ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
如月を嫁とする提督の方々、この場を借りて彼女のご冥福をお祈りします。花田、許すまじ。
前回癖について話しましたが、コメディとシリアスを不自然な形で一緒にするのが花田の癖なのかもしれないな。好きじゃないけど。
無駄話が過ぎました。本編、どうぞ。
「それじゃあ行ってきまーす!」
玄関から穂乃果の元気な声が響く。朝食を取っていた俺は慌てて居間から飛び出した。
「穂乃果! ちょっと待ってくれ!」
「ほぇ? どうしたの悠くん?」
彼女の質問にも答えず自分の部屋へと突進していく。机に置いてあったそれを引っ掴むと急いで階段を駆け降りる。
「どうしたのですか、穂乃果?」
「急ごうよほのかちゃん」
玄関にはいつもの二人もいるみたいだ。また何か言われるかも知れないが、そんなこと気にしてる場合じゃない。
「これ、持って行け!」
息を切らしながら穂乃果にそれを差し出す。穂乃果は瞬きしながらそれを見つめる。
「お守り?」
「ああ。昨日神田明神で買ってきた。ライブが上手くいきますようにってな」
「悠くん……」
穂乃果はうっとりとした表情で俺を見る。よかった。喜んでもらえたな。
「お守りですか。悠も粋な事を――」
穂乃果の手元にあるお守りを見て、海未の表情が固まった。
「よかったね、ほの――」
続いてことりも同じ反応をする。
二人そろってどうしたんだ? 俺も手元にあるお守りを覗いてみる。
「あ」
思わず声が出てしまった。紫の布で包まれたお守りには金色の糸で「安産祈願」と裁縫されていたのだ。渡された当の本人はお守りを貰ったことが嬉しいのか、全く気付いていないようだ。
「悠、私達の前でいい度胸ですね?」
海未が俺の肩を掴む。万力の様な強さで握られた俺の肩はめきめきと音をたてている。
「ゆうくんったら、面白い冗談が好きだね♪」
ことりがうふふと笑っている。その笑顔からは殺気にも似た何かを感じる。
「いや、違う! これは巫女さんに選んでもらっただけで――」
「穂乃果との間に子供が出来ますように、と願って選んでもらったんですね?」
「ほんっとうに面白いね♪」
ずい、ずい、と海未とことりはにじり寄ってくる。冷や汗が止まらない。身体の震えが止まらない。父さん、母さん、ごめん。俺は、一足先に逝くよ。
「悠くん! ありがとう!」
穂乃果の声に二人がぴたりと止まる。視線を穂乃果の方へ向けると彼女は満面の笑みを向けていた。
「穂乃果が喜んでいるなら仕方がありませんね」
「そうだね」
穂乃果の笑顔を見て二人も納得したのか、威圧感が薄れていく。とにかく、助かった。
「穂乃果、頑張る! だから悠くん、約束守ってね!」
「約束?」
「やくそく?」
穂乃果の言葉に二人がまた動きを止める。次の瞬間、さっきとは比べ物にならない程のプレッシャーが俺を襲う。
「約束って何なんでしょうか……。気になりますねぇ、ことり」
「ことりも、すっごく知りたいなぁ……」
「お、落ち着け二人とも。大した約束じゃ……」
「何ですか? 先程のお守りのこともありますし、子供を作ろうとかそういった約束なんでしょう?」
「うふふ~。ゆうくんったら、おませさんなんだから~ 心臓を啄ばんじゃうよ?」
再び詰め寄られる。この二人なら本当に俺を葬り兼ねない。
「海未ちゃん、ことりちゃん! 悠くんから離れろ~!」
俺達の間に穂乃果は割って入って来た。頬を膨らませ、二人を睨んでいる。何はともあれ、助かった。
「そろそろ行こうよ~。本番前の練習もあるんだし!」
「そ、そうですね……」
「うん、行こうか……」
「じゃあ悠くん! 行ってくるね!」
「おう。後で見に来るからな」
親指をたてて笑顔で見送る。それに穂乃果も笑顔で応えてくれた。
少しずつ小さくなっていく三人のシルエットを見送ると俺は家へと戻る。すると携帯が俺の腰で震えた。
「ん?」
取り出してメールを確認すると海未からだった。さっき別れたばかりなのに何の用だろう。
『ライブが終わったら、約束の事、教えてもらいますからね。校舎裏に来て下さい』
その文章に背筋が凍りついた。そして再び携帯が震える。震える指で操作し、新着のメッセージを開く。
『逃げたら許さないちゅん♪』
ことりからだった。俺は空を見上げる。青く澄み渡った、ライブには丁度いい空。
神よ、もし本当におられるのでしたら、穂乃果との約束を守れるように、力をお貸し下さい。
俺は青空に祈った。
「あれ、悠さんもお出かけ?」
