雄英高校入学二日目、授業が始まったが中学の時とさほど変わらない至って普通の授業だった。
昼は大食堂でクックヒーロー・ランチラッシュの料理を安価で食べることができる。
「だけど、ランチラッシュのご飯って好きじゃないんだよね…」
「どうしてだ?食べたことあんのかよ阿久津」
「食べたことはないんだけど、いつもランチラッシュ監修のパックご飯食べてるんだけどおいしいと思ったことがあんまりないんだ」
「でもあんまネガティブなこと考えないで一回食べてみようや!」
切島と二人で食堂に来た眞司は特にこれといって食べたい物が無かったので切島と同じカツ丼にした。
眞司が手にしたカツ丼は普段口にしていたものとは一目見た段階で違っていた。上に載っている豚カツからして輝いているように見え、そして透き通った宝石のような卵の黄色とその上に慎ましく乗せられた三つ葉の緑の色合いが一つの芸術品のように美しく見えた。
「切島君、早く行こう…!」
「お、おう…珍しいな阿久津がそんな風になるって…」
切島は眞司に急かされてテーブルに座った。
「…いただきます」
「…なにこれ……すっごくおいしい!」
家で食べていたパックの食事とは全く違った。まず卵とじられている筈なのにカツがサクサクと揚げたての食感と卵の絶妙な硬さ、半熟と完熟の丁度中間の様なトロトロとしつつもその硬さを感じられる卵。次に噛めば噛むほど溢れてくる肉汁と出汁のハーモニー、そしてそれらすべてを受け止める目立たないながらも最も重要なご飯。それら全てが合わさって…
「阿久津…泣いてるけど大丈夫か!?」
「う、うん大丈夫…ちょっとおいしすぎて泣けてきちゃった…」
「まぁ、確かに旨いとは思うけど…そんなにか?」
「本当においしい、こんなにおいしいの初めて食べたよ……でも、普段食べてるパックのと何が違うんだろう…?」
後日、眞司はパッケージを確認したところ ⺍ 一口一監修という、少し知識がある人間が見ればわかる有名なバッタ物だと知るのはそう遠くない話。
「そう言えばよ、午後からのヒーロー基礎学って何やるんだろうな?」
「何やるんだろうね、やっぱりまずは座学からじゃないかな」
昼休みも終わり、教室で待っていると
「わーたーしーがー!!」
テレビからよく聞こえていた声が教室に近づいてきた。
「来っ」
「普通にドアから来た!!!」
シルバーエイジコスチュームを着たオールマイトが勢いよく入ってきた。
そこかしこで興奮した声が聞こえてくる。しかし眞司にとっての憧れのヒーローはホークスなのでオールマイトに対してすごいとは思うものの心から興奮は出来なかった。
「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う科目だ!!単位数も最も多いぞ。早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!そしてそいつに伴って…こちら!!!」
オールマイトがそう言うと教室の壁がせり出し、そこには番号が振られた金属製のスーツケースがあり
「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた…」
「着替えたら順次グラウンド‐βに集まるんだ!!」
「はーい!!!」
「恰好から入るってのも大切な事だぜ少年少女!!」
全員が各々のコスチュームに身を包みグラウンド‐βに向かう。
「自覚するのだ今日から自分は…ヒーローなんだと!!」
眞司もホークスをイメージし参考にした真紅のフード付きジャケットとパンツ、それにのっぺりした黒いマスクと黒のインナー。手には父親から貰った手袋、足には切島と一緒に作ったプロテクター。それが眞司の望んだコスチュームだった。
「さあ!!始めようか有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!!」
眞司がグラウンド‐βに移動すると自然と切島と芦戸で固まっていた。
