※この作品はR-18です。

僕の個性はデスアクメ!   作:ボブボブリー

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雄英体育祭(1)

 USJ襲撃の翌日、雄英は臨時休校となった。

 その日、眞司は自分の右手をずっと見ていた、 その手は死柄木の手に触っていた時間が短かった為か、相澤の様に崩れることは無く、ひどい肌荒れ程度に収まっていた。

 

「相澤先生に怒られるかな…」

 

 眞司は今更ながら、自己判断で保健室に行かなかった事を後悔していたが、それよりも眞司の心の大部分を占めていたのは手袋の事だった。

 父から貰った手袋は崩れ去ってしまい、心の内で喪失感があった。眞司にとって父から貰った手袋は唯一の繋がりで、手袋をしていることで父に守ってもらっていると感じていた。

 個性デスアクメは相手の手に触れることで発動するが、布一枚挟めば発動はすることは無い。だが普通の手袋ではズレ、破れ、外れる可能性がある。実際、過去にあったように事故で個性を発動させた経緯から眞司は可能な限り、他人との接触は避けるようにしていた。誰かの手に触れず、個性を使わないと決めていた矢先に、敵であろうと個性を発動させた事は眞司に罪悪感を抱かせていた。

 

「父さん…母さん…」

 

 眞司はせめて今だけでも両親が居てくれたらいいのにと思った。

 

 

 

 

 休校が空け、眞司が教室に向かっていると何となく、普段よりも人の数が多いように思えた。

 

(どうしたのかな…?)

 

 そう思いながら教室に入り、眞司が自分の席に座り、一段落した時見計らったように蛙吹が眞司の席にやってきた。

 

「阿久津ちゃん、この間はありがとうね」

「この間って…敵が来た時の事?」

「えぇそうよ、私を敵から助けてくれた」

「気にしないで、俺が勝手にしたことだから…」

 

 眞司はそう言ったが、内心ではとても嬉しかった。今まで他人から感謝されたことは一度もなかったからだ。

 

「阿久津くん、手袋片方だけ違うんだね」

 

 蛙吹と話していると、葉隠が眞司の手袋を見て言った。

 

「うん、無くなったから、今代わりにしてるんだ」

「USJで敵を倒したんだってね!どうだった?」

「どうって言われても…オールマイトみたいにカッコいいものじゃないし…」

「皆ーー!朝のホームルームが始まる席につけー!」

「あっ、じゃあまた後でね!」

 

 飯田が一年A組の指揮を取る中、蛙吹と葉隠それぞれの席に戻り、葉隠の制服が眞司の方を振り向き袖が左右に手を振ってきたので思わず眞司も手を振り返した。

 教室の扉が開き、ミイラ男の様に包帯を幾重にも巻いた相澤がスっと入ってきた。

 

「お早う」

「相澤先生復帰早えええ!!!!」

 

 それぞれが相澤の安否の言葉が飛び交う中、それら全てが他人事であるかの様に口を開いた。

 

「俺のことはどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

 

 その言葉でクラス中がざわめく。敵はまだ雄英内にいるのか、それともさらなる敵による襲撃が予想されるのか…誰もが固唾を飲み相澤の言葉を待った。

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

「クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」

 

 またもや異口同音に口を揃えて叫んだ。

 しかし、敵に侵入されたばかりなのに大丈夫なのかと心配する声が聞こえるが、逆に開催することで雄英高校の危機管理体制が盤石だと示す狙いがあるとの事だった。

 

「何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねえ」

 

 雄英体育祭はかつてのオリンピックに代わるビッグイベントの一つ。そしてなにより、全国のプロヒーローもスカウト目的で観戦をする。名のあるヒーロー事務所に注目されれば、その分将来も明るくなる。

 

「時間は有限、プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回…計三回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ!」

 

 昼休みに入るとクラスの大半が雄英体育祭の話題で持ちきりだった。

 眞司は話に参加しそびれた上に切島も話の輪の中に入っていたので仕方がなく、今日は一人で食堂に行くことにした。

 食堂に行くと何時ものように大勢の生徒で賑わっていたが数分後にはお盆を受け取ることが出来た。

 

「轟くん、一緒に座ってもいいかな?」

「別に、勝手にしろよ…」

 

 眞司が席を探しているとたまたま轟の前の席が空いている事に気づき、入学から一度も話したことがなかったので話してみようと思ったのだ。

 

