【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
その日の放課後、緑谷出久はお叱りを受ける覚悟で職員室に参じた。が……相澤先生は緑谷が来るや、着いてくるようにと義足でぎこちない歩きをしながら、自らの車に乗るよう促したのである。
インターンの光くんに対する甘い指示への説教かと思った緑谷だったが、そのまま後部座席に乗り、相澤と共に緑谷は雄英を車で出発。
辿り着いた先は━━。
「相澤先生、何故僕をセントラル病院に?」
「少々厄介な話でな、ともかく着いてきてくれ」
セントラル病院……日本最先端の医療技術が結集した大病院。緑谷も幾度世話になったか、そんな病院に緑谷は相澤に連れられたのだった。
そのまま受付を通り、病棟のエレベーターに乗って……辿り着いた階に相澤が降りれば緑谷もそれに続いた。誰かに会わせようとしているのか?その足が止まったのは、一つの病室で……表札に挿されていたネームカードにはこう記されていた。
『兎山ルミ』
その名を見た瞬間、仰天して緑谷は声を出しそうになったが、なんとか抑えた。同時に、この人に一体何があったのかと、そんなニュースは流れてなかったぞと動揺した。
相澤がノックする、しばらくして……。
「どうぞ」
「失礼します」
許可が出た、その声色もまた緑谷は知っている。知っているが……相澤がドアを開けて入るも、緑谷は入ることが怖くなった。だが、相澤が気付いて促されて、緑谷は続いて病室に入り……目の前の惨状に驚愕した。
そこに居たのは、紛れもない。ラビットヒーロー"ミルコ"だった。パジャマ姿で状態を起こして緑谷を見る。
しかし、入る前から緑谷は感じていた……。
彼女の溌剌とした『覇気』とでもいうか、それらがごっそり消え去っていると。入室を許可した声色からも、かつての力強さが消え去っていると事に!
解釈違いどころじゃあない、何があったんだ!あの『ミルコ』が、まるで老いた兎のように力無くその場にいる事に、緑谷は取り乱して先生である相澤に声を荒げた。
「な、あ……相澤先生!何がしたいんです!?僕に何の理由があって!ここに連れてきたんですか!!」
「落ち着け緑谷、ちゃんとした理由があるんだ、ミルコ……どうだ?」
ミルコ……いや、兎山ルミは取り乱した緑谷の顔をじっくりと見た。そして……顔を背けて答えたのだ。
「ああ、見て分かった……似通ってるよ、3日前、香港で私を倒したヴィランに、面影がある」
「……え?」
更に緑谷は知る、大戦でも活躍したミルコが……負けたという事実!
「完敗だよ、何も出来ずに私は……締め落とされて失禁させられた挙句、慈悲までかけられてそのヴィランを逃してしまったんだ」
何が何だか分からない……過呼吸になりそうだと緑谷は頭がふらついた。
そんなぐしゃぐしゃになった頭で緑谷は整理すると、つまりは……香港でヒーロー活動していたミルコが、自分の面影があるヴィランに完膚なきまで負けたという事だ。
彼女からしたら、凄まじい程の屈辱だろう。男勝りで、その足で数多のヴィランと闘い、勝ち、捕まえて来た。
両腕片足失っても現役を続行し、世界中で八面六臂の活躍をしていた。その彼女が負けた……。
これは、大戦で死柄木に負けた事とはまた違う意味を持つ。多対一の戦いではない、一対一のヴィランとの戦いで負けた事……そのヴィランに殺されて死んだならまだ『名誉の死』として汚辱は無かった。
それどころか、優しく締め落とされて慈悲を与えられたのだ……誇り高い彼女からすれば、これ程の侮辱は無いだろう。
今まで一度も、そんな事は無かったから……一対一で負けた事など無かったから彼女は、ここまで変わり果てる程に落ち込んでいるのだ。
「それで、僕を連れて来た理由は……」
「再確認だ、彼女の証言だが……緑谷、ミルコを倒したヴィラン、お前の面影があったらしい……で、だ……」
相澤は、緑谷へ語り始めた。
「緑谷……お前は"怨龍"というヴィランを知っているか?」
相澤から尋ねられたその名前……緑谷出久は無論知っていた。
「知ってますよ、AFOと同じ都市伝説で……アジア圏で凄まじい強さを持った一匹狼のヴィランと……AFOがかつて逃げたとか……」
怨龍……AFOがかつて、その強さから逃走したというアジア圏で名を轟かせたヴィラン。AFOも都市伝説として囁かれたが実在し、怨龍もまた都市伝説として広まっていたが、認知度はあまり無い。
いやまさかと、相澤先生が態々語る以上、そうでしかないよなと、緑谷は息を飲んだ。
「ミルコが対峙したのが、その怨龍かもしれんらしい……オールマイトも会った事はないが、現役の時代に怨龍がAFOとその配下達が抗争を起こして、アジア圏の支配域を手放したと」
「そんな事が……AFOに続いて、また同クラスのヴィランが居たなんて……」
オールマイトの口から、AFOとの戦いを聞くまでは都市伝説だった。その都市伝説級ヴィランがまた実在し、ミルコを打ち倒したという。だが……緑谷を驚かせたのは、さらにこの後の、相澤の証言だった。
「その怨龍なんだが…………」
相澤の言葉が止まった。合理性を良しとする男の口が言いあぐねて、残った片目が緑谷から逸らされ……言うべきかと悩んでいる様に、緑谷は目を細めた。
「どうしたんですか?別にもう驚く事ありませんよ、さっさと話してください……そもそも何で顔の確認で僕を連れて来たのか━━」
「公安の調べでは、怨龍の本名は緑谷悠と言うらしい」
「全く理解が……え?」
「怨龍の本名は、緑谷悠……数十年前に失踪した、お前の父親の兄……叔父の名前で、個性も同じと、調べがついた」
相澤の片眼がなんとも物悲しそうに、緑谷を見つめる。言うべきか、言わざるべきか、悩みに悩み、そして彼は言ったのだろう。この後の自身の生徒の罵倒だとか、行き場のない感情全て受け止めるつもりで……それを覚悟して、相澤消太は言い切ったのだ。
「……ドッキリのプラカード隠してます?」
「……事実だ」
緑谷出久は……ミルコの変わり果てた姿と、突きつけられた事実に、いよいよ足の力が抜けて崩れ落ちたのだった。