静寂に包まれた廃墟のビル群。
外から見た外観は、どれも変わらず、今は誰も使われていないのか、壁の所々に罅が入り、窓ガラスは割れ、吹き曝しの状態だ。
その廃墟の所々で声が聞こえるのはたむろする不良達のせいか、それとも浮浪者の類が寝床として利用しているかのいずれかだろう。
お世辞にも治安が良いとは言えないが、それは仕方のない事だ。
此処はキヴォトスの……連邦生徒会の管理下になく、治外法権のまかり通った闇市。違法な物品の取引や非合法な活動や犯罪が日常の、言うなればキヴォトスの裏側。法の外にいる者達の溜まり場、ブラックマーケットなのだから。
そんな無法地帯のビル群の一画。非合法な商品を取引する企業が所有する廃墟ビルの地下の一室。
薄暗くジメジメとした部屋の中、切れかけた豆電球のぼんやりとした灯りだけが唯一の光源となるその一室に閉じ込められた女性が2人。
1人は、連邦生徒会長が設立した連邦捜査部『シャーレ』の担当顧問。生徒の皆からは先生と呼ばれる年若い女性だ。
そしてもう1人。彼女もまた、このキヴォトスにおいて知らない人物はいないとされる、ゲヘナ学園最強の一角と称される人物。
風紀委員会に所属する風紀委員長、空崎 ヒナ。
知らないものはいないとされるネームドの持ち主である彼女達が、窓のない部屋の中に閉じ込められている。
先生と呼ばれる若い女性は、鎖のついた首輪で身動きが取れず、ヒナはその場に蹲って動く事すらままならない状況だ。
「っ……くぅ……あぁ……」
額から大量の汗を流しながら、ヒナは荒い呼吸を繰り返す。息をする度に走る下腹部の疼きと、じんじんと鈍い音を立てる頭痛が彼女の意識を苛む。
身に纏っているシャツや下着は、汗を吸った事でぐっしょりと濡れており、張り付いた服が彼女の身体を薄っすらと透けさせる。
透き通る白い肌は、ほんのりと赤らみ、濡れて張り付いた衣服はヒナのボディラインを浮かび上がらせる。
肉付きが良いとは言えない身体は、細いながらも柔らかそうな脂肪をうっすらと纏い、濡れたシャツ越しに透ける胸の形をはっきりと浮かび上がらせる。
「はぁ、はぁ……ん、くぅ……っ」
ヒナは身体を捩り、下腹部の疼きを誤魔化そうと試みる。しかし、その程度では和らぐ事もなく、むしろ、下腹部の疼きは段々と酷くなっていく。
「っ……はぁ……んっ、うぁ……」
ヒナの表情が苦悶に歪む。頬は仄かに赤らみ、荒い息を吐き出す唇はうっすらと濡れている。
首筋には赤い点が複数みられ、ヒナが身動ぎする度にちらちらと見え隠れする。
「っ……くぅ……」
ヒナの呼吸は浅く早い。下腹部の疼きを耐え忍ぶように、彼女は目を強く瞑って意識をそこへ向ける。しかし、意識をすればする程、下腹部の疼きは強くなっていった。
ヒナの名を叫ぶ先生の声が木霊する。しかし、その声に答える余裕がない。蹲ったまま、ゆっくりと指が、下腹部を撫でていき、その指がある一点で止まる。
「っ……あ、くぁ、あぁ……」
ヒナの唇が震え、声が震える。
ダメだ……先生の前でこんなこと……。
ヒナの理性が、必死に訴えかける。だが、ヒナの理性は下腹部から響く疼きによってドロドロに溶かされていく。
楽になりたい。この感覚に身を委ねたい……。
いや、この感覚を、この快楽を、先生と共有したい。
相反する2つの欲求がヒナの脳内でせめぎ合う。先生なら、この疼きをどうにかしてくれるかもしれない……。
淡い期待がヒナの中で沸き上がり、それに合わせるように、彼女の手がゆっくりと下腹部の更に下、誰も触れた事もない、禁断の園を、指先で軽く触れさせた。
瞬間。ヒナの身体に、電流が駆け巡る。その衝撃に目を見開き、身体を弓なりに仰け反らせた。
今までとは比べ物にならない程の快楽の波。それは、ヒナが今まで感じた事のないものだった。
気持ちいい。指先で触れただけで、こんなにも気持ちいいなんて……。
ヒナの思考が快楽に蕩けていく。思考は一瞬で吹き飛び、残るのはただ、疼きに身を任せたいという欲求だけになる。
ヒナの指がゆっくりと動かされる。くちゅり、くちゅりと水音を立てつつ、ヒナの指先が秘密の園をゆっくりとなぞる。
その度に、ヒナの身体に甘い痺れが走り、彼女の口から熱い吐息が漏れる。
もっと、この疼きを鎮めたい。その欲求に突き動かされるように、ヒナは指先を秘密の園の中へと押し込み、ゆっくりと指を沈み込ませた。
まるで別の生き物のようにうねる肉壁が、ヒナの指を締め付ける。そしてそれはまた同時に、彼女の身体に未知の快楽を流し込んだ。
指を少し動かすだけで、ヒナの口から甘い声が漏れる。その声が更に彼女の興奮を高めていく。
指の動きが少しずつ激しくなる。その度にヒナの身体に快楽が流れ込み、思考はドロドロに溶かされていく。
もっと気持ちよくなりたい。この疼きを沈めたい。その欲求に突き動かされ、更に奥へと指を沈めようとしたその時。
「ヒナっ!!」
先生の悲痛な声が、漸くヒナの耳に届いた。
「せん……せい……?」
ヒナは蕩けた瞳で先生を見つめる。その表情にいつものクールさはなく、快楽に溺れた雌の表情だった。
自分は一体何を?
