【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
「そう、悠が……血は争えないのかしらね……」
出久は、祖母の紗羅に案内され、神社の本殿に足を踏み入れていた。孫である出久と初めての会合、しかしその孫から語られる、実子が悪人となった事実に沈み込んだ。
「最初、おばあちゃんの姿に驚いた……だけど、個性は普通一人に一つの筈、叔父さんは紫の炎を使い、おばあちゃんのような鬼にもなった……これは何か理由があるの?」
叔父の変身と、紫の炎……この二つの個性持ちに何か理由があるのか知らないか、出久は祖母に尋ねた。
祖母は、本殿の奥に祀られた、一振りの刀と……狼の面を見て、出久に語った。
「それは……多分私や久、出久ちゃんにも流れている鬼の血、だろうねぇ……」
「鬼の血って……いやいやおばあちゃん?そんなまるでホラー映画の話とかじゃないんだから」
そんな"因習村の呪われた血"みたいな話を聞きたいのではないと出久は流そうとした。しかし、祖母は孫の出久に真面目に語り出した。
「あり得るさ、何しろ私もこんな姿になる程、緑谷の鬼の血というのは濃いかった……私の父も鬼の個性だったし……何より始まりの……私のおばあちゃんからずっと、鬼の個性だったんだ……それが現れなくなったのが、悠と久からだった」
緑谷家は代々、個性が『鬼』となって生まれてくると紗羅は語った。それ程にまで色濃い血で、強い個性だったのだと。紗羅は本殿に祀られていた物の一つ、写真立てを取るや出久に手渡した。
「写真の人が私のおばあちゃんで、出久の高祖母にあたる、緑谷結衣……第一世代の鬼の個性の持ち主で、緑谷家始まりの人さ」
「この人が……」
そこに映っている女性もまた、麗しい女性だった。祖母以上に鬼の異形が顕著に現れた巨大な女性、肉体は人より離れて肌の色すら言い表せない色……灰色が近いか?そして角も、二本生えて更にそこから牡鹿のように別れていた。
個性がまだ"異能"と呼ばれた時代、第一世代の個性は、単純かつ弱い物が通説であった。それが世代を重ね、混ざり合い、複雑になっていき今の世代の個性の強さとなっているのが当たり前の話。
しかしこれは、この人は!第一世代の時代でありながらここまで人から離れた姿なのかと、出久は驚いた。
「私も習いはしたよ、軽く授業でね……普通なら個性は代を経て混ざり合い濃くなり複雑にと……ただ、緑谷家は違ったらしい、最初があまりに濃い因子だったのか、代を経て薄まっていって、ようやく私の子である悠や久に鬼の異形は見えなくなった……代わりに写真に映る私のおじいちゃんなのか、私の鬼の一部か知らないけど、火を操る個性が現れたの」
緑谷の血は、あまりに濃かった。むしろ代を経てようやく薄まって、今の緑谷出久に至るのだと祖母は語った。
そして、怨龍であり叔父の緑谷悠と、父の緑谷久は……鬼の異形ではなく、その高祖母の隣で立つ男が持つ個性か、鬼の個性の一部が現れたのだと紗羅は語った。
写真の先祖、緑谷結衣の隣に立つ男、夢の中で『緑谷隊長』と呼ばれた男が、父や叔父の"火"に由来する個性だったと彼女は語る。
「じゃあ隣の人は、高祖父?」
「そ、緑谷紬……この町、陽界町を作った人で、異形の為に戦った、初代『銀狼仮面』こと、銀狼様……この神社に祀られているのがその人さ」
「異形の為に……」
「正確に言えば、おばあちゃんを守る為に……だろうねぇ、おばあちゃんによく聞かされたの……おじいちゃんは私を守る為に何もかも捨ててしまったと、悪い事をさせてしまったと」
高祖父は、高祖母を守る為に全てを捨てた。それは多分、自警団としての地位のことだろう。隊長と呼ばれた程に強く、部隊を率いていたが高祖母と出会い、異形を、高祖母を守る為に全てを投げ打ったのだと。
奉られている狼の面、そして一振りの刀を出久は見つめながら、話に出てきた高祖父についてさらに深く尋ねた。
「銀狼仮面とか、銀狼様とおばあちゃんも呼ばれてたけど……」
「ああ、代々緑谷の一族がね、この神社を継ぐ時に呼ばれるようになるのさ……私はまぁ、3代目銀狼というか、この町を作ったと言ったろ?そうなる前におじいちゃんは異形の人達を率いて保護や救出活動しててね……陽界連合として活動していた時の……ヴィラン名だね」
ヴィラン名。その言葉を聞いて、出久の胸は締め付けられた。
「高祖父は……ヴィランだったのですか?」
孫の話に祖母は力なく笑みを浮かべ、語り出した。
「ああ、けど個性黎明期の時代……秩序も乱れた崩壊の時代、何が正義か悪かも分からない時代……おじいちゃんは、たとえヴィランだ悪党だと指差されても、異形を守る為に戦っていた……元は同じ人間だろう、とね?異形排斥が当たり前の時にさ……」
祖母の話に、出久は気付かされた。この人もまた、同じだったのかと。
個性黎明期、まだ個性が『異能』と呼称された時代。異形型の個性への差別は酷く、今でもその名残りをかつての死柄木との戦いでも見かけた。
その時代において、高祖父は悪を名乗った。だけど……守り通して、この町があるのかと出久は理解した。
自らもまた決めていた事……如何なる誹りを受けようと、血に塗れようと……。
普通の正義では勝てぬ、討てぬ悪を倒し。
普通の正義では手が届かない声無き声に手を差し出して引き上げる。
高祖父でありヴィラン、緑谷紬と、その子孫緑谷出久は、同じ心を持つ似た男であった。
「おばあちゃん、もっと聞かせてほしい……ご先祖様の事」
「いいよぉ、今日は泊まっておいき、夕飯はご馳走にしないとね」
出久の、怨龍に負けた時から心に巣食うモヤが、少しだけ晴れたような気がした。
緑谷出久、人生初めての『里帰り』は、多少のアクシデントには見舞われたが、曇った心を晴らすには十分なものであった。
・緑谷紬(みどりやつむぎ)
黎明期時代に活動していた、緑谷家始まりの男で、初代銀狼仮面。元々は自警団『黒燕』に所属していたが、何らかの理由で裏切り、後に妻となる緑谷結衣を助け出し出奔。異形個性の者達を率いて『陽界連合』を立ち上げ、やがて陽界町を作り上げた。個性は異形型ではないらしく、火に関する個性らしい。また、刀が奉られている事から剣術を得意とするとか?
・緑谷結衣(みどりやゆい)
緑谷家始まりの女、第一世代らしからぬ異形の個性『鬼』を発現させ、迫害を受けていた所、紬に助けられ出奔した。
その個性の濃さから、今でも子孫に脈々その形質が現れ、第四世代の悠、久でようやく薄まった程の『個性特異点』であり、実は当時のAFOにも狙われていた。
・陽界連合
緑谷紬が立ち上げたヴィラン組織であり、陽界町の前身となる団体。異形型個性の人々を集め、救出したり保護活動をしていた。当時の考え方からすればヴィラン組織だが、異形の為に戦い続けた人権団体とも呼べる。