街の闇と同化する様に彼ことステインは新たな断罪すべきヒーローを求めて保須で動き回っていた。
死柄木弔、未だその身の内に信念を宿してはいない。その内に在るのは荒々しい暴力性、それを昇華させる事が出来れば、それこそ信念になるだろうと思えた。それ故に、見所があると思えた。
それはかつてステインが数年前に通った道でもあるのだから。
そうしている内に標的を見つけた。
彼が街のヒーローを狩る時には必ず、その街のヒーローの情報を頭に叩き込む様にしていた。少し前に断罪したヒーロー、インゲニウム。奴もヒーローの風上に置けない男だった。
ヒーローとは他を救うために自らを顧みずに他を救う。そこには見返りを求める事があってはならない、決して!
人を助けて富や名声が欲しいのであれば警察官や消防隊員になればいい。
偽物のヒーロー、ネイティブに奇襲を仕掛ける。
一太刀目は簡単に回避が可能な大振り。だが本命は刀と一緒に持っていた小型のナイフだ。
ネイティブに避けた方向にナイフを振ると容易くナイフの切先がコスチュームと肌を切り裂く。傷は浅かったが、それこそ狙いだった。
血の付いたナイフを口元に持っていく。血を舐めた瞬間、ネイティブの体がピタリと止まった。
「なっ...!体が…!」
ステインはネイティブの首を掴み壁に叩き付けた。
爆発の音と振動が微かに身を震わせた。
「騒々しい…阿呆が出たか…?後で始末してやる…」
程なくして燃える匂いが風に乗って彼の鼻腔をくすぐる。
「俺が為すべき事を為す」
ネイティブの最後の抵抗か、必死に睨みつけるが、それは何の意味も持たなかった。
「身体が…動かね…クソやろうが…!!死ね…!」
「ヒーローを名乗るなら死際の台詞は選べ」
ネイティブにトドメを指すためステインは右手に持つ刀を構える。
その時ふと気配を感じ右足を半歩動かしそのまま一気に刀を薙いだ。
刀は対象を切り裂く事無かったが、F1カーを連想させるような兜を弾き飛ばしその装着者をあらわにした。
「スーツを着た子ども…何者だ」
「ぐっ…!」
「消えろ、子どもの立ち入っていい領域じゃない」
ステインもヒーロー見習いであってもわざわざ子どもを殺す気は無かった。
そんな彼の警告を無視し、
「血のように紅い巻物と全身に携帯した刃物……ヒーロー殺しステインだな!そうだな!?」
少年は立ち上がりながら鬼気迫る様子で、吼える様に問うた。
「おまえを追ってきた……こんなに早く見つかるとはな!!僕は……」
「その目は仇討ちか。言葉には気を付けろ
「標的ですら……ないと言っているのか」
今の飯田の脳裏には病院のベッドの上に居る、痛々しい姿の兄の姿が見えた。
「では聞け、犯罪者…!僕はお前にやられたヒーローの弟だ…!!最高に立派な
飯田の耳に今も離れない兄の言葉が木霊する。
『この名…受け取ってくんねぇか?』
「僕の名を生涯忘れるな!!」
飯田はステインに、そして何より自分の心に刻み付けるかの様にその名を口にする。
「インゲニウム。おまえを倒すヒーローの名だ!!」
「そうか死ね」
また偽物が来た、と彼は思った。
ホークスは剛翼を街中に走らせ脳無を最優先で捕捉し、可能な限り被害を最小限に抑える為に、広場に脳無を集め保須のヒーローと共同で対処していたが脳無の数が多い上に、他のヒーローの援護も同時に行っていた。
今彼の目の前に居るのは先程眞司と常闇と交戦をしていた手足の長い脳無、コウモリの羽を持つ脳無、そして体格の良い黒の脳無だった。
(ここに2人から聞いていた脳無が居なくて助かった)
体格の良い脳無は聞いていた超再生、ショック吸収こそ無いものの皮膚は硬く、大羽根で斬り裂こうとしても微かに引っかき傷の様な痕を残すだけだった。
「だけど……こりゃあちょっと不味いかも」
軽口を叩くも状況は最悪だった。
黒い脳無は容易く乗用車を持ち上げ、円盤投げさながらのフォームで簡単に車をぶん投げて来る。
ホークスは背後で戦っているヒーロー達を剛翼で緊急回避させ、自身も宙に飛び回避を行う。
宙にいる彼を目掛け、黒い脳無は手当たり次第に物を投げつけて来る。
「それでいい!こっちを狙ってこい!」
命中すれば重傷は免れ無いだろう。それでも
ホークスが回避運動を取った瞬間、狙い澄ましたかのようにコウモリ羽の脳無が背中に取り付く。
「なにっ!」
両足で剛翼を掴み両手で彼の首を締める。
「せからしか!」
首を締められそうになった焦りからか、普段のホークスからは考えられない程、雑で乱暴なものだった。
しかし散弾の如く、顔面に撃ち付けられた羽は一応の効果はあった。
攻撃を嫌がったのか慌てて首から手を離して、羽を払おうとする。しかし剛翼は執拗に目等の感覚器官を狙い気を逸らし続ける。
そして脳無が一際大きく腕を振り、脳無の体制が崩れた瞬間、彼と脳無と体の位置を入れ替える
。
「そこっ」
それと同時に肉に硬いものがめり込む音が聞こえた。
黒の脳無の投擲のタイミング、距離、速度を計算し続けていたのだ。
脳無は声を上げホークスから離れた。
その途端、彼の体はガクン引っ張られ一気に高度が落ちる。
「狙いはそっちか……!」
上空に飛び去って行くコウモリ羽の脳無の足先には大量に赤い羽が掴まれていた。
ホークスの背中から離れると同時に剛翼を半分以上持っていかれる。
脳無はまるでイタズラが成功した子供の様にホークスを見つめ、笑っていた。
「このっ……!」
剛翼を失った事で急激に高度が落ちる。コウモリ羽の脳無の牽制を残った羽で続けながら降下し、距離を取る。その中で奪われた剛翼の制御を取り戻そうとするものの戻って来たのは僅かに12本とあまりにも少なかった。
約20mの高度を維持しつつ黒の脳無の投擲とコウモリ羽の脳無の強襲を警戒しながら広場を旋回する。
(まさか俺が空を奪われるとは……)
脳無に事実上の制空権を取られ、彼の胸中には焦燥感が募る。
(高機動は無理だがまだ何とかやれる…………手足の奴はどこに行った?!)