ヒナは自らの指で快楽を貪ろうとした事に気付き、顔を真っ赤に染め上げた。しかし、それが逆に彼女の羞恥心を掻き立ててしまう結果となり、それは下腹部の疼きとなって襲いかかる。
「っ……あぁ」
思わず漏れ出る艶っぽい声。それに相反して、先生に見られているという羞恥心がヒナに襲いかかる。だが、それを意識すればする程、下腹部の疼きは強くなっていく一方だった。
「先生……みっ……見ないで……見ない……れ……」
先生の目を見つめたまま、ヒナはそう訴える。だらしなく舌を垂らし、唾液が床を濡らしてゆく。
指の動きが止まらない。快楽を求め、ヒナの指が激しく動く。その刺激が、ヒナに未知の快楽を流し込む。背筋を走る甘い痺れは、次第に強くなっていき、やがて全身に広がっていく。
それはまるで、身体中を愛撫されているかのような感覚だった。もっと欲しい。もっと気持ちよくなりたい。その欲求は、最早ヒナ自身にも制御出来るものではなくなっていた。
ヒナの頭が真っ白になる。それは快楽によるものか、それとも精神的なものか。ヒナの身体から力が抜けていく。そして……
「あ……あぁ……」
どろりとした熱い蜜がヒナの秘裂から溢れ出し、下着を汚していく。その熱はヒナの身体を巡り、そして下腹部へと集まっていく。
自分が自分でなくなってゆく感覚に、ヒナは恐怖を抱いた。このまま快楽に呑まれてしまったら、自分は一体どうなってしまうのか?
その恐怖すら、今のヒナには快楽を高めるスパイスとなってしまい、彼女の思考を更に犯していく。
指の動きが激しくなる。下着越しに感じる秘裂は、その指先にしゃぶりつくように蠢き、ヒナの口からはだらしなく涎が垂れ落ちていった。
ぼやけた視界の中、先生が必死に何かをしている。首輪の鎖で繋がれた先生が、ヒナに向かって叫んでいる。
無理矢理鎖を千切ろうと、首や指先を血に染めて、それでも尚ヒナの名前を叫び続ける。
ごめんなさい、先生……。私は……もう……。
「イっ……あぁ……」
ぷしっと言う音と共に、ヒナは秘裂から潮を吹き出しつつ絶頂に達した。思考が真っ白に染まり、視界がチカチカと明滅する。
「あ……あぁ……」
ヒナの身体が小刻みに痙攣する。秘裂から流れ出た愛液が、彼女の下着をぐっしょりと濡らしていく。
先生が何かを叫んでいる。だが、ヒナにはもう何も聞こえなかった。
強烈な眠気がヒナを襲う。ヒナの意識はゆっくりと闇の中へ落ちていった。
ーゲヘナ学園 風紀委員会所属 調査記録よりー
ヒナ委員長とシャーレの先生がブラックマーケットで消息を絶ってから26時間後、2人を無事に救出。病院に搬送した。
ヒナ委員長は薬の過剰摂取と重度の脱水症状により、現在も意識不明の重体である。
また、先生は無理矢理拘束を解こうと首や手を負傷。命に別状はなかったものの、検査という名目で入院する事となった。
今回の事件は、空崎 ヒナに個人的な恨みを持つ者の犯行か、それとも別の要因かは定かではないが、シャーレの先生を誘拐・人質にする事でヒナ委員長を無力化させた事から計画的な犯行と見て間違いない。
空崎 ヒナ及びシャーレの先生が監禁された施設は、外見こそ廃墟となったビルであったが、地下には最新の設備とセキュリティが施されており、連邦生徒会ですらも存在を把握していなかった。
その為、今後も同様の犯行が起きる可能性が、十分高いと思われる。
尚、空崎 ヒナが摂取した薬は、キヴォトスでは違法とされる依存性の高い媚薬であると判明。
現場を調査した風紀委員より、使用済みの針無し注射器とアンプルが5つ。そして、未使用の液体が詰まったアンプルが1つ発見された。
本来なら10倍に希釈して使用しなければならないものを、原液のまま使用された事が判明し、ヒナ委員長がキヴォトス中に生配信された映像のように、快楽に身を委ねる姿が記録されたのはそれが原因だろう。
何故、ヒナ委員長だけが薬を過剰に投与され、シャーレの先生が無事だったのかは定かではない。
此処から先は仮定の内容となる為、事実とは異なる場合も考えられる。
犯人グループに先生を人質に取られたヒナ委員長が、犯人達の言いなりとなり、薬を投与された。
