【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
「……なぜ切れた?」
ミカエルがそう口にしたのは、緑谷がウリエルこと門脇のスマホから逆探知を仕掛けた直後であった。
彼からしたら恐らく、電話アプリを開いたままポケットに入れ、足がふれて押してしまって間違えてかけたかしたのだろうと、楽観的にしか考えてなかった。
━━それから1時間後、秘密基地である脳無工場の玉座で、ウリエルから各方面の連絡が来ない事にミカエルは苛立ちを覚えていた。
「遅い……定時連絡時間過ぎてるぞウリエル……」
「ほーんと、何してんのかしらね?」
玉座で苛立つミカエルに、ガブリエルこと雨谷誘魅も玉座にしなだれかかり、ツンと不機嫌を募らせた。一体どこで油を売っているのやらと、ガブリエルはミカエルの組んだ足の太ももを指でなぞり弄ぶ。
「ラファエル、放った尖兵の調子は……居ないのか今」
しばらく黙っていたミカエルは、ラファエルを呼んだ。作り上げた尖兵こと脳無のテストはどうなのかと聞こうとしたが、姿が見えないからそのテスト中かとまた黙っていると……。
「暇になっちゃったし……どう?ミカエル、部屋に行かない?」
ガブリエルが媚びるように上目遣いで、ミカエルを見つめる。それとも……と呟きながら手は、改造白制服のズボンのファスナーに触れて、許可を得るような眼差しを向けてから、ガブリエルはゆっくりと音を聞かせるように下ろし始め━━。
「ミカエル!!緊急事態!!」
「きゃああ!?」
ドタドタと、ラファエルこと那由多解理が走って来た。メガネはずれて汗もひどく息切れ激しいラファエルの声に、ガブリエルは驚く!
「ちょっと!いきなり何よ!?いいとこだったのに!!」
「そんなに慌ててどうしたラファエル!尖兵が暴走でも━━」
文句を吐き散らすガブリエル、そしてミカエルも尋常じゃない慌てぶりに何事かと玉座から立ち上がって、脳無が暴走でもしたかと聞き返した。しかし、ミカエルはそれ以上の事態が起こっていた事を、ラファエルの口から報される事になる。
「警察とヒーローがここに集まってる!!僕らの秘密基地がバレてしまった!!」
「━━は?」
ミカエルの表情が固まった、そんな馬鹿な、あり得ないとでも言いたげだ。彼からすればバレないとでも思ったらしい、理由もあった。
「ガブリエル、ラファエル!お前達が作った薬!あれは効いていた筈だよな!」
まず、この秘密基地の所在がバレたとすれば、全国から集めた兵士……同じ思春期の学生達だろうとミカエルは思った。しかしそのあたりは、学生なりに、希望的観測と仲間の個性を信じて漏れはしないとミカエルは思っていた。
「も、もちろんだ!あれを服薬したら……ミカエル!キミに忠実な兵士となる!捕まったり敗北したら自殺するように実証もされていた!」
それは、ラファエルがこの秘密基地で作った『薬』である。ガブリエルこと雨谷誘魅の個性『フェロモン生成』で作り出したフェロモン……そこからラファエルは、自身の個性『超理解』により覚えた製薬の技術を、この工廠にある機械で製薬してみせ、薬を作り上げた。
フェロモンには『ミカエルへの狂信』と『敗北時の自害』をさせるようにガブリエルは分泌し、そしてラファエルが製薬……その効果は実証済みだった。
「そうよミカエル!私のフェロモンが間違えるなんて……あり得ない!間違えるとしたら、ラファエルが製薬を間違えたか━━」
「何を!?ガブリエル取り消せ!細心の注意を払って僕は製薬したんだぞ!!現に効果は立証されていただろう!!」
完璧に製薬し、効果も実証された!だからこの薬を服薬してミカエルの配下となった『天使』達から情報が漏れる事は無いと、ラファエルは言い切った。
