いつかこの日が来るとは思っていた。
当然だ。ヒナ委員長をあんな身体にした犯人を、先生が許す筈がない。
私達風紀委員会の情報収集能力をもってしても、有力な情報を得る事が出来なかったにも関わらず、あの人は犯人を特定し、その居場所まで突き止めたのだ。
そこからが早かった。
行政官の指揮の元、風紀委員会のメンバー総動員で、犯人の確保に動いた。
ヒナ委員長の仇と言わんばかりに、風紀委員達は次々と犯人の一味を捕縛していき、そして遂には、今回の事件の首謀者の下まで辿り着く事が出来たのだ。
首謀者からすれば、此処まで早くに、自分達の存在まで特定されるとは思ってもいなかったのだろう。
抵抗らしい抵抗すら出来ず、首謀者は逮捕された。
そして……。
首謀者の逮捕後、私はヒナ委員長の元へと訪れた。
これが最後の機会だ。
私は、ポケットの中に仕舞い込んでいたアンプルを取り出し、中身を確認する。
半分以上減ったその中身。それだけの量を、ヒナ委員長の食事に盛り、持続的に身体を蝕ませ続けてきた。
薬の摂取量が減れば、当然ながら身体の依存性も薄れていき、いずれはヒナ委員長を元に戻る。
私の手の届かない、高嶺の花へと返り咲く。
私の一時の夢は終わり、ヒナ委員長はこの悪夢から目を覚ますのだ。
部屋に入室すると、穏やかな表情で寝息を立てるヒナ委員長の姿。
「ヒナ委員長」
そう呼びかけるも、返事はない。私はそのまま彼女の方へと歩み寄ると、ゆっくりとベットの上で眠っている彼女の胸に手を当てた。
寝息と共に、上下している胸。その鼓動を感じながら、私は静かに語り掛ける。
「もう終わりです。ヒナ委員長。一時の夢、ありがとうございました」
そう告げると、ヒナ委員長の目がゆっくりと開かれた。まだ覚醒しきっていないのか、その瞳は虚ろで、トロンとしている。
「……先生?」
そんな声色で呟く彼女に微笑みかけながら、私はゆっくりと彼女の口に指を添え、優しく口を塞ぐ。
突然の事に驚いた様子のヒナ委員長だったが、直ぐに状況を理解したのか、もぞもぞと布団から手を出し、私の指に自身の指を絡めてきた。
それを見届けた後、私はヒナ委員長の口から指を離し、代わりに自らの唇を重ねる。
啄むように何度も繰り返しつつ、徐々に舌を差し込むと、ヒナ委員長もそれに応えるように絡めてくる。
静かな室内に水音だけが響き渡る中、私はヒナ委員長から唇を離し、彼女を見下ろした。
トロンとした瞳のまま、ヒナ委員長は私の目を見つめ返して来る。そんな彼女に対し、私は優しく語りかけた。
「ヒナ委員長。もういいんです。貴女はもう、この悪夢から目が覚める時が来たのですから」
そう、これは悪夢だ。情事の最中に私達の事を先生と誤認していたヒナ委員長は、今では先生以外の人物を視認出来ないでいる。
最後に私を認識したのも、あの時、私に『いつもありがとう』と労いの言葉を送ってくれた時までだった。
それから先、ヒナ委員長は行政官も他の風紀委員会の皆にも、同様の反応を示し、皆が皆、ついに壊れてしまったのだと、そう思い込んでいる。
そして今、目の前にいる私の事も先生だと思っているのだろう。そんなヒナ委員長に優しく微笑みかけながら、私は続けた。
「私は先生ではありません。ヒナ委員長が私の事を先生だと誤認している事を良い事に、貴女の事を散々辱めた愚か者ですよ。いい加減、目を覚まして下さい」
そう言いながら頭を撫でると、ヒナ委員長は不思議そうな表情を浮かべた後、ゆっくりと私に抱きついてきた。
「ヒナ委員長?」
突然の事に驚きつつも、私は優しくその背中をさすりながら聞き返すと、ヒナ委員長は小さく口を開く。
「……どこにも行かないで」
そんな消え入りそうな声で囁く彼女に対し、私はそっと抱き締め返した。
