ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
俺「最近、自分の好きがわからなくなって。自分の好きは周囲に理解されないんじゃないかって迷ってた」
海未「本音は?」
俺「イベント海域やってて執筆どころじゃない」
海未「貴方は最低です!」
楽しみに待って下さった方々、本当に申し訳ありません。好きがわからなくなったのも、本当です。ですが艦これが楽しすぎてモチベーションが上がらなかったのも事実です。E-6をクリアして一段落したので執筆作業を再開していこうと思います。
「高校生がやるレベルかこれ?」
この言葉がこのお化け屋敷に対する俺の感想だった。ずらりと不規則に並んだ墓石。その墓石の間を縫うように漂う火の玉のような光源。あたりを照らす緑色の不気味な電飾。遊園地にある本格的なそれと同じくらいのクオリティだ。最後の文化祭になる三年生の気合の入りようを感じる。
「それでさ、穂乃果」
「な、なに?」
「少しくっつき過ぎじゃないか? 歩きにくいんだけど……」
身体が密着して嬉しいっちゃ嬉しいけど。震えた声で穂乃果は小さく呟いた。
「だ、だって……、怖いんだもん……」
涙目で俺を見つめてくる。抱きついている身体からは震えが感じ取れる。いつも騒がしくて元気いっぱいの穂乃果からは想像できない姿だった。そんな少し弱々しい彼女が愛おしく感じる。
「お化け屋敷行きたいって言ったのは穂乃果だろうが」
「こ、こんなに暗いなんて思わなかったんだもん!」
その時がさりと草むら(らしき作り物)が蠢く。
「うひゃぁあ!!」
それの驚いた穂乃果は俺に抱きついてきた。柔らかな感触が俺を襲う。
「ちょ、穂乃果、抱きつき過ぎだって!」
「何か動いた! 何か動いた! 怖いよ~!!」
離れるように言っても穂乃果は怖がって更に俺を抱きしめる。このままじゃ俺の理性が吹き飛んじまう。無理やり穂乃果を引き剥がすと肩を揺すった。
「お化け屋敷って言っても所詮は人が作った代物だ。あれは人だと思えば怖くなんてないだろ?」
「そ、それはそうだけど……」
諭してやっても穂乃果の瞳から恐怖と不安は取り除かれない。仕方ないな。
「それなら、ほれ」
ぎゅ、と彼女の手を握る。指を絡ませ合うような恋人繋ぎで。
「あっ……」
穂乃果の顔がぽっとするのを暗がりから確認した。
「怖くなったら俺の手をもっとぎゅっと握れ。そしたら俺が握り返してやる。俺はここにいるから」
「う、うん……」
穂乃果は俯きながら返事をした。よかった、落ち着いたみたいだ。
「よし、それじゃ進むか」
「うん!」
少し元気を取り戻した穂乃果と手を繋いで並んで歩き出した。
薄暗いお化け屋敷を歩いてどれ位時間が経っただろう。あまりにも長い間暗闇にいるせいか、時間の感覚が麻痺してきた。
「うぅ、でもやっぱり怖いよぅ……」
握った穂乃果の手からは震えが伝わって来る。さっきよりは落ち着いているが、やっぱり怖いらしい。俺はきゅっと握り返してやる。
「えへへ」
すると穂乃果は少し安心したように笑った。これを繰り返してやればあそこまで狼狽しないだろう。
「あれ、あそこにいるのは……?」
穂乃果が前方に何かを見つけたらしく、その足が速まった。俺も引っ張られるように足を速める。
そこには一人の女の子がうずくまっていた。制服は音ノ木坂学院の制服で、長い髪を二つに縛ってまとめている。
「の、希ちゃん?」
穂乃果が名前を呼ぶとその子はこちらに背を向けたまま言葉を発した。
「ん? その声は、穂乃果ちゃんやな?」
「どうして希ちゃんがこんなところにいるの?」
穂乃果の問にも希と呼ばれた彼女は顔を見せようとしない。
「ウチ、ちょっと落し物したんよ。アレがないと、ここから出られへん~」
お化け屋敷に似つかわしくない呑気な声。それが俺に違和感を感じさせた。穂乃果は全くそれに気づかず彼女に声をかける。
「それは大変だ! 穂乃果も探すの手伝うね!」
「おぉ、ありがとうな~」
「それで何を探せばいいの?」
「探して欲しいのは――」
そこまで言って彼女は立ち上がり、今まで見せなかった顔をこちらに向けた。