玄関で靴を履き慣らしていると雪穂が声をかけてきた。
「ああ。ちょっとな」
「もしかして音ノ木坂学院に?」
ぴたりと動きが止まる。この子には何でもお見通しだな。
「なんでわかった?」
「悠さん制服着てるし、こんな日に制服を着るのは余所の学校に行く時だけでしょ?」
彼女の鋭さに思わず感心する。
「雪穂には何でもお見通しだな」
「わかるよ。だって――」
雪穂の言葉が途中で途切れる。どうしたんだろうとそのまま見つめているといたずらっ子の様な笑顔で笑う
「お姉ちゃんと同じで悠さんって解りやすいからね」
「なんだそれ」
俺も自然に笑顔になる。やっぱり姉妹だな。一緒にいると笑顔になるのは姉と同じだ。
「そう言う雪穂も制服じゃないか。学校の説明会か?」
「ご明察。私も音ノ木坂に行くの」
「穂乃果のライブを見に、か?」
俺の質問に彼女は苦笑いする。
「ライブはおまけ。学校説明会が本命だよ」
「まあそりゃそうか。三年生だもんな」
中学三年生になる雪穂は受験を控えている。そろそろどこに進学するか考えをまとめなければならない時期だ。
「雪穂も大変だな」
「そんなことないよ。どこに行こうか少し決まってるようなもんだし」
そう言って笑う彼女の表情はどこか少し寂しさが混じっていて。
「用意はもう出来てるのか?」
「あ、うん」
「じゃあ一緒に行こうぜ」
無意識のうちに誘っていた。少しは雪穂の力になれるかもしれないと思ったから。
「はい!」
雪穂も嬉しそうな笑顔で靴に手を伸ばした。
「雪穂は、志望校は音ノ木坂なのか?」
陽が高く町を照らす。アスファルトが日光を吸収して熱さがむわっと立ち昇る。そんな道を雪穂と歩く。
「うーん、どうかな。UTXってとこにしようかなーって考えてはいるんだけど……」
UTX。秋葉原駅前のビルの中に入っている学院。豪華で最新式の設備が整っているのがウリで入学希望者を増やしている。芸能科と呼ばれる学科が存在し、そこに所属するスクールアイドルが絶大な人気を誇っているそうだ。
「迷っているのか?」
「そういうことに、なるかな……」
雪穂の表情が少し曇る。視線がアスファルトへと落ちる。
「私だっておばあちゃん、お母さんやお姉ちゃんと一緒の制服を着て、一緒の学校に行きたいよ。でも廃校って話が出て、それが出来なくなって……」
鼻を啜る音が聞こえる。俯いているから表情は見えないが、彼女が小さく泣いているのがわかった。
「でもさ、まだ廃校って決まったわけじゃないだろ?」
「そうだけど……」
「雪穂みたいに、本当は音ノ木坂に入りたくても入れない子の為に、穂乃果は頑張ってるんだ」
「でも廃校ってアイドルグループ一つの力でどうにかなるの? なるとは思えないんだけど……」
雪穂の気持ちも解る。穂乃果はスクールアイドルを利用して、自分の学校を有名にして入学希望者を増やそうと考えているが、そんなに簡単な問題じゃない。そもそも廃校になりかけている学校に説明会に行こうと考える人は多くなく、まず注目してもらう人数が圧倒的に少ないだろう。穂乃果達が目立てる確証もない。けど、それでも。
「でも、穂乃果ならやれる気がすると思うんだよ、俺は」
「どうして? どうしてそこまでお姉ちゃんを信じられるの?」
雪穂の口調が少し荒くなる。俺が穂乃果を信じている事が少し気にいらないような、そんな口調だ。
「可能性を感じたから、かな」
「え?」
俺の答えに雪穂は理解出来ないような表情をする。答えた俺自身上手く纏められない。
「なんかさ、あいつが廃校を何とかしたい、って言った表情が、眼差しが本当に真剣だったんだ。このオトノキが好きで、学校が大好きで。好きなことに一直線でいられる奴なんだよ、あいつは」
雪穂はくすりと笑うと呟いた。
「それって馬鹿ってこと?」
「まあそうとも言うな。でもそんな馬鹿だからこそ、好きなものの為に迷わずに行動出来る馬鹿だから『本当にこいつなら実現出来る』って思えるんだよ」
自分の中で再確認するように言葉を紡いでいく。その言葉に雪穂は意味ありげに笑う。
「ずいぶんお姉ちゃんのこと見てたんだね」
「一応あいつの相談訳だしなそれに――」
そこで言葉が詰まった。「穂乃果の事が好きだから」と雪穂に言っていいものだろうか? 言ったらどうなるのだろうか? そう思うと言葉が出てこなかった。
「それに?」
雪穂の言葉に慌てて言葉を選ぶ。
「一番傍でとは言えないかもしれないけど、頑張るあいつの姿を見て来たからな」
「そう、だね。お姉ちゃん頑張ってきたもん、ね」
雪穂は俯きがちに歩く。まだ不安なのかな?
