【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
自身がなりたいヒーロー像が浮かばなかった緑谷は、帰宅前の公安の誘いを注意してくれたミッドナイト先生に相談する事にした。雄英高校の職員室電話番号に連絡し、ミッドナイト先生に取り次いでもらった。
『あら緑谷くん、どうしたの?』
電話の向こうから聞こえてきた、優しくも力強さを感じる声に緑谷はまず、目の前に彼女が居ないのに頭を下げながら礼を述べた。
「いえ、本日はありがとうございます、公安とかよく分からなかったので」
『生徒を守るのが先生だからね、そのお礼の電話かしら……』
「いえ、それも含めて相談が……」
『なりたいヒーロー像……』
「ええ、みんなはこう、持ってそうな中で、僕は漠然としてて……方向が見えないんです」
緑谷の相談を聞いた電話越しのミッドナイトは、ふむとしばらく黙る。ヒーローにはなりたいが、どんなふうに活躍したいのか分からない、どうしたらいいのかという言葉に、彼女から帰ってきた言葉は緑谷を困惑させた。
「緑谷くん……良かったら今夜一緒に遊ばないかしら?」
「え?」
「あなた、そういう時は息抜きも必要よ?今日まで張り詰めて頑張りすぎてるから、判断も考えも纏まらない、だから息抜きしましょ、ヒーローにも休息は必要よ」
「は?はぁ」
「後から迎えにいくわ、口実は私が作るから安心なさいな」
そうして、電話が一方的に切られてーー夕日が沈むギリギリにミッドナイトは、緑谷邸宅にスポーツカーで現れたのだった。
「あの……これは一体どういった意味が?」
慣れた手つきでハンドルやらギアチェンジやらをこなしてスポーツカーを操る私服のミッドナイトの横で、一体これはと尋ねた緑谷だったがーー。
「うん、まずは服からね、学生のデートならまぁ及第点だけど、大人の女性の横を歩くなら相応の服装をしないと」
「ああ……そうですか……え、で、デート!?だ、誰が!?」
「キミが、私とよ」
これ、デートだったのか!?街を行くスポーツカーの助手席で、緑谷は……難易度EXのデートを突然行う事になったのだった。
「こちらでいかがでしょうか?」
「ええ、見事……これなら文句無しね、お代はこれで」
「いつもありがとうございます、ミスミッドナイト」
緑谷は、あれよあれよという間に、人生でまず一度も入った事無い高級店のブティックに連れられ、着せ替え人形の如く普段着から彼女の選んだ服を着せられた。
こんな服装初めてだな、普段から鍛える以外無頓着だったあまり、自分がまるで別人のように変わり果てた姿に緑谷は閉口する。
「ヒーローはただ強いだけではだめ、普段からこうした身なりを整え、オフを狙うパパラッチに備えたり、潜入任務の変装にも応用できるわ」
「な、成る程……これもまた、ヒーローに必要な事なんですね」
これもまた、ヒーローに必要なのだと言われたら根はいい子な緑谷は信じてしまうしかなかった。
「さ、じゃあ早速遊びに行きましょうか、キミはヒーローらしく私をエスコートできるか、頑張ってやってみて頂戴」
右腕に両手を絡めてきたミッドナイト先生にたじろぎながら、2人の夜のデートが始まった。ブティックから出て早速街路を歩く2人に、ふと緑谷が思ったのはーー。
「先生、こちら側に……」
「うん?」
車道側に、緑谷は移動して左手を差し出した。それだけだが……たしか、ヒーロー物の日常シーンとかでこんな感じだったようなと。
「あら、そんなのどこで習ったのかしら」
「て、テレビのヒーロー番組で……」
その言葉にふむ、とミッドナイトは頷きながら改めて左手に腕を回した。
「もう少しスマートにできたら良かったわよ、うん」
「が、頑張ります」
そうして2人は、夜の街を歩く。彼女が気になるバッグやらを見ていたら、緑谷はずっと立ち止まり、時にはどんなブランドなのか、無知なりに尋ねた。