「ウチの目玉やァァァァ!!」
彼女には、眼球がなかった。あるであろう場所は赤黒い穴が二つ、ぽっかりと空いていた。メイクだろうけどあまりのグロテスクさに俺もビビった。
「き、きゃあぁぁぁぁぁ!!」
もちろん穂乃果は絶叫をあげてその場から走りだした。手が繋がっている俺も同じことで、引っ張られるようにそこから走り去った。
それから穂乃果は襲い掛かってくるお化け達にビビっては逃げた。自分の友人のホラーな様を見て、恐怖心が爆発したのだろう。俺が声をかけても手を握ってもパニック状態だった。
「うぅ、怖いよぉ……」
走り疲れたのか、肩で息をする穂乃果。俺も穂乃果に引っ張られる形で走ったのでけっこう疲れていた。お化け屋敷で味わえるはずの恐怖を感じ取れやしない。
俺はまた彼女の手をぎゅっと握ろうとしたが、手を止めた。今の穂乃果の状態では俺が手を握っただけで怖がってしまうかもしれない。ここは言葉をかけてやることにしよう。
「そろそろお化け屋敷も終わりに近づいてきたんじゃないかな。あともう少しだぞ」
実際終わりが近いかどうかなんてわからない。でも穂乃果を元気づけられるなら嘘もありかと思った。
「ほんとぉ?」 穂乃果は涙まじりの瞳で俺を見つめてくる。いつもとは違う彼女とのギャップに俺はどきりとした。
「あぁ。だからもうちょっと頑張ろうぜ」
「うん……」
俺の腕にしがみつくように身体を寄せてくる。女の子特有の柔らかさが心地よい。よし、この調子でがんば――
『ダレかいるの?』
「――っ!!」
穂乃果が息を呑み、身体を震わせた。少し幼さの残る声は喋りながらその音量を増していく。
『ダレかいるのなら――』
「ゆ、悠くん……」
ぎゅっと穂乃果が俺の腕に強く抱きつく。柔らかさが少し心地いい。って考えてる場合じゃない!
『アナタもワタシの友達になってよオォォ!!』
突然現れたそれはで俺たちに向かって叫び声を上げた。そいつは血にまみれたふりふりのアイドル衣装に身を包んだ、女の子だった。そう言えばこのお化け屋敷、アイドルを目指してた女の子が交通事故にあって死んじゃって、その怨念がまだ残ってるって設定だったっけ。
「はぅ……」
突然聞こえる穂乃果の気の抜けた声。それと同時に少し痛いくらいに掴んでいた手の力が弱まった。視線を穂乃果に向けると、彼女の身体は後ろ向きに倒れていった。
「穂乃果!」
俺は穂乃果の肩を掴み、支える。それでも穂乃果の意識は戻らない。
「おい、しっかりしろ!」
「う~ん……」
頬を叩くと弱々しくも反応が返ってくる。どうやらあまりの恐怖に気を失ったみたいだ。
『え、えーと……』
ツインテールのアイドルの亡霊は演技も忘れて俺たちを見つめていた。
「控室はこっちよ」
俺は穂乃果をおぶって薄暗い廊下を歩いていた。案内をしてくれているのは、血まみれアイドル衣装を着たにこ先輩だった。
「まさかこんなに怖がりだったなんてね、驚いたわよ」
「ホントですよね。すみません、持ち場を離れさせてしまって」
全くよ、と彼女は呟くと呆れ半分で穂乃果を見つめる。
「でも、ホントにラブラブね。あんまりにも目の前でイチャつかれたから迫真の演技しちゃったニコ」
「穂乃果そうとうビビってましたよ。悲鳴をあげるまでもなく真っ先に気を失いましたからね」
「アナタはビビらなかったニコね」
「まぁ、もっと怖いもの見てますから」
脳裏に般若の面で追いかけてくる海未が過る。あの時の彼女よりも怖いものはないだろう。
薄暗い廊下に一つ、明かりが漏れる部屋があった。にこ先輩はそこの引き戸を開く。
「ここが控室。少しここで休むといいニコ」
ありがとうございます、と頭を下げながら教室に入る。するとそこには裁縫をしている金髪の女の人が。スラリとした足、モデルのようなプロポーション、ひと目見た第一印象は「綺麗」だった。
「あら、貴方は……? って穂乃果?!」
彼女の視線が俺の背中にいる穂乃果に移る。誤解を生まないようにか、にこ先輩がすかさず口を開く。
「にこの迫真の演技で穂乃果ちゃん気絶しちゃったのよ。で、彼がその彼氏さん。目が覚めるまでここにいさせてもいい?」
