【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
深々と凹んだクレーターの中心、緑谷悠は眼下にて仰向けに倒れ伏す甥っ子で、ヒーローの卵である緑谷出久を見下ろしていた。
悠の紫色の瞳に映る出久は……人の形を失っていた。顔面は崩壊し、手足はあらぬ角度に折れ曲がり、白目を剥き痙攣していた。
「耐えれなんだか、出久よ……」
悠は興味を失った冷ややかな目で、出久の頭の上を跨いで歩き、もはや用は無いと去ろうとしていた。
だが……その足が止まった。
思わず振り返り足元を見る。砕けた顔から目玉が動き、肘がどこだか分からないくらいにひしゃげた腕を動かして、出久は悠の足首を掴んでいたのだ。
逃すか━━
血の泡に発音儘ならぬ中で出久は、確かにそう言った気がして……そして!
ブツン!!
「!!」
出久は、悠の右足のアキレス腱を力任せに引きちぎったのだった!それが、甥っ子が見せた最後の一撃だった!
悠の右足首は血を吹き出し、力の入らなくなった右足を見つめ……そして笑った。
「見事……見事だ出久、流石俺の甥っ子、久と引子の息子だ」
最後にまさかこんな一撃を見舞うとは、悠の胸中は数年ぶりの感動と高揚に包まれた。だがしかし、別れの時は来た。
彼方から飛来するヘリコプターが、悠の頭上に止まり、ワイヤーを下ろして来た。芋虫のように這いながら、それでも逃さぬと出久の姿を見下ろし、悠は言う。
「強くなれ出久、強くなりそして……この俺の前に再び来い、やがて現れる数多の悪を退け……俺を殺しに来い」
ワイヤーを掴み、引き上げられながら、ゆっくり小さくなっていく甥っ子のヒーローに、悠は呪いを刻み込んだのだった。
10月初旬……。
日本のプロヒーロー達が、たった一人のヴィランを前に敗走した。
復興の最中に起こったこの事件は、日本ヒーロー界において『オールマイト引退』『エンデヴァーのスキャンダル』に次いで、転換期となる事件として、日本ヒーロー史に刻まれるのであった。
そして……この『敗北』を皮切りに。
世界各国のヴィランが、日本に根を張ろうと侵攻を開始したのであった。
━━翌日、セントラル病院集中治療室。
2年A組と数人の雄英教師達は……様々な管や点滴に繋がれ、包帯を身体中に巻かれた緑谷出久を、ガラス越しに見つめていた。壁に背を預ける者や、そのあまりに無惨な姿に涙を流す子と、慰める子……信じられないと、ただクラスメイトかも分からない包帯の塊を見つめる子と、様々であった。
「一体……何があったんよ、なぁ?総大将、二日前まで元気だったじゃん、何があったらこんな……」
上鳴は、ガラス越しに心電図を刻む、二日前まで元気だった緑谷出久が、信じられない姿で死の淵を彷徨っていることが理解できなかった。
「ひっ、うう……」
「大丈夫よ、お茶子ちゃん……大丈夫だから」
麗日お茶子も、その姿に泣くしかできず。大丈夫ではないほど悲惨な姿を前にした蛙吹も、そう声をかけるしかできなかった。
何よりも……この男は、特に打ちひしがれていた。
「俺が、俺が……迎えの車を出すべきだったんです」
「相澤くん……」
「何もかもが裏目に出た、言い訳もできない……緑谷は……俺のせいで……!!」
担任の、相澤消太であった。相澤は力が抜けて立てないと憔悴しきり、近くの椅子に座ったままぶつぶつと自罰の言葉を吐いていた。オールマイトも、その様子を見て何も言葉は出なかった。
あの日、怨龍の話をしなければ……何より段階を踏んで言っていれば、緑谷はまだ平静であれたし、その場に居ただろうと。
相澤にも性急過ぎた気もあり、今更どの面下げて迎えにいけばと微かに感じていた。だから、緑谷に自分で帰れるならと帰らせてしまった。
その結果どうだ、まさかその怨龍が事件を起こし、緑谷はヒーローとして駆けつけて、今生死の境を彷徨っている。全ては自分のせいだと相澤に、オールマイトは屈んで答えた。
「相澤くん、悪いのはキミじゃない……悪いのは怨龍だ……何もかもが余りにも間が悪すぎて、運が悪すぎたんだ」
キミは悪くないと、慰めにもならないかもしれないがオールマイトはそう相澤に言う。そもそもの話、現れたヴィランが怨龍だなんて、そんなピンポイントで彼と緑谷が出会った事が最早災害的な、天文学的な運の悪さとしか言えないのだ。