せいぜい私服はそこらの、画一化されたリーズナブルなファッションブランドしか知らなかった緑谷だが、女性はそんなブランドが好きなのかとミッドナイトの気が済むまで付き合った。
少し休憩と、流行りのドリンクのスタンドに行く事になり、そこが砂藤くんと行ったこともあった店で、どれがどの味か知っていた為、ミッドナイト先生を喜ばせる事ができた。
キミはどんな遊びをするのかと聞かれ、この前初めて友達となった上鳴や峰田とカラオケに行ったくらいしか無いと言い、いいわねと連れられ2人でそれぞれの歌える歌を歌った。最近の曲は知らなかったが、改めてこんな曲あるんだなと、改めて探して聞いてみようと思った……。
「んーーー!遊んだ遊んだ!こりゃ明日に疲れ来るわー」
「こんなに……遊んだのは初めてです、楽しかったです、ミッドナイト先生」
「それはよかった、お母さんには連絡入れてあるから心配しないで、あくまでヒーロー活動の課外授業で押し通すわ」
やがて、帰路を走るスポーツカーの席で緑谷は本当に楽しかったなとしみじみ感じた。もしも、自分に恋人ができたらこんな風に楽しい日がまた来るのかなと、過ぎ去る景色を見ながら思った。
赤信号に捕まる、そんな少しの時間だが、ミッドナイトは緑谷に質問したのだった。
「緑谷くんは……好きな人や気になる子は居るかしら」
その質問を投げかけられ、慌てるかと思ったミッドナイトだったが、緑谷はあっさりと、しかして悩みながら語り出した。
「うーん……クラスの女子達は皆、こんな個性の僕を普通に接してくれて優しいし、よく話すのは麗日さんだけど、偶に揶揄ってくるのは八百万さん……好きな人……ええ?皆それぞれって感じだから……」
「皆が大好き、かしら?」
「そう……なるんでしょうか……けど、恋人……にしたい、とかは、ないかな?」
「あら、どうして?」
「だって……ヒーローの恋愛は相手を危険に晒すじゃないですか……」
信号が切り替わる、家までもう直ぐだ、ミッドナイトは緑谷の返答に対し、今夜の相談に対して答えをまとめた。
「そう……じゃあ、緑谷くん……キミの今日の悩みなんだけど、深く考える必要は無いわ、貴方のなりたいヒーローの姿、これから探しても遅くはない……まだ時間があるから、ゆっくり考えていいの、貴方は走り続けてるから…‥少し休むくらいがちょうどいいわ」
「そうでしょうか……」
「むしろ、このまま一ヶ月しか経ってないのに目標や背中を追う子は少ないわ、ただ……そうね、私にとってヒーローは……大好きな女の子の元に、愛した女性の為に駆けつけて颯爽と助けてくれる人……かしらね」
愛した女性の元に……それは確かに、テレビやアニメのヒーローも言っていたなと、納得する。そして車は緑谷邸宅手前で止まった。ドアが開き、シートベルトを外して出てから、運転席側に回って緑谷は頭を下げた。
「今日はありがとうございました、ミッドナイト先生」
楽しかったし、ためになりましたと感謝を込めて頭を下げた緑谷へ、ミッドナイトは言った。
「……睡よ」
「はい?」
「香山睡、私の名前……」
「あ、本名、そんな名前なんですね……」
知らなかったなと初めて聞いた彼女の本名にあっけに取られた瞬間、緑谷は襟首を捕まるーー。
「んっ」
頬に柔らかい感触、そして薄ピンクのリップが刻まれてから離され、緑谷は唖然とした。
「女のヒーローが……名前を明かすのは、告白と同じなのよ出久くん?」
「え、あ、は、え!?ええっ!?」
「もし貴方が立派なヒーローになって卒業したその時に恋人も彼女も居なければ……私のとこに来なさい?」
エンジンを響かせ、ミッドナイトは深き夜に消えていく。ただ先程の感触と、いまだに胸打つ心臓の高鳴りは……現実である事を緑谷は理解して、数分間放心が続いた。