彼女の説明に納得したのか、その金髪美人は席を立つ。
「わかったわ。じゃあ椅子をつなげてベッドみたいにしましょうか」
「わざわざすみません」
いいのよ、と彼女は微笑んでくれた。
「じゃあにこはお化けに戻るから、絵里ちゃんあとはお願いニコ♡」
にこ先輩はウィンクすると戸を閉めた。
穂乃果を並べた椅子に寝かせると彼女は改めて挨拶した。
「三年の絢瀬 絵里です。ここの生徒会長をしてます」
「二城 悠です。高坂とは、その――」
「彼氏さん、でしょ?」
絵里先輩はふふ、と笑いかけてくる。
「ええ。穂乃果とお付き合いさせて頂いてます」
「両親に挨拶してるわけじゃないんだからそんなにかしこまらなくていいのよ?」
彼女の指摘に思わず苦笑いする。まだ穂乃果の両親にも付き合っているって言ってないのにな。
「改めてあいさつするのは初めてだったわね」
「そうですね。会ったのは学校説明会の時ですね」
「あの時はごめんなさいね、私も冷静じゃなかったわ」
穂乃果を抱きしめていたあの光景を思い出したのか、申し訳無さそうに苦笑いして頬をかく。
「いえ、はたから見れば不審者に見られても仕方なかったですよ。こちらこそすみません」
このままだと互いに謝り合うのが続いてしまうかもしれない。話題を変えようと視線を彼女が裁縫していた白い布に向ける。
「何を縫ってたんですか?」
「ああ、これ?」
布を掴むと絵里先輩はそれを頭に被った。
「お化け役の子が被る布を作ってたのよ」
「絵里先輩はお化け役じゃないんですか?」
「私は裏方での仕事を志願したの。それに――」
「それに?」
俺が尋ねるとすぽりと顔をだして、頬を赤らめて小さく呟いた。
「暗いとこ、苦手なのよ……」
「ぷっ」
思わず吹いてしまった。こんなにしっかりしている人なのに、暗い所が怖いというギャップが可愛らしかった。笑ってしまう俺を見て、彼女は少し声を荒らげた。
「笑うことないじゃない! 貴方だって苦手なものあるでしょ?」
「ええ、確かにそうですね。すいません」
少し息を整えながら謝罪すると絵里先輩は微笑んだ。
「お、穂乃果ちゃんとその彼氏さんやん」
後ろから戸の開く音が聞こえたので視線を向けると、先ほどの二つ髪のおさげの女の子が入ってきた。
「あ、希。これから休憩?」
絵里先輩の問いに彼女は頷いた。
「カーテン閉めっぱにしてると暑いなぁ。お陰でウチ、いっぱい汗かいてもうた~」
彼女は存在感の大きい胸元を開けさせ、少し湿ったYシャツの首元をパタパタと仰いだ。肌と下着の透過具合から外の暑さが想像出来る。
「ちょっと希! 男の子の前でそんなことしないの!」
「男の子……、あぁ、キミは……」
彼女は俺を見つめるとははぁん、とにやりと笑った。
「さっき会ったと思うけど改めて、ウチは東條 希。エリちと同い年や」
希先輩が胸を張ると、その存在感の大きいそれが上下に揺れた。俺が目を反らすと彼女はわざとらしく腕で胸を隠した。
「やん。とこ見とんの~。エッチやなぁ~」
見せてきたのはそっちじゃないか、とツッコみたかったが、相手は先輩だ。苦笑いで誤魔化す。
「そんな反応じゃ、穂乃果ちゃんとの時にはどうなるんかなぁ~」
「いい加減にしなさいっ」
見兼ねた絵里先輩が希先輩の額にチョップを入れた。希先輩はあたた、と額を抑える。
「ごめんなさいね、希はよくこうやって皆をからかうのよ」
「ごめんな、おにーさん。ポカリあげるから許してな」
希先輩は胸元を閉めると俺にペットボトルを二本手渡してきた。
「いいんですか?」
「穂乃果ちゃんが気絶したってニコっちから聞いてな。おねーさんからの差し入れや」
ニカリと笑う希先輩。からかいながらも気遣ってくれる、ちょっとミステリアスなとこが魅力的に思えた。
「ありがとうございます、丁度喉が乾いてたんで頂きます」
蓋を開け、ポカリを喉に通す。食道に冷たい水が通る感覚が心地よい。
「で、おにーさん、穂乃果ちゃんとはもう寝たん?」
「ブーーーッ!!」
突然の質問に思わず水が逆流し、口から噴水の様に放出された。何を聞くんだこの人は!?
