※この作品はR-18です。

【R-18 IF】ようこそ一之瀬帆波の幼馴染がいる教室へ   作:クリスマン

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本編が進まないので初投稿です。本編のような明るさはありません。

時系列は高度育成高等学校に入学する前です。高育入学後の話も書くかは…わからないです。



入学前
一之瀬帆波は愛してる


 

…目が、覚めた。

まぶたは重いし、腰の辺りの調子はあまりよくないし、膣内にはまだ何とも言えない違和感が残っていた。けれど、その感覚が彼女は好きだった。幸福感が込み上げてくるのを、彼女は静かに笑うことで発散した。

 

このまま二度寝してしまってもよかったが、あまり生活リズムが乱れてはせっかく今まで磨いてきた己のスタイルに影響が出る。あまり気は進まなかったものの上体を起こして窓の方を見た。

閉め切られていたカーテンの隙間から微かに差し込む光が、新たな一日の始まりを告げていた。

 

全身にこびりついているカピカピの体液を少々煩わしく思いながら一之瀬帆波は、自分のすぐ横で疲労の限界に達していると言わんばかりに目を太く逞しい腕で覆い隠しながら力無く歯を食いしばっている幼馴染を愛おしそうに見つめた。

心地よい疲労感に浸っている一之瀬と異なり、悪原九郎は、これ以上無いほどわかりやすく寝不足に苦しんでいた。昨夜、というより夜通しの情事の疲労が一、二時間程度の睡眠で回復するはずはなかった。疲れがちっとも取れていないせいでいまだに息が荒い幼馴染の逞しい腕をどかし、触手を絡ませるように手を伸ばし、全身を密着させ、顔を寄せて目を合わせ、一之瀬は囁くように声をかけた。

 

「おはよう、九郎くん。片付けは私がやるから、先にお風呂入っちゃいなよ」

 

一之瀬と目が合った悪原は心底不快そうに、眉間に皺を寄せて、黒い三白眼の奥にやり場のない不満をふつふつとたぎらせながらも、怒る体力さえないせいでブツブツぼやくように反応した。

 

「……もう…やめろ……虚しくねえのか、………ハァ…疲れたん、だよ。いい加減……いつまでも、こんなことして、らんねえのに………おまえは」

 

息も絶え絶えに、この期に及んで今の自分たちの関係を嘆く悪原に、一之瀬は熱った身体と精神が氷水でもかけられたように急速に冷めていくのを感じた。

 

一之瀬が愛に満ちた行為に及ぼうとする度、悪原は決して首を縦に振らなかった。もう何回もしてきたのに、一体何度中に出させたかもわからないのに、それでも一度だって悪原は一之瀬を真に受け入れようとはしなかった。

『もうこんなことはやめろ』『お互い不幸にしかならない』『おまえのために言ってるんだ』……幼馴染のそんな台詞を、一之瀬は耳にタコができるほど聞いてきたし、その全てをことごとく無視して無理やりセックスしてきた。

 

理解できない。

 

なぜこんなにも気持ちいいのに、ふたり一緒に幸せを共有できるのに、幼馴染はどうしてこうも自分とのセックスを嫌がるのだろうか。

血の繋がりがあるわけでもない。義理の家族というわけでもない。一之瀬帆波は一之瀬家に生まれた女の子で、悪原九郎は悪原家に生まれた男の子だ。

おまけに幼馴染だった。お互いの良いところ、悪いところをよく知っている。保育園の頃から一緒にいて、自分の隣を埋めあって、それはそれはたくさんの楽しみを、感情を共有してきた。

極めつけに中学生同士だ。性に興味津々で、異性が気になるお年頃だ。一之瀬とて例外ではなかった。昔から悪原と一緒にいて、何度も彼に助けられてきた。守ってもらえた。頭が良くて、腕っぷしも強くて、幼馴染を守るためなら己の身が傷つくことさえ厭わない。一之瀬に言わせれば、好きになるなという方が無理な話だった。

