【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
初めて会った父方の祖母は、異形の個性を持つ鬼の美女だった。記憶の中で、母方の祖母の顔を思い出したが、母に失礼かもしれないが醜悪な顔しか知らない緑谷にとっては、こんな美女が祖母などと驚く他なかった。
「えっと……おばあちゃん?」
「なぁに、出久」
「僕もう高校生ですから、その……こんな事されるのは……」
「いいからいいから、静岡から来たんだから足くらい休めなさいな」
そんな緑谷出久だが……祖母の肩に乗る形で抱えられ、街中を歩いていた。少なくとも170cm代の人間体重は63kgである。緑谷出久はヒーローとして鍛えている為、筋肉量も考えるとそれ以上は体重があった。それを緑谷の祖母は、自らの肩に抱えて乗せて運んでいるのだ。初めて会えた孫だから、本当は4〜5歳くらいの頃にしたかった事を彼女は今、出久に行なっているのだろう……それでもその人ならざる膂力を孫である出久は体感した。
背後には、先程緑谷に喧嘩を売った岩肌の異形の作業員がレンタルバイクを押して追従し、街中の異形達も緑谷の祖母、そして肩に抱えられた緑谷を見て、口々に声を上げた。
「あれが銀狼様のお孫さんだって!」
「知ってる!イーヴルヒーロー・イズクだ!」
「大戦の英雄がまさか銀狼様のお孫さんとは……いやぁ、我らも鼻が高いなぁ!」
「お子さん二人が出ていってからようやく会えたんだって!」
この、手のひら返しぶりである。さっきまで普通の人間だと奇異の眼差しを向けていながら、祖母が呼ばれている『銀狼様』の孫だと分かれば異形じゃあなかろうとこの変わりようであった。少しばかり闇を感じる緑谷であった。
「さぁ着いたよ、ここがおばあちゃんの家だ」
抱えられ、辿り着いた先は立派な鳥居が建てられた神社であった。広大な敷地、その奥に見ゆる本殿らしき建物に、そこへ繋がる石畳……右側に武家屋敷のような建物も見えるが、多分そちらが管理者というか、神主?の祖母である彼女が住まう住居なのだろう。
「バイクは裏に停車しておきます」
「頼んだよ」
「あ、ありがとうございます」
岩肌の異形の人は余程参ったのか、緑谷のレンタルバイクを持って行って裏に停車しに行った。そのまま緑谷は祖母に抱えられ、神社の鳥居をくぐるのだった。
「改めて……私は緑谷紗羅、あなたの父さん久の母親で、おばあちゃんだ」
屋敷の居間に通されて、正座しながら深々頭を下げてきたので、出久は慌てた。
「いやいや、そこまでしなくていいよ、おばあちゃん……」
何もそんなに畏まらなくてもと、手を伸ばしどうしたものかと反応に困る出久。色々聞きたい事はあるけど、会話が続かない出久は、多分人生で初めて『おばあちゃん』と呼んだ事から、紗羅に尋ねた。
「そうだ、お爺ちゃんは居るの?お仕事とか?」
おばあちゃんが居るなら、おじいちゃんも居るのでは?会ってみたいなぁなんて聞いた出久。しかし紗羅は笑って右斜め上を見て答えた。
「おじいちゃんねぇ、多分出久が生まれた時くらいに亡くなってるわ、ほらあれがお爺ちゃん」
やってしまった……すでに故人だった。視線の先に遺影があるのかと、出久は右斜め上を見上げると……そのやらかしすら吹き飛ぶ、父方の祖父の姿に驚愕した。
「あの……おばあちゃん」
「何?出久ちゃん?」
「おじいちゃんの……その……個性って」
「あぁ、アロサウルスよ?強そうでしょ、でも大学の先生だったんだ、名前は阿炉叉で婿入りしてきたんだ」
僕のじいちゃん、アロサウルスだったのか……。遺影に掲げられた恐竜の異形の祖父に唖然としながら、こんな話からまさか聞きに来たことを話し始めるとはと、出久も気が引けた。
「そ、そうなんだ……ああ実はおばあちゃん、今日来たのはちょっと尋ねたい事が……」
だが、それを祖母の紗羅は制するように、綺麗な手を立てて、待ちなさいと所作を見せた。
「食事できなかっただろう?有り合わせになるけど、おばあちゃんが何か作るからさ、それからお話しようか」
まずは腹ごしらえをしようと、祖母に言われた出久は、それは確かにと空きっ腹を感じて赤面した。
鹿児島の特産品、名物……ともなればこれは外せない。『黒豚』であろう。バークシャー純粋種として、系統造成を行なっているのは鹿児島県だけ。そこで生まれ、育てられ、出荷されたものだけが『かごしま黒豚』と名乗る事を許される。
祖母の紗羅は有り合わせで作ると言った。だからまさか油を沸かし、パン粉に卵液まで用意しだしたのには出久も驚いたし、やがて出された丼の器に閉口するしかなかった。
「ちょうどとんかつ用の豚肉あったから、カツ丼にしたよ?」
本当か?確かに食いっぱぐれたけど本当に丁度なのだろうかと、なんとも間の良さに内心は驚くも、その香りたつ湯気に出汁の薫りに耐えれるわけがなかった。
「い、いただきます」
丼の蓋を開ける、初めて食べる祖母の料理。祖母の作るカツ丼は、オーソドックスな卵とじスタイル。その卵とじされたカツを箸で持ち上げ、そして出久は齧った。
「……美味しい!」
思わず、口から言葉が出てしまった。それは、今まで食べたカツ丼を塗り替える美味しさだった。というか、豚肉から違う!こんな豚肉があるのかと、祖母の前と忘れがっついてしまう。
「それはよかった、久々に作ったからねぇ……何しろ、悠がよく頼んでたものだからさ」
笑顔で嬉しがる祖母だったが、その言葉に出久の箸が止まった。悠……久の兄にして出久の叔父、そうだ……その男の話を聞くために僕は来たんだと、あと少しで食べ切る手前で、箸と丼を置いた。
「おばあちゃん……その悠おじさんの事で、僕は来たんだ」
「まぁ!悠にも会ったのかい……あの子も高校卒業してすぐ出て行ったきり、手紙くらいしかよこさないものだから……」
その口ぶりから、出久は祖母の紗羅が、自らの子である悠が、いかなる人物になったのかも知らない事を理解した。手紙くらいしかよこさないあたり、内情をかくしていたのが分かる。
「……おばあちゃんは……おじさんが何してるか知らないよね?」
「そうだね、元気にしているとしか……」
再確認を終えて、出久は残りのカツ丼を平らげてから、祖母に向き直った。
「おばあちゃん、僕は叔父さんの個性の秘密を知り、倒す為にここに来た……ヒーローとして、ヴィランになった叔父さんを倒すために」
孫から聞かされた事実に、祖母はまぶたを大きく開いて驚くしかなかった。
緑谷紗楽(みどりやさら)
年齢:60代
緑谷出久の祖母、久と悠の生みの実年齢は60代ながら、その美貌は20のままという女性。銀色の髪に一本角を持つ。身長240cmの美魔女……いや美鬼女。
九州鹿児島の異形個性の街『陽界町』の相談役であり実質トップ、『銀狼神社』の神主。
個性は『鬼』
緑谷の血を嫌悪し絶縁した久を心配していたが、結婚して孫ができてしかもヒーローになっている事に喜んでいる。
緑谷阿炉叉(みどりやあろさ)
緑谷出久の祖父、すでに故人。婿入りした男で、旧姓は聚楽(じゅらく)と言うらしい。
個性は『アロサウルス』
大学の先生だった模様。