「ちょっと希! なんてこと聞くのよ!」
絵里先輩が俺に駆け寄ってティッシュを差し出してくれた。彼女のその優しさが身にしみる。
「えぇ~? だってエリちは気にならないん? うちらの中で一番最初に穂乃果ちゃんが彼氏作りよったんやで。その彼氏さんがどこまで穂乃果ちゃんと進展しとるか知りたいやん」
「そ、それはそうだけど……」
絵里先輩は頬を赤らめて視線を落とした。嫌な予感が……。
「で、どうなんや? おねーさんに聞かせてみぃ?」
にやりと笑う希先輩。俺はたじろぎながら絵里先輩へと視線を向けた。彼女ならさっきみたいにこの場を諌めてくれるかもしれない。
絵里先輩は上目遣いでこちらを覗きこんでくる。少し小さな声で呟いた。
「教えて、くれる?」
どうやらここに俺の味方はいなかったようだ。俺は観念してため息をついた。
「キスぐらいはしましたが、それ以上のことはしてないですよ。求め過ぎて嫌われたら元も子もないですし」
そう。穂乃果とはよく部屋で二人っきりになっていい雰囲気になってもキスと軽いボディタッチをするだけで、それ以上に進展したことはない。がっつき過ぎて嫌われるのが怖いからだ。
俺が顔を赤くしながら暴露すると希先輩はほうほう、と頷いていた。
「おにーさん、見かけによらずウブなんやな~」
「ハラショー……」
絵里先輩は頬を少し朱に染めている。この年頃の女の子ってこんな話が好きなんだろうか?
「そや! おにーさん、これを機にもっと穂乃果ちゃんに触れ合ってみぃひんか?」
希先輩は少しいたずらっぽく笑うと俺の背中を押し始めた。その先にはつなげた椅子に横たわる穂乃果が。
「え、あの、ちょっと?」
「もっと穂乃果ちゃんと、そういう仲になりとうないん?」
「なりたいですけど……」
「じゃあ、決まりやね♪ エリち手伝って~」
「え、ええ」
抵抗むなしく俺は二人の先輩にいいようにされ、俺の膝の上に穂乃果の頭を置かれる形になった。
「膝枕や♪」
希先輩はにやりと笑っている。
「これ、普通は女の子がやってくれるもんですよね。立場が逆じゃないですか」
「甘い、甘いで!」
ちっちっち、と舌を鳴らしながら、指を振ってくる。
「女の子なら好きな男に膝枕されたいって思うはずや! 元気っ子の穂乃果ちゃんも例外ではない!」
ていうかそれ、希先輩の願望なんじゃ? 俺は絵里先輩に視線を向けると彼女はにこりと笑っていた。
「うん、中々いいわよ!」
いや、そういうことを聞きたいわけじゃないんですけど。真面目な人だと思ってたけど、ちょっと抜けてるかもしれないな。
「それにな、穂乃果ちゃんには少しでも休んで欲しいんや」
希先輩の声が急に真面目になる。俺が視線を向けると、彼女は視線を落としている。
「穂乃果ちゃん、入学希望者を増やそうと必死になってる気がしてな、ウチらが言っても『大丈夫だよ』って済ませてしまうん。だからおにーさんの膝で少しでも気が楽になって欲しかったんよ」
そっか。この人はこの人で穂乃果のことを気遣ってくれてたんだな。彼氏としては嬉しい限りだ。
「ほな、そういうことでおにーさん、穂乃果ちゃんのことはよろしゅうな♪」
希先輩は絵里先輩の手を取って教室を後にしようとする。
「ちょ、ちょっと希、私は出るとは言ってないんだけど……」
「後は若い二人にさせてあげようや♪」
「で、でも私、暗い所は苦手なんだけど……」
「大丈夫、ウチが手ぇ握ってあげるから」
「そういう問題じゃ――」
抵抗する絵里先輩を希先輩は引きずるようにして教室を出て行った。ここには俺と俺の膝を枕にして眠る穂乃果の二人だけになった。改めて二人きりになった状況に俺は少し緊張してしまう。いつも俺の部屋で二人きりになることはいくらでもあったが、ここまで密着してるのは、一緒に勉強したあの時以来だ。