「轟くんって何時も食堂で食べてるの?」

「…………」

「俺も今日そばにしてみたんだけど実は、そば食べるの初めてなんだ」

「…………」

「そういえば轟くん、戦闘訓練の時爆轟くん達を氷の個性であっという間に戦闘不能にしててすごいよね!」

「…………」

 

 眞司が何を聞いても轟は答えず、黙々とそばを啜り続けるだけだった。轟には眞司の声は聞こえていないようで、その轟の反応に眞司は自分の父親のようだと思い、ただ淋しかった。

 轟がそばの汁を飲み干し、立ち上がろうとしていた。眞司はせめて最後にと思い轟に尋ねた。

 

「戦闘訓練の時とか襲撃でも炎の方は使わなかったけどどうして?折角カッコいい個性持ってるのに使わないなんてもったいないよ」

「カッコいい?俺の左が…?!」

 

 轟は椅子に座り直り、眞司を睨み付けながらそう言った。その目には憎悪の炎が燃えているように感じた。視線による圧力を受け、眞司は無意識に体を強張らせた。

 

「お前に俺の何がわかるって言うんだよ」

「俺には、轟くんの事はわからないけど…俺はただ俺の思った事を言っただけだよ」

 

 眞司はそこまで言うと、コップの水を飲んだ。それでも舌が乾き、耳の奥から心臓の鼓動が速くなるのを感じた。眞司はクラスメイトと会話しているの筈なのに、敵と対峙しているような気持ちになっていた。

 

「あんなクソ親父、口にするだけでも反吐が出る!」

「クソ親父って…お父さんにそんなこと言ったらだめだよ…」

「もう一度言うぞ…お前に俺の何がわかるって言うんだよ」

 

 眞司の持っていたコップの水が音を立てて凍り始めていた。見るとテーブルの上に乗った轟の右手から徐々に霜が広がってゆく。どうしてここまで、父親の事を怨む事が出来るのだろうと眞司は思った。

 

「何をしているんだ轟くん!!食堂で個性を使ってはダメだろう!!!」

 

 飯田が腕を振り回しながら眞司と轟のテーブルにやってきた。

 

「あぁ、すまねぇ……思わず出ちまった」

 

 そう言うと轟は改めて立ち上がり、お盆を持って去っていった。

 最後まで轟は眞司を睨め付けていた。

 

「まったく!後で相澤先生に厳重に注意してもらわないと!!」

「いや待って、多分…俺のせいだ……」

 

 眞司は先程までの事を飯田に話した。

 

「ふむ…まあ、轟くんにも轟くんの家庭の事情があるという事だろう。あまりこの件で我々が口を出すべきでは無いのかもしれん」

「そうかな…でも……」

「むっ!予鈴がなったぞ!阿久津くんも急いで食べて、走らずに教室に向かいたまえ!!」

 

 飯田は早口でそう言うなり早足で、食堂から出ていった。眞司も急いで目の前にあるそばをかきこんだが汁を吸ってぬるく、ブヨブヨになったなったそばは美味しいものでは無かった。

 

 

 

 

 二週間はあっという間に過ぎ、雄英体育祭本番当日。

 

 

 緑谷が控え室に行く途中で入場してきたマスコミや、警備を担当しているプロヒーローの姿が見えた。普段なら思わず興奮するところだが、今日の雄英体育祭に対しさすがにそれは控えていた。

 何より緑谷はオールマイトより、次世代の象徴として期待を託されていたからだ。

 

「頑張ります…オールマイト!……って!」

 

 緑谷は一人決意を口にしていると雄英体育祭の地図を持った背の低い女性とぶつかった。

 

「ごめんなさい!大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫。こちらこそごめんなさい……あら、あなたそのジャージを着てるってことは雄英の生徒かしら?」

「あっ、はいそうです!」

「私が居た頃から全然変わってないのね」

 

 女性は懐かしむようにして緑谷を眺めた。女性の身長は緑谷より20㎝低い140㎝台で顔は自分達の世代よりも少し年上かなっと緑谷は思った。しかし同時に、どこかで見たことのある顔だと思った。

 

「あの、失礼ですが昔雄英にいらっしゃったのですか?」

「そうなの!でも今日は観戦しに来たの。阿久津眞司ってあなた知ってるかしら?」

「阿久津くんなら僕と同じ1年A組ですけど会いに来られますか?」

「そうね…でもせっかくだしまた後にするわ!私が来たってことあの子に伝えておいてね!」

「阿久津くんのお知合いですかっ!…って行っちゃった……」

 

