眞司はいつも通り朝のトレーニングを終えてシャワーを浴び、自分の部屋に戻る。クローゼットを開け雄英高校の制服を取り出す。制服からは新品の匂いがした。制服に身を包むとひんやりとした生地の感触が心地良く感じた。
台所に行き朝食の用意をする。ご飯、インスタント味噌汁、出来合いの総菜。これらをテーブルに並べると
「いただきます」
朝食に箸を伸ばした。
味に関して感じることは何もなかった。もう10年近く似たようなものを食べてきた。
これが変わらない眞司の朝の風景だ。しかし変わることが一つある。今日から眞司は雄英高校に入学することだった。
「ごちそうさま」
食器を洗い、準備を整え玄関の扉を開くと振り返り言った。
「行ってきます」
誰も居ない家の中を眞司の声が小さく反響した。
電車と徒歩、合わせて三十分。桜並木のその先に雄英高校の校門が見えてきた。
早い時間のためか人通りは少なく、校門までの道中で雄英高校の制服を着た紅い髪の男子生徒とピンク色の髪の女子生徒が騒いでいるのを脇目に見ながらその横を通り過ぎようとした。
「おっ、阿久津じゃん!制服似合ってんな!」
眞司が振り返ると髪型と髪色が全く違う切島が立っていた。
「えっ切島くん!?その髪どうしたの?」
「あぁ、これはな…」
「高校デビューマンなんだよ切島!…って君誰?」
「俺は阿久津眞司よろしく、えっと…」
「私は芦戸三奈!阿久津君、切島から君の事は聞いてたよ!」
これからよろしくねと、芦戸はそう言って眞司に向けて腕を上げてくれた。
「こちらこそよろしく芦戸さん!」
眞司も腕を上げて挨拶した。
眞司達が教室までの道すがらどのクラスに編入されたかと会話していると。3人とも同じクラスであることがわかった。
「ねーねー、知ってる?今年のA組って例年とは違って21人何だって」
「え?そうなの、何で?」と切島。
「何か噂だとA組は特例措置で一人増えたんだって」
一旦分かれて三人はそれぞれの席に座る。
眞司の席は入口から数えて2番目、芦戸の席の前だった。
「お、席も近くじゃん!改めてよろしく!!」
芦戸の挨拶も終わるか終わらないかのうちにクラスの中央がにやかに騒がしくなった。
「机に足を掛けるな!」
「あぁん?」
「雄英の先輩方や机の製作者方に申しわけないとは思わないのか?」
「思わねぇよ!テメェどこ中だよ?端役が!」
眞司が目を向けると入試の時に見たきっちりしてそうな生徒がガラの悪そうな生徒に注意をしていた。
その二人の様子を眺めていると突然、二人が入口に目を向けたので眞司も目を向けると緑色の髪の生徒が立っていた。
「む、君は…おはよう!俺は私立聡明中学の…」
「聞いてたよ!ぼ、僕緑谷。よろしく飯田君」
「君はあの実技試験の構造に気づいていたのか…俺は気づけなかった…悔しいが君の方が上手だったようだ」
緑谷の後ろから茶髪の朗らかな感じの女子生徒が立っていた。
「あっ!そのモサモサ頭、地味目の!プレゼント・マイクが言ってた通り受かってたんだね!」
眞司は三人の会話を聞いて思い当たった。入試の0ポイントヴィランを倒したのは彼なのだと。
そして席から立ち上がり緑谷に近づいた。
「君があの0ポイントヴィラン倒したの!?あんな大きなヴィランを一撃で倒せるなんてすごいよね!」
「うん、ほんまにパンチ凄かったもん!!」
「お友達ごっこしたいのなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」
二人の背後に寝袋に包まった男がいつの間にかそこにいた。
「はい、静かになるまで8秒かかりました…時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
男はそう言って寝袋を脱いだ。
寝袋を小脇に抱えて教壇に立った。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
相澤の外見は髪は長くボサボサで、無精髭が伸び放題になっている。首には使い古された包帯の様な長い布が巻かれていた。腰にはポーチが幾つも取り付けられていた。
だから一見すると、誰がどう見ても担任ともプロヒーローにも見えなかった。
そして相澤は脇に抱えていた寝袋に手を入れ体操服を取り出し言った。
「早速だが、体操服来てグラウンドに出ろ」
相澤から具体的な説明も無く、眞司達新入生は相澤に言われるがままに配られた体操服に袖を通しグラウンドに出た。
「個性把握…テスト!?」