「すう、すぅ……」
穂乃果は呑気に寝息を立てて寝ている。寝息を立てる度に上下する肩と胸。こんなに俺の近くにいるということがこんなにも緊張するとは思わなかった。俺の身体の一部分が硬くなる。
――何硬くしてるんだ、俺の馬鹿! 穂乃果の頭に当ってるだろうが!――
自分の身体の一部分を叱りつけても、悲しいかな雄の性。全く硬さが和らぐことはなかった。
「んにゅ……、んう?」
枕の感触が変化したのが解ったのか、穂乃果が身動ぎするとぱちりと目を開け、俺と目が合った。
「お、おはよう」
裏返った声で穂乃果にあいさつする。身体が変に反応してしまったから妙に気まずい。
「あれ、悠くん? って、枕だと思ってたら悠くんの膝じゃん!」
穂乃果は慌てて飛び起きると顔を赤らめてもじもじし始めた。
「ご、ごめん! その、重かったよね?」
恥ずかしそうに伏し目がちに俺を見つめてくる。俺に触れたってだけでこれだもんな。キスの先なんて夢のまた夢だ。
「いや、そんなことなかったぞ。希先輩に無理やり膝枕させることになってな」
「もう、希ちゃんったら~っ!」
頬を膨らませ、ここにはいない先輩を恨む穂乃果。俺はさっきまで彼女の頭があった腿を撫でる。重みで残った痺れが妙にこそばゆい。
「俺は全然嫌じゃなかったぞ。むしろ――」
「え?」
「むしろ、もうちょっと膝枕してやってもいいかなって……」
そこまで言った瞬間、俺の肌は一瞬にして高温になった。何を口走ってるんだ俺は! 恥ずかしいったらありゃしない!
「いいの?」
穂乃果はいつもとは少し違う声色で問いてきた。彼女も少し緊張しているらしい。もう少ししてあげてもいいと思ったので俺は頷いた。
「じゃ、じゃあ……。お邪魔します……」
ゆっくりと穂乃果の頭が俺の腿にのしかかってくる。その重さが妙に心地よかった。
「お、男の子に膝枕してもらうって何か新鮮だね……」
「普通逆だよな。でもさ、穂乃果って膝枕する方よりもされる方って気がするな」
「えぇ~。そんなことないよぉ! 穂乃果だって出来るもん!」
くるりと顔を俺の方へ向け、頬を膨らませる穂乃果。それが可愛らしくて、俺は微笑みながら彼女のさらさらの髪の撫でる。
「じゃあ今度、やってもらおうかな。耳掃除付きで」
「うん! 悠くんの耳をお掃除して気持よくなって貰いたいな~」
「おお。楽しみにしてるぞ」
「えへへ~」
穂乃果は目をつぶって俺の手を受け入れてくれている。なんか人懐っこい犬を撫でているみたいだ。
「なんか希先輩が心配してたぞ。穂乃果が根を詰めすぎてるんじゃないかって」
「穂乃果が?」
俺は黙って頷いた。穂乃果が風邪を引いた時、アレは俺のが移ったと思っていたが、もしかしたら練習のし過ぎから来る過労だったのかもしれないな。
「穂乃果としては、あんまり無理してないと思うんだけどなぁ」
横になりながらうーん、と腕を組み考えこむ穂乃果。あの風邪は身体が悲鳴をあげていたっていうサインだってことを彼女は自覚してないらしい。
「お前は一度決めたら一直線に進もうとするからな。少しは自分の身体のことも労れよ」
「それはそうなんだけど……」
彼女の視線が床へと落ちる。
「ここが、音ノ木坂学院が廃校になるかならないかの瀬戸際なんだもん。多少は無理してでもここをアピールしなきゃ」
「穂乃果の気持ちもわかる。今まで自分が憧れてた音ノ木坂学院だもんな」
穂乃果がスクールアイドルを始めるって聞いたあの時。この学院を有名にすれば、廃校は撤回されるのではないか。そう思って彼女はスクールアイドルを始めた。ある意味彼女はμ’sをその手段として利用しているんだ。他の皆からすれば失礼かもしれないけど。
