【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
沈んだ顔のMt.レディから語られた話に、緑谷と通形は驚く。確かに『全国でヒーローが襲撃を受けた』とあったし、自分たちもそれに巻き込まれたが、ヒーローに犠牲者が出た事は初めて知ったのであった。
「殺されたって……」
「多分、やったのは昨日轟くんが対峙したハイエンドよ、大鉈を備えた個体……真っ二つにされて、臓器が幾つか失われてたの」
「大戦下の中でも残って戦ってくれた1人でな……弔い合戦と言えば復讐じみているが、遺恨は晴らしてやりたいのだ」
身内を殺された復讐のようにも思うが、あの崩壊時代に辞めずに、共に戦ってくれたサイドキックだったらしい。だからこそ自分達で今回のヴィランは捕まえたいのだと、Mt.レディとシンリンカムイは語った。
共にあの地獄の日々を超えた1人ならば、余程重宝していたし目もかけていたサイドキックだったのだろう。それを殺したのはあの学生ヴィラン達で、ハイエンドまで持ち出して来た以上、学生のイタズラで済む範疇は等に超えていた。
「お待たせしましたヒーローの皆様……」
そう声をかけ、受付に現れたのは女教師だった。芯の強さが見える黒髪の女教師だが、憔悴しきってどんよりとした雰囲気を抱えながらも気丈に笑みを見せて、この場に集まったヒーロー、インターン組に頭を下げる。
「ミカエル……常川くん達のクラス、2年A組担任の萩野といいます、この度は誠に申し訳ありません」
謝罪から、今回のヴィラン『ミカエル』を名乗る常川法水の担任、荻野は挨拶したのだった。
応接室に通された、緑谷達。ヒーロー3名に、インターン生4名と大所帯で訪ねてしまい、萩野先生に要らない心労をかけてしまいそうだが、それでも話を聞かねばならない。
「その、大丈夫ですか?やはり事件が起きて、マスコミが……」
同じ女であるMt.レディから話は始まった。萩野先生の憔悴の理由は、表で待機しているマスコミからして、そういう事だろう。『名門私立中学校から、少年ヴィランが生まれた』となれば飯の種としては群がるに十分だ。
「大丈夫……何て言ったら嘘ですよね……朝から校長にも詰められましたし、マスコミが待ち伏せて……」
「連合が侵入して来た時のうちみてぇだな……」
「シッ、上鳴くん」
かつてヴィラン連合が襲撃して来た時の自分たちみたいだなと呟く上鳴に、思っても言ったら駄目なやつだろうと、緑谷は人差し指を自らの口元に立てて指摘した。
「心中お察しします……しかしヴィラン犯罪をこうして起こした以上我々は彼を捕まえねばならない、ご協力を願えますか?」
「……はい」
シンリンカムイも、彼女の心労を理解した上で協力を要請し、荻野は少し間を置いて返事をした。と、ここで瀬呂が緑谷に耳打ちした。
「なぁ緑谷、この場合って少年法とかどうだったっけ?」
瀬呂の質問は、この少年ヴィランを捕まえたとしてどんな刑罰が下されるのか?という質問だった。
日本国の法律に『少年法』というものがあり、14歳以下は刑事事件を起こしても『刑事罰』が課せられないというものだ。このミカエル、いよいよヒーローを殺した疑惑もだが、ヴィラン犯罪まで起こしておきながら中学二年生、仮にもしもミカエルかと、常川法水が『13歳』ならば、この法律が適用されて刑事罰は免れてしまう。
「常川が犯行時に13歳の場合は……捕まえても"触法少年"として家庭裁判所に送られて、少年院なりに行くだろうね」
「え、14歳なら違うの?」
「14歳なら、無期拘禁刑には課せられるよ?10〜20年は少年刑務所行きだね」
「それでも20年か……」
仮に捕まえてもたった刑期20年なのかよと、上鳴は沈んだ表情となった。今現在の年齢でそこまで差が出るのかと峰田は呟き、瀬呂も成程と頷く。
「……ただし、それはあくまで"個性不使用"の犯罪の場合だ、個性使用はヴィラン犯罪として一律に処理されて少年法が適応されない、この場合……タルタロス行きだろうね」
「お、話変わってきたぞ?」
「プロ試験の筆記にも出てた例題だよ、勉強してる?上鳴くん?」
「気が重くなって来たぁ……」
そこに緑谷は付け加えた。現行の少年法とは別に『ヴィラン犯罪』に関しては違う法律が適応され、少年法が適応されなくなると。プロ筆記試験の過去問にもあったケースに、上鳴は頭を押さえた。
さて、話は逸れたが常川法水こと『ミカエル』の話を聞こうと、荻野は皆に語り始めた。
