ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
物語は文化祭へと進みます。気づいたら前後編になっちゃった。それでは前編どうぞ。
『あと二年で絶版の音ノ木ノートいかがですかー!』
『ここでしか手に入らない音ノ木の制服を販売してますよー!』
音ノ木坂学院の敷地。そこに聞こえる生徒達の声。これが最後かもしれないと精一杯声を張り上げている。今日は音ノ木坂学院の文化祭だ。穂乃果達μ’sのライブもあるからか、男性客も多い。
「最後最後って、それでいいのかね」
彼女達の呼びこみの文句に付けられる、「最後」という言葉。穂乃果達が頑張っているのにそれをあざ笑うように聞こえて少し不快感を覚える。でも穂乃果なら「売れるためなら仕方ないんじゃないかな」って言いそうだな。饅頭屋の娘なだけあって商魂たくましいな。
「あ、おにーさん!」
「り、凛ちゃん!」
一人歩く俺の背に人懐っこい声がかけられる。その声に続く、少し気弱な声。振り返ると二人の女の子が俺に近寄って来ていた。穂乃果の制服のリボンと比べるとそれは一年生のものだった。この二人は以前ライブで見たことがあったな。
「君たちは穂乃果達の後輩の……」
「そうだよ! 凛は星空 凛だニャ!」
人懐っこい声の猫っぽい子はぴょんと跳ねる。その後ろから少し緊張した表情で俺を覗きこむ女の子。
「小泉 花陽ですっ。穂乃果ちゃんからお話は聞いてます。二城 悠さんですよね?」
「あ、君は……」
「え?」
思い出した。穂乃果が俺に抱きついてきたあの時にとてつもない悲鳴をあげた子だ。俺はその事を笑いながら説明した。
「あ、あの時はごめんなさい! 花陽勘違いしちゃって……」
「いや第三者からしたらそう見えても仕方ないさ。こっちも誤解させちゃってごめんな」
小泉さんがいえいえとまた謝りそうになると星空さんが割って入る。
「お互い謝ってないでさー! おにーさんはどうしてここに? 穂乃果ちゃんに会いにきたのかニャ?」
「ま、そんなとこかな」
正確には海未に会いに、だ。俺が文化祭への道を歩いていると海未からメールが届いた。『私じゃ手に負えないので急いで来て下さい』とだけ書かれていた。あいつが手に負えない状態になるなんて、一体何があったのだろう。
「今穂乃果ちゃんは喫茶店でお仕事してるよ。凛達も戻るつもりだから一緒に行くニャ!」
俺の手をとって引っ張ろうとする。無邪気なこの子といると自然と元気になれそうな気がした。
「助かるけどいいのか?」
「はい。この学校は広いですから。花陽達が案内します」
小泉さんがにこりと微笑んでくれる。この柔らかい笑顔。何故だか護ってあげたいって気持ちになるな。
「じゃあ案内よろしく頼むな。星空さん、小泉さん」
「凛でいいニャ~。ね、かよちん!」
「は、はい。私のことも花陽でいいです」
「そっか、改めてよろしくな。凛、花陽」
「ニャ!」
「はい!」
こうして俺は一年生二人を侍らせて学院を歩くことになった。
「凛達一年生は縁日やってるニャ! 穂乃果ちゃんが射的で出入り禁止になったんだって!」
「あいつ、射的うまいからな。夏祭りの時もすごかったよ」
凛と花陽、二人に案内をして貰いながら俺は凛と他愛もない話に花を咲かせていた。それを横から聞いていた花陽が口を開いた。
「あ、あの! 悠さんに聞きたいんですけど!」
「ん? 何だ?」
花陽は顔を赤く染めながら聞いてきた。凛はニャ? と花陽の顔を覗きこむ。
「アイドルと付き合うってどんな感じですか!」
その言葉を聞いてハッとなった。俺は家で穂乃果と普通に接しているが、彼女はアイドルなのだ。アイドルに彼氏がいるってのはあまり良いイメージはないかもしれない。俺は自分がした事の重みを感じた。
「あ、μ’sの中じゃ恋人作るのってタブーだった?」
「そんなこと無いニャ!」
俺の不安をかき消す様に凛が隣で跳ねる。
「アイドルって言っても凛達はスクールアイドルだニャ! 恋人を作る作らないは個人の自由だよ!」
「そういうもんなのか?」
視線を花陽に向けると彼女は頷いた。さっきまでのオドオドした口調は何処へ行ったのか、饒舌にアイドル事情を説明する。
「はい。流石に公にするスクールアイドルはいませんが、暗黙の了解となってますね。花陽達の中でも彼氏は作ってもいい派と作っちゃ駄目派に別れていますが、大きな対立は――」
「かよちんキャラ変わってるニャ!」
凛に指摘されて縮こまる。この子は自分の好きなことになるとスイッチが入るタイプみたいだな。
「二人はどっち派なのさ?」
「凛はどっちかって言うとアリ派かニャ~。彼氏と一緒に楽しい事をめーいっぱい楽しみたいニャ!」
笑顔で凛は語る。この子と付き合う彼氏は、彼女に振り回されながらも楽しむんだろうな。ウチの穂乃果と似た感じの子だな。そのいるかどうか解らない彼氏に親近感が湧いた。
「は、花陽はまだ彼氏とかよくわからなくって……。でも花陽はアイドルの端くれだからやっぱり彼氏は……」
「もー、かよちんたらそういったトコは頑固なんだから! 凛知ってるよ? かよちん週末に近くの公園で御握り屋さんのお手伝いしてるの。その御握り屋さんの大きいおにーさんと良い感じなのも!」
「え、ちょ、凛ちゃん~!」
凛に指摘され花陽は顔を赤らめる。御握り屋という単語に見知った顔が頭を過る。もしかして伍原のことか?