ガブリエルもまさかと思ったが、心底ではあり得ないと信じていたし、ミカエルも自分の親友であり、同じ楽園建造を目指すラファエルがミスを犯したなどと思えなかった。
それがあまりにも浅はかであった。
此度、情報を手に入れたのは緑谷出久がウリエルのスマホからハッキングと逆探知による、ヒーローらしからぬ違法行為からであるが……後に『愛』なるこのガブリエルから製薬した薬品が押収された際『製造した内の四割』は効果はあれど微弱だと科捜研により判明する。
「まさか……ウリエルがやられた?そして命惜しさに裏切ったのか!?」
ミカエルがようやく辿り着く。ウリエルが場所を吐いたのかと、実情を知らなければ辿り着く答えはそうなるだろう。それしか無いとなったミカエルは、歯を食いしばり手で顔を覆い尽くした。
「どうするのミカエル!このままじゃ捕まっちゃうわ!」
「ミカエル!どうしたらいい!?」
ガブリエルも、ラファエルも、どうすればいいんだと救世主ミカエルに縋る。
ウリエルが裏切ったならば、薬で操った全国の天使達をこの場に招集はできない。ましてやこんなに早く本拠地を特定されるなんて考えてもいなかった。
しかし、ミカエルは顔から手を離してラファエルに言い放った。
「ラファエル……まだ出してない尖兵はどれだけいる?」
「は?えっと……上作成から切り替えて、下級の数を増やして……今基地内警備に配備しているのと、出してないのを合わせて……50は居るけど」
それを聞いたミカエルは、笑みを浮かべ手を振り翳し吠えた。
「ならば!ここを決戦の地とする!!ラファエルは全ての尖兵を出してヒーローと警察達に応戦せよ!!」
かつて、折寺区の旧市街は工場地帯として栄えていた。昼にはその工場の幾つもの煙突から煙が上がり、機械の駆動音が鳴り止む事は無かったという。やがて、開発の流れにより工場は煽りを受けて倒産が続き、その街は工場の廃墟と取り残された住人達のみを残す事になった。
その一つの工場を前に、警察のパトカーどころか、装甲車両までサイレンを鳴らして待機し、プロヒーロー達も次々集まってきていた。
無理もない……何しろAFOの作り出した『脳無』まで出てきたのだ。事態はあまりに重大と、手が空いているヒーロー達に招集が掛かる程だった。
「イズク先輩!」
「イズク!!」
情報を掴み、一足先に来ていた緑谷に、通形と光が声をかけた。廃教会の事後処理から直接ここまで来たらしい。振り返った緑谷も二人に近づいた。
「大手柄だね、よく聞き出せたよ!……何かした?」
「いや……ごっこ遊びに嫌気がさしたんじゃないんですか、手足失ったら流石に」
敵の所在をよくあの状態から引き出せたと通形は誉めつつ……お前やったやろと少し釘を刺した。緑谷は無論ハッキングしたなど言わず、あれだけ自分に被害が出たら嫌気もさしたのだろうと嘘を吐いた。
『えー、常川法水くん!雨谷誘魅くん!那由多解理くん!キミ達は完全に包囲されている!!大人しく出てきなさい!!』
警察がまず投降を呼びかけ始めた、相手はヴィランとは言え学生、まずは説得から入るつもりらしい。それで大人しく出てくれたらヒーローはいらないがと、緑谷も様子を見守る中で……光が緑谷に言った。
「緑谷先輩、その……もし突入する事になったら、僕もついて━━」
「駄目だ」
緑谷は驚きと、心配から光の言葉を遮るように却下した。緑谷からしたら意外だった、光活人は功を焦る性格ではない、職場体験中も、こちらの指示を受けたら動くタイプで、自ら渦中に飛び込み活躍をしたい功名心を持つ男ではなかった。
