【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
アメリカで二番目の人口の都市、ロサンゼルスは『犯罪都市』でもある。
超常が広まる前の120年前から、黎明期の混沌を超え、プロヒーローという職業が生まれて幾分か浄化され治安も好転してはいるが、ヴィランの存在、人種、異形差別による歴史は繰り返され、未だにロサンゼルスでは犯罪の温床となっている地域が二つある。
一つは南側に位置する『コンプトン』
ギャングの巣窟と呼ばれ、黎明期以前から未だにその血脈、シンボルを繋いだ年季あるギャング達の根城……貧困層が住まう地域で『ギャングスタラップ』発祥の地でもある。
そして、緑谷とレックス、ジョン巡査がパトロールを行うのが……。
もう一つの危険地帯『スキッドロウ』だ。
所謂『リトルトーキョー』という、日本人街の目と鼻の先にある地区であり、こちらも黎明期以前から街の様子は全く変わっていない。
自らを空に引き寄せ、飛行して移動する緑谷は……華やかな雰囲気の街から、さながら戦地の廃墟そのままとなったような、未だに被災から救助も支援も無いような地区を、廃墟の屋上から見下ろして息を呑んだ。
「レックス……この地区はずっとこうなの?」
「ああそうさ、でも"これでもマシになった"らしいよ?」
緑谷が滞在しているのは、はっきり言えば富裕層のエリアだ。賑やかで、治安も良く普通の街で、日本と変わりはない。
だが、このスキッドロウは静かだった。廃墟と、ホームレスのテントが点在している。寝袋だけで歩道脇に寝ている人も見えていて……足元がおぼつかない歩行者も居た。
『あーテステス、イズク?レックス、聞こえるな?』
配給されたインカムから、ジョン巡査の通信が入った。
「はい、聞こえます」
「勿論、Mr.ジョン」
『よし、なら2人は俺のパトカーを上空から追尾しつつ怪しい動きがあればそこへ、麻薬の売人に喧嘩……見つけたら即時対応だ』
緑谷とレックスによる空からのパトロールを頼む、ジョン巡査からの指示に緑谷は了解と返事する前に尋ねた。
「……今視界の路上に足元がおぼつかない人が見えますがどうすれば?」
もう早速、足元がおぼつかないふらつく人が居るのだがと、それを言った緑谷にジョンは少し沈黙の後返信した。
『放っておけ、もし暴れ出したらそれから対処しろ……スキッドロウではあの手の人間は多々いる、全てに対処したらキリが無いからな、警察とヒーローの仕事は犯罪抑制だ、あの手のは支援団体やボランティアの仕事だ』
「……分かりました」
それはヒーローと警察の仕事ではないと、冷徹に断じられた。緑谷もすぐ返答ができなかったが、その1秒足らずの内に脳内で考えさせられたのだ。
『声かけて、お前は彼を助ける事ができるのか?』と。
スキッドロウのホームレス達が一体どんな人数が居るのか、それら全てにお前は救いの手を差し出せるのか?キリが無いし無理な話だと突きつけられた。
役割の違い、という物を緑谷は改めて知らされた。
「さ、行くよイズク?時間は有限だ」
「うん」
レックスは屈んで脚の筋肉を唸らせ、空に跳躍。緑谷も空を引き寄せ空中に舞い上がる。空中から見下ろすスキッドロウと、まるで見えない壁でもあるように綺麗に様相が変わるリトルトーキョーの境界が見えた。
パトカーのパトロール範囲を追尾しながら上空からの監視、死んだような街を見下ろせば、それでも人は生きていくしかないと、ホームレスが炊き出しに並び、コミュニティらしき集団は音楽鳴らして踊ってもいた。
そうしてスキッドロウの街を空から見回したていた最中であった。廃墟が入り組んだ路地裏に1人、パーカーを着た男が入っていったのを、緑谷は見つけた。
パーカーくらい誰も着るだろうが……どうも馴染んで無いというか、このスキッドロウに似つかわしくない、異質な、小綺麗さがあり、緑谷は通信を入れる。
「ジョン巡査、裏路地に怪しいパーカーの男が入って行きました」
『どう怪しい?』
「失礼な言い方ですけど……身なりが小綺麗でした」
『スリル求めて迷い込んだ若者か?……遺体で見つかったら敵わん、行ってくれるか?レックスは俺とパトロール継続、何かあったら緊急コール鳴らせ」
「分かりました」
ジョン巡査から、見にいってやって欲しいと言われて緑谷は路地裏に降りた。着地音も聞こえないように、ゆっくり降り立つ。
さらに奥へ向かうパーカーの人物を、緑谷は離れながら見失わないように追跡する。そして、彼のパーカーを見て気付いた。
『あれ……たしかあのパーカーは……限定品のオールマイトパーカー!?』
色合いとデザインは上空から見て気付かなかったが、その人物が着ていたパーカーは間違いない!数量限定応募者抽選でしか手に入らない。
『オールマイトパーカーver 21xx』!!