 緑谷の声掛けも空しく、女性はあっという間に観客席まで駆けていった。

 だが女性が去った後でも緑谷は既視感が抜けないでいた。

 

 

 緑谷が控え室に行くとどことなくピリピリした空気が漂っていた。

 

「阿久津くん、さっき君を知ってるっていう人が会いに来てたよ」

「知ってる人っていうと…先生かな?…男の人だった?」

 

 眞司が考える限り、この雄英以外において自分を知っている人間はそれぐらいしか思いつかなかった。

 

「ううん、僕達より少し年上の女の人だったと思う」

「う〜ん…じゃあ多分知らない人だと思う。ありがとう、教えてくれて。あと頑張ろうね体育祭」

「うん…だけど僕も本気で獲りに行く!」

 

 この時になって緑谷も理解した、自分と同様に皆、体育祭に全力で臨んでいることを。

 爆豪によるA組以外のすべての一年を敵にまわす選手宣誓という名の宣戦布告によって雄英体育祭は開幕することとなった。

 第一種目は障害物競争。全11クラスによる総当り、コースはスタジアムの外周4km、コースを外れなければ何をしても自由とミッドナイトの説明が終わり、スタートゲートのライトが消え始め、ライトが消えると同時に、全生徒が一斉に走り始めた。だがスタートゲートが狭いせいでいきなり大半の生徒の動きが阻まれた。

 眞司は申し訳ないと思いながら身を捩り、隣の男子生徒の肩を土台にして一気に跳躍した。

 瞬く間に大勢の足を襲う轟の氷結が動きを止めた。

 眞司と同様に轟の氷結を回避したクラスメイトの姿が見えた。

 

「轟のウラをかいてやったぜ!ざまあねえってんだ!!くらえオイラ必殺の…」

「峰田くんっ!」

 

 言い終わる前に何者かが峰田を吹き飛ばし、眞司は思わず駆け寄った。

 周りを見ると、入試の時の仮想敵が大量にいた。

 先頭にいる轟が正面の0ポイント敵を一気に氷結させ、動きを止めている間に下から潜り抜けていった。轟に続こうと切島ともう一人が行ったが通り抜ける前に氷結していた仮想敵の足が折れ、その頭上に覆いかぶさった。

 その後ろ姿を見ていた眞司は他の生徒を押し退け、崩れた0ポイント敵の所に駆け寄った。周りから「死んだんじゃねぇか?」という囁き声が聞こえた。しかし突如、頭上から切島の声がした。

 

「死ぬかぁー!轟のヤロウ!ワザと倒れるタイミングで!俺じゃなかったら死んでたぞ!!」

「切島くん!大丈夫だった!?」

「すまねぇな阿久津!心配かけちまった!…でもすまねぇ、足が引っ掛かって動けねぇ…!ちょっと引っ張ってもらえるか?」

「わかった!腕に掴まって!」

 

 眞司が切島を引っ張っていると、すぐ側からまた声が聞こえてきた。B組の鉄哲徹鐵である。

 

「A組のヤロウは本当嫌な奴ばかりだな…!俺じゃなかったら死んでたぞ!!しかも足が引っ掛かって動けねぇ!」

「B組の人(奴)!!」

 

 それに驚いた切島は思わず手が滑り硬化した手で眞司の手袋を切り裂いてしまった。

 

「あ!!すまねぇ阿久津…っていうか個性ダダ被りかよ!それに何でお前も足が引っ掛かってんだよ!」

「うるせぇ!引っ張っちまったもんはしょうがねえだろ!!」

「それよりも切島くんは先に行って!俺はB組の人を引っ張り上げてから行く!」

「いいのかよB組だぜそい」

「いいから早く!」

 

 切島は一瞬だけ不服そうな顔をしてレースに戻っていった。

 

「さ、早く腕を掴んで」

「すまねぇ、A組にもいい奴居るんだな」

「うん、僕なんかよりいい人はいっぱいいるよ」

 

 そして鉄哲は眞司の腕ではなく、手を掴んだ。

 

「あ゛っ!!手じゃなくて…!」

「え?………お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!イ゛ク゛イ゛ク゛イ゛ク゛イ゛ク゛~~~~!!!♥♥♥♥♥♥♥」

 

 鉄哲は大声を上げ、白目を剥き口から泡を吹きながら気絶した。

 眞司が呆然としていたところ、救護ロボが駆け付け手際よく鉄哲を引っ張り出し

 