「ぃようお二人さん!いいスーツだね!」
「おう!阿久津も芦戸もいいコスチュームだな!」
「切島くんもカッコいいよね、でも芦戸さんはその…過激過ぎない?」
「え?いいじゃんこれ。それを言うんだったら切島なんて上半身ほぼ裸だよ」
「まあ…確かにそうかもしれないけれど…」
「良いじゃないか皆。カッコいいぜ!!」
全員が揃ったところでオールマイトが見回しコスチュームを褒めた。その直後、飯田がオールマイトに質問をした。
「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での
オールマイトの話によると状況設定は『敵』がアジトに『核兵器』を隠していて『ヒーロー』はそれを処理しようとしているので『ヒーロー』制限時間内に『敵』捕まえるか『核兵器』を回収する事。『敵』は制限時間までに『核兵器』を守るか『ヒーロー』を捕まえる事とカンペを見ながら説明をした。
「コンビ及び対戦相手は、くじだ!ちなみにA組は21人いるから一組だけ三人チームを組んでもらう!どこが三人になるかは秘密だ!!」
眞司がくじを引いたところ、くじにはIと書かれていた。同じIのくじを持った生徒を探していると後ろから声を掛けられた。
「ねぇねぇ君がI持ってる人?」
眞司が振り返ると誰もおらず、周りを見回しているとまた声が聞こえた。
「こっちだよ!こっちこっち!」
声のする方を見るとくじを持った手袋が浮かんでいた。
「私の個性は透明化だから体が見えないんだよね!これからよろしくね!」
声に合わせて手袋がブンブンと忙しなく動いている。
「こちらこそよろしく、えーと…」
「あ、そういえば自己紹介まだだったよね。私は葉隠透よろしくね!」
「よろしく、葉隠さん。ぼ…俺は阿久津眞司、個性はその…デスアクメ」
眞司が個性名を言った瞬間、峰田が凄まじい勢いで振り向き眞司を注視し脳内に80通りのエロシミュレーションを思いつきその事を眞司に言おうとしたが踏みとどまり考えた。
(言いにくそうにしてたからこれいじっちゃダメな奴だな……)
この峰田の判断と決断を眞司は知る由も無かった。
オールマイトがそれぞれコンビが顔合わせしたのを確認すると。
「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!!Iコンビが『ヒーロー』!!Aコンビが『敵』だ!!」
Iコンビ、眞司、葉隠。Aコンビ、緑谷、上鳴の組み合わせで屋内戦闘訓練が始まる事となった。
「敵チームは先に入ってセッティングを!5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。他の皆はモニターで観察するぞ!」
敵チームである緑谷が上鳴と一緒に核兵器周辺に水を撒いていく。
「なあ、緑谷これでいいか?」
「うん、今回の場合、上鳴くんの個性だと攻撃に出るよりも防衛方が圧倒的に有利だし、何よりも相手に透明化できる人がいるし、それにこうして水を撒いとくともしも完全に透明だったとしても音とか波紋で入ってきたことがわかるしね」
「なるほどな~、そしたら緑谷お前どうすんの?」
「うん、僕は開始と同時に出て上手い具合に二人をここに誘い込んでみるよ」
そして屋内対人戦闘訓練が開始された。
緑谷が拠点から出発し下層階へ降り、耳を澄ましながら慎重に進んでいく。すると走ってくる金属音が聞こえ、見取り図を思い出しながら背後に回れるように移動する。足音を立てないようにして眞司の後ろに近づき奇襲をしようとした瞬間、眞司の後ろ回し蹴りが緑谷のマスクを飛ばした。
「な、なんで!?気づかれないように近づいた筈なのにッ!」
緑谷は眞司の顔を見たがマスクで表情も目線の動きもわからなかった。そうしていると二撃目の蹴りが緑谷の膝を狙ったが転がりながら何とか避けると、横っ面にパンチを食らった。
(しまった、ちょっと考えればわかった筈なのに!)