彼女の事だ。恐らく、5つの針無し注射器は、本来、先生とヒナ委員長の両名に使用する予定だった可能性がある。
しかし、違法薬物である事と、副作用の有無を、犯人から聞かされていた場合、ヒナ委員長は先生の為に、その薬物を自分だけに投与したと考えられる。
如何にゲヘナ最強の一角を担う彼女だからとて、身体的にも精神的にも、多感な時期の彼女に薬物が齎す快楽は苛烈を極めただろう。
その結果、ヒナ委員長の精神状態が破綻しながらも、彼女は快感を抑え込む為に、己を慰める事で先生に危害を加える事なく耐え抜いた事は称賛に価する。
しかし、彼女の努力も、配信を見た生徒達からすれば、異なる反応となる。
今回の一件以来、ゲヘナは混乱を極めている。ヒナ委員長なき風紀委員会など恐るるに足らず。
ゲヘナの自治区では、不良や問題行動を起こす生徒達による事件が後を絶たない。
現在、風紀委員会と共に万魔殿の親衛隊による共同での治安維持活動が行われているが、その成果も芳しくない。
ネット上ではヒナ委員長を誹謗中傷する者が後を絶たず、ヒナ委員長の風紀委員会の退部を求める声すら上がっている。
今後、ヒナ委員長を欠いた風紀委員会は瓦解する可能性が高い。
それまでに、此度の犯人を特定し、捕まえる事が急務である為、ゲヘナ学園及び連邦捜査部『シャーレ』による調査は続いている……。
ー調査記録 終了ー
・とあるモブ風紀委員の話
事件後、ヒナ委員長は部屋から外に出ようとせず、ずっと引き込もったまま、1日の大半をベッドの上で過ごすようになった。
依存性の高い薬を摂取した事により、身体は内外共にボロボロとなり、銃を持つどころか、日常生活ですら満足に送れなくなっていた。
その為、交代制でヒナ委員長の世話係として、風紀委員会のメンバーである私達が、彼女の部屋に通っていた。
食事や着替え、入浴やトイレ、そして、発作が起きた時の対処も、私達は任されるようになった。
ヒナ委員長の発作に対処したのも、私が初めてだ。媚薬に侵された身体を優しく抱き締め、ヒナ委員長の苦しみを少しでも和らげようとした。
快楽を抑えるには、快楽を与える他ない。ヒナ委員長の秘部に指を這わせれば、指先を包み込む肉は熱く、まるで別の生き物のようにうねっていた。
その熱さに戸惑いつつも、ゆっくりと指を動かしていく。既に濡れそぼった秘裂からは、くちゅくちゅと水音が聞こえ、ヒナ委員長の口から甘い吐息が漏れ出る。
「っ……あぁ……」
「ヒナ委員長。大丈夫ですよ。そのまま、私に身を任せて下さい」
私の言葉に、ヒナ委員長は腰を震わせながら身を預ける。秘裂から溢れ出す愛液は量を増していき、やがてそれは潮となって噴き出した。
「あっ……あぁ……」
絶頂に達したヒナ委員長は、ぐったりと脱力し、その身体を抱き止める。漏れ出る吐息は甘く、じわりと滲んだ汗で部屋にメスの香りを充満させていく。
その香りに触発されたのか、それともヒナ委員長の色香に当てられたのか、私は誘われるように彼女の唇を奪った。
柔らかい感触に思考が蕩ける。舌を伸ばし、ヒナ委員長の口内へと侵入する。歯列をなぞり、上顎を舐め上げる。
ヒナ委員長の舌が、私の舌に絡みつく。互いの唾液を交換し合い、飲み込み切れずに口の端から垂れ落ちていく。
息継ぎの為に離れると、銀色の橋が架かり、そして途切れる。ヒナ委員長は熱っぽい瞳で私を見つめていた。
その瞳に吸い寄せられるように、再び唇を重ねる。普段の彼女からは考えられない程に弱々しい姿。
かつて、ゲヘナの不良生徒達を震え上がらせた面影はそこになく、ただ、快楽を求めるメスの姿がそこにあった。
幾度目かの絶頂を迎え、漸く発作が治まる。火照った身体を濡れたタオルで拭き上げ、身綺麗にし、新品のパジャマに袖を通させる。
「先生……ごめんなさい」
発作が治まり、冷静になったヒナ委員長は、そう呟いて俯きながら涙を流した。その姿に胸が締め付けられる思いだった。
ヒナ委員長は私ではなく、先生を見ている。先生に抱かれ、慰められたと錯覚している。
その事を悲しく思いながらも、今の彼女にはそれが必要なんだとも思っていた。
