雄英体育祭が発表された最初の休み。
眞司はいつも通りに朝のトレーニングを終えて汗を流した後、自室に籠っていた。
カーテンを締め切った暗い室内でパソコンに向き合っていた。ヒーロー特集の過去番組を見ていた。クラスの緑谷がヒーローに関する情報を集め、ノートにまとめていることを聞いたので眞司も緑谷の様にヒーローの情報を集め、ここ最近は彼なりに自分のノートを作ることにした。
何人かの近接系のヒーローをピックアップし、動きや必殺技の映像を何度も見返し、要点をノートに書きこんでいく。
その後は映像を撮る。
練習を録画しては見返し、また練習を繰り返す。
閉めきられた室内に外気温と眞司の体から発せられる熱とが徐々に室内に籠り、眞司の体から汗が噴き出してくる。
そうして反復練習をしていると机の上に置いてあったスマホが部屋に鳴り響く。
スマホを確認してみると未登録の番号だったが眞司は電話に出た。
「はい、阿久津です」
「あ!阿久津くん?葉隠だけど、突然だけど今日って空いてるかな?」
電話の相手は葉隠だった。
眞司は先日、葉隠と連絡先を交換したが、登録することを忘れていたことに今気づいた。
「特に予定とかは無いけど、どうしたの?」
「もしよかったらこの後遊びに行かない?」
「えっ!?うん!行けるけど!何時ごろ集まる?」
「うーん…じゃあ1時間後に駅前とかどうかな?」
眞司が時計を見ると、今は13時を少し過ぎたところだった。
「わかった!15時に駅前で」
「うん、じゃあまた後でね」
電話を切ると眞司は準備を始めた。
再びシャワーを浴び、簡単に汗を流す。
クローゼットからズボンとトレーナーを取り出し身支度を整え、最後に左右バラバラの手袋を着けて家を出た。
少し早めに着いたので、わかりやすい様に駅前のモニュメントの前で待つことにした。
その間も眞司は脳内で先程までの練習を思い返していた。
眞司が切島以外の人から遊びに誘われる事は初めてだった。しかもそれはクラスの女の子からだ!
だから今現在眞司は、頭の中で何かを考えていないと不安だった。
そうして立っていると横から声をかけられた。
「おまたせ阿久津くん、待った?」
眞司の肩が一瞬跳ねる。
横を見ると水色の薄手のパーカーにオレンジ色のシャツとショートパンツ、そしてポシェットを斜めがけにした葉隠がいた。
葉隠は透明なので眞司からはあくまでも服が浮いているようにしか見えなかった。
「大丈夫、今来たとこ」
「よかった~、じゃ行こっか!」
「行くってどこに?」
「あそこ!」
葉隠の袖が指す先を見ると眞司も聞いた事がある大型商業施設だった。
「2日前からパフェでキャンペーンやっててね、ペアで行かないと貰えないから阿久津くんを呼んだの。感謝するといいよ!」
「そうだったんだ…ありがとう」
「もー!そんなマジで返さないでよ!……お気楽にいこ?」
「わかった、じゃあ行こうか」
葉隠の先導で商業施設の中を進んでいく。
眞司が葉隠の後ろを歩いていると、ふとした瞬間に透明な彼女の存在が感じられる事があった。
歩くたびに葉隠の甘い香りがし、そして風が吹くと、たまに眞司の頬に何かが当たる感触があり、何だろうと考えると葉隠の髪が当たっているのだと気付き、胸がドキリと高鳴った。
「さ、着いたよ!」
店の前には行列が出来ており、店員が店の前で行列を捌いているのが見えた。
眞司が列を観察していると行列の大半は男女のペアなのだと分かった。
待っているうちに眞司達の番が回ってきた。
「いらっしゃいませ!それではカップルフェアの恋人繋ぎをお願いします!」
「え?」
「わかりました」
葉隠がそう言うと、彼女の指先がそっと眞司の手に触れた。驚いて目を向けると、彼女は笑顔だが少しだけ不安げな表情を浮かべていた。それでも彼女の手は眞司の指を一本ずつ探るように絡めていく。
手袋越しに細く柔らかく温かくて確かな感触が広がり、心臓が少し速くなるのを感じた。
指が全て重なり合った瞬間、眞司は力を込めて握りしめた。
それが眞司の胸に温かいものを溢れさせた。
それを見た店員が言う。
「ありがとうございます。ではどうぞ、店内にお進みください」
店に入った後も席に着くまでしばらく二人は、手を繋いだままだった。
「…阿久津くん…そろそろ手、離そっか…」
葉隠に言われ眞司は慌てて手を離した。
「ごめん、葉隠さん…俺…」
「全然大丈夫!それよりも早くパフェたのも!今日はこれを食べに来たんだからね!」
「…うん」
葉隠がパフェを注文してテーブルに運ばれてくるまでの間、二人は気まずさを紛らわすようにこれから始まる雄英体育祭の事を話し合った。
「あれ…葉隠さんこれでいいの?」
「うん、これでいいよ」
テーブルに運ばれてきたパフェは1つしかなく、スプーンは2つ刺さっていた。
「さ、食べよっか!」
パフェを見ると、サクランボがふんだんに載せられ、どう食べていいのか分からなかった。そんな眞司を横目に葉隠はパクパクと食べ、文字通り消えていった。
眞司が葉隠を見ながら恐る恐るスプーンを伸ばし、
「大丈夫!それよりもさスプーン落ちちゃったから私があーんさせてあげるね!」
「えっ?恥ずかしいからいいよ」
「ダーメ!今日はデート何だから眞司君は私のスプーンで食べないと駄目なの」
そう葉隠に押し切られ結局、眞司は葉隠さんにあーんさせられた。
その味は甘酸っぱかった。
「あ~美味しかった。阿久津くんあんまり食べて無かったけど…もしかして、甘いの苦手だった?」
眞司はスプーンを一度店員に交換して貰ったが結局、葉隠はパフェを殆ど一人で食べてしまった。
だが眞司はそれで満足だった。姿が見えずとも楽し気にしている葉隠を見てるだけで十分だった。
「じゃあ俺、お会計してくるね」
「お金出すから待って」
「いいよ、俺が出すから」
「えー、でも悪いよ」
「ううん、今日葉隠さんに誘って貰ったし、折角だからここは俺に出させて」
「そぉ?じゃあ仕方ない、阿久津くんに出す権利をあげよう!」
「わかった、じゃあ行ってくるね」
「あれ?葉隠さん、スプーン持って帰ったらダメなんじゃないの?」
眞司が会計を済ませて葉隠の元へ行くと、さっきまで使っていたスプーンを店の外に持ってきていた。
「見て見て!このスプーン、持ち手が手の形になってて、こうやって二つ合わせると手を繋いでるみたいになるんだよ!ね、可愛いでしょ?阿久津くんにピッタリだと思って、あげる!」
「え…いいの?俺なんかに?」
「そういう言い方はダメだよ!阿久津くんにこそ持っててほしいなって思ったんだ♪」
「ありがとう……大事にするね」
「うん、そう言ってくれると嬉しい!大事にしてね、阿久津くん!」
差し出されたスプーンを両手で受け取りながら、眞司は葉隠は満面の笑顔を浮かべているのだろうと思った。
その後、眞司達はしばらく寄り道をしてから来た時と同じく駅で別れた。
眞司は家に帰るとストレッチをしてから、また練習を再開した。
視界にはキラリと輝く物が常に彼の視界に入っていた。
一週間で更新すると言いながら、かなり遅くなってしまい申し訳ありません…
近日中に更新する予定です。
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