「かよちんのことなら凛、何でも知ってるニャ!」
顔を真っ赤にしながら頬を膨らます花陽も黙っていられなかったのか反撃に口を開いた。
「そ、それだったら花陽も知ってるんだからね! 凛ちゃんが公園で男の人の隣で寝てたこと! その人から上着かけてもらったのも!」
「ニャ!? かよちん、はじめちんの事は誰にも言わないでよ~!」
不意打ちを食らった凛の顔も真っ赤に茹であがる。二人の言い争いを見ていると何故だか和んだ。
「話が逸れたけどアイドルと付き合うってことに対してどんな感じって質問だったな」
「はい。やっぱり周囲の目とかそういったものが気になったりしました?」
「いや全然」
「エェ!? 全然気にならないんですかぁ?!」
俺の答えに声が裏返る寸前のような声色で驚く花陽。そんなにびっくりしたのか。
「俺はアイドルとしての穂乃果と付き合ってるって考えたことすらなかったな」
そう。花陽が抱き合った俺達を見る前の穂乃果とのやりとりを思い出す。失敗するんじゃないかってホントは怖がってた彼女を、俺は知ってる。本当は弱さを持った一人の女の子だってことを、俺は知ってる。
「アイドルとしての穂乃果ももちろん魅力的で好きだけど、俺は女の子としてのあいつが好きなんだ」
弱さをメンバーの誰にも見せず、一緒に居た俺にそれを見せてくれた。それだけ俺は彼女に信頼されてるんだって思った。その信頼に俺は応えたい、弱さを持った穂乃果を支えたいって思って、俺は彼女を神社で抱きしめたんだ。
「君たちが好意を持ってるかもしれない彼らも、アイドルとしてじゃなく、傍にいる女の子として好きなんだと思うぞ」
アイドル衣装の少し派手なリボンよりも、飾らないシンプルなリボンをつけた穂乃果を俺が好きな様に。
暫くの沈黙にふと我に返った。伍原に言った時と同様に、また臭い台詞を言ってしまった。ドン引きされてないか?
「女の子として……」
「好き……」
意外にも頬を赤らめて蕩けた表情で俺を見つめている。きっと二人は想い人の顔を思い浮かべているのだろう。
「おにーさんありがとニャ! 凛カンドーしたニャ!」
「は、花陽も!」
一年生二人は目をきらきらとさせながら俺を見つめている。何だか恥ずかしい。ここは少しおどけて見せるか。
「ふっ、俺に惚れるなよ?」
「それはないニャ」
「うわ、ひでぇ」
二人と話している内に一つの教室に辿り着いた。戸には「アイドルメイド喫茶」と書いてあった。
「アイドルなのかメイドなのかハッキリして欲しいな」
「それはにこちゃんとことりちゃんに言って欲しいニャ」
「二人が名前考えたんですよ」
苦笑いして入ろうとすると戸が開いた。そこから顔を覗かせるのは、赤い髪の少しきつめな雰囲気を漂わせる女の子。
「あ、凛、花陽! やっと戻ってきた!」
彼女は二人を見るや否や少し怒った様子で二人を睨みつけた。
「二人とも遅刻よ! いつまでお昼食べてるの!」
「だってかよちんがいっぱい食べるから!」
「えぇ! 凛ちゃんがあっちこっちふらふらするから~」
「言い訳は後で聞きます! いいから早く――、あれ、あなたは?」
視線が俺の方に向く。警戒心剥き出しだ。
「あ、真姫ちゃん。この人は悠さんで――」
「ああ、穂乃果の彼氏さんね?」
花陽の言葉を遮り、ずいと詰め寄って品定めするように俺を覗きこむ。穂乃果以外の女の子にこんなに見つめられると、何だか緊張するな。
「ま、合格なんじゃない?」
「え?」
真姫と呼ばれているその子は軽く息を吐いて身を離す。どういうことだ? 俺が反応に困っていると凛が口を開いた。
「真姫ちゃんはおにーさんが穂乃果ちゃんに相応しいかどうか調べてやるんだから、って言ってたニャ! もし相応しくなかったら懲らしめてやるとも――」
「凛! さっさとあなたは着替えに行く! 花陽も!」
きっと凛と花陽を睨む真姫ちゃん。二人はびびって教室に入っていった。残されたのは俺の彼女だけ。
「何よ?」
「い、いや別に……」
真姫ちゃんはびしりと俺を指さした。
「いーい? 穂乃果の彼氏になった以上、彼女を幸せにしなさいよ? 泣かせたらしょうちしないんだから!」