悪原だって、自分のことが好きなはずだ。だってもう10年以上も一緒にいたのだ。その間大した喧嘩もせず、仲の良いままだった。何度もお互いの家に遊びに行ったし、小さい頃の話とはいえ一緒にお風呂だって入ったし、同じベッドで眠ったことだってあるし、勉強する時も遊びに行く時も、いつだって自分たちは一緒だった。ここまで長い間この関係性でいられた事実は、互いに相手へ決して浅くない好感を持っている何よりの証拠だろう。

 

つまり、私たちは両想いで、どうせそのうち結ばれる運命だったのに。愛し合って、子供を産んで、同じ屋根の下で暮らして、最期はふたり並んで同じ墓に入る。そのように、信じていたのに。

 

なぜなのか。なぜ悪原は自分とのセックスを拒否するのだろうか。どこに断る理由があるというのか。

 

お互い気持ちよくなれるし、お互いの存在が心を満たして、かけがえのない幸福感を生み出してくれる。一之瀬帆波にとって、悪原九郎とのセックスはそういう純愛ゆえの、神聖な行為とも言えるようなものだった。

 

それなのにどうして?どうして九郎くんは私とセックスするのを嫌がるの?

 

幼馴染だけが気持ち良くなれていないなんてはずはない。射精は性的快感が頂点に達した時に起きる現象だ。一之瀬は何度も、何度も、飽きることなく何度でも、幼馴染の精液を自らの膣内の奥で受け止めてきた。いや、それだけにとどまらず、口内を白濁で満たしたことも、その顔に熱い精を浴びたことも、もはや回数さえわからないほどだ。

ここまでやっても、頑なに悪原は一之瀬に『女』を見出さなかった。

 

考えれば考えるほどに、拒絶される理由が見当たらなくて、一之瀬の精神は疑問が解消されないことと、あと一歩なのに恋が実らないことへの不満に満ち満ちていた。

 

「……何がいけないの?」

 

ぼそり、と不可解そうに彼女は口を開いた。

 

「私は、九郎くんのことが好きだよ。愛してるんだよ?だから、セックスするの。私が君を愛してるって伝わるように、私は君を愛したいから、キスも、セックスもするんだよ。教えてよ、何がいけないの?何がダメなの?私たちが結ばれちゃいけない理由はなんなの?そんなに嫌がるのは、理由があるんでしょ。私が君を愛しちゃいけない理由は何?どこに私たちがセックスしたらいけないわけがあるのか、教えてよ、ねえ…」

 

それは開き直った子供みたいな口調で、しかし恐怖が入り混じった、どこか縋るような声色。

能面の様な表情なのに、今にも泣き出しそうだと思える顔を向けてくる幼馴染に、悪原は微妙に言い返しにくく、ああ…と天を仰ぎたい気分にさえなった。しかし上を見ても、そこにあるのはどんよりと暗い天井だけだ。それが、今の自分の、自分たちの関係をよく表しているように見えて尚更嫌になってくる。

 

はっきり言って、一之瀬帆波は悪原九郎にとってそれほど重要な存在ではなかった。

率直に言えば『他人と比べれば親しい仲である程度の存在』だった。一之瀬が悪原に恋をしていることを考えればあまりにも残酷な評価だが、しかし彼はこの評価を改めるつもりはなかった。

出会ったのが世界を知らない保育園児の頃だったから、少(・)し(・)前(・)ま(・)で(・)純粋に仲良くできていたのだろうと悪原は確信していた。小学生だったらギリギリ『顔見知り』ぐらいには認めていたかもしれないが、中学生に上がった頃に出会っていれば自分は問答無用で今の幼馴染を嫌悪し蛇蝎の如く忌避していただろうと、彼は漠然とした確信を持っていた。

 

悪原九郎は賢い人間だった。自分がひどく捻くれていてどれほど意地の悪い性格であるかを、よく自覚していた。

 

そして彼は、『直感』で人を見定める。

 

言葉通りだ。悪原はパッと見でその人を評価し、関わるべきか否かを判断する。しかしそれは外見で判断する、ということではない。彼自身も『なぜなのか』はわからないが、一目見るだけでその人が『良い人』『悪い人』『つまらない人』『楽しい人』なのかがわかる。その人間が、『自分にとってどのような存在になるか』がわかるのだ。

