【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
「はっ!?」
緑谷出久は夢を見ていた。
三ヶ月のアメリカ留学、その拠点となるアパートで、婚約者のメリッサ・シールドと同棲が始まると言うもの。
馬鹿げている、そんな一昔前のハーレムラブコメアニメみたいな事あるわけがない。薄暗い部屋、背中の柔らかな感触はベッドで寝ていたらしい。
「夢か……」
そう、夢だよな。緑谷は安堵と少しの落胆を込めた溜め息を吐き、今何時だとスマホを探した。
「ん❤︎」
手をベッドについた最中、違う感触を感じた。薄暗さに目が慣れ、その姿と左手が触れた感触に眠気も吹き飛ぶ。
乱れた金髪、一糸纏わぬ白き肢体。左手はその女性の乳房を掴んでしまい……さらにその先の床には……。
使用済みの、内容物が漏れないようにしたスキンがいくつも落ちていた。
そして緑谷は思い出した。
メリッサと留学中暮らすことに決まった。
買い出しに行った。
買い出しの最中メリッサがスキンをカゴに入れていた。
学生で留学中、間違いはダメと言い聞かせた。
メリッサが夕食を作ってくれた、アメリカンなメニューながら美味しかった。
アメリカはシャワー文化だから、シャワーを浴びて寝ようとしたら、メリッサが入ってきた。
水源の節約という口実を、アメリカの水事情から説き伏せられ、一緒に浴びた。
胸を押し付けてきた。腕を回してきた。
……十分僕は耐えたと思います、麗日さん、八百万さん、香山さん。
現在時刻は4:59とスマホが表記していた。
「ああ……初日だぞ、登校もまだなのに」
「何が?イズクぅ?」
留学初日から何を僕はと、自責する緑谷だったが、目を覚ましたらしいメリッサは緑谷を寝ながら見上げ、その手をゆっくり伸ばしてぐいいと抱き寄せた。
「あ、こら、メリッサ」
「んんー〜おはよイズク?ふふふ、元気だったね本当」
アメリカ人はスキンシップが多いと聞くが、メリッサのこうまで自分へ強い愛情を向けてくる様に、緑谷はたじろぐしかできなかった。
何より……ティーンエイジの緑谷に、少し年上のブロンド美女の肉体など劇薬であったし、つい1年少し前まで恋人すらあり得ない環境に居た緑谷には、耐える術はなかったのであった。
「まだ早いし二度寝しようよ、ね?」
「いや、あの、メリッサ?」
イエス、以外の言葉は聞かないと腕の力は弱まらない。緑谷は諦めと、押し付けられる柔らかな肌の温もりに捉えられ溜め息を吐いた。
「初日から遅刻しないようにしないと……」
確かに早いのは事実だったので、緑谷はメリッサの言われるがまま二度寝する事にした。
日本人の朝食は、ご飯味噌汁焼き魚に漬物、ほかに卵焼きもあればなおよし。雄英の寮、ハイツアライアンスでも毎日違うメニューの朝食が取れたし、実家でも母が腕を振るってくれた。
今このアパートには、緑谷出久とメリッサ・シールドしか居ない、高校生と新社会人の2人なのだ。
「というわけでイズクにも体験してもらいたい、アメリカの朝食はこちら!」
「うわぁ……初めて見たかもしれない、甘いやつだよね?」
青い箱に、パッケージにはいかにも甘そうなクッキーの写真。アメリカ朝食の定番『ポップターツ』を見て、緑谷はその箱を眺めた。
アメリカ人の朝食は甘い物を食べる。日本でも今では珍しくないかもしれないが、この手の菓子じみた朝食は緑谷も初めてだったので新鮮だった。
「これをトースターに入れて温めるんだよねー、そしてこれ!朝にこれは欠かせない!」
「チョコレートのチューブ?」
「チョコレートミルクのシロップ、ささ、イズクも準備して」
冷たい牛乳にも簡単に溶ける、定番チョコシロップ。チョコレートミルクに、ポップターツとフルーツ、アメリカの定番朝食1つのテンプレートは、時間もかからず完成した。
2人向き合ってリビングで朝食、緑谷は早速食べてみたポップターツの味は。
「甘っ!見た目以上だ……」
「そう?控えめなブルーベリー買ってみたけど」
「これで控えめなんだ、甘さ」
改めて味覚というか、食べて来た物の違いや文化の違いを叩きつけられたような気がした。思えば買い出しの中にはシリアルの箱がいくつもあったし、冷凍のワッフルとかあったなと思い返す。
「皿洗いは僕がするよ」
「ありがとう、イズク」
本当に同棲しているんだなと、初日ながら役割分担して互いに動く。そうして、雄英制服に着替えた緑谷と、私服にバックを持ったメリッサは玄関に立つ。
「それじゃあしばらくは私がヒーローファクトリーまで送るわ、道を覚えましょう」
「わかった……ところでメリッサは?」
「ああ、私はロサンゼルスのパパのラボの支局で働くようにしたの、イズクのサポートがしやすいようにね」
玄関を出て、オートロックが閉まる。エレベーターに向かいながら、彼女は緑谷のサポートの為にI・アイランドからロサンゼルスの支局まで異動をしたのだと語った。