私だけではない、イオリさんも、チナツさんも、アコ行政官もまた、ヒナ委員長の発作に対応し、同じようにその身体を慰めた。
先生の代わりとして。
しかし、ヒナ委員長の発作は治まらず、寧ろ日に日に悪化しているようにすら感じた。
「大丈夫ですよ、ヒナ委員長」
それでも、私はそう声を掛けながらヒナ委員長の頭を撫で続ける。例えかつてのヒナ委員長でなくとも、私にとっては大事な存在なのだから。
「先生……」
そう呟くヒナ委員長の目には、私ではなく、先生が映っている。それが悔しくて、そして……。
待ち合わせのカフェに早く到着した私は、携帯の画面を眺めながら先生を待っていた。
いつもの風紀委員としての制服ではなく、私服姿で先生を待つ。あの事件依頼、風紀委員会の風当たりが強い為、下手にあの制服で先生と接触したら、またあらぬ噂が広がってしまう。それを防ぐ為の予防のようなものだ。
ゲヘナの自治区は、今日も騒がしい。いや、何時も以上に騒がしいと言えるだろう。
これも、ヒナ委員長が不在というのが大きい。不良生徒達は大手を振って歩き、一般市民の皆は、不安そうな面持ちで道を歩いている。
まぁ、此処最近でいう所の、何時もの光景というわけだ。
間ち合わせ時間の数分前、携帯から目を離すと、遠くから見覚えのある人物が此方に近付いてくる。
先生だ。
普段と変わらずの格好で、待ち合わせ場所のカフェへと近付いてくる。
私はスッと手を振って先生に合図を送る。先生はそれに気付いてか、私の方へと歩み寄ってきた。
「先生、こっちです」
「ごめん。少し遅れたかな」
「いいえ、時間通りです。私が早めに来てしまったので。先生も何か飲まれますか? 此処の珈琲は中々美味しいですよ」
私がメニュー表を渡しながら先生を促すと、先生は苦笑しながら受け取ってくれた。
それから暫くして、私と先生は珈琲を飲みながら、事件のその後と、ヒナ委員長の現状を説明した。
犯人は未だ見つからず、その足取りは掴めていない。
ブラックマーケットに潜んでいる事は確実だろうが、あそこは他の自治区と同様に広大な土地を有している上、法律が適用されない無法地帯のようなものだ。
下手に深入りすれば、ミイラ取りがミイラになりかねない。
その為、捜査には慎重に慎重を喫する必要があった。
シャーレも同様の結果らしく、犯人達の目星も付けられていない状況だ。
そして、ヒナ委員長の話になる。
先生はどこか悲しそうな表情を浮かべながら話を続けた。
「ヒナの事だけど……その……」
「はい。あれから変化はありません。発作が起きれば私達が対処していますが、それでも焼け石に水で……」
「そっか……。ごめんね。私が不甲斐ないばかりに……」
先生はそう言って、申し訳なさそうに頭を下げた。
私は慌てて先生を制止する。先生に落ち度はないのだから。
「頭を上げてください。先生が悪い訳ではありませんから」
そう、先生は悪くない。だから、先生が謝る必要はないのだ。寧ろ、私の方が謝らなければならない。そんな気持ちで一杯だった。
「では、先生。今日はこれから……」
「うん、ヒナのお見舞いに行きたいんだけど、良いかな?」
先生は真剣な眼差しで私を見つめる。その視線に射抜かれるように、私は先生の目を見つめ返した。
「はい。勿論です。微力ながら、護衛として、先生のお供をさせて頂きます」
私も先生に真剣に応える為に、はっきりと口にする。
「ありがとう。宜しくね」
先生は微笑みながらそう返してくれた。私はその笑顔を見て、思わず笑い返してしまった。
ヒナ委員長の家の前に到着した私と先生は、周囲に人の気配がないか確認して、合鍵を使って中へと入る。
以前、報復の為にとヒナ委員長の家を襲撃した不良生徒達がいた。その時は、私達風紀委員が近くにいたお陰で事なきを得た。
しかし、同じ事を考える輩は数多くいる。家に入るにしても、細心の注意を払わなければならない。
「お邪魔します」
先生がそう挨拶して、家の中へと入る。私もそれに続いて中へと入り、ドアを閉める前にもう一度周囲を確認してから施錠する。
家の中は、私達が清潔に整えている為、埃っぽいという事はない。