そうしか言えない程に、流れがあまりにも出来すぎていたくらいだ。
『そうなんだ』と、納得しなければならない程の理不尽が起こったのだと、受け止めるしかないのだ。
集中治療室に繋がるドアが開いた、そこから現れたのは……異形の医者にして、爆豪勝己の右腕を治した名医、吉田竜であった。
「せ、先生!緑谷は、どうなんですか!」
「緑谷さんの容体は……どうですか?」
即座に、切島と八百万が緑谷の容体を尋ねた。それを聞かれた医師吉田の表情は……。
諦観でも、歓喜でもなかった。
「あの有様で生きているとは、流石AFO因子に打ち勝った子だよ」
安堵と疑問だった。
「緑谷は……大丈夫なんですか?」
その言葉に轟は、詳細はどうなのか深く尋ねる。吉田はガラス越しに見える包帯まみれの緑谷を見ながらA組に語った。
「運ばれた時点で肉体が自然治癒を開始していたよ、身体中の骨が砕けていたのに自ら繋がろうと動き、神経から筋繊維、臓器に至るまでもだ……」
「「「!!?」」」
A組全員が、何より担任の相澤までもが驚愕した。一体それはどう言う事なんだ、まだリカバリーガールも来ていないのに治癒し始めている!?A組と相澤が証言に驚く暇もなく吉田は答えた。
「三日あれば完治するよ、彼……個性でもないのにこの超回復はやはり、死柄木と同じ"進化"なのかねぇ?」
あの包帯ミイラ状態で、三日あれば完治する。それは最早治癒や回復に準ずる個性を有してなければ不可能な芸当だ……だが!緑谷出久の肉体は再生しつつあると語る吉田に……一人、気付いた者が居た。
「オールマイト……あんた、この事知ってたな?」
爆豪が、オールマイトに顔を向け睨みつけた。クラスメイト達もどう言う事だこれはと目線が向けられた。
爆豪は……大戦の後緑谷の病室へ尋ねに行った事を思い出した。凄まじい激戦で無傷の筈がない、むしろ後遺症すらあっておかしくない筈の傷を負っていた筈が、両足で松葉杖すら付かずに立って病室を母共々追い返していたと。
隠し立てはもう出来ない、自らいつか言うつもりだと緑谷から口止めされていたオールマイトだが、これはもう無理だとオールマイトは、ガラス越しの緑谷をしばらく見つめて、クラスメイトと相澤へ正直に答えた。
「少年は死柄木との戦いを経て、いや……数多の戦いを超えてその果てに、肉体が変わってしまった……緑谷少年は言わば、別の形の"死柄木弔"となってしまっていたんだよ、奴の文献から借りるなら"ワイルドピース"……と言うらしい」
すまない緑谷少年、オールマイトは心の中で謝罪した。恐らくこの後自分や、緑谷にクラスメイトは悲観などを込めて、言い出すだろう。
『なぜ言わなかった』
『どうして話してくれなかった』
と、批判も罵倒も受けるつもりだったオールマイト、治療室前に静寂がしばらく続いて、A組達は各々顔を見合わせたりした。
「それは、流石に言えないよなぁ……」
「えっ」
「て言うか、緑谷くん言えない事多いよね、うん、出て行った時もそうだったから」
瀬呂が髪を掻きながらそう言えば、葉隠も同情して頷いた。
「出久くん……いつもそうやんな……言えん事、言い難い事ばっかり降りかかってきて、何で毎回……」
涙は止まった麗日だったが、緑谷に降りかかる様々な重すぎる話に顔は決して晴れなかった。
いくらクラスメイトや友人でも、話せない事なんてある。かつて雄英から去った時も、AFO因子の事なんて言えるわけがなかった。それが体を作り変え、死柄木と似た肉体……つまりは『マスターピース』に近しい存在に変わり果てていたなどと、皆に打ち明ける事なんてできるだろうか?
だから、オールマイトから語られた今でもA組は納得出来るくらいには善性の塊でヒーローを目指す者達であった事は、緑谷出久にとって幸いだったかもしれない。
「その……先生、神奈川県警本部を襲って、ヒーロー達を倒して、緑谷くんをこんなにしたヴィランを知ってるんですか?」
そして話は、緑谷を倒したヴィランへと移る。口田に尋ねられた相澤もまた、一度オールマイトを見て、オールマイトも頷いた。
「ヒーロー達を倒し……緑谷をこうまでして逃げ仰たヴィランは…怨龍と呼ばれている……そいつは……緑谷の叔父にあたる人物だ」
こうまで大事になった以上、語る必要が出てきた。その事実を知ったA組は、言葉を失い、誰一人として声あげて驚く事はなかったのだった。