この直感は彼自身の本能に訴えかけるものであり、逆らっても良いことがなかった。この直感は対人関係にも、物事への選択にもよく役立っていた。概ねこの、能力というほど大層なものでもないが、とにかく自分の直感に従うことで彼はそれなりに不満の少ない人生を歩めてきた。

とはいえもちろん彼の目は神眼でもなんでもないので、どうでもいい存在と切り捨てた人の行いを見て、時には評価を改めることもある。…今のところ、それも一人だけだ。

そして初対面での評価を改めてもらえた、その唯一の存在が、一之瀬帆波だった。

 

保育園、初めて出会った時、彼の直感は一之瀬を『優しい人だけど一緒にいたくはない人』と評した。その『一緒にいたくない』という、本能的な嫌悪感の具体的な理由はわからない。退屈だからか、面白くないからか、それともまた別な理由なのか。その答えは10年以上もの付き合いとなった今でも全く見当がつかなかったが、本能なんてそんなものだろうと悪原は考える。自分の直感にいちいち尤もらしい理屈を付けるのは面倒だった。

 

それでも悪原が一之瀬と仲良くなったのは、彼女を泣かせてしまった負い目があったからだ。

 

一之瀬は悪意ひとつなく悪原に接してきた。何度拒否されようと、それに対抗するように何度でも話しかけてきた。友達になろうとしてきた。その構いっぷりは大人から見てもしつこく見えたということを、のちに彼は知ることとなるが。

とうとう我慢ならなくなった悪原は一之瀬に怒鳴り散らした。もちろんいくら悪原が優れた頭脳をもって生まれたとしても所詮は保育園児なので、そのボキャブラリーなど高が知れているが、明確な拒絶と嫌悪が怒鳴り声という形で一之瀬にぶつけられた。それで充分だった。

とうとう、一之瀬帆波は泣いた。その涙の理由はわからない。もしかしたら、その頃の一之瀬にとって悪原は気に入らない存在だったのかもしれない。誰からも好かれ、周りよりも早く技能を習得し、可愛らしいルックス、どの子にも優しい性格などなど、純真かつ単純な子供ながらどこに嫌われる要素があるのかと訊きたくなるほど、彼女は綺麗な人だった。だというのに、悪原だけは彼女を嫌っていた。いや、彼は単に関わりたくなかっただけであって、嫌っていたというのは正しくないのだが、少なくとも周りの目には、冷たいように見えたことだろう。

それが、唯一自分を嫌うその態度が、気に入らなかったのかも、しれない。真実は誰にもわからない。なにしろ保育園の頃の話だ。一之瀬自身だって、その時何を考えていたかなどとっくのとうに忘れ去っているに違いない。いまさら本人に訊いても、真相は闇の中だろう。

 

話が逸れてしまったが、流石に女の子を泣かせてしまったという事実は同じく純真さは持っていた悪原の心に多少なりともダメージを入れた。

彼とて彼女が純粋に仲良くしたいという気持ちで話しかけてきてくれていたのは理解していた。流石にしつこすぎやしないかというのはこの際置いておくが、とにかく、なんだか無闇に人の善意を踏み躙ってしまったような気分に陥ったのだ。それは彼の罪悪感を大いに刺激した。

 

悪原は、一之瀬が望んだように上辺だけでも仲良くしてやれば、少しでもこの罪の意識から逃れられるのではないかと、子供なりに考えついた。そしてそれを実行した。お互い謝罪しあった時に、『これから仲良くしていこう』というようなことを言ったのだ。こんなセリフを口にするなど全く本意でなかったのは言うまでもないが、罪を償うという行為にそのような感情は関係ないと彼はこの頃から思っていた。そして、一之瀬は悪原からの言葉に喜んだ。

 

始めは悪原の罪悪感から始まった二人の関係だが、それも意外と早く純粋な仲へと変化していった。

思っていたより、一之瀬との時間は楽しかったのだ。今思えば、それまでの自分は友達などいたこともなかったから、初めての経験を楽しいと感じたのだろうが…。

 

しかしいつしか負い目のことも忘れ、純粋に一之瀬との交流を楽しむようになった。一之瀬の方も周囲の人より幼馴染との交流を優先したから、結果的にふたりの小さな世界が出来上がった。