世界で1000着しかないメモリアルパーカーで、緑谷も抽選漏れして手に入らなかったオールマイトグッズの一つ!それを着ているとは……緑谷は余計に心配になった。
「身包み剥がされるぞ観光客が迷ったのか?」
そんな貴重品、剥かれて売り捌かれたりするのが関の山だと緑谷は、パーカーの人物に近づき声をかけようとした。
「ねえちょ━━」
だが、声をかけようと近づいた瞬間、状況は一気に変わった。
曲がり角から、これまた恰幅のいい黒人の男と、亀の異形の男が現れたのだ。どちらも紫色を基調とした、ヒップホップ系ファッションに身を包み、オールマイトパーカーの人物の前に立つ。
緑谷は即座に傍の壁に隠れて様子を伺った。
「……例の物は?」
オールマイトパーカーの人物はヒップホップ系ファッションの2人に尋ねる。
「bro、焦んなよ上物はしっかり持ってきてる」
「その前に、渡す物があるよな?bro」
2人に諭されたパーカーの人物は、ポケットから四角いビニールで固められた物体を渡した。それを亀の異形の方が受け取り、鋭い爪でビニールを破れば、バラバラと紙幣がビニールから出てきた。
まさか麻薬取引か?緑谷はそのまま現場を取り押さえる為に観察を続けた。
「OK、確かに……じゃあ━━」
亀の異形が上着のポケットに金をしまい込む。そして黒人の男が服に手を入れた。
「頼まれた物だ、受け取りな!!」
そして、抜き放った拳銃をオールマイトパーカーの人物に向けた!
「屈め!!」
緑谷は叫びながら飛び出して、右手を伸ばして、黒人の持つ拳銃を引き寄せ、銃口を逸らした。銃声が鳴り響き、突如乱入してきた相手に2人は怒りを露わにした。
「仲間が張ってやがったか!」
「Fu◯k!構わねえぶち殺せ!!」
亀の異形の男も銃を引っ張りだして、緑谷に向けた!構うな行けと走り出す緑谷だったが……。
「ガッ!?」
「ごぼぉお!!」
黒人と亀の異形の男は、突然勢いよく吹き飛んだのだった。2人は宙を舞い、どさりと落下する。凄まじい勢いで突き飛ばしたような、車に跳ねられた程の飛距離は吹き飛ばされた。
明らかに個性だった、それ以外言いようが無い。しかし何をしたんだと、緑谷はこのパーカーの人物が何をしたのか分からなかったが……。
「ジョン巡査、レックス、麻薬売買からのトラブルに発展、至急こちらに━━」
どう見ても麻薬売買からのトラブルとしか見えなかったので、即時連絡をインカムからした瞬間、パーカーの人物は振り返るや慌てて緑谷に近づいた。
「わー!待って待って!!僕ヒーロー!囮捜査してたんだよ、話を聞いて!!」
パーカーのフードを外して、その黒髪の優男は緑谷に待ったをかける。確かにヤクをやってそうには見えない好青年ではあるが……。
「いや、どう見ても麻薬売買で値段トラブルになったか罠に嵌められた敵対組織のヴィランか客にしか見えませんよ?とりあえず警官来ますから話はそちらで……」
だからって見た目で判断はできない、今見た現場が全てだ、弁明は後で聞くと緑谷は優男の手首を掴んで拘束しようとしたのだが……。
「ま、まだ終わってねぇぞ!クソッタレがぁ!!」
まだ意識は断っていなかったのか、余程頑丈だったのか、黒人男は立ち上がりギャング持ちの銃を緑谷と青年へ向けた!