「でもさ、お前が無理しすぎて倒れたら確実にμ’sのメンバーに迷惑がかかると思うぞ。μ’sはお前一人のものじゃないんだからさ」
「そう、だね……」
俺の意図が伝わったのか、視線を更に下へと落としこむ。でも、俺に練習とかのことを話す穂乃果の顔は輝いていたのは事実だ。利用していながらも、穂乃果はその過程を楽しんでいたのも事実だ。
俺は優しく彼女の髪を撫でた。
「でも、だからこそ俺がいるんだ」
「え?」
「付き合う時に言ったろ。相談役として、一人の男として支えるって。メンバーが支えきれないとこを俺が支えるから。俺にしか出来ない支え方でさ」
穂乃果は『話を聞いてくれるだけで気が楽になる』って言うけれど。話を聞くだけじゃダメだって思った。彼女を支えるって決めた以上、こっちからも駆け寄って支えてやらないと。
「悠くん……、ありがとう」
穂乃果はゆっくり起き上がるとぎゅっと抱きついてきた。俺は黙って彼女の背中を撫でてやる。
「確かに穂乃果、ちょっと無理しすぎちゃったかな。なんとかしなきゃって必死になり過ぎて、少し疲れてるのかも。だから――」
穂乃果は抱擁を解き、俺の顔をじっと見つめる。頬は赤く染まり、瞳はとろんとしている。
「悠くんから元気、もらっちゃっていい?」
その言葉から彼女の意図を理解した俺はにこりと微笑む。
「ああ。いくらでも持ってけ」
穂乃果は嬉しそうに笑うと瞼を閉じて顔を近づけてきた。俺も瞼を閉じて彼女の唇にキスをしてやる。
「んぅ……」
唇に伝わる甘くて柔らかい感覚。あまりの心地よさに思わず彼女の唇を吸ってしまう。
「んむ?! ちゅ……、んふ、ん……」
穂乃果も最初は驚いていたが、受け入れてくれたのか吸い返してきた。彼女の腕が俺の背中でクロスする。俺もそれに応じてぎゅっと抱きしめてやる。
どれくらい互いの唇を吸っていただろうか。どちらからともなく顔を離す。俺たちの唇を、唾液の糸が橋のようにつたっている。それを穂乃果が舌で舐めとる様を見ていたら俺の心臓は早鐘のように鼓動していた。
「えへへ、悠くんから元気、貰っちゃった。ごちそうさま♡」
「お、お粗末さまでした」
俺は荒い呼吸を整えながら返事をするのが精一杯だった。穂乃果は更に顔を赤くしながら、とろんとした目つきで上目遣いで覗きこんでくる。
「ねえ悠くん、もっと元気、貰ってもいい?」
そのお願いを、俺は断れるはずもなかった。今度はこっちから顔を近づけて唇を奪ってやる。
「ちゅ……、んん……」
キスの甘さに思わず俺は舌を唇の割れ目に差し込む。
「んん?! んふ……」
穂乃果も驚きはしたものの俺の舌を受け入れてくれた。それどころか、恐る恐ると舌を絡めてきた。
「ちぅ、ん、ちゅ……」
学校の教室という危険な場所での過激なキス。やめなきゃいけないと思っているのに身体が言うことを聞かない。もっともっとと穂乃果の身体を求めてしまう。
「はぁっ……、ん、んむぅ」
それは穂乃果も同じらしく、さっきよりも積極的に唇を吸ってくる。それがまた心地よくってこっちも吸い返してしまう。
互いに息も絶え絶えに見つめ合う。穂乃果は蕩けた顔で頬を緩める。
「えへへ、悠くん、変な顔……」
「穂乃果だって、顔真っ赤だぞ……」
肩に置いた手をすすす、と下ろしていく。俺の右手は彼女の胸元の近くで止まった。
「あ……、悠くん……」
ぴくり、と彼女の身体が揺れる。視線を少し逸らすが、意を決したのか、耳元で囁いた。
「いい、よ……? 悠くんが、したいなら……」
俺はありがとうの意を込めて穂乃果の頬にキスをすると、ゆっくりとその胸元へと――
『ほのかぁ! 穂乃果は無事ですかぁ!』
突然廊下から聞こえる凛とした大声。何度も聞いた声だ。俺と穂乃果は瞬時に互いの身を離す。