それでも、生活感のない部屋が、余計に寂しさを感じさせる。
先生は真っ直ぐに寝室へと向かった。私もその後に続く。
「ヒナ」
先生が声を掛けると、ベッドに横になっていたヒナ委員長は視線を向けてきた。
「……先生?」
「うん、久し振り。ヒナ。身体は大丈夫?」
先生はそう言ってヒナ委員長の頭を撫でた。その優しい手に、ヒナ委員長は嬉しそうに微笑む。
そんな2人の遣り取りを、私は黙って見ていた。そして……。
(羨ましいな)
ふとそんな感情が芽生える。私もあんな風にヒナ委員長と接する事が出来たら……。
そんな雑念を、首を振って払うと、部屋の時計に目をやった。
時間は正午を少し過ぎた頃。ちょうど良い。食事の用意をしよう。
「先生、私は食事を作ってきますので、ヒナ委員長の側にいてあげて下さい」
「うん、分かった。ありがとう」
先生はそう言って微笑む。私も微笑み返すと、キッチンへと向かった。
食事といっても、消化に良いお粥である。何度も利用したキッチンの前で、材料を取り出し、ネットのレシピを確認しながら調理を始める。
特に難しいレシピという訳ではないが、今日は先生が来ているのだ。少し奮発しよう。
何時もより具材が多く入ったお粥をお盆に乗せて、寝室へと向かう。先生はヒナ委員長と何やら話し込んでいる様子だったので、ノックをしてから入室する事にした。
「先生、食事の用意が出来ました」
「ありがとう。ヒナ、お腹が空いたでしょ? ご飯を食べよっか」
先生はそう言って私から受け取ったお粥をレンゲで掬い取り、息を吹きかけて冷ますと、ヒナ委員長の口元へ持っていく。
ヒナ委員長は素直にそれを口に含むと、モグモグと食べ始めた。
その様子を見て、先生は満足そうに微笑む。
「美味しい?」
「……うん」
ヒナ委員長の返事に先生は更に笑顔になり、再びレンゲでお粥を掬ってヒナ委員長の口に運ぶ。
2人の様子を、私は扉の前で黙って見ていた。傍から見れば、恋人同士のやり取りにも見えるそれは、実際その通りなのかもしれない。
ヒナ委員長も、先生を想っている事は間違いない。しかし、2人の関係に明確な名前はない。それがとても歯痒く感じる時がある。
それでも、先生はヒナ委員長の想いに応えてくれている。それが何よりも嬉しかった。
この光景を見る事が出来ただけでも、十分に満足のいくものだった。
ヒナ委員長がお粥を全て食べ終えた後、2人は再び会話を始めた。私は食器を片付けながら、2人の会話に耳を傾ける。
やはり、先生と一緒にいる時の方が、ヒナ委員長も心なしか明るい印象を受ける。その様子に安堵しつつ、私は再び時計に目をやった。
次の瞬間、寝室の様子が一変し、ヒナ委員長に発作が起きたのだと理解した。
ヒナ委員長は苦悶の表情を浮かべながらベットの上で蹲っている。
「ヒナっ!」
先生が慌ててヒナ委員長に駆け寄り、その身体を支える。私は予め用意していたお薬を手に持ち、先生へそれを渡した。
先生はそれを受け取ると、素早く水と共に口へ含み、そのまま躊躇う事なくヒナ委員長の唇へと重ねた。
「ん……ちゅっ……」
ヒナ委員長の喉が鳴り、薬を飲み込んだ事を確認する。先生はそのまま唇を離すと、再びお薬を口に含み、再度ヒナ委員長へと口移しで飲ませる。
判断が早い。私はそう感じた。
あの様子のヒナ委員長では、自分で薬を飲む事は出来なかっただろう。
それを先生は瞬時に判断し、即座に行動を起こした。
(やっぱり凄いな。先生は)
先生の行動力と判断力。それを間近で見て、私は改めて先生の凄さを思い知らされた。
あのゲヘナの風紀委員長が陥落したのも頷けるというものだ。
暫くして、薬の効果で落ち着きを取り戻したのか、ヒナ委員長は高揚して頬を紅く染めていた。
発作そのものは治った。しかし、発情したその身体は、治まった発作の代わりに、新たな熱を宿していた。
「先生……」
ヒナ委員長は切なげに先生の名を呼びながら、潤んだ瞳で見つめる。
私は、そっと扉を開き、部屋の外に出ると、先生に一言告げた。
「先生……お願いします」
私の言葉に、先生は静かに頷いた。