「言う相手を間違えていますよ。私は先生ではありません」
私の言葉に対し、ヒナ委員長は小さく首を振ると、更に強くしがみついてくる。
「……貴方の事が好きなの」
突然の告白に驚くも、私は直ぐに言葉を返した。
「それは光栄ですね。ですが、その言葉は私ではなく、先生に言ってあげて下さい」
「先生……先生は……」
そう呟きつつ、ヒナ委員長は私にしがみついたまま離れようとしない。そんな様子に、私は苦笑いを浮かべながら、彼女の頭を撫で続けた。
「まぁ、もういいんですけどね。私は一度ならず二度も貴女を裏切る真似をしてしまったのですから、今更もう一度、貴女を裏切る事なんて、何の苦にも感じませんから」
そう言って、再度ヒナ委員長に口付けをする。そして、そのまま彼女を押し倒した。
ヒナ委員長は抵抗せずに素直にベットに横になり、私を見つめてくる。そんな彼女の唇を再度塞ぎながら、私はヒナ委員長の身体に触れ始めた。
「んっ……んぅ……」
甘い声で喘ぐ彼女の声を楽しみつつ、その身体に手を這わせていく。
胸元に手を置き、ゆっくりと揉みほぐすようにして愛撫すると、ヒナ委員長の息遣いが徐々に荒くなるのを感じた。
そのまま軽く触れていた指先を、胸の突起へと移動させる。そして、その先端部分を転がすようにして刺激を与えると、ヒナ委員長はビクビクと身体を震わせた。
「はぁ……んんぅ……」
甘い吐息を漏らしながら身悶えるヒナ委員長。そんな彼女の耳元で囁くように、私は言った。
「ヒナ委員長。私を見て下さい。こんな下衆な事をする先生がいると思いますか?」
そう問うも、ヒナ委員長は首を横に振る。そして弱々しく呟いた。
「先生……私は……貴方が好きなの」
その言葉に思わず笑みを浮かべるも、直ぐに真剣な表情に戻ると、再びヒナ委員長の唇を奪う。舌を絡め取りつつ、ヒナの目をじっと見つめ、私は告げた。
「そうです。貴女が好きなのは先生です。私ではありません。貴女があの地獄のような監禁場所から解放された後も、薬を服用させ続けた私を、何故先生と誤認するのですか?」
そう言うと、私はそのまま手を下の方へ伸ばしていく。そしてショーツの上から割れ目をなぞるようにして触れた瞬間、ヒナ委員長の身体が大きく跳ね上がった。
「んっ……ふぅっ……」
必死に声を押し殺そうとしているが、無駄な行為だ。幾度となく身体を重ねてきたのだ。何処が弱く、どうすれば快楽を与える事が出来るのか、全て把握している。
私はそのままショーツ越しに割れ目をなぞり続けつつ、空いたもう片方の手で、ポケットに忍ばせていた媚薬の入ったアンプルを取り出した。
「これ、覚えていますか?」
そう言いながらアンプルの蓋を外す。その様子を目にしたヒナ委員長は、目を見開き、荒い呼吸を繰り返し始めた。
「や……やだ……それ……いやっ」
本能が危険を察知したのか、ヒナ委員長は私から離れようと身を捩らせる。しかし、私はそれを逃さないとばかりに彼女の腕を掴み、ベットに押さえ込んだ。
「そうです。これは貴女を壊した薬が入ったアンプルです。あの日、あの時、貴女はこれを見た筈だ。どのような経緯があって、これを5つも投与されたか分かりませんが、大方、先生を庇う為に無茶をしたんですよね?」
「あ……ああ……」
ヒナ委員長は、私の言葉を聞きたくないと言うように、首を左右に振る。そんな彼女の顎を掴み、強引に視線を合わせると、私は言った。
「教えて下さいよ。あの時、何があったんですか?」
「わ……わたっ……しは……」
ヒナ委員長の瞳から涙が溢れる。いまだに私の事を先生と錯覚しているのか、ヒナ委員長は私の目を見つめつつ、弱々しく、震える声で言葉を紡いだ。
「6……つ」
「……え?」
ヒナ委員長の言葉に、私は思わず聞き返す。そんな私の反応に、ヒナ委員長は続けた。