 

だがそれもいつまでも続くものではなかった。前述した通り、元々は悪原の譲歩によって始まったのだ。そして、小学校、中学校と上がっていく間に関わる人の数もどんどん増えていく。

 

一之瀬帆波よりも、悪原九郎にとっての『良い人』がちらほらと現れてくるのは、当然とさえ言えた。

 

おまけに一之瀬は、妙に距離が近かった。手を握ったり肩に手を置いたりはともかく、背後から飛びつくように抱きしめてきたり指を絡めたり体を押し付けてきたりなど、年頃の中学生から見ればなんとも刺激的なアピールが多かった。

結果流れ出すのは『一之瀬帆波と悪原九郎は付き合っている』という噂。これが、悪原が一之瀬と距離を置く最(・)初(・)の(・)トリガーとなった。

 

確かに、一之瀬との時間は楽しかった。だが、相(・)手(・)が(・)一(・)之(・)瀬(・)で(・)あ(・)る(・)必(・)要(・)は(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

結局、ただそれだけの話だった。

 

 

 

──しかし、それによる選択の末路はこれである。

 

悪原は後悔していた。もっと考えておけば、と。目的に気を取られすぎて、配慮が疎かになっていた。

元来、悪原にとって一之瀬はまったくどうでもいいはずの存在だった。だが、保育園での負い目から全てが始まり、そこから10年以上にもわたる幼馴染としての付き合いは、悪原の精神に小さくない情を湧かせた。悪原とて人の子なのだ。初めはどうでもいいと断じていた人間と何年もいれば、そりゃあ情ぐらい湧いてしまう。

 

その情が、中途半端な幕引きをもたらした。

 

一之瀬と離れようとしたのは間違いだったのか。それとも、そもそも一之瀬と仲良くしてしまったのが間違いだったのか。

自分の至らなさが、このような結果を導いてしまった。

 

幼馴染はただただ自分を見つめている。自分以外のものを見ようともしない。母親さえも、妹さえも彼女の世界から追放した。そんな幼馴染の視線が、悪原にとっては断罪の針のようだった。痛ましくて、おぞましくて、どんな罵倒や侮蔑より心に突き刺さる。

 

「…………ねえ九郎くん、私、気が変わっちゃった。今日もしよ」

 

「はっ…?」

 

今最も聞きたくない言葉が耳に飛び込んできて、思わず間抜けな声が出てしまった。

間もなく幼馴染の言葉の意味を理解する。彼の優れた頭脳は、彼自身にさえ一切の容赦なく最悪の答えを弾き出した。

 

「…おまえっ、あんだけやって今日もっ…」

 

「足りないよ。もっと、もっと君が欲しいの。愛したいの。私をこんなにした責任…とってよ」

 

ふざけるな、こっちはもう限界だ。そう言いたかった。昨日も一昨日も一日中盛りっぱなしだったのもあり、いよいよ本気で悪原の体は悲鳴を上げつつある。

けれどダメなのだ。自分の間違いを思えば、そんなセリフも気持ちも喉元で詰まってしまう。正直なところチンピラどもを殴り倒したり龍園に絡まれたりする方がまだマシだったが、しかしもはや逃れようがない。

 

「今日は月曜だ!学校いかねえとだろ…!」

 

「知らない。私はもうあんなところに行く気ないし。九郎くんも、今日はお休みにしちゃえばいいじゃん」

 

「休みは休むためにあるんだよッ…」

 

「また一日中はしないから許してよ。ね、お昼まででいいから。ね…」

 

ぶつぶつとそう言い、どろりとした瞳で体を捩じ込んでくる一之瀬になんとか抵抗しようと身をのけぞらせるも、それは全く意味をなさなかった。

いつも通り難なく主導権を握って、自分のまたぐらに顔をうずめる幼馴染。間もなくぴちゃ、んちゅ、じゅぷ、となんとも煽情的な水音が立ち始める。悪原は夢中になって陰茎をむさぼる幼馴染を見たくないあまり、顔を逸らすことしかできなかった。

 

 

(幸せ……)

 