先生の反応に、私は満足気に微笑むと、静かに扉を閉めた。
そのまま家の外に出て鍵を締め、目を閉じ、2人の睦事を想像してしまう。
(ヒナ委員長……)
私の頭の中は、それでいっぱいになっていた。
今頃2人は……。
そう思いながら、私は周囲に目を配らせ、誰もいない事を確認した後、ポケットから容量の減ったアンプルを取り出した。
2人が監禁された施設で発見した、未使用のアンプル。あの時、未使用で発見されたアンプルは2つあったのだ。
その内の1つを懐に忍ばせ、こっそりと持ち出した。
そして、ヒナを介護する名目で、アンプル内の液体を希釈したものを食事や飲み物に混ぜ、意図的に発作を起こさせていたのだ。その度に私は、ヒナ委員長の発作を鎮める名目で肉体関係を待ち、彼女の身体を堪能した。
罪悪感はある。しかし、同時にそれを上回る高揚感と背徳感が、私の心を満たしてもいた。
私にとって、空崎 ヒナは高嶺の花だった。手の届かない存在だった。
憧れていた。その強さに憧れていた。彼女は私の理想であり、羨望の対象だった。
そんな彼女を、私は辱めたのだ。仄かに火照った体温。華奢な身体を抱き寄せた時のあの感触。そして、彼女の甘い吐息。思い出すだけで、身体が熱くなるのを感じた。
ヒナ委員長には悪いと思う。それでも、私はこの衝動を抑える事は出来なかった。彼女の痴態を目の当たりにして、私の理性は崩壊したのだ。
今はもう、ヒナ委員長に対する憧れや羨望はない。あるのは純粋な好意と劣情だけ。
監禁されたヒナ委員長とシャーレの先生を映した生配信。
配信のタイトルに、媚薬を投与されたヒナ委員長が、先生を襲わずにいられるかという煽り文句が書かれていた。
コメントにも、先生を襲う襲わない、という疑問や煽りのコメントが乱雑し、中には、先生を襲わないようにと自慰に耽るヒナ委員長を嘲笑うコメントや罵倒のコメントもあった。
しかし、そんな悪意あるコメントが飛び交う中、ヒナ委員長は先生を襲わずにいられたのだ。その事に私は感動し、そして、強い劣情を抱いた。
配信先のヒナ委員長は、最後の最後まで抗った。しかし、その配信を見ていた私は、ヒナ委員長の乱れた姿に興奮し、自らの手で慰めていたのだ。
ヒナ委員長の痴態を思い出す度、私の心は激しく欲情した。今もそうだ。彼女の事を思うと胸が締め付けられると同時に、身体の奥が熱くなる感覚に襲われるのだ。
「ヒナ委員長……」
私は呟く。あの配信で、ヒナ委員長が先生を襲わなかったのは奇跡だった。しかし、私は考えたのだ。
あの時、先生は鎖に拘束され、動けずにいた。犯人とヒナ委員長との間で、どのような遣り取りがあったのか、それは定かではないが、あの状況の彼女に対し、先生が何もしない筈がない。
そう、鎖に繋がれていなければ……。
だから私は考えた。先生に助けを求めるフリをして、薬を盛ったヒナ委員長を前にして、どう反応するのだろうかと。
案の定、先生はヒナ委員長を助ける為に動いた。お粥に混ぜた薬で無理矢理発情させ、潤んだ瞳で懇願された先生は、今頃ヒナ委員長と……生徒と先生の関係から爛れた関係に堕ちている事だろう。
想像するだけで、私は下腹部が熱くなるのを感じる。此処が外でなかったら、今頃は下着をおろし、2人の事を考えながら自慰に耽っていたに違いない。
今は我慢だ。我慢して我慢して、そして最後の楽しみはとっておかないと。
今の私は、酷く下卑た笑みを浮かべている事だろう。私は先生を慕ってはいる。でも、それ以上にヒナ委員長の事が好きだ。
私の理想であり羨望の対象であった彼女は、今やもういない。そこに居るのは、ただの発情期を迎えた牝犬だ。
でもそれで良い。手が届かないなら、手が届く所にまで堕とせば良い。
高嶺の花も、穢れてしまえばただの花だ。私は、そんな穢れた花を愛でる。
それが私の歪んだ愛の形だ。
ヒナ委員長……もっと堕ちて下さい。堕落し、溺れて下さい。そんな貴女を、私が愛してあげますから。
「ふふ……ふふふ……」
私は思わず笑みを漏らす。私の歪んだ愛情表現。独占はしない。
