※この作品はR-18です。

ヒナ虐ー媚毒ー   作:モノクロさん

4 / 4
第4話

 私の判断ミスだった。

 

 ブラックマーケットで違法とされる薬が取引されている。その情報を手に入れた私は、先生と共に今回の事件に対処すべく、行動を共にしていた。

 

 不良生徒達から情報を収集し、廃墟となったビルが立ち並ぶ区画に不審な人物が出入りしている事を突き止めた私達は、夜も更けていた事もあり、翌日の朝までホテルで待機し、風紀委員会のメンバーを招集する事にした。

 

 万全の状態で、容疑者達を確保。それが当初の目的だったのだ。

 

 しかし、私達は判断が甘かった。甘すぎたのだ。

 

 私達がブラックマーケットに足を踏み入れた時から、既に敵対する人物達に監視されていたのだから。

 

 夜も遅い。外は危険だからと、近くのコンビニで軽食を買ってくると先生に告げ、戸締まりをしっかりするよう伝えた後、私は先生の元を離れてしまった。

 

 その隙を狙っていたのだろう。ホテルに戻った時、先生の姿は何処にもなかった。

 

 部屋の中は荒らされており、唯一無事だったテーブルの上には連絡用の通信機。

 

 私が部屋に戻るのを見計らうように通信機が鳴り響き、私は通信機を手に取った。

 

『空崎 ヒナだな。先生は預かっている。お前1人で○○まで来い。この事は誰にも伝えるな。1人だ。1人で此処に来るんだ。いいな?』

 

 そう言って通信機が切られた。

 

 先生が囚われの身になっている。その事実に、私は考えるよりも先に身体が動いていた。ホテルを飛び出し、指定された場所に向かうと、そこには覆面を被った2人組がいた。

 

 咄嗟に銃口を向けるべきか考え、やめた。

 

 先生が人質になっている以上、下手な行動をとって彼女の身に何かあれば、それこそ取り返しがつかないからだ。私は2人組の指示に従う事にした。

 

 2人は私を連れて、廃墟となったビル群の奥へと進んでいく。そして、建物の中に入ると、アタッシュケースを持った主犯格と思わしき人物が立っていた。

 

「先生は何処?」

 

 その問いに、主犯格らしき人物が笑った。

 

「安心しろ。先生は無事だ。『今のところ』はな」

 

 その言葉に、私は目を細めた。『今のところ』とはどういう意味だろう?

 

 そんな疑問を余所に、主犯格らしき人物は持っていたアタッシュケースを開き、中に収納されていた液体の詰まったアンプルを5つ取り出し、それをテーブルの上に並べた。

 

「これは、私達が取引に使っているとある薬の原液だ。本来なら10倍に薄めなければならない程の劇薬なんだが、此処にその原液がつまったアンプルが5つある」

 

「……何が言いたいの?」

 

 私の問いに、主犯格と思しき人物は再び笑みを浮かべると、その質問に答えた。

 

「0から5。好きな数字を選べ。その数の分、今からお前に、これを投与する」

 

「なっ!!」

 

 予想だにしなかった言葉に、私は思わず驚きの声を上げた。そんな私の反応を楽しむように主犯格と思しき人物は淡々と言葉を続ける。

 

「安心しろ。劇薬とは言ったが死ぬわけじゃない。まぁ、大体のやつはこれ1つで壊れてしまうがそれだけだ。そして、壊れる瞬間まで、快楽に溺れる事になる。死ぬほどの多幸感を味わいつつ、壊れていくんだ。どうだ。魅力的だろ?」

 

「ありえない。狂ってるとしか言いようがないわ」

 

 私の言葉に、主犯格と思しき人物はくつくつと笑みを絶やさず、しかしやれやれと肩を竦めながら携帯端末を取り出した。

 

「まぁ、子供にこの魅力的な提案は早過ぎたかな? それじゃあ仕方がない。君は『0』でいいという事だね? では、先生が『5』だ」

 

「っ!!」

 

 主犯格と思しき人物の言葉に、私は思わず息を呑んだ。この人は本気で言っているのだろうか?