「6つ……アンプルを……打たれた」
「……何故?」
そう問うも、ヒナ委員長は何も答えない。ただ静かに涙を流しながら、天井を見つめていた。
「そうですか、6つですか」
私はてっきり、トレーの上にあった空のアンプル数を見て、5つと思っていた。まさか、追加で1つ打たれていたとは。
そんなヒナ委員長の様子を見下ろしつつ、私は笑みを浮かべると、手にしていた媚薬を自分の口に流し込み、そのままヒナ委員長の唇を奪った。
「んぅ!!」
突然の事に驚きつつ、ヒナ委員長は私の意図を本能的に見抜き、必死に抵抗を試みる。
しかし、その抵抗は意味を為さない。何故なら、今のヒナ委員長は、私の拘束すらまともに抜け出す事も出来ない程に、弱り切っているからだ。
「んぐっ……っ!!」
ヒナ委員長の口内に舌を侵入させ、媚薬を流し込む。そして、流し込んだ事を確認した後、私はゆっくりと唇を離す。
「はぁっ……はぁ……」
荒い息を繰り返すヒナ委員長に、私は優しく語りかけた。
「ははっ……ヒナ委員長……私も……わら…し……も…一緒……に……」
私は、この薬の効果を実感した。
あぁ、これは凄い。世界が歪んで見える。それだけではない。脳髄が痺れる程の快楽に酔いしれつつも、思考回路を加速させていく。
体温が高まる。動悸が激しくなる。目の前の獲物を、怯えた表情で見つめる気高い花を、私は、この手で……。
穢したい。
「あぁ……そうだ……そうですよね……貴女だって、私を先生に重ねるくらい……壊れて……ははっ……あぁ、これは…ははっ……あぁ……」
もう何も考えられない。ただ、本能のままに彼女を求めるのみだ。
私はベットの上で暴れるヒナ委員長を組み伏せると、そのまま覆い被さるようにして抱き着いた。
「はぁっ……はぁ……はあっ」
呼吸と共に漏れ出る熱い吐息が顔にかかる。それすらも心地良く感じながら、私は優越感に浸っていた。
あのヒナ委員長が、私程度に組み伏せられ、身動き一つ取れずにいる。
その事実が堪らなく甘美だった。私はそのままヒナ委員長の首筋に強く噛み付いた。
「いっ……!!」
痛みによって反射的にヒナ委員長の身体が跳ねる。しかし、私は止まらない。むしろ、より強く歯を立てるようにして噛み付くと、明確な形で私の所有物である証を刻み込んだ。
「あっ……あ……」
痛みに耐えながら喘ぐヒナ委員長の声を聴きつつ、私は口を離した。そこにはくっきりと歯形が残っている。
皮膚が裂け、血が出ている箇所もある。しかし、その傷すら愛おしいと感じてしまった。
「ははっ……はははっ……」
そんな自分に笑いが止まらない。もう、この薬の効果に抗う事は出来ないだろうという確信があった。
「先生……先生……」
譫言ように呟くヒナ委員長。そんな彼女の頬をそっと撫でつつ、私は言った。
「先生は此処には来ませんよ。私と貴女の、2人だけ」
そんな私に対し、ヒナ委員長は弱々しく首を横に振る。そして、消え入りそうな声で呟いた。
「返して……先生を……私の先生を返して……」
ポロポロと涙を流し、ヒナ委員長は訴えるように私を見つめる。その涙で潤んだ瞳を見て、私は思った。
あぁ、この目だ。私が見たかったのは……。
絶望に歪んで、それでもなお、希望を、夢を、あの悪夢の最中に存在する一時の幸福を捨てきれない。そんな目だ。
美しい。その一途な思いを、私は穢したのだ。その事実に、私は歪んだ笑みを浮かべた。
漸く手に入れた。私だけの花を。
ヒナ委員長の顔に、ポタポタと何かが零れ落ちる。赤い雫。私はそっと、自身の鼻に指先で触れ、それが鼻血である事を理解した。
凄い効果だ。たった一口だけでこの効果。ヒナ委員長はこれをアンプルで6つも打たれたと言っていた。
本当に、よく耐えたものだ。
壊れるまで穢れる事なく、そして、壊れてから漸く、穢れを知った。