私は知っているのだ。ヒナ委員長と関係を持った風紀委員会のメンバーの誰しもが、その禁忌に触れ、背徳感に酔いしれ、そして、ヒナ委員長を自分のものにした。その優越感と支配感で満たされている事を。
アコ行政官は、その背徳感に嫌悪しつつも、それを味わう事に躊躇しつつも、結局その味をしめた。
チナツさんも、一度味わった甘露な蜜の味が忘れられず、イオリさんも等しく同様に、背徳的な行為に悦楽を覚えてしまっていた。
彼女達だけじゃない。ヒナ委員長と関係を持った風紀委員会のメンバーは皆、その禁忌に堕ちた者達だ。そして、私も例外ではない。
だからこそ分かるのだ。彼女達の心境が。
そうこうしている内に、時間は過ぎ去り、日が暮れ始めた頃、家の扉が開き、先生が家の中から出て来た。
「先生、お疲れ様でした。そして、ありがとうございます」
ヒナ委員長の発作を鎮めてくれた事に対する感謝。きっとそう捉えてくれたのだろう。先生は己の犯した行為に嫌悪しつつも、私の感謝の気持ちを素直に受け取ってくれた。
「ううん。私は、大した事はしていないよ」
先生はそう謙遜するが、少し離れていても分かるくらいに、先生からはヒナ委員長のメスの香りが漂っていた。
先生から発せられる、濃厚で芳しい香りを鼻腔に捉えながら、私は先生に微笑みながら伝えた。
「いいえ、先生は凄いですよ」
「そう、かな?」
先生は私の賛辞を受けとめながらも、まだ納得できていないといった様子だった。
無理もない。生徒と一線を超えた事を、他の生徒から称賛され、それを素直に受け取れる人間なんてそうはいない。
きっと先生も、事に及んだ後の罪悪感と嫌悪感に苛まれているのだろう。
だから、深くは追求せず、少しずつ、自分の罪を受け入れるように誘導していけば良い。私はそう考え、話題を変えた。
「それでは先生。そろそろ帰りましょうか。今のゲヘナはとても不安定な状況です。途中まで護衛をさせて下さい」
「うん。ありがとう」
先生はそう言って、私の申し出を受け入れてくれた。私は先生に寄り添いながら歩き始める。
この後の予定や、他愛のない会話をしながら歩き続け、そして……。
「先生。今日は本当にありがとうございました。その……宜しければまた、ヒナ委員長のお見舞いに来て頂けますか?」
「うん、勿論だよ」
先生はそう即答してくれた。それが何よりも嬉しかった。私は先生に頭を下げながらお礼を言う。
「ありがとうございます。それでは、私はこれで……その……ヒナ委員長の部屋の片付けとかありますので」
片付けの意味を直ぐに理解したのか、先生はボッと顔を真っ赤にしながら、目を泳がせた。
「う……うん。その、ごめんね。ありがとう」
「はい。先生もお疲れ様でした」
そして、先生と別れた後、踵を返してヒナ委員長の家へと戻る。
何時ものように周囲に人気がないか確認して、合鍵で家の中に入る。そして、真っ直ぐに寝室へと向かった。
寝室の扉を開けると、ベットで寝息を立てるヒナ委員長の姿があった。
穏やかな表情で、安らかに眠っている。その寝顔はとても愛らしくそして官能的だった。
乱れた衣服。汗でしっとりと濡れた髪が肌に張り付き、子供の体躯でありながらも、女性的な曲線を描く身体。その全てが、私の劣情を駆り立てる。
「ヒナ委員長……沢山愛して貰ったみたいですね……」
私はそう呟くと、ヒナ委員長の頭上にヘイローが浮かんでいないのを確認し、そっと眠るヒナ委員長の頬を両手で包み込んだ。
そして、そのまま優しく口付けをする。
「ん……ちゅ……」
小さなリップ音を立てて唇同士が離れると、私は小さく笑みを浮かべる。
これ以上の刺激は起こしてしまう可能性がある。折角、穏やかに寝ているのだ。その間に部屋の換気と掃除だけでも済ませよう。私はそう考え、窓を開けて換気をする。そして、部屋の掃除を始めた。
ベット以外、殆ど使われる事のなくなった部屋のせいか、片付けるものといえば床に散乱した細かなゴミくらいだ。それらを拾い集め、ゴミ箱に捨てていく。
机の上も整理したいが、ヒナ委員長の私物が多い為、勝手に処分する事は出来ない。
特に先生からの贈り物である『世界で最も無駄な絡繰りボックス』は、余程大事にしている事が窺えるので、処分する訳にもいかないだろう。