 

 そんな私を無視して、携帯端末を操作した後、別室で待機していたのであろう部下と思しき人物に連絡をいれた。

 

「準備出来たか?」

 

『はい。いつでも投与可能です』

 

 部下と思しき人物が嬉しそうに答えると、主犯格と思しき人物は、端末に映った部下と先生、そして部下の手に握られたアンプルがセットされた針無し注射器を交互に見せてくる。

 

「よろしい。では、彼女は1つも使いたくないとの事なので、そこに置いてあるアンプルを全て使用して……」

 

「待って!!」

 

 思わず声を荒げる。その声を遮るように主犯格と思しき人物は携帯端末の電源をそのままに、改めて此方へと視線を向けた。

 

「なんだ? 『0』で良いんだろう?」

 

 その言葉に、額から汗が流れ落ちる。

 

 言葉を違えば、先生は……。

 

 1つでも投与されれば壊れてしまう代物。それはこのキヴォトス基準であり、外の世界から来た先生にとって、その耐久性は未知数だ。下手に投与されれば、先生の命は……。

 

「あははっ」

 

 そんな私の葛藤を楽しむかのように、主犯格と思しき人物は笑った。そして、言葉を続ける。

 

「いいねぇ。実に絵になるよ。目の前で大切な人の命が危険に晒される。実にたまらないシチュエーションだ。君もそう思うだろ?」

 

 その言葉に、私は思わず歯ぎしりする。そんな私の様子を見て、主犯格と思しき人物は満足そうな表情を浮かべつつ言った。

 

「さて、どうする? 君は選択する事が出来る。『0』と『5』、『1』と『4』、『2』と『3』、好きな数字を選べるんだ。選ぶ権利があると言っていい。まぁ、それ以外の権利はないのだがね。私はどちらでも良いが……君が決めないなら、私が決めても構わないね?」

 

 主犯格と思しき人物の言葉に、私は覚悟を決める。先生が助かるなら、私は何だってする覚悟がある。それに、元々これは私のミスだ。先生を1人にした私のミスだ。なら、どんな罰でも甘んじて受ける。私はそう決意して答えた。

 

「『5』よ……もちろん、私が『5』。先生が『0』」

 

 私の答えに、主犯格と思しき人物は満足そうに頷くと、部下に指示を送り、テーブルの上に並べていた針無し注射器とアンプルをトレーに乗せ、それを私の前へと運んでくる。

 

「折角だ。最初の1つ目は自分で打ってみるといい。きっと世界が変わるよ」

 

 そんな主犯格と思しき人物の言葉に、私は注射器を恐る恐る手に取ると、それを自分の腕に突き立てた。

 

「うっ……あっ……」

 

 液体が体内へと注入される。その瞬間、私の身体に異変が起きた。

 

 身体が熱い。熱くて熱くてたまらない。まるで、熱湯をかけられたかのように全身が火照り始め、呼吸が荒くなる。心臓の鼓動が激しくなり、それに比例して全身の血流が加速していくのが分かった。

 

 私は思わずその場に座り込み、自分の胸を抑えつけるように掴む。そんな私の様子を、主犯格と思しき人物は楽しげに眺めていた。

 

「どうだ? 初めての薬は? 気持ちが良いだろう。身体が熱くなって、内側から快楽がこみ上げてくる。素晴らしいだろう?」

 

「……ふっ……ざけ……ないで」

 

 荒い呼吸を繰り返しながら、私は主犯格と思しき人物を睨み付ける。しかし、主犯格と思しき人物はまるで意に介さないように私に視線を向けたまま笑みを浮かべたまま言った。

 

「さて、次の薬だ。準備しろ」

 

 主犯格と思しき人物の言葉に、私は首を縦に振る。この程度で屈してはダメだ。先生を救う為にも、私が折れては駄目だ。

 

 そう自分に言い聞かせながら、私はトレーの中から次のアンプルを手に取り、それを自分の腕に突き刺すと液体を注入する。

 

「あっ……あぁ……あつい……身体が……熱い」

 