それが、この場面で遠慮がちながら頼んできた。だから緑谷は驚いたのだ、そしてこんな激しい戦闘が起こりかねない場所には、まだはないと思ったので、緑谷は断ったのだ。
「お、お願いします、緑谷先輩」
光は、引き下がるどころか頭まで下げたのだった。ここまで食い下がって来たので、緑谷は……もしかしてと事情を聞く事にした。
「何かあったの、もしかして絆定寺さん?」
「!!」
「図星か……カッコつけに助けに行きたいわけ?」
やはりそうかと、緑谷は呆れた。昨晩から彼のクラスメイト、絆定寺綾が攫われたらしい。ヒーロー達の何人かも、この事件に巻き込まれた中学生も行方不明が出た、だから彼女ももしかしたら、この学生ヴィラン達に攫われたのではと思ったらしい。
いいところを見せる為に、白馬の王子様気取りたいのかと、緑谷は光を諭すように言う。
「カッコつけたい気持ち分かるけど、戦いになればキミの実力じゃ怪我どころじゃすまなくなる、まだキミは実力をつけるんだ、プロヒーロー達を見て……必ず助けるから、キミはここで……」
「昨日……一緒に帰ったんです」
しかし、光は緑谷に違うと語り始めた。
「うん?」
「彼女を……最後に見たのは僕でした」
光は言う、最後に彼女の姿を見たのは自分なんだと。だからどうしたんだ、そうは緑谷も被せず、どうして着いていきたいか理由を緑谷は光から聞いた。
「昨晩もし……家まで送っていたら……僕如きが烏滸がましいですけど……彼女は、攫われなかったかもしれないんです、そうしなかった責任が僕にはあります、お願いです緑谷先輩、参加させてください!絆定寺さんを助けたいんです!」
緑谷は、光の話に瞼が強く開かされた。
何しろその後悔は……緑谷出久が知る後悔と何とも似ていたからだ。
約1年前……死穢八斎會事件において、緑谷出久はエリちゃんが、当時敵対したヴィラン、オーバーホールこと『治崎廻』から逃げて頼られた際、サー・ナイトアイの事務所の方針から彼女の手を離した。
確実な検挙のために必要だったとは言え、後ほど上がった情報の数々で、エリちゃんが、個性破壊弾の為に課せられ拷問じみた実験の数々に吐いてしまい、凄まじい後悔に駆られた。
『あの時無理矢理にでも、助けていれば』と。
まさか、後輩が同じ心情を抱えていると知った緑谷は、溜め息を吐いた。これは無理だ、止める事敵わぬと緑谷は、光に言い放つ。
「分かった、まぁ戦闘になるかは分からないけど……僕から離れたら駄目、それだけ守って」
「ありがとうございます」
自分から離れなければ、それだけ守れと光に忠告し、突入時の追従を緑谷は許した。
「ルミリオン、僕はヒカリとチームアップして、場合によれば突入します」
「了解、まぁ大人しく降参してくれたらいいんだけどね」
それを通形に伝えれば、通形もかつて同じ場面で同じ気持ちを共有したヒーローとして理解したように笑みを浮かべ、相手が降参して戦闘なしで終わればそれでいいがと微かな希望を抱きながら、警察による説得の時間を待った。
『大人しく出てきなさい!!聞かない場合は、突入━━』
拡声器からやかましいくらいの声量で、降伏勧告する警察。だが、その説得も無意味であるとばかりに━━パトカーのルーフを思い切りひしゃげさせ、何かが降り立った!
露出した脳みそ、その左右に植え付けられた眼球、青白い肌!それ即ち……脳無!!
「き、来たぞぉおおーー!!」
さらに、廃工場のあちこちから!同じような脳無達がわらわらと現れ!廃工場を囲うヒーロー、警察達に襲いかかった!
「敵の反抗を確認!!ヒーロー達!!突入してください!!」
ここまで追い詰められても、降参するなんて潔さは敵には無いらしい、警官隊の号令が上がり、緑谷含め集められたプロヒーロー達は廃工場へ突入した!!