「常川くんは……はっきり言えば、品行方正で頭脳明晰な優等生です、運動は苦手な子ではありましたが腐らずついて行こうと真面目な子でした成績は学年一位を空け渡した事は無いくらいに」
荻野から語られる常川法水の人となりは、いかにもな人物像だ。ニュースにあがりクラスメイトがインタビューを受ければ『どうして彼が……』だの『落ち着いた子でした』と、犯罪を起こす事すら考えられないと答えが返ってきそうなタイプであると。
「ですが……だからこそなんでしょうか、一年の頃からいじめの標的にされていたんです」
「いじめですか……」
「はい、成績だけではありません……ご存知の通り彼は……無個性だったのもあります」
「おいおい……こんないいとこの私立でもあるのかよ、いじめに差別……」
荻野が語る、常川の立場は所謂『頭でっかちのいじめられっ子』で、しかも無個性差別も受けていたと語る。仮にもここは名門の私立で、この学舎でもいじめに差別があるのかよと峰田は引き気味に呟いた。
「私も度々注意をしていたのですが……あと、同じクラスの雨谷くんを庇ったのもあるかもしれません」
「ん?雨谷くん……とは?」
違う生徒の名前が出てきて、シンリンカムイがその子は誰かと尋ね、荻野は詳しく語った。
「雨谷誘魅くん、彼も常川くん同様学校に来てないのです……彼もある理由からいじめられていて、常川くんは彼を庇っていじめの対象になったという流れでした」
いじめられっ子をかばって自らも同じ標的になる、ありがちな流れだなと食傷気味な話に緑谷は口元を覆って溜息を聴かれないようにする。
と、ここでMt.レディの表情がゆっくりと驚きに染まり、荻野先生に尋ねた。
「あの、雨谷誘魅くんって……まさかあの子役の?」
彼女の質問に、荻野が頷いた。
「Mt.レディ?その、雨谷誘魅の事をご存知なんですか?」
対して通形が、知っている人なのかと尋ねると逆に通形の方へ素早く向き直り尋ね返した。
「えぇっ!?知らないの!!ちょっと待って、先輩は知ってますよね!!」
「いや聞いた事無いが……」
本当に知らないのか、信じられないとばかりにシンリンカムイへ次は尋ねたが首を横に振った。だから緑谷達インターン組に嘘だろ知ってるわよねと顔を向けて聞く。
「雄英生!」
「知らないっすね、上鳴知ってる?」
「いや俺も、芸能人?峰田は?」
「おいらグラビアアイドルかA◯女優しか……緑谷は?」
「うーん、ここ数年の特撮の子役にそんな名前の人は……」
瀬呂は知らない、上鳴も知らず、峰田はそもそも男の有名人にアンテナは向いておらず、緑谷も最近の特撮で、子役として出演して居たら知っていてもおかしくないが聞いた事ないなと言えば、Mt.レディは頭を抱え唸った。
「ああもう!男子だからかぁ!?雨谷くんはね、二年前まで様々なドラマや映画にも出ていた天才子役よ!知らない!?」
Mt.レディの説明に、シンリンカムイ達男勢は顔を見合わせるしかなかった。
雨谷誘魅、様々なドラマや演劇、映画にも出演していた天才子役であり、歌手。
その男らしからぬ少女のような容姿と、力強くも綺麗なソプラノボイスから『女の子よりも女の子な子役』『プリンセス』『性を越えた少年』『奇跡の声帯』とまで呼ばれた子役であった。
「凄い人気でそれはもう、女性で知らない人居ないんじゃないのかなって子役だったのよ」
「そうなんですか……知らなかった」
当時の人気……二年前までとなれば中学三年から雄英入るまでの期間となるが、そうだったのかと瀬呂が思い返すがやはり思い出せないらしい。女子人気というやつかと男子勢が納得する中で、Mt.レディが荻野に尋ねた。
「じゃあ、つまり雨谷くんがいじめられてたのはやはり……」
「はい……あの事件の事です」
そんな天才子役がいじめられていた、それ程名を売った人間をいじめるなんて、後が怖くないのか?絶対バックの事務所やらが詰めに来るだろうとなったが、緑谷は彼が事件を起こした前科者だからかと思い、Mt.レディと荻野に尋ねる。
「事件って……ドラックか未成年飲酒がバレて引退したんですか?」
その質問に、Mt.レディと荻野先生は首を横に振った。荻野が、彼がいじめられていたその原因、事件について語った。
「彼、小さな時から母親に虐待を受けてたの……ずっと女の子として育てられていて、さらには子役として天才だった彼から搾取する為に……しかも、その声を残す為に手術まで強行して……去勢されたのが明るみになって、芸能界を引退したのよ」
「!!!?」
天才子役がいじめられていた理由は、あまりにも残酷で、凄惨な理由であった。