緑谷はヒーローチームの狙いがわかった。眞司が囮として音を立てながら移動し背後から敵が来た際はその後方から見ていた葉隠が眞司に教えて2対1に持ち込む。
そして緑谷が眞司に対処しようとすると、葉隠の見えないパンチやキックが緑谷の攻撃を邪魔をする。
するとある段階から攻撃をするのが眞司だけだと気づくと、その意図を察知した。眞司は最初から最後まであくまで囮であり、本命は葉隠による核の確保だと。
「上鳴くん聞こえる!僕はヒーローチームと交戦中!今もう一人がそっちに行ってるから警戒して!!」
しかし上鳴からの応答は無かった。その時上鳴はたまたまインカムを外し耳を搔いていた。
「インカムって長時間付けてると耳が痒くなんな~」
それを知らない緑谷は更に焦った。
(まずい、まずい、まずい!オールマイトが見てくれているんだぞ!!それなのに僕は何も出来ずに終わるのか!!)
意を決した緑谷は眞司に背を向け、勢いよく走り出した。
「上鳴くん聞こえる!今から部屋の中央に大穴が空くから絶対にそこには立たないで!!」
「え?なんて緑谷…ってうわぁ!」
言い終わるや否や緑谷はアッパーカットの要領でデトロイトスマッシュを撃ち、その衝撃で上鳴は気絶をしてしまった。
「うっひゃあ…今のなに……って今がチャンス!ターッチ!!」
穴や瓦礫を避け、葉隠が核にタッチすると途端に勝敗を告げるオールマイトの声が聞こえてきた。
「ヒーローチームWIN!!」
訓練が終了すると、眞司はすぐさま緑谷のもとに向かった。
そこには先程まで新品だった緑谷のコスチュームは土埃で汚れ、何よりもその凄まじいパワーによってボロボロになり、個性把握テストの時のように赤黒くなった腕を抱えている緑谷の姿があった。
「大丈夫緑谷くん!!」
「うん…大丈夫…」
「大丈夫じゃないでしょその怪我!保健室まで送っていくから背中に乗って!」
眞司が緑谷を背負っていると、緑谷はしきりに誰かに対して謝っているようだった。ぼそぼそとしか聞こえなかったが眞司は上鳴に対して謝っているのだと思った。
「多分大丈夫だよ緑谷くん、その人もきっと許してくれるよ」
「ごめん、ありがとう……昨日から気になっていたけど阿久津くんのお父さんってアクツサポートアイテムカンパニーの人?」
「多分…そうだと思う…」
「え…?」
「いやおれ…あまり父さんのことよく知らないから…」
「あ…ごめん…」
「いいよいいよ、気にしないで。それよりもさ、緑谷くんもあんまり無茶したらだめだよ。俺、誰かが傷ついたりするの見たくないからさ…それに折角カッコいい個性持ってるんだからそれで怪我とか作っててもあまりよくないでしょ?」
「そう…だよね…」
「僕も自分の個性使いこなせてないから、これから一緒に頑張っていこ?」
「うん…そうだね……」
眞司は緑谷の声が涙声であるのに気づいたが、気づかないふりをした。切島が以前『男が泣いてる時は気づかないふりをするのも男らしさなんだぜ』と言っていたからだ。
その後も保健室に連れていくまでの間、とりとめもない話を淡々と続けていた。
緑谷を保健室まで送り届けた後、葉隠が廊下で待っていた。
「まっててくれたんだ…今日はありがとう葉隠さん」
「ううん、こちらこそありがとね、阿久津くん!そーだハイタッチしよ!ハイタッチ!!」
「あ、ごめん…手を触ったりするのはあまり好きは無いんだ。だから腕を胸のあたりまで上げてもらっていい?」
葉隠の手袋が胸より少し上の位置まで上がる。
「えっと…これでいいのかな?」
「うん、じゃあいくね」
眞司は自分の腕を葉隠の腕と思われる位置に当て。葉隠の腕の感触が伝わってきた。
「仲良くなった人に良くやってるんだ、だからこれからもよろしく」
「そうなんだ私もよろしくね!」
そして耳元に突然、吐息が当たり、葉隠が囁きながら言った。
「でも今、阿久津くんの腕、私の胸あたったよ♪」
「えっ…ウソ…!」
「う~そっ!じゃ、私先に行ってるね!」
「あっ!待ってよ」
葉隠は眞司に手を振りながら演習場に戻り、眞司はそのあとを追いながら、先生や切島意外の人付き合いも楽しいと思った。