ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
前回のお話で「オトノギ」と書いていましたが、正しくは「オトノキ」だったみたいですね。修正しておきます。
お待たせしました。第二話です。
高坂家にお世話になることになった二城 悠。穂乃果の家族と触れ合っていく――
それではどうぞ。
「ごめんなさい、駅まで迎えに来ればよかったわね」
高坂 穂乃果に連れられ、彼女の家、「穂むら」にあがりこんだ俺を迎えてくれたのは穂乃果の母だった。俺は居間に通され、そこに腰を下ろしている。
「いえ、結果として穂乃果に会ってここに辿り着いたわけですから」
俺がここに到るまでの過程を話すと彼女は苦笑する。
「穂乃果が迷惑をかけたわね。あの子ったら思い付いたらすぐに行動する子だから」
「ええ、そりゃあもうビックリしましたよ。いきなり手すりから女の子が滑ってきましたからね」
あはは、と笑っていると少し拗ねた声が届く。
「もう~! あの時はごめんって言ったじゃん! いつまで引きずってるのさ~」
台所から出てきたのは、私服に着替えた高坂 穂乃果だった。彼女が持つ盆には湯のみやら饅頭がある。
「はいっ、お茶とほむまんだよ!」
俺の前に少し古ぼけた湯のみと饅頭を二つ置いて、にっこりと微笑む。
「うちのほむまんはおいしいんだよ! 悠くんにも好きになって欲しいな!」
食べて食べて、とその青く澄んだ眼は訴えている。その熱意に押されながらもそのほむまんとやらを口に運んだ。
「どう? どう?」
俺が租借している時も横からずいと俺を覗きこむ。その瞳に少しドキリとしながらも饅頭を飲み込んだ。
「うまい」
無意識のうちにそう呟いていた。饅頭の生地のふっくらとした柔らかさ、そしてその柔らかさに負けない餡子の甘味。それらが互いに潰し合うわけでもなく程良い感じにマッチしている。
「すごく美味いな! これなら何個でもいけそうだ」
お世辞でもなくそう言ってしまう。それを見ていた穂乃果と彼女の母親は嬉しそうに笑う。
「よかったわね。ウチの味、気にいってもらえて」
「おとーさーん! 悠くん気にいってくれたよ!」
穂乃果は廊下に向かって大声で叫んだ。どうやらその先に俺の親父の親友である穂乃果の父がいるのだろう。
「あ、俺、挨拶に行ってくるか」
そう言って腰を上げようとするが、母親がそれを止める。
「今はまだ行かない方がいいわね。仕事している時はほとんど無口だし」
そうなのか。仕事が終わったら挨拶しようかな。母親の言葉に穂乃果もうんうんと頷く。
「そうだよねぇ。穂乃果がウチにいる時はほとんどしゃべらないし。最近お父さんの声聞いた覚えがないよ」
それでいいのか娘さん。高坂家の家庭事情を心配していると玄関ががらがらと開く音が聞こえる。
「ただいまー」
声と共に入って来たのは、ショートカットの女の子だった。スカート丈の短いセーラー服に白いソックス。その身なりからして、中学生だろうか? 女の子は俺を見ると少し固まった。
「お姉ちゃんの、彼氏?」
その言葉を聞いて危うくむせそうになる。なんとか饅頭を飲み込み、ふっと息を漏らす。
「な、何言ってるのユキちゃん! 穂乃果と悠くんはそんな――」
「赤面しながら否定するのは肯定と一緒だよ? お姉ちゃん」
慌てる穂乃果をその子はにやりと笑って煽る。それを見た母親が苦笑しながら彼女をたしなめる。
「こら雪穂。この人は今日からウチで引き取ることになった二城 悠くんよ。お姉ちゃんをいじめないの」
母親からの説明を受けて雪穂と呼ばれた女の子はあぁ、と合点するとちらりと俺を見る。
「そうだったんだ。高坂 雪穂です」
俺の近くに腰を下ろすと手を差し伸べてきた。俺はそれを快く握る。少し冷たくも、柔らかな感触だった。
「悠さんは高校生ですか?」
その品定めするような眼に少し困惑しながらも俺は正直に答えることにした。
「そうだな、ここから近い男子高に二年生として転校することになってるな。あと敬語はいいよ。ここで暮らすんだしさ」
俺としてはここの家族とは仲良くやっていきたい訳だし。敬語というのは少し疲れる。
「お姉ちゃんとタメか……。わかった。これからよろしくね、お兄ちゃん☆」