相澤はグラウンドに1年A組生徒が集まったのを確認すると全員にそう切り出した。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もしかり…中学の時からやってるだろ?個性禁止の体力テスト」
そして爆轟にボールを渡し、ソフトボール投げをさせた。手のひらから爆風とともにボールを放り投げた。記録は705.2mであった。
「まず自分の最大限を知る、それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
個性を自由に使えると聞いてクラスの空気が浮き立った。
「なんだこれ!!すげー面白そう!」
「個性思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」
誰かがそう言ったのを聞いて今まで気だるい顔をしていた相澤の目つきが変わった。
「…面白そうか……ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もり過ごすつもりかい?」
クラスメイトが嬉々としていた空気が一瞬で冷えた。
「よし、トータル成績最下位の者は見込み無し判断し、除籍処分としよう」
相澤の言葉を聞き、クラスメイト皆が青ざめた顔をしている中、表情こそ他と変わらないもののさらに青ざめた顔をしている者が二人いた。眞司と緑谷である。
緑谷は二月まで無個性であり、オールマイトから個性
「生徒の如何は”先生”の自由…ようこそこれが雄英高校ヒーロー科だ」
相澤の宣言を聞き、麗日は相澤に抗議した。
「最下位除籍って…!入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても…理不尽すぎる!!」
「自然災害…大事故…身勝手な敵たち…いつどこから来るかわからない厄災。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー。これから三年間、雄英全力で君たちに苦難を与え続ける」
「Plus Ultraさ…全力で乗り越えて来い」
結果で言えば緑谷はボール投げで指を折りながら705.3mと爆豪とほぼ同記録を出した。その後、爆轟が緑谷に突っかかった相澤によって速やかに抑えられた。
一方で眞司は他と比べて良い記録は出ず、辛うじて立ち幅跳びで7.05mと何とか記録は出したが総合成績を見れば他の生徒と比べて明らかに見劣りするものだった。
眞司は結果発表を悲痛な表情で待っていた。自分のような個性持ちが雄英に入学出来ただけでも眞司にとっては奇跡にも等しかった。
そんな眞司を気遣って切島が眞司に声をかけてくれた。
「なあ、阿久津顔色悪いけど大丈夫か?」
「うん…大丈夫…」
「そっか、しんどかったら言ってくれよ」
「ごめん…ありがとう」
そんな眞司の気持ちもよそに相澤は淡々と進めていく。
「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは無駄なので一括開示する」
相澤はスマホから成績結果を空中に投影させてから言った。眞司のトータル成績は21位。圧倒的最下位であった。
「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
眞司は唖然としていたが、そこかしこで同様の声が上がっていたが、良く通る女生徒の声が聞こえてきた。
「あんなのウソに決まってるじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…」
「そゆこと、これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから目ぇ通しとけ」
相澤は離れ際に緑谷に保健室利用書を渡して去っていった。
初日が終わり、眞司は切島と芦戸の三人で帰路についていた。
「それにしてもとんでもねぇな相澤先生、入学初日から個性把握テストに除籍処分で脅してくるなんて」
「でもほんとによかったよね、除籍がウソで!」
「あぁ、阿久津も除籍にならなくて本当によかったな!」
「……うん、そうだね…」
切島が眞司に話を振るが眞司はずっと浮かない顔だった。
「まぁ最下位だったのはショックだったのはわかるけどよ、何時までもくよくよしたって仕方ないだろ?」
「そうだよ、それに今が最下位ってことはこの先いくらでも成長出来るって考えれるじゃん!」
「そうかな…そうだよね…ありがとう、わざわざ励ましてくれて」
眞司は無理矢理笑顔を作り、二人にお礼を言った。
「いいってことよ!それに明日から頑張ろうぜ!」
「うん、頑張ろう…!」
そうして眞司達の雄英初日が終わった。