「行動不能ニナッタ人間ハコチラデ回収スル。サッサト競技二戻レ、ボケナス」

 

 そう言って去っていった。それを聞きハッとした眞司はレースに復帰し、仮想敵の足元をかいくぐり第一関門を突破した。

 第二関門、ザ・フォールは難なくロープを渡り。最終関門、一面地雷原、怒りのアフガンは慎重に全力で走りながら何とかゴールし順位は17位となった。

 

 42名が予選を突破し、ミッドナイトから本戦の説明された。競技内容は騎馬戦、それぞれに順位に基づき持ち点が割り振られる。中でも1位の持ちポイントは1000万が与えられる。制限時間は15分、振り当てられたポイントの合計が牙の合計となり、騎手はそのポイント数が表示されたハチマキを装着する。終了までにハチマキを奪い合い、保持ポイントを競い合う、といった内容であった。

 眞司は誰と騎馬を作るか決めあぐねていた。

 

「なぁ、あんた」

「はい?」

 

 振り返り返事をした眞司が気が付くと、騎馬戦を3位で勝ち抜いていた。

 

「ご苦労様、助かったよ」

 

 そう言われて肩を叩かれた。

 眞司はすぐには気づかなかったが2週間前にA組に来た普通科の生徒だと思い出した時にはすでに眞司の前から去っていた。

 トーナメントのくじを引き終わると組分けも見ずに眞司はスタジアムを離れた、今は真っ先に行きたいところがあったからだ。

 

「リカバリーガール先生、入っても大丈夫ですか?」

「ん?何だいアンタも治癒してもらいたいのかい?」

「いえ、そうじゃなくて…障害物競争の時に運び込まれてきた人に謝りたくて……」

「ああ、あの子かい…全身運動を500時間くらいしたのかと思ってびっくりしたよ。まだ全快じゃないけど、今はもう起きてると思うから、会ってやんなさい」

「はい…ありがとうございます……」

 

 眞司が奥に進んでいくと聞こえないように独りごちた。

 

「まったく、あの子もかわいそうだよ…本人はあれだけやる気があるのにね……」

 

 カーテンを開くと鉄哲がぼうっと天井を見ていた。

 

「入って大丈夫かな?」

「おう、さっきのA組の人か…」

 

 競技の時とは違い鉄哲は弱弱しくそう言って起き上がろうとしたが眞司はそれを止めた。

 

「あっ、そのままでいいよ」

「そうか、すまねぇな……」

「謝るのは僕の方だよ…君を、こんな目に合わせちゃって…」

「気にすんな……それにしてもビックリしたぜ!あんた手を触った瞬間、チンチンがカチカチで股間がアツアツになっちまうんだからな!!」

 

 鉄哲が眞司の為に努めて元気に振舞っているように見えた。

 

「でもよ、俺は今回は運が無かったけどあんたはイケた。だからそれだけだ…でも、もしあんたがそれでも気にするなら、トーナメント戦は俺のために頑張ってくれ。それであんたのやりたいようにやってくれ」

「…ありがとう……」

「それから、何時までもあんたとかA組の人じゃ締まりが悪いから名前教えてくれねぇか?俺は鉄哲轍鐵」

 

 そう言って鉄哲は手を差し出したが、すぐに引っ込めた。

 

「…っとすまねぇ、すぐ忘れちまう」

「ううん、大丈夫。腕を出して、友達とやる時はこうしてるんだ」

 

 眞司の言う通りに鉄哲は腕を伸ばした。

 

「僕は阿久津眞司、よろしくね、鉄哲くん」

「おう!よろしく!」

 

 そうして二人は腕をぶつけ合った。

 眞司が出張保健所から出て、改めてトーナメント表を見に行こうと通路を進んでいくと、背後からまた声を掛けられた。

 

「眞司!」

 

 同じころ、騎馬戦で敗れた緑谷がハッとしていた。

 

「思い出した!!!」

「っえ!どうしたんデクくん?」

「いや、開会式の前に僕と会った女の人」

「ふんふん、その女の人がどうしたん?」

「コスチュームじゃ無いし、最近活躍が少なかったから忘れてたんだけど、今思い出した……管理ヒーロー、マネージメントガール…阿久津くんのお母さんだ」

 

 

 

「母さん……」

「大きくなったわね眞司」




 これからできる限り週一更新を目指します。
 遅くなりましたが評価と感想ありがとうございます。
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