お兄ちゃん、その言葉に俺はどきっとしてしまった。俺は一人っ子だったからだろうか、呼ばれ慣れない「お兄ちゃん」に動揺を隠せないでいた。
雪穂はにこっと笑うと居間から出ていった。笑顔は似ているけど、性格は正反対だな。
「もーっ、ユッキーってば中学生になってから穂乃果をよくからかうんだよ。昔は可愛かったのにな~」
「そういう年頃なのよ雪穂は。それよりも穂乃果、いきなり悠くんとそんな関係になったの?」
「ち、違うって言ってるじゃん! 穂乃果と悠くんはまだ――」
「まだって言い方が周囲に誤解を生むのよ」
「っ~! 悠くんからも何か言ってよ~!」
穂乃果の言葉にお兄ちゃんの一言で停止していた思考が蘇る。
「あ、悪い。何だ?」
「何だ、じゃないよ! もしかしてユッキーに見とれてたの?」
「ち、違う! そんなんじゃない!」
「じゃ何なのさ!」
俺と穂乃果のいい合いを母親はにこにこしながら見ている。
「二人とも初日から仲がいいのね。お母さんはどっちと付き合ってもいいけどね」
「誰と付き合うって?」
俺達の会話に割って入ってきたのは、白い割烹着に身を包んだ齢四十後半の男。
「あ、お父さん!」
穂乃果は彼を見ると更に慌てた様子を見せる。この人が親父の親友の高坂 辰三さんか。ちょうどいいから挨拶しておこう。この付き合うとかの話も逸れるし。
「あの、今日からお世話になります二城 悠です! よろしくお願いします!」
彼は俺をじっと見つめている。どれほど見ていただろうか、口元を上げ、笑う。
「修にそっくりだな」
俺の親父の名を言う辰三さんに頭を上げる。俺が似てる? 親父に? そんなこと言われたこともなかった。
「荷物は部屋に置いてある。後で確認するといい」
そう言うと彼は背を向けて再び仕事場へと戻っていった。
「悠くん、お父さんに気にいられたみたいだね」
穂乃果が俺の隣にひょこりと立つ。
「え? そうなのか?」
疑問に思う俺に穂乃果の母が口を出す。
「あの笑い方、滅多にしないのよ。いつもはむっつりとした顔だからね」
さてと、と彼女は腰を上げる。
「改めて悠くん、これからよろしくね。ここを自分の家だと思って過ごしてね」
「ありがとうございます。えっと――」
何と母親を呼べばいいのか戸惑った。おかあさん、と呼べば要らぬ誤解を生みかねない。それを読み取ってくれたのか、彼女は笑う。
「きい子でいいわよ。お父さんのことも名前で呼べばいいわ」
「はい、よろしくおねがいします、きい子さん」
俺がそう彼女を呼ぶとにこりと笑う。
「よろしくされました。じゃあ穂乃果、悠くんを部屋に案内してあげて」
「はーい」
それを聞いた穂乃果は元気よく手を上げる。きい子さんは台所へ消えていった。
「あ、そうだ悠くん。明日空いてる?」
俺に用意された部屋への道中、穂乃果はそんな質問をしてきた。
「土曜日は学校やってないし、実際に登校するのは来週の月曜だから問題ないぞ」
それを聞いた彼女はぱぁっと明るくなる。
「じゃあ、明日悠くんの生活用品を買いに行こうよ! 今日は予備の古い湯飲み使っちゃったし。他にもお茶碗とか色々買いそろえなきゃ!」
「それは嬉しいけど、いいのか? ほらお金とか……」
俺の心配を振り払うように、穂乃果はどんと拳を胸に当てた。
「大丈夫。悠くんを引き取るって聞いた夕べからお母さんに話は通してあるんだ! お金は心配無用でーす!」
えっへんと胸をはる彼女が可愛らしくて思わず頬が緩む。
「じゃあその御好意に甘えようかな。店とかの案内してくれるか?」
「うんっ! 一緒に行こ!」
本当に嬉しそうな顔をする奴だな、と俺の顔も自然と笑顔になっていた。
今回は高坂家の方々を掘り下げてみようかと試みました。あんまりお母さんの掘り下げがうまくいかなかったかな? 海未ちゃんのSIDで海未ちゃんのお母さんが高坂母を「きいちゃん」と呼んでいたので、「きい子」という名前にしてみました。
お父さんは基本喋らないし、画も後ろ姿だけなのでなんとも書きづらい。辰三という名前は完全オリジナル。きい子さん共々、公式にならねーかな。
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