※この作品はR-18です。

【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】   作:ぶっこ抜きデク

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490話 何故今なんだ

「大丈夫ですか!?返事できますか!!」

 

 相澤消太は、廊下の蛍光灯と看護師を見上げながら声掛けに応じず黙っていた。応答できないわけではない、口に広がる鉄の味と、鼻から流れる生温い血液と痛みを感じ、明滅する蛍光灯の光を見て、先程の自分の行いについて考えていた。

 

 緑谷出久を贔屓しているわけではない、しかしその内に抱えてしまった厄介事がある故に、しっかり見てやらねばならない生徒である事は事実なのだ。

 

 緑谷出久は、その特異な理由からAFOの因子を宿している。その因子はAFOが死してなおこの世界に散らばり、災いをもたらしている。

 

 ミルコが香港で活動していた内容もAFOの事で、そのAFOに関わる事例にかつての都市伝説で同格の凶悪さを孕んだヴィランが現れた。しかも、AFOの様に巧妙に隠れて逃げたりせず、むしろ嬉々としてヒーローを待つかの様に証拠も残して。

 

 それを辿って行き着いた正体が、まさか緑谷出久の叔父でしたなどと、誰が予想できようか?しかも数十年前に失踪して生きていて、だ。

 

 文化祭の時期にそんな事を聞かせてくれるなと思う気持ちも、緑谷にはあっただろう。どうして『今』言うのだと。少しくらい後でもと、そんな事を緑谷は少なからず思っている筈だと相澤は考える。

 

 なら、そのまま秘匿して落ち着いた頃に話すか?

 

 論外だ、秘匿して先延ばしにして、もしも何か起こってしまったら遅いのだ。無慈悲に思えるが知ってしまった以上、伝えるしかない。

 

 そして相澤は覚悟していた。

 

 結果、こうなっただけの話である。

 

「大丈夫です、すいませんが……ガーゼかティッシュをいただけますか」

 

 上体を起こし、声をかけてくれた看護師に相澤は頼んだ。顔が痛むが骨は折れてはいない、仮にあの子が本気で殴って来たら、頭蓋は容易く砕け散るだろう力だと相澤は知っている。

 

「すまんな緑谷……」

 

 怒りの中にも、八つ当たりの中でも、手加減する優しさを緑谷出久は持っていた。相澤は緑谷に謝罪しながら、彼が消えた病院の廊下を片目で眺めるのだった。

 

 

 息を切らしてひたすら走る、送迎してもらった車に鞄を忘れていると頭の中に過ったが構わず、緑谷出久は街中をひたすら走った。

 

 何故、今言うんですか相澤先生。

 

 分かっている、あまりに重要で先延ばししてはならないから。

 

 もっと言い方があるだろう相澤先生。

 

 あの人は合理性の塊だ、回りくどく言って混乱させるくらいなら簡潔に言い切る人だ。

 

 文化祭の時期なんだぞ!!

 

 だから何だ、お前の身に関わる事だ、文化祭など知った事じゃない!

 

 分かっている、分かっているんだと、緑谷出久は理解はしても……気持ちは飲み込めるほどまだ大人ではなかった!

 

 兎に角走って、ひたすら走って、知らない路地でいよいよ息が切れて……緑谷出久は歯を食いしばった。

 

 緑谷は願った、そんな筈ないだろうと。AFOの同格のヴィラン、都市伝説だった悪『怨龍』が本当に居て、その正体が自分の叔父でしただなんて。

 

 おぼつかない震える手で、緑谷はポケットのスマホを取り出し、SNSアプリを開いた。

 

 聞けばいいんだ、そうしたら『何だその出鱈目は、酷い先生だな!』と言ってくれると緑谷は思って、その連絡先と通話機能で呼び出した。

 

 今の心情を煽る様な警戒なを呼び出し音が3回鳴ると、その人は応じてくれた。

 

『出久か、どうしたんだこんな時間に』

「と、父さん、あの、あの……」

『本当にどうした、何かあったのか?』

 