「まずい!僕の後ろへ━━」
「離れて学生さん!」
参考人となる青年を怪我させてはならないと、前に出ようとした緑谷。
しかし、それよりも早く、青年は手のひらを黒人の売人へ向けた瞬間、緑谷は見た。
手のひらに生まれた円状の光、そして放たれた"何か"が、引き金を引くより早く、拳銃に衝突して、黒人の手は指があちこちに折れ曲がり、拳銃も破壊されてしまった。
「ぐぁああ!?」
「ああいけない!!とっさだからつい、大丈夫ですか!!」
緑谷は再び唖然とした。
自分よりも早く動き、反撃を封じたのだ、このオールマイトパーカーを羽織る優男は。しかも、銃を向け殺しにかかった相手にすら即座に大丈夫かと駆け寄ろうとしている。
「えっと、学生さん!すぐに救急車を、僕たちで表まで運ぼう、手伝ってくれる?」
「あ……はい」
呆けるしかできなかった緑谷は、言われるがままに彼の指示を受けて、亀の異形男の方を運ぶ事になった。
路地を出て、救急車にパトカーが数台瞬く間に集まって来た。発砲もあったから誰かが読んだのかもしれない、売人の2人は救急車に乗せられて警官も帯同するらしい。
「それじゃあ、あとはよろしくお願いします」
優男は警官にヘコヘコ頭を下げる一方で、緑谷は彼が本当にヒーローだったと、その姿とヒーロー免許を提示する姿を見てようやく信じる事ができた。
「囮捜査とはねぇ……てこたぁ"パンクス"だろうな、あのヒーローが探ってんのは」
ジョン巡査が、ヒーローの青年が他の警官に詳細を語る姿を見て、今この辺りで捜査となればと呟く。
「パンクスとは……」
「ギャングさ、アメリカ全土に蔓延ってるな?歴史が長くて超常前は別の二大組織で、プロヒーローが出来てから対抗するかの様に同盟して出来上がった巨大ギャング組織……紫色をベースのヒップホップ系ファッションで固めてるんだ」
ジョン巡査の話から、確かに今搬送された2人は紫色の服を着ていたなと緑谷は頷く。話が終わったらしい、ヒーローの青年はそのまま、緑谷達の前に歩いて来た。
「協力してもらって悪いね学生さん達、連絡もすべきだったよ、囮捜査している事も」
自分が囮捜査していた事を伝えておくべきだったと、頭を掻く青年。そうすればこんな面倒にはならなかったと語る彼に、ジョン巡査は笑いながら言った。
「度々騒がせるのは昔から変わらねぇな、ニューヨークからわざわざLAにまで来てるのは、余程の事件か?ザ・スカイクロウラー?」
「……えっ!?」
ジョンが青年の名前を、ヒーロー名を呼んだ瞬間に緑谷は驚いた。
まさかのまさかだった。目の前に居るこの優男が……アメリカを代表するヒーロー『ザ・スカイクロウラー』だと、ようやく気付いたのである!
「貴方が……ザ・スカイクロウラー……!」
驚き固まる緑谷に、ザ・スカイクロウラーは笑って言葉を返す。
「そういう君はイズク、話は色々聞いてるよ?まさかアメリカに留学していたとはね……ようこそアメリカへ」
ザ・スカイクロウラーは右手を差し出した。
緑谷はしばらく、硬直して動けなかったが、ゆっくりと右手をあげて恐る恐ると、彼の手を握り握手を交わした。
「お会いできて光栄です、ザ・スカイクロウラー」
「ちょ、ちょっと、そこまで畏まらないでよ、照れるな」
後に、レックスはこの時の緑谷の表情を。
『憧れのヒーローに握手してもらった5歳児そのもの』と、評するくらいに緑谷は"イーヴルヒーロー"としてではなく"ファンボーイ"になっていたと、表情が少年らしくなっていたと語った。