こっそり隠して、見つからなかった時の反応も見てみたいという気持ちもあるが、それはまたの機会に取っておこう。
片付けを粗方終えた後、最後の仕上げに、ポケットからアンプルを取り出し、中の液体を、ヒナが口にするであろう食器に数滴垂らしておく。これで良い。
後は、次の当番が食事を用意した時、それを口にしたヒナ委員長が発作を起こし、その対処を任せる事が出来る。
同じ罪を背負った共犯者の出来上がりというわけだ。
とはいえ、アンプルの液体も、心許なくなってきた。ブラックマーケットに行けば、入手する事ができるかもしれないが、それは時期尚早だろう。
「ふぅ……これで大丈夫ですね」
私はそう呟き、片付けを済ませる。ふと時計を見てみると、既に時間は夜遅くになっていた。今日は此処までだ。
ヒナ委員長の部屋に戻ると、微睡ながらも、ヒナ委員長は起きていた。
私は微笑みながら、ヒナ委員長に声をかける。
「おはようございます、ヒナ委員長」
「うん……おはよ……」
まだ寝ぼけているのだろうか。舌足らずな口調で挨拶を返すと、ゆっくりと身体を起こす。
「少し汗をかいているようですので、身体を拭いて着替えましょうか?」
「うん……」
ヒナ委員長は小さく頷き、ベットに腰掛けた。私は棚の上に置いてあるタオルを手に取り、お湯と桶を用意すると、それをベットのすぐ側に置く。
「では、服を脱がせますね」
「うん……おねがい……」
私はヒナ委員長の服に手をかける。ボタンを外し、そのまま上半身を裸にさせ、下半身にも手をかけた。
下着姿のヒナ委員長の身体を、お湯に浸したタオルで拭いていく。
ヒナ委員長はされるがまま、私に身を委ねていた。その無防備な姿に、劣情を抱くも、今はその時ではない。
拭い終えた後、私は用意していた下着をヒナ委員長に履かせた。その間もヒナ委員長は無抵抗だった。
最後に上着を着せると、ヒナ委員長の着替えは完了した。
その後、新しい布団を敷き直し、ヒナ委員長をそこに寝かせる。
「それでは、おやすみなさい、ヒナ委員長」
そう言って、退室しようとした私を、ヒナ委員長が呼び止めた。
「〇〇」
私の名前だ。沢山いる風紀委員の中の1人だというのに、覚えていてくれたのか。
「はい、なんでしょうか?」
「……いつもありがとう」
ヒナ委員長から礼を言われ、私は胸が熱くなるのを感じた。込み上げる感情を抑えつつ、平静を装いながら言葉を返す。
「いえ、これが私の務めですから」
それだけ言い残すと、私はそそくさと部屋を出た。扉を閉めた後、玄関に向かうまでに、先程のヒナ委員長の言葉を頭の中で反復する。
心臓が激しく鼓動する。顔が熱い。身体が火照る。息が荒くなるのを感じる。
「はぁ……はぁ……」
私は玄関の扉に寄りかかり、そのまま床に座り込んだ。そして、自分の股に手を伸ばす。
「ん……」
下着越しに触れたそこは既に湿っていた。軽く指を這わせるとクチュリと水音が鼓膜を震わせた。
「はは……ヒナ委員長。そんな、不意打ちはなしですよ」
自嘲気味に笑いながら、指先についた体液を拭き取り、私はゆっくりと立ち上がった。
「ふぅ……」
深呼吸を繰り返し、昂ぶる精神を落ち着かせる。大丈夫。問題ない。今はまだ、その時ではない。
私はこれからも、ヒナ委員長に尽くし続ける。そして、それらの行為そのものがヒナ委員長の信頼を裏切るものであり、劣情を催すものであると理解しながら、私はヒナ委員長を愛でるのだ。
私の本心を知った時、ヒナ委員長はどんな反応を示すのだろう?
裏切られ、恐怖と絶望に歪むヒナ委員長が、私ごときに組み伏せられ、蹂躙され、凌辱された時、ヒナ委員長はどんな声をあげるのだろう?
想像する事さえ罰当たりな程の禁忌を脳裏に浮かべながら、私はそう考える。
それは、きっと甘美な声を奏でるのだろう。その声を想像するだけで、ゾクリと背筋が震えた。
あぁ、楽しみで仕方ない。早くその時が訪れないだろうか?
そんな願望を胸に秘めながら、私は先生やヒナ委員長の信頼する風紀委員として、明日もまた普段通りの日常を送るのだ。
感想など頂けたら幸いです。