自らの心に蓋をして、必死に耐え続けた。その苦しみは、私には想像も出来ないだろう。
私は彼女の名を呼びながら、唇を重ねる。そのまま舌を絡ませ、自身の口内へと招き入れると、その舌先に歯を突き立てた。
「んぐぅっ!!」
ヒナ委員長の身体が大きく跳ね上がる。私は、そんなヒナ委員長の頭を強く抱きしめて逃げられないようにすると、歯を立てる力を更に強めた。
「あっ……がっ……」
痛みに悶えるヒナ委員長。口の中は鉄の香りで充満し、その香りと甘味な味に、私の思考回路はドロドロに溶かされていく。
舌先を噛みしめ、味わい尽くす。そして暫くして唇を離すと、そこには痛々しい歯形が残っていた。赤く滲んだ痛々しい歯形を見て、私は思わず笑みを浮かべた。
「ははっ……あははっ……」
ヒナ委員長に覆い被さりつつ、私は笑い続ける。その様子を間近で見つめていたヒナ委員長は、怯えた表情を浮かべながら私を見ていた。そんなヒナ委員長に、私は言った。
「今から、貴女を穢します。尊厳も、純潔も、全て奪い、穢します。そして……もう戻れない所まで堕としてあげます。シャーレの先生すら、貴女を見捨てる所まで」
「や……やだ……」
私の言葉を聞いたヒナ委員長は、恐怖に表情を歪める。そんなヒナ委員長の耳元で囁くように、私は言った。
「先生を想うなら、抵抗してもいいですよ? まぁ……無駄でしょうけど」
「やだ……やだ……止めて……」
涙を流しながら懇願するヒナ委員長を無視し、弱々しい抵抗を見せる彼女の身体を押さえつける。弱い。本当に、抵抗しているのかと疑ってしまいたくなる程に弱い。
「やめて……お願い……」
消え入りそうな声で懇願するヒナ委員長を無視し、私は彼女の服を脱がせていく。
「やだ……先生……助けて……」
ヒナ委員長は、助けを求めるように虚空に手を伸ばす。しかし、その手が何かを掴む事はない。
「先生……先生……」
ヒナ委員長は、譫言のように呟き続ける。私は虚空に伸ばされた手の指を絡ませるように握り、そのままベットに押さえ込む。
「や……だ……やだ……」
ヒナ委員長の目に、再び涙が滲む。
全てが愛おしい。その声も、その表情も、その涙も、仕草も、何もかもが美しい。
「……………………○○」
「っ…………ははっ」
あぁ…………私の名前…………。
最後の最後に、私を……私を見てくれた。
夢とはいつか覚めるもの。
悪夢から目を覚ましたヒナ委員長は、現実の世界でも、悪夢に魘されるようになった。
今も尚、ヒナ委員長は悪夢に魘され続けている。だが、その心に、その身体に刻み込んだ快楽は決して消えはしない。
何度忘れようとしても忘れる事が出来ない程に、深い傷を心に刻んでいる。
その瞳の奥に宿った絶望の光。
「あぁ……美しい……」
そんなヒナ委員長を見下ろしつつ、私は恍惚とした表情を浮かべて呟いた。
私は、ヒナ委員長に私という存在を刻み込んだ。
身体中に、私の痕を刻み込んだ。
「せ……せ……」
掠れた声が、ヒナ委員長の口から零れ落ちる。
涙は涸れ果て、身体中に刻まれた噛み痕は痛々しく、秘部からは純潔が失われた証たる鮮血がベットを赤く染め上げている。
奪った。奪い尽くした。
ヒナ委員長の全てを。ヒナ委員長を形作る全てを。
もう言葉にすらならない声を漏らしながら、ヒナ委員長は私の目を見つめる。その瞳に浮かぶ絶望は深く、もう二度と消える事はないだろう。
だからこそ愛おしい。愛おしくて仕方がない。
「愛してますよ……ヒナ委員長……いつまでも、いつまでも」
この声は、きっとヒナ委員長に届く事はないだろう。
構わない。それでも構わない。
私が望むのは全て手に入れた。
ヒナ委員長という存在の全てを。
彼女を穢したという、その事実。
それだけで、私は満足だ。