※この作品はR-18です。

【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】   作:ぶっこ抜きデク

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506話 あいむゆあぐらんま

 日置市より、鹿児島県道37号を道なりにバイクで行くことしばらく、緑谷は確かにその鳥居を見つけた。

 

「ここか、おっきな鳥居だなぁ……」

 

 大鳥居、とでも言うのか巨大な鳥居が道路を跨ぐように建てられていた。路肩に停車し、見上げる緑谷は、その神額……鳥居の中心に掲げられる神様の名を刻まれた額を見た。

 

「銀狼天満宮……?」

 

 あまり馴染みも聞いた事も無い名前だなと、緑谷はウィンカーを点灯し、背後を確認してから道路に出て、その鳥居をくぐりバイクを走らせた。

 

 走らせてしばらくは、まだ田舎町らしい田畑だったり、広い駐車場のコンビニを目撃した。何かの町工場らしい敷地や民家と通過して……どれだけ走らせただろうか……。

 

「すごいな、桜紅葉だ……」

 

 左右の桜の木が、様々な色に染まる『桜紅葉』のトンネルが緑谷の左右に現れた。秋になると黄緑、黄色、赤、茶色と様々な色になる桜の葉、カエデとはまた違う紅葉から桜紅葉と言うが、もしも春に来れば素晴らしい桜の道になるのだろうなと考えながら、バイクを走らせると……歩道の異形系の人とすれ違った。

 

 一瞬だったが、ヘルム越しだったが、確かに驚かれた反応をした。緑谷は路肩にバイクを停めて振り返り、歩道を見た。

 

 こちらを見て、立ち止まっていた。それほど普通の規格の人間は珍しいようだ。緑谷はすぐさまバイクを走らせ、さらに奥へ向かう。

 

 

 桜並木を越えて、すぐだった。

 

 

 たどり着いたその町に、緑谷は呆然とした。

 

「ええっ……ここが、陽界町?」

 

 その景色を見た時、緑谷はタイムスリップしたのではないかと、神隠しに遭い時代を越えたのかとすら頭によぎった。

 

 時代劇に出てきそうな、歴史から切り取られて持ち込まれたかのような、鮮やかな赤色の、壁の日本家屋や建築物……。

 

 何より、その先に歩く人々は皆、何かしらの異形の個性の持ち主であった。まずもう、司会の歩道に、普通の人間は居ない。

 

 その癖、ちゃんとここは現代日本だと示すように、信号もあるし標識もあるので、その混沌ぶりに緑谷は許容を超えた視覚情報を処理しきれなかった。

 

「と、とりあえず……どこかにバイクを停めよう、駐輪所とか無いかな」

 

 徐行しながら街中を行くと……誰も彼もが見てきた。市役所の職員の話はどうやら本当らしい……緑谷はパーキングか、駐輪場を探すため、陽界町をバイクで走り回った。

 

 

「あー……視線が気になる」

 

 とりあえず見つけた駐輪場にて、しっかりバイクの防犯チェーンをかけた緑谷。本当にここが、父と叔父の故郷なのだろうかと駐車場を出て歩道に出れば、目の前の赤い古い様式の日本建築と、取り付けられたエアコンの室外機のアンバランスさに苦笑した。

 

 まるでそれは、かつてあった遊郭の建物をそのまま使っているかのような見た目だが、その割に塗られている塗料やらも新しい。

 

 そうして歩くと、ふと思い出す。

 

 そう言えば、まだ昼ごはん食べてなかったなと。スマホを見ればすでに正午を過ぎていた、何処かで何か食べようかなと歩く緑谷だが……すれ違う誰からも目線が向けられて、監視されてる感覚すら感じた。

 

 が、それよりも空腹が勝った。歩道の傍らに、食堂とサンプルのディスプレイを見つけた。いかにもなローカル系の町食堂で、こればかりは他所と変わらない、牛丼にカツ丼、定食にラーメンの様々なサンプルが鎮座していた。

 

 もうここにするか、名前も見てない食堂の自動ドアの前に立ち、ドアが開けば緑谷は入店した。

 

「いらっしゃいま……」

 

 猫の異形の店員が、笑顔で迎えた。しかし緑谷を見た瞬間、目を見開き固まって、細い瞳孔が一気に大きくなったのを緑谷は見てしまった。

 