一之瀬帆波は心の底からそう感じた。今でさえ頭が蕩けそうなほど幸福なのに、もし真に幼馴染が自分を受け入れてくれる時が来たら、自分は一体どうなってしまうだろうか。

 

(もうずっと、このままでいたい……)

 

肝心の想い人から好かれていない、という点以外は今のところ理想的なサイクルが送れている。

朝同じベッドの上で一緒に起きて、一緒に食事をして、一緒に出かけることができて、一緒に入浴もできて、夜は同じベッドで眠れる。セックスしたいときは、いつでもできる。キスも、ハグも、どんな時でも好きなだけ。

幼馴染と共にふたりきりで永遠にこのサイクルに魂もろとも閉じ込められてしまいたい、と望むのはごく当然のことだろうと一之瀬帆波は本気で考える。もちろんその間にも口の動きは決して止めない。歯は立てないよう気をつけつつ、唇を絡みつかせて、舌を這わせて、口全体で吸い付いて、わざとらしく音を立てながら唾液をぐちゅぐちゅと泡立てて責め続ける。

 

そうして次第に、疲労ではないもので息を荒くし始めた悪原を見て、一之瀬は口元を歪めた。

 

(九郎くん、好き。好き、好き。大好き。愛してる…)

 

縁切り宣言をされたあの日までの自分は愚かにも幼馴染への気持ちを自覚すらしていなかったが、それももはや過去のことだ。今まで真っ当に愛せなかった分、これからはたくさん愛せばいい。

 

(君のためなら私は何でもするよ。万引きでも、詐欺でも、人殺しでも何でも…そうすることで君が私を愛してくれるなら)

 

あとは、幼馴染の愛を手に入れることさえできれば完全な理想の世界が実現する。それはふたりだけで完結した世界であり関係性だ。お金も、住む場所も、食べ物も、家族も他の人間も何もかも、ふたりの幸せをより深めるための道具に過ぎない。無いなら無いで構わない。恐れるものなど何一つない。死でさえ私たちの繋がりを引き裂くことはできないのだ。そう、それだけ一之瀬帆波は悪原九郎を愛している。

 

その幼馴染に視線を向けると、何やら親指を強く噛んでいた。痛みで快楽から気を逸らそうとしているのだろう。相当強く噛んでいるのか、指からは痛々しい赤色の液体が滴り始めている。一之瀬は眉を顰めた。悪原のことは愛しているが、行為に及ぶたびに──特に奉仕している時に、こういう自傷に走るのはいただけない。

 

痛いよりも気持ちいい方が健全であるに決まっている。すぐにやめさせないといけない。

 

自傷をやめさせるために一之瀬は仕方なく口による奉仕を中断し、愛しい幼馴染のそれからぷはっと口を離した。解放された陰茎には彼女の唾液がどっぷりとかかっており、まるで唾液の海に漬けていたかのようだ。ようやく終わった口淫に一安心したか、悪原は指を噛むのをやめて、ひどく深いため息を吐いた。一方で亀頭の方は、不満の声を上げるようにビクビクと震えていたのが悪原にとって大変腹立たしかった。

 

しかしこれでお終いかと思いきやそんなことはなく、一之瀬の奉仕によって悪原の逸物の方は完全に戦闘準備を終えていた。いつでもかかってこいと言わんばかりに硬く硬く屹立している自らの性器は、いくら生理的なもののせいとは言っても、悪原をさらなる自己嫌悪へと陥れる。自分を殴れるならいっそのこと殴り殺してやりたかったが、悲しいことにそんな体力さえ今はない。この土日で一之瀬は悪原の精だけでなく体力までも、徹底的に、無理やりに搾り取っていたのだ。

 

一之瀬が悪原の上にまたがり、両腕を落として彼の強靭な肩を封じ込めた。誰からも美しいと評される彼女のストロベリーブロンドの、スーパーロングヘアーの毛先が胴をくすぐる。自傷さえできなくなった悪原には抵抗する体力も気力もすでになく、しかし心の中で暴れている拒絶感だけはなお力強さを残したまま視線として表れ、一之瀬の澱んだ瞳の奥を射抜いた。

 