 父、緑谷久だ。今はI・アイランドで働く父に、時差を構わず対応してくれた父に出久は願った。言ってくれる筈だ、馬鹿馬鹿しい嘘だと答えてくれる筈だと。

 

「怨龍って……AFOと同じくらい強いヴィランが居て……それが、父さんのお兄さん……叔父さんがそうだなんて……嘘だよね」

 

 尋ねて、そして……十数秒間、父親からの言葉は返ってこない。待ってくれ、ならもう言ってくれるな、通話が出来てなかったから聞き返してくるとか、そうあって欲しいと緑谷は胸が締め付けられた。

 

『……そうか、知ったのか……ごめんな出久』

 

 父から返ってきたのは、聞きたくもない謝罪だった。それを聞いた緑谷は、路地裏の建物の壁に背中を預けながら地面に腰を下ろして、スマホを持ってない左手で頭皮に爪を立てるくらいに力強く髪を掻きむしった。

 

 様々な感情が湧き上がる。何で黙っていたのかと聞きたくなったが、そもそもの話親戚の話なんて自分の個性が理由で両親共に絶縁した事を出久は知っていた。父も、そんな奴が実兄で叔父だなんて語りたくもないと出久は汲み取れてしまった。

 

 だけど、それを飲み込めるほど、出久はまだ大人ではなくて。

 

「父さんの馬鹿!!嘘吐き!!!死んじまえ!!!」

 

 緑谷出久は、人生で初めて父の久を罵倒して、通話を終わらせた。

 

 そして、出久はスマホを路地裏に投げ捨てて、項垂れて体を縮こませるのだった。出久は、今日の文化祭の出し物決めの楽しさも吹き飛び、敬愛するトップヒーローが無惨に砕かれた様と、それを行ったのが叔父であって大悪党だったと言う事実に、様々な感情が湧き上がり、吐き散らす事もできず、ただ項垂れる事しかできなかった。

 

 AFO因子は『外的要因』だからまだ、仕方なしとなれた。だが、身内にヴィランが……AFOと並ぶ大悪党が居た事、その血が自らにも流れている事には、受け止める事は出来なかった。

 

 

 同刻、中部国際空港セントレア。

 

 その名所として目を引くのは『スカイデッキ』だろう。

 

 滑走路に向かって突き出た第1ターミナルセンターピアの屋上で、長さ約300メートルの総ウッド張りの屋外デッキは、日本で一番近くに飛行機を感じられる展望台として高い評価を受けている。スカイデッキ先端から滑走路までは300m、飛行機が滑走路まで移動する誘導路まではわずか50m程度と飛行機を間近でみることができるのだ。

 

 天気がよければ対岸の三重県をはじめ、名古屋港を行き交う船舶を、夕方は伊勢湾の向こうに沈む夕陽と離着陸する飛行機というセントレアならではの光景を見れる名所でもある。

 

 そのスカイデッキに……その男は居た。

 

「こんな時代でも偽造パスポートをこうも精巧に作れるとは恐れ入ったよ劉大老……AFOに割を食っていたとは思えんな」

 

 怨龍……緑谷悠はそこに居た。スカイデッキでスマホで電話していたのだ。

 

『御託はいい怨龍、金は払った以上必ず頼んだものは我々の下に持ってきてもらう』

「無愛想な事だな……まぁ安心しろ、失敗はせんさ……しかし、そんな物がお前たちに必要なのか?」

 

 電話越しに聞こえる声は、幻覚で冷たさを孕んでいたが、悠はその声に対し煽る様に返すと、電話の依頼主は苛立ちをさらに込めて返した。

 

『必要な理由なぞ知らんでいい、回収したら合流地点に行け、そこから台湾で合流して受け渡しを行う、いいな』

 

 一方的に通話は切られ、悠はコートの内ポケットにスマホをしまった。そしてそのままシガレットケースを取り出して開き、その中に綺麗に収めた1本を取り出し口に咥え……。

 

「あのすいません……」

「ん?」

「スカイデッキは全面禁煙です……屋内喫煙所にてお願いします」

「……失礼しました」

 

 咥えたタバコを戻して、悠は係員に喫煙所へ案内されるのだった。

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