 それだけではない、食事をしている異形の客たちも、他の店員も、皆が緑谷を見たのであった。

 

「すいません、一人いいですか?」

「え!?あ……はい、どうぞこちらに」

 

 店員は明らかに動揺している。しかしなんとか繕って、そのまま緑谷を席に案内した。カウンター席に座りメニューを見る緑谷、やはり視線が幾つも感じるが、気にせず店員を待った。

 

「ど、どうぞ……えーっと、ご注文は」

「じゃあかつ丼で━━」

 

 お冷のグラスを出され、メニューを聞かれた。とりあえずカツ丼だなと頼もうとしたところで……。

 

「聞く必要ねぇぞ、出てってもらえよ」

 

 ガラの悪い、岩の肌の異形に作業着を着た男がそう言い放った。緑谷は振り返り、その男を細目になって見つめた。

 

「ここは観光地じゃねえんだよ、さっさと出て帰りな、じゃねぇと痛い目見るぞ」

 

 他にも同じ意見らしい異形の屈強な者たちが睨みつけて来た。緑谷は丸椅子の上で身体の向きを変えて堂々として、岩肌の男に言い放つ。

 

「へー、逆異形差別なんてあるんだこの町……通りで父さんも縁を切って出て行くわけだ、随分苦労したんだろうね、この町なら"普通"の父さんのが異分子だし」

 

 空腹もあったが、成る程それで縁を切ったのかと緑谷は理解した。父親は異形の個性ではない、だからこの町に生まれてから差別されて出ていったのかと。恐らくまだ会ってない祖父に祖母も、異形じゃない父を疎ましく思って縁切りしたのだろうなと。

 

「バカ言え、この陽界町に普通は居ねえよ、少なくとも"ある家".を除いてなぁ?どこの誰だガキが」

 

 喧嘩する気満々らしい、普段なら緑谷も退出して騒ぎなぞ起こしはしない。何故なら、もう彼は仮免ヒーローだからだ。

 

 しかし……相手が殴ってきたり襲いかかってきたら『非常事態につき、正当防衛として』反撃してやろうと足を組み、笑みを見せて体勢を整えていた。

 

 だが……思いもよらぬ事態が起こる。

 

「な、なぁ?おい、この子……イズクじゃないか?」

「えっ?」

「はぁっ!?」

 

 客の一人、ドーベルマンの異形の男が気付いて、一気に空気が変わった。

 

 緑谷出久の名は、今や全国どころか……世界に響き渡っている。ヒューマライズの一件、AFOと死柄木を倒した英雄……何よりその情け無用の有様と非情な個性も最早周知の事実であり……この排他的かつ閉鎖的な町でもその名は広まっていた!

 

「だ、だから何だってんだ!!あの事はあくまで"噂"でしかねぇだろうが!!」

「でもそうだったら……万が一にもその噂が本当だったら!俺たちは"銀狼様"に歯向かう事になるんだぞ!!」

「銀狼様?」

 

 だが、町の人々が恐れたのは、緑谷出久ことイーヴルヒーローの威光や恐怖ではなく、もっと別の事だった。

 

 この岩肌の異形の男は『銀狼様』と言った。

 

 陽界町に向かう曲がり角の大鳥居には『銀狼天満宮』と神額に掲げられていた。口ぶりからすれば、この陽界町に祀られた神様と予想できる。

 

 その銀狼様と、自分が、噂とは言え関係がある?手を出したら神様に歯向かう事になる?因習じみて排他的なこの父の故郷に、何があるのかと、自分を放って言い争い始めた二人を眺めていると……。

 

「よその人が訪ねてきてるって店は、ここかしら」

 

 その声を聞いた瞬間、店内の誰もが戦慄した。言い争っていた岩肌とドーベルマンの男達も、入口を見て固まり冷や汗をぶわりと流し始めた。

 

 そして……緑谷出久も、入口から漂う気配に目を見開いた。

 

 何故か!

 

 似ていたのだ……気配が!『怨龍』と、叔父の緑谷悠に似た気配が、外につながる自動ドアから漂っていた!

