光くん?状況を教えて?」
通信を入れた、そして帰ってきたのは……タップリ5秒後であった。
『こ、こちらヒカリ、今確保して合流に向かいます』
息切れが聞こえ、今ようやく救助者を確保したらしい。遅い、明らかに遅い……道走くんや晴日くんと比べたとしても凄まじく遅いと、緑谷はそのまま光の方に飛ぶ方角を変えた。
そして即座に見つける、大通りでダミーをしっかり背中に抱えて走る、光活人の姿を見て緑谷は近くに着地した。
「うわ!み、緑谷先輩……」
「申し訳ないけど、明らかに遅すぎる、このままだと救助が間に合わず搬送先で死亡もあり得るから、キミごと運ぶよ」
有無を言わさず、引き寄せにて緑谷は光からダミーを引き剥がし、自らが救助したダミーと同じ様にしっかり揺れがない様に宙に固定しながら浮かせ、光も引き上げた。
「!?ひ、引っ張られてる!!」
「喋らない、舌噛むよ」
光と、彼が救助したダミーにも個性を同じ繊細さで行使して、緑谷はグラウンドβの宙を舞い、救助地点へ向かう。格好救助に割り振った為か、まだ誰も来てないらしい自分達が一番かと降り立ち、光とダミー3体を下ろした。
次いですぐに、障子が複製腕に抱えたダミーと共に救助地点に到着した。
「お疲れ、障子くん」
「緑谷が先に着いていたか、後は斥野━━」
一番最初に向かった斥野がまだ辿り着いていない、サポートに向かうかと障子が言った瞬間。二人は信じられない事態を目の当たりにした。
ドサッ!と言う何かの落下した音と共に、救助地点へ山積みに重なるは、3体の救助ダミー!しかも勢いよく落下して来るや、宙から斥野が救助地点に着地したのだ。
「あら、一番と思ったら最後か、流石先輩達は早いなぁ」
緑谷は目を見開く。まさか、斥野は……今『ダミーを放り投げた』のかと。
「斥野くん、今ダミー投げた?」
「え?まぁ個性使って投げましたが何か?」
「これ、救助対象だよ?ダミーだけど」
緑谷は言う、確かにこれはダミーであり、本当に怪我した人ではない。しかし今無造作どころか投げてここに落としたと聞いて、何故詰め寄るか分かるのかまず尋ねた。
「……あぁ!大丈夫ですよ、本番はこんな事しませんから」
斥野は理解して笑いながら答えた。これがダミーでなく怪我人なら、二次災害でどう責任を取るのかと先輩は言いたいのかと。斥野はあくまで訓練の横着で済ませようとした。
「……訓練でやった事は、現場でもやらかしかねない、今度から絶対やったらダメだよ」
「……分かりましたよ、気をつけますよ、緑谷先輩」
緑谷からすれば、斯様な舐めた態度と行いは必ず現場でも出るから、絶対やめろと優しめに諭した。一応理解はした様子だし、緑谷自身いきなり先輩風吹かす気にはならなかった遠慮もあった。
後でエクトプラズム先生からもお叱りが来るだろうし、ここまでにしとこうと、斥野も少し詰まりながら理解を示したのでそれ以上緑谷は指摘をしなかった。
兎も角これでCチームの訓練は完了した。
表示されたタイムは八百万、耳郎のBチームを少し上回ったが、実働部隊が少なかった彼女らに対して、もう少し早く助けられたかもしれないと考えながら、緑谷達は待合場に向かう。
「ところで斥野くん……キミのヒーローネームって……」
待機場に帰還する道で、緑谷は先程の通信にて彼が名乗ったヒーローネーム『ネクストマイト』に関して尋ねた。彼もまたオールマイトファンの一人だろう、その名を付けた理由や由来が気になったのだ。
「ああ、いいでしょう?ネクストマイト、僕は"新時代のオールマイト"たり得る人間ですから?だからこの名を名乗る事にしたのです」
緑谷は、彼の言動に少し口が止まった。何しろ吐き出した言葉からして、嫌な気分になったからだ。
『新時代のオールマイト』に『なりたい』と言う『願い』や『思い』ではなく。
『新時代のオールマイトたり得る』と彼は『資格を持つ』とでも思っている傲慢かつ当たり前な口ぶりだったからだ。
「そう……なれたらいいね」
緑谷は、彼に表情こそ見せなかったが、苛立ちと侮蔑、嘲笑を込めてそれらをエールというオブラートに包み彼にそう言った。
彼の心中はむしろ真逆の思いだった。
『お前如きが?訓練で横着してヘラついたやつが、オールマイトになれるものか、個性が強いのか余程自信があるみたいだが、絶対なれるかよ……改名しろ改名、お前には"ドブカス"が合ってるわ、声帯的に』
と、苛立ちを孕みながら緑谷は、待機場に帰還するのだった。
こうして、順次訓練は無事終了し、1回目の一二年合同交流訓練は終了したのであった。