「とにかく、だ。あいつを信じてやれよ。雪穂の為に、後から続く者の為に全力で頑張っている穂乃果をさ」
「うん、そうだね。そうだね……」
頷くとにこりと笑顔を見せてくる。でも少し無理をしているような気がして。
「雪穂――」
「そうだ! 悠さん、わがまま一つ言ってもいい?」
俺の言葉を雪穂の笑顔が遮る。
「え、今ここでか?」
どんな無茶ぶりを要求されるのだろう? 少し身構える。
「時間も時間だし、私にお昼ご飯おごってよ!」
「昼飯? そんなんでいいのか?」
「うん。今月ちょっと厳しくてさ。いい?」
首を斜めにしておねだりしてくる。そのしぐさに少しどきりとする。
「わかった。元より一つなんでも言う事聞くって約束だったからな」
「ありがとう、お兄ちゃん☆」
嬉しそうに抱きつく。柔らかな身体が俺にくっついてくる。
「こら、町中で抱きつくな!」
「これが最後だから――」
小さく雪穂は呟いた。俺はそれの意味がよくわからなかった。
「雪穂?」
「さ、行こ!」
ぱぁっと明るい笑顔で俺の手を引っ張る。さっきの呟きは気のせいだったのかな?
俺は雪穂に引っ張られながらも走りだした。
Side 雪穂
「じゃあ悠さん、私はここで」
音ノ木坂学院正門前。ここで彼と別れることにした。
「一緒に行かなくていいのか?」
彼は私のことを心配してくれる。その優しさが嬉しくて、少し辛くて。
「大丈夫ですよ。友達と一緒に廻ることにしてたから」
自分が出来る精一杯の笑顔で応える。それに納得したのか、彼は「そっか」と微笑む。
「お昼ご飯、ごちそうさまでした」
少し礼儀正しくお辞儀する。すると彼は苦笑いする。
「俺は君のお願いを聞いただけだよ」
「そうですね」
えへへと笑って視線を外す。すると丁度いい所に友達の姿を見つける。
「じゃあ行ってきます!」
「おう、いってらっしゃい」
彼の笑顔に応えることなく、私は走り去った。
「雪穂~!」
「亜里沙!」
友達の亜里沙と合流する。クリーム色の髪がぴょんぴょんと揺れる。
「ついに今日だよ! μ’sのライブが見れるよ!」
「亜里沙ったらはしゃぎ過ぎだよ」
苦笑いするともう一人の友人の顔が浮かぶ。
「あれ、栄一は? 一緒に行くって聞いてたけど?」
「うん、一緒にここまでは来たんだけどはぐれちゃった」
「そう」
今栄一はいない。ここには私と亜里沙だけ。ちょうどいいか。
「わ、雪穂?」
「ごめん亜里沙、少しだけ、少しだけこのままにさせて……」
私は彼女を抱きしめて、声も無く泣いた。
あぁ~亜里沙がぴょんぴょんするじゃあ~。亜里沙の髪の色これでよかったかな? 手元にカラーの資料が無いもので……。間違っていたらご指摘下さい。
本来ならこの回で告白も済ませるつもりだったのですが、急遽雪穂とのフラグ回収を優先させました。楽しみにしてた方、申し訳ない! でもここ書かなきゃいけないと思ったので……。
これ以上書くとだいぶ長くなってしまうので今回はここまで。読者の皆さんが読みやすい量ってどの位なんでしょうか? 気付けば五千文字をオーバーしていることはよくあることなので、五千文字前後で話を作りたいと考えています。
今回は雪穂は失恋(?)したのですが、機会があれば雪穂ルートを書いてみたいと思います。
ご意見ご感想お待ちしてます。