「あ、そうだ!明日明後日あたりかな……イズクには留学中に頼みたい事があるのよ」
「頼みたい事?」
「ええ、ただサポートの為だけに移動してきたわけじゃないの、準備ができたらまた話すわね」
彼女の頼み事とやらは、明日明後日に分かるらしい。エレベーターがやがて駐車場へ辿り着き、二人はそのまま出て、車へ向かった。
「それじゃあイズク、ロサンゼルス・ヒーローズファクトリーまで行きましょうか」
キースイッチが押されて、ドアが開く。いよいよ今日から留学が始まるのだと、緊張と興奮を抱えて、緑谷を乗せた車は発進した。
ロサンゼルス・ヒーローズファクトリーのグレード11はAクラスは、朝から賑わいを見せていた。
アメリカの義務教育は日本と違い、高校までが義務教育であり、学年は『グレード』と呼称される。小学生一年生を『グレード1』とした時、高校二年生は『グレード11』と呼ばれる。
その中でもヒーローを目指す『ヒーロー科』は『Aクラス』と『Bクラス』に分けられ、各クラス三十人の六十人が学んでいる。
「今日だよな、日本の雄英から留学生が来るの!」
「誰が来ると思う!?ショート?ダイナマイトかな!」
「クリエティかウラビティかもよ!」
前もって来る事自体は告知されているが、誰が来るかまでは知らない。しかし、かのAFOと死柄木と戦った雄英の学生たちの名前は、アメリカにも知れ渡っており、誰が来るかとクラスの者たちは沸き立っていた。
「よおビル、なんか騒がしいな」
また一人、教室に入って来たのはドレッドヘアの黒人の少年。彼は眼鏡に金髪の眼鏡の少年に、なんで騒がしいんだと挨拶がてら尋ねた。
「やあマイケル、カウンセラーの先生言ってたろ?今日からAクラスに、日本の雄英から短期留学の子が来るって」
「あー今日だったのか、この時期とは中途半端だな、日本は三学期なんだっけ?」
「らしいよ、誰が来ると思う?」
さあな、マイケルは鞄をどかりと置いてビルの横に座る。そして一番後ろ窓際の空席を見て、舌打ちした。
「レックスの奴は相変わらず重役出勤かよ、何時間目に来ると思う?」
「うーん……昨日は休みだったから、取り巻きの女の子と遊んで昼前じゃない?」
「ま、知ったこっちゃねぇなあんな奴、来なけりゃ静かでいい」
そう話し込んだところで、ジリリリリとベルが鳴った。アメリカの学校の始業の合図である。
そして、担当代わりとなる『スクールカウンセラー』が、ドアを開けて入って来た。
「よーしキミたち、話にも聞いているだろうが……これから三ヶ月、この学校に日本の姉妹校の雄英から留学生が今、このドアの先で待ってる、国は違えどいずれヒーローとして社会にでる同輩だ、暖かく迎え入れてやってくれ」
生徒たちは、誰だろうかと待ち侘びた。雄英の同学年、名だたる生徒からこのクラスに来たのは誰なのかと。
マイケルとビルは、別に誰でも変わらないだろうがと冷めた目でドアを見つめていたが。
「お前ら驚くぞ?来たのは彼だ、入って来てくれ!」
時として、気配というのは常人でも察する事がある。刹那の振り返りの中で、有名人が視界に入っていたような、そしてまた振り返れば本当にそこに居たとなるくらい、濃い雰囲気を漂わせる。
たった一歩である。
たった一歩、教室に彼が足を踏み入れた瞬間。ロサンゼルス・ヒーローズファクトリーのグレード11のAクラス生徒達は戦慄した。
まるで心臓を握りつぶされたかのように錯覚して、体温が下がったようにも感じた者すら。
マイケルとビルも、凄まじい強さのヴィランが現れたのかと身体が強張り、その姿を見て、冷や汗を垂らした。
「OK、皆も知ってるな!雄英高校ヒーロー科二年生、かのトムラ・シガラキとAFOを倒した男!イズク・ミドリヤ!今日から彼が3ヶ月間、キミたちと共に学ぶ!拍手!」
その名前をカウンセラーが言い放って、教卓の前に緑谷は立つや、一礼した。
「緑谷出久です、これから3ヶ月、よろしくお願いします」
緑谷は頭を上げて、クラスメイトとなる皆を見た。階段教室に座す皆、様々な人種に異形型が居るなと確認したが……。
「あ……あれ?」
拍手一つ、起こらなかった。
それは、決して緑谷を歓迎してないとか、人種差別とかではなかった。
緑谷出久は、自身のネームバリューの凄まじさを全く知らなかったのだ。
「イズク・ミドリヤだ……恐怖の象徴……!」
「世界のヴィランが恐れる最凶のヒーロー……!」
「オセオンの英雄……!」
「なんでだ!?ダイナマイトやショートじゃないって……もしかして日本からの極秘任務?」
緑谷出久こと、イーヴルヒーロー・イズクは、かつて積み重ねた活躍もあり、その名は世界に轟いていた事を。
※
この世界での緑谷出久こと、イーヴルヒーロー・イズクは、ヒューマライズ事件で、フレクトターン戦が世界に流されて、心臓ぶっこぬきで世界を救ったのを世界中が知っている。
つまり一年生時点で……世界を救った悲劇の英雄として名前が刻まれているのだ。