すると次の瞬間教室の戸が勢い良く開かれて、長い黒髪のメイドさんが現れた。
「う、海未ちゃん? お店はどうしたの?」
穂乃果は心底驚いた様子でそのメイドさんの名を呼んだ。
「穂乃果がお化け屋敷で倒れたと聞いたら居ても立ってもいられなくて来ちゃいました」
海未は鋭く俺を睨みつけ、俺の襟元を掴んだ。
「悠! 貴方がいながら穂乃果を気絶させるとは何事ですか!」
ぐわんぐわんと揺すってくる。その力は強く、世界が揺れているように見えた。
「や、あんなにお化け屋敷行きたそうにしてた穂乃果が気絶するなんて思ってもなかったし――」
「思ってもなかったぁ!? 貴方それでも穂乃果の彼氏ですか! あらゆるトラブルを想定して行動するのが彼氏ではないのですか!」
「彼氏ってのはそこまで万能じゃねーよ!」
海未の彼氏に求めるもの高すぎだろ。そんなんじゃ自分に彼氏出来ないぞ。
「海未、それくらいにしときなさい」
今にも俺に噛み付きそうな海未の頭を抑える手が伸びる。海未の後ろから出てきたのはスラリとした体型の絵里先輩だ。
「止めないで下さい絵里! 私は――」
「落ち着きなさい」
びしりと鋭い音を立てながら絵里先輩の手刀が海未の頭部へと炸裂した。海未はその場に倒れこんだ。
「二城くん、ごめんなさいね。海未ったらたまに変な方向に暴走するのよ」
「ええ。それはよく知ってます」
おかげで俺はよく理不尽な目にあってるし。
大人しくなった海未を抱える絵里先輩を見て、穂乃果が申し訳なさそうに俺の背中から顔を見せる。
「え、絵里ちゃん、ごめんね。教室を使わせて……」
しおらしくしている穂乃果を見て、絵里先輩はウィンクした。
「いいのよアレくらい。困ったときはお互い様でしょ?」
その態度が嬉しかったのか、穂乃果の表情がぱぁっと明るくなった。
「絵里ちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして。そろそろ本番が近いから穂乃果を迎えに来たのよ。そしたらものすごい剣幕でお化け屋敷に入る海未を見つけてね」
絵里先輩が苦笑いしていると、横たわっていた海未が目を覚ました。
「う、うう~ん……。わ、私は一体何を……?」
「海未ちゃん! ライブ頑張ろうね!」
思い出させまいと穂乃果は彼女に詰め寄った。海未はただよくわからず、「は、はい」と言うだけだった。
「よかった、元気になったみたいね」
海未の手を引く穂乃果の後ろで絵里先輩が俺に近づいて二人には聞こえない様に話しかけてきた。
「二城くん、ありがとうね」
「い、いえ……」
年上の、それでいて綺麗な先輩に感謝されるのが妙にこそばゆい。まあ元気を分けた方法が方法だからか、少し恥ずかしいしな。
お化け屋敷を出ると外の明るさが瞼を襲った。少し目がなれると文化祭の喧騒が妙に懐かしく思えた。空は少し曇っていて今にも崩れそうだ。
「じゃあ私たちは準備があるから」
三人は下りの階段へと足を伸ばしながら俺の方を向いた。
「ええ。天気が少し心配ですが、頑張ってくださいね」
「ありがとね♪」
絵里先輩がウィンクする。それはアイドルのものと言うよりもモデルがするそれと同じだった。
「悠くん! 穂乃果行ってくるね!」
ぴょん、と穂乃果が俺の目の前に歩み寄る。俺は少しでも緊張を解そうと軽口を叩いてやることにする。
「おう。行って来い! 絵里先輩とかの足引っ張るなよ」
「もう、悠くんのいじわる!」
穂乃果が頬を膨らませる。それが可愛らしくて、彼女の頭を撫でてやる。
「楽しんでこいよ」
「うん!」
満面の笑みで返事をすると穂乃果は俺の耳元へと顔を寄せる。
「家に帰ったら、さっきの続き、しよ?」
その言葉を聞いた瞬間、顔が一瞬にして高熱に包まれた。俺