 

 自動ドアがゆっくり開き……身体を少し屈めて、その者は店内に入った。緑谷の視線が、水平から更に斜め上……天井を見上げかねない位置まで首が動いた。

 

 現れたのは……巨大な異形だった。

 

「銀狼様……!」

 

 猫の異形の店員が、食事中の誰もが畏怖と畏敬を抱いて『彼女』を見た。

 

 緑谷の目の前に、オールマイトよりも巨大な、着物を纏った綺麗な長い銀髪の女が現れ、緑谷を見下ろした。

 

 その女性は、額から白い1本角を生やして口から牙も見える、正しく『鬼』であったが……。

 

「……綺麗」

 

 魅入られるとは、今の自分なのかもしれないと緑谷も実感した。思わず呟いたそれ程までに、異形でありながらその女性は……美しかったのであった。

 

「あらどうも、こんな還暦超えた女にそんな事言うなんて」

「か、還暦!?」

 

 一々声まで、脳を揺さぶられそうに甘い。銀狼と呼ばれた鬼女は緑谷にそう返すと、驚く他なかった!だって見た目が20代にしか見えないのだから!!

 

「けどね坊や、ここは観光地じゃないのよ?疎まれ、差別された異形が最後にたどり着く楽園、陽界町……普通の人が来ると皆気を立たせてしまうのは昔からそうなの……あまり事を荒立てたくないから、このまま町を出てくれたら嬉しいわ」

 

 銀狼様とやらは、観光で寄ったなら出ていってほしいと礼を尽くすように頭を下げて願った。緑谷はその様に立ち上がって、頭を下げながら答えた。

 

「すいません、ですが……僕の父親がここを故郷と言ってたので、静岡から故郷を訪ねに来たんです」

「あら、そうなの……その父親の名前は?私、この町の人は全員名前を記憶してるの、貴方が誰の親族か分かるかもしれないわ」

 

 礼には礼を、緑谷もまた観光ではなく、父の故郷を訪ねて来た旨を伝えれば、鬼女の銀狼様は、ならばその父親の名を言ってみて欲しいと笑って尋ねた。その笑みも綺麗ながら恐ろしい、間違えたならば頭から喰らってやるとでも言いそうな、そんな気迫を緑谷は感じ取った。

 

「父の名前は、久……緑谷久、僕はその息子、緑谷出久です」

 

 緑谷は、父の名を、そして自らの名を名乗った。それを聞いた瞬間、鬼女は━━大きく目を見開いた。

 

 そして、喧嘩を売ってきた岩肌の異形の男も、止めに入ったドーベルマンの異形の男も、まるでこれから死が確定したように青ざめて、緑谷を見たのだった。

 

「あ、え、あ……嘘……貴方、久の子……なの?」

「父さんを、ご存知なんですか?」

 

 見開いた目から、驚愕の感情が、絞り出す言葉から信じられないとでも言いたげな雰囲気を醸し出す。改めて、貴女は父をご存知なのかと銀狼様に尋ねた緑谷に待って居たのは……。

 

「ああぁああーー!!嘘、嘘!嘘ぉ!!」

「わぁああああ!?」

 

 抱擁であった。そしてぐりぐりとその頬を銀狼様は、緑谷に擦り付けながら、先程の威厳も何もかもを放り投げて嬉々として言い放った。

 

「出ていったあの子の子ども!私の可愛い孫!!やっぱりそうだった!!死ぬ前に、死ぬ前に孫の顔が見れたよぉーー!!」

「あだだだだだだ!?力強い力強い!!折れる折れる折れるギブギブギブ!!」

 

 最早抱擁じゃなくベアハッグ!AFO因子に書き換えらた肉体ですら悲鳴をあげ背骨や肋骨が軋む銀狼様の抱擁に、緑谷は彼女の背中をタップした。

 

「あ、ああごめんねぇ、まさか孫が一人来るなんてあまりに嬉しくて……」

「お、折れるかと思った……え?と言うか……つまり貴女は……」

 

 ぱっと銀狼様は抱擁から緑谷を解放する。そして彼女の言葉をようやく理解して、見上げながら言い放った。

 

「貴女が、僕の……おばあちゃん!?」

「Yes!I'm your Grandmother!」

 

 信じられるだろうか?目の前の銀髪で、巨大で美しい鬼の美女が、まさか自分の祖母だなどと。しかし彼女は、流暢な英語でそう緑谷につげたのであった。

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