そう考えた途端、手足の長い脳無がビルの壁面からホークスの左足にしがみついた。
残った剛翼だけではホークスと脳無の体重は支えきれず地面に引きずり降ろされ
「しまっ……ッッッ!」
膝からぐきょっ、という嫌な音がホークスの鼓膜を響かせた。
辛うじて地面に降り立つと、満足したかの様に脳無は離れた。
他のヒーローの士気低下を防ぐ為にうめき声は辛うじて堪えたもののその事に意識を取られ、背後に迫る黒い脳無に対して反応が一瞬遅れた。
脳無は拳を大きく振りかぶると弾かれた様にその拳がホークスの顔面に迫ってきた。
その拳が頬に当たる刹那、その速度に合わせて体を回転させダメージを軽減する。
完全にダメージを相殺することは出来なかったがそれでも何とか四分の一に抑える事が出来た。
(連携が取れすぎとる……一体ずつなら何とか対処は出来る……ちゃけど数が、多い!)
何とか両足で立とうとしたが、左膝に激痛が走る。見ると膝が内側に約150゜の角度で折れ曲がっている。
口の中に異物を感じ吐き出すと、白い物が地面に転がる。それは彼の奥歯だった。
辺りを見渡すと保須のヒーロー殆どが倒れ伏し、立っているのは自分だけに思えた。
右手に持った大羽根を杖の様に地面に突き立て、左手の大羽根を指揮棒か、あるいは剣の様に正面に立つ脳無に突きつけた。
「来てみぃ!群れる事しか出来んお前等の相手は──俺がしちゃる!」
無謀である事はホークスも分かっていた。だが、この場にいる脳無を留め、被害を広げない為にも今、自らがやらねばいけない事でもある。
業火が、脳無の腕を文字通り消し炭に変えた。
「何をやっているホークス!」
「エンデヴァーさん!」
「お前らしく無いな、そんなに声を張り上げるなんてな」
「いやぁ……インターンで来てる子達にカッコいいとこ見せないとって思ったら……つい張り切っちゃいまして」
「……だろうな」
ホークスが見せるその姿は普段の飄々とした姿からかけ離れている。
コスチュームは泥と血で汚れ、その身体は満身創痍だった。
だがそれとは裏腹に街の被害と負傷者の数は驚く程少なかった。
「だが、今のお前の姿はこの場の誰よりもヒーローだったぞ」
エンデヴァーの言葉で、彼の胸に熱いものが込み上げてくる。
「……やだなぁ、エンデヴァーさん……」
遠い昔、
「流石にこれだけの数がおったら骨が折れるな」
白のコスチュームに黄色いロングスカーフを首に巻いた老ヒーロー、グラントリノだ。
「おじいさん、こんな所にいたら危ないですって」
グラントリノに背後から襲い掛かろうとした手足の長い脳無に対し、彼は更に背後に回り込んで踏み潰す様に両足蹴りをお見舞いした。
「舐めるなよ若造。ワシはこれでもまだ現役じゃぞ!それにな、足のひん曲がった小僧に言われる筋合いは無いぞ!」
「そっすね……」
ホークスはそう言ったもののグラントリノの存在は知っていた。
かつてオールマイトが
グラントリノが更に追撃を加えようとしたが、激しくもがき逃れた。
「チッ!しぶといなコイツら」
見ると彼らを取り囲む様に脳無達が集まって来ていた。
「すんませんがエンデヴァーさんとおじいさん……力を貸して下さい!」
ホークスがエンデヴァー達と即席のチームアップを組んでいる時、今にも駆け出そうとする眞司の肩を常闇が掴んで必死に制止していた。
「待て阿久津!今は俺達もホークス達の援護に回らねば!」
「プロヒーロー達も今は脳無で手一杯なんだよ!それに緑谷くんから来た」
その事は常闇もわかっていた。
脳無は次々にその数を増やし、現在7体の脳無がプロヒーロー達と交戦していた。
他のヒーローを援護しながら戦っているホークスは苦戦を強いられていたが、エンデヴァー、グラントリノの加勢もあり現在は何とか状況は拮抗していたがそれもほんの少しバランスを崩せばすぐにでも瓦解してしまうような危うい状況だった。
「市民の避難はもう完了しているし、常闇くん方がおれよりも強いからこっちをお願い!おれは緑谷くんの方に行ってみる!」
常闇の手を眞司はそっと下ろしたかと思うと眞司は一気に駆け出していく。
「阿久津!俺も状況が落ち着いたらすぐに行く、だからそれまでは無茶はするな、いいな!」
眞司の背中に常闇は叫ぶ様に言ったが、また何処かで爆発が起き電線が切れたのか街灯の灯りが全て消え、彼の姿は暗闇に呑まれ溶けるようにして見えなくなった。
随分と間が開き申し訳ありません…
次話は近いうちに投稿します。
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