なるほど。この子は穂乃果の事を思ってくれてるんだな。大事な仲間だから、俺が穂乃果を任せられるか相応しい人物かどうか見定めてたわけか。
「穂乃果のことを考えてくれてありがとな、真姫ちゃん」
俺が名前を呼ぶとぽっと顔が赤くなった。その染まり方がなんとも可愛らしい。
「ちょっと、軽々しく名前で呼ばないでよ!」
「じゃあ西木野 真姫ちゃんって呼べばいいかな?」
「え?」
どうして名字まで、とその顔に書いてあった。
「穂乃果からよく聞いてたよ。歌とピアノが上手な子がいるって。素直じゃないけどメンバーのことをとっても気遣ってるってさ」
「――っ!」
顔から湯気が出るんじゃないかって位に赤くなる真姫ちゃん。そんな彼女に笑いかける。
「穂乃果のこと、気遣ってくれてありがとな。もちろん幸せにするさ。だからこうして穂乃果に会いに来たんだ」
真姫ちゃんは赤い顔のまま、そっぽを向きながらちらと俺を見る。
「そ。わかったわ。穂乃果のこと、任せたわよ?」
ふん、と鼻息を立てながら彼女は去っていった。ああいった素直じゃないけど、思いやりのあるとこが彼女の魅力なのかもな。
「さて、じゃあ入るとしますか」
俺は真姫ちゃんの背中を見送ると戸に手を伸ばした。
「おかえりなさいませ、ご主人様♪」
中に入る俺を出迎えたのは、白と黒を基調にした、メイドさんだった。そのメイドが見知った顔だったので思わず声が出た。
「ってことり!?」
「あ、ゆうくん~」
ことりは俺だと認識するといつもどおりの笑顔を向けた。
「そのメイド服、似合ってるな」
「えへへ、ありがと~。メンバーみんなのメイド服、作っちゃった♪」
くるりとその場で回ってみせることり。長いスカートがふわりと揺れて可愛らしい。
「本当によく似あってるよ。まるで本物のメイドさんみたいだ」
俺の言葉にぴくんと反応すると、ことりの身体が少し強張った。
「ヤ、ヤダナー。コトリガメイドサンナワケナイジャナイ。マシテヤデンセツノメイドサンデモナイヨ」
心なしか瞳のハイライトが消えている気がする。何か地雷踏んじゃったかな?
「ことり?」
俺の言葉にはっと我に返ったことりはえへへと苦笑した。
「ゆうくん、ほのかちゃんに会わなかった?」
「穂乃果に? 一年生二人とここまで来たけど合わなかったぞ」
それを聞くとことりはあー、と頭を抑えた。
「さっきうみちゃんとお昼食べに行っちゃったんだ~」
「あれま、すれ違っちゃったか」
「なんかほのかちゃんうみちゃんに駄々こねてたよ」
「多分それで俺に連絡したんだろうよ。満更でもないくせにな」
「ね~」
ことりが小さく笑った。駄々をこねる穂乃果を引きずっている海未を想像しているのだろう。
「そうだ、ゆうくん。ほのかちゃんたちが戻ってくるまでここにいる?」
「そうだな。どこかで時間を潰してもまた入れ違いになりそうだし。お邪魔しようかな」
「うんっ。じゃあ――」
ことりは少し俺から距離をとるとさっきとは比べ物にならない位丁寧にお辞儀した。
「おかえりなさいませ、ご主人様♫ こちらにどうぞ♪」
その声に俺の心臓がどきりとした。穂乃果の恋人になってからあまり意識していなかったけど、ことりも十分可愛いんだよな。
「お席にご案内しますね。こちらにどうぞ♪」
俺はちょっとドキドキしながらメイド喫茶の奥へと入っていった。
「やっと提督になったよハルトォォォ!」
「全く関係ない作品で関係ない話をする兄さんは嫌いだ……」
昨日のサーバー拡張でやっと提督になれました。アニメを見て絶望した提督の方々と同じ痛みを分かち合える……。嬉しい限りです。吹雪と一緒に初めて、電以外の第六駆逐隊の子たちがそろって嬉しいですね。ロリコンなるのもそう遠くはないです。今後艦これの一話完結のアンソロを書こうかなと考えています。これもちょこちょこ書いていくけど。
よくよく考えたら穂乃果の出番がない。このシリーズのメインヒロインなのに。気がつきゃ一年生を掘り下げていた。な、何を(以下略)
ちなみに今回出番のない海未ちゃんはみるみる体操をやってちょっとやばい位に首を回してましたとさ。
皆さん、ご意見ご感想イラスト、お待ちしてます。