 全身が焼けるように熱い。身体の内側から熱が込み上げてくるような感覚に、私は悶える。

 

 衣服が肌を擦る感覚ですら、敏感に拾い上げてしまい、その度に甘い声が漏れてしまう。

 

 そんな私の様子を、主犯格と思しき人物は相変わらず楽し気な笑みを浮かべて眺めていた。

 

「ほう? 意外にも耐えるじゃないか」

 

 主犯格と思しき人物が感心したように言う。そんな主犯格と思しき人物の言葉を聞き流しながら、私は身体を蝕む熱に耐えるように歯を食いしばった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 そんな私の様子を楽しむかのように眺めながら、次のアンプルの準備を促す。

 

 まだ、あと『3』つも残っている。耐えられるだろうか?

 

 いや、耐えなければ。私が耐えれば、先生は……。

 

「さぁ、時間は有限だ。早く次のアンプルを打たないと、代わりに先生に打ってもらうよ」

 

 その言葉に、私は目を見開いて主犯格と思しき人物を睨みつけた。

 

「絶対……先生には手を出さないで」

 

 そんな私の言葉に、主犯格と思しき人物は満足そうな表情を浮かべると、部下に指示を出す。

 

「なら早く打つんだ。さぁ、早く。時間が無いぞ?」

 

 主犯格と思しき人物の言葉に、私は震える手でトレーの中のアンプルを1つ手に取った。そして、その液体が満たされた注射器の先端を自分の二の腕に突き立てた。

 

「うぐっ!!」

 

 先程と同じ様に、液体が私の体内へと注入される。その瞬間、私は思わず身体を仰け反らせてしまった。

 

 視界がチカチカする。全身をめぐる血液が、血管内を駆け巡る度に強烈な快感が私を襲った。

 

 心臓が激しく脈打ち、全身の血流が激しく加速する。思考が蕩けて定まらない中、私は必死に自我を保とうと必死になった。

 

 まだ……ダメ……まだ、私は……。

 

「おや、もう限界なのかい?」

 

 私の様子を眺めながら、主犯格と思しき人物はクスクスと笑う。

 

 ダメだ。私が倒れたら、先生が……私は、先生を……守らなきゃ……。

 

「どうやら、少し疲れてしまったようだね。仕方がない。残りの『2』つは部下に打ってもらうとしよう。君もそれでいいね?」

 

 主犯格と思しき人物の言葉に、私は息を荒げながら頷いた。そして、注射器を受け取った部下が私の首筋に注射器をあてがうと、液体を流し込んだ。

 

「あぁァぁぁァぁぁぁぁぁあああアアぁ!!」

 

 その瞬間、再び全身に電流が走ったかのような衝撃が走る。その快楽に思わず絶叫を上げてしまった。

 

 足腰から力が抜け、そのまま崩れ落ちるように地面に倒れ込む。しかし、倒れた痛みなどまるで感じなかった。感じるのは全身を駆け巡る快楽だけ。私は床の上で悶え続けた。

 

 ダメ……だめ……ダメダめダメだメ……。

 

 頭の中を快楽が支配する。理性はボロボロとなり、私は獣のように叫び続けた。

 

 身体を掻き毟って快感を逃がそうとするも、その程度では到底収まるものではない事は明白だった。

 

 寧ろ、痛覚ですら快感へと変換されてしまい、私は痛みと快楽の波に揉まれ続けながら悶え続けた。

 

 本来ならば、1つだけで壊れる代物を4つも投与したのだ。それでも、『まだ』壊れるに至っていない私に、主犯格と思しき人物は感嘆の声を上げる。

 

「素晴らしい。まだ壊れないか。だが、もう限界だろう?」

 

 主犯格と思しき人物の言葉に、私は必死に首を横に振るう。まだ……まだだ……私が耐えなければ……。

 

「ははは、強情な人だ」

 

 最後に聞こえたのは、そんな言葉だった。

 

 最後の1つ。それが打たれた後、私は一瞬だけ、意識が飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 荒い呼吸を繰り返す。全身から汗が噴き出し、衣服が肌に張り付き不快感と快感の両方を覚える。しかし、それを気にする余裕など今の私にはなかった。