やおら一之瀬は浅い呼吸を繰り返す悪原に顔を近づけ、その柔らかな唇を落とす。

 

「…なんだかんだ、九郎くんも…したいんでしょ。本当に限界だったら、こんなに硬くなるハズないよね」

 

小悪魔的な笑みを浮かべた一之瀬はこの世のものとは思えないような色気を漂わせていたが、悪原は自らのこめかみに青筋が怒りと共に浮かびあがったのを感じた。

生理的な現象なんだからしょうがねえだろ、とか、お前が無理矢理に勃たせてんだろこのアバズレ、とか色々と文句はあったがそれを言う前にまた一之瀬がキスをしてきたために口が塞がれてしまった。なめらかに口内へ侵入してきた彼女の舌から逃れようとするが面白いほどあっけなく捕らわれ、ぎゅうと絡め取られてしまう。

言葉を封じられたため仕方なく心の中で一之瀬に対する思いつく限りの罵倒と悪態を並べ立てるも、気持ちだけでは何も生み出せやしない。

 

「くちゅ、んちゅう、んふう…!」

 

一之瀬がむしゃぶりついてくる。

重なる濡れた唇が品のない、いやらしい音を立てる。一之瀬の舌が、丹念に悪原の口内を味わい尽くす音がする。無理やりに送り込まれた彼女の唾液が、己の唾液とブレンドされる音がする。

それら全ての淫猥なサウンドは、容赦なく悪原の耳に届き鼓膜を震わせた。

 

そして悪原の意識がキスに奪われている間、一之瀬はいよいよ挿入の体勢に入っていた。すっかり性行為に慣れきった一之瀬はもはや挿入可能な角度を体で覚えていた。だからキスに夢中になっているにもかかわらず難なく幼馴染の亀頭を探り当て、割れ目へあてがえた。

そして一息に、腰を下ろしていく。ひくついている彼女の熱い肉壺は、ずぷぷぷぷ…と彼のそそり立った剛直をぬるぬると呑み込んでいく。同時に、膣内の細胞が辛抱たまらんとでも言わんばかりに全力で絡みつきにかかり、逃がさないと言うように締めつけ、奥へ奥へと連れ込んでいく。

 

「んむぅ、ちゅぷっ、はっ、んふうううぅぅぅぅ〜!」

 

幼馴染の肉茎が己を深く貫くほどに一之瀬は狂喜にもだえ、ますます深いキスを強制する。その勢いはもはや唇を重ねているというよりも、貪ろうとしていると表現した方が適切なまであった。

まさしくキスに溺れ、正気を失っているとしか思えない目で幼馴染を穴が開くほどに見つめ全身で幸福感に打ち震える一之瀬と対照的に、悪原はひどい頭痛と視界の明滅、さらには快楽と屈辱の責苦に見舞われ、苦悶の表情を浮かべていた。一之瀬に腕も口も塞がれている以上、もはや自傷による痛みでの気つけは不可能だ。あとは己の精神力にかけるしかないが、それも無駄な抵抗でしかなかった。一之瀬は悪原が限界を迎えるまで決して離れはしないし、腰を打ちつけるのをやめもしないだろうから。

だが、それでも抵抗をやめるという選択は彼のプライドが許さなかった。カラダは思い通りになってしまっても、心だけは…どれほど罪悪感の鎖に締め上げられても、快楽という甘い蜜に何度浸されても、己の心だけは決して許したくなかった。

 

その態度は一之瀬に決して小さくない苛立ちを与えるが…それも、破壊的な快感によって粉微塵にされて吹き飛んでいく。

 

 

──時計は時刻七時半を指している。

 

一之瀬帆波は昼までの間と言った。だがこれまでの経験上、昼と言っても、どんなに早く終わっても、確実に午後二時までは行為をやめず拘束してくる。悪原はつい時計を見てしまった自分を蹴り倒したくなった。絶望感で殴られたような気分だった。

 

……六時間半。その間、ふたりはずうっとひとつになっている。

片や、法悦の快楽に狂いながら。

片や、過去の過ちを悔いている。

 

 

かつての純粋な絆が、異世界の記憶のようにさえ思えた。

 

 

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