 

 全ての薬を投与された後、私は先生が監禁されている部屋へと案内されていた。

 

 しかし、その足取りは重く、一歩進む度に甘い疼きが身体を駆け巡る。

 

 まだだ……まだ……私は…………先…生を…………。

 

 朦朧とする意識の中、私はフラフラとした足取りで歩き続ける。そして、遂に目的の場所に到着した。

 

 扉は開かれている。その部屋の中へと足を踏み入れると、そこには鎖のついた首輪で拘束されている先生の姿があった。

 

 先生は無事だった。主犯格と思しき人物は約束を守ってくれた。

 

 何より、鎖で繋がれてはいるものの、先生が無事である事実に、私は安堵した。

 

 その一瞬の気の緩みが、私の運命を分けた。

 

「……………………えっ」

 

 首筋に、何かがあてられた。

 

 体内に何かが流れ込む感覚。それと同時に、私の意識は急速に闇に飲まれていった。

 

「では空崎 ヒナさん。君には最後の試練だ」

 

 誰かの声、主犯格……何をされた?

 

 薬を……打たれた?

 

 何故、あそこにあったものは全て……。

 

 あぁ、そうか。

 

 この部屋で待機していた部下が持っていた分か。

 

「最後の試練は簡単だ。先生を『襲う』か『襲わないか』だ。簡単だろう。安心してください。先生からは何もできません。鎖でつないでいるので。ですが、貴女は違う。貴女は先生を襲うことが出来る。それだけの事です」

 

 私が、先生を……襲う……。

 

『襲う』?

 

『襲わない』?

 

 そんなの……決まってる。私は……先生を守る為に……。

 

「では、始めよう。因みにこれはネットでキヴォトス中に配信している。折角のショーだ。皆で楽しもうじゃないか」

 

 その言葉と共に、私の意識はドロドロに溶かされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーとある風紀委員の末路ー

 彼女の存在は、風紀委員会において触れてはならない『禁忌』として扱われるようになった。

 

 彼女は存在しない。ゲヘナにも、何処にも。

 

 風の噂で、ヒナ委員長が何者かに襲われたあの日に、ヴァルキューレに逮捕された生徒がいると聞いたが、それは風紀委員会にもゲヘナにも関係のない話だ。

 

 行政官や幹部クラスのメンバーが休暇を取り、何処かへ出かけたが、それも全て関係のない話である。

 

 そう、ヒナ委員長を襲った人物は不明だし、その人物が今後、表舞台に出てくる事は金輪際ない。

 

 記録的に抹消された人物など、存在しないも同義である。

 

 存在するのは、風紀委員会の中で話題に上がる『噂話』だけである。

 

 決して出してはいけない。口にしてはいけない。もし、その存在を口にして、それが誰かの耳に入ろうものなら、恐ろしい目に遭う事になる。

 

 決して忘れてはいけない。風紀委員会の理念を。風紀を守る為に存在する我々にとって、この禁忌は決して触れてはいけないパンドラの箱なのだ。

 

 しかし、それでも……。

 

 私は……いや、私達は覚えている。

 

 彼女が齎した禁断の果実の味を。

 

 届かぬからこそ尊い者は存在する。

 

 そして、届かぬ果実が穢され、地に堕ち、拾い上げて口に入れた時の、何とも甘美な味わいを。

 

 それを教えてくれた彼女を、今後一生、誰も口外する事はないだろう。永遠に語られる事のない存在として、我々は彼女を記憶に留めていくのだろう。

 

 彼女は沈黙を守り続ける。

 

 何も語らず、何も残さず、唯々沈黙を守り続ける。

 

 己の人生、残された全てを投げ捨ててでも手に入れた果実の、甘美なる味に思いを馳せ、酔い痴れながら。




以上、これにて『ヒナ虐ー媚毒ー』を完結と致します。
ヒナ委員長がこの後どうなったのか、それは是非、読者の皆様の想像の中で思い描いて頂けると幸いです。

それでは、また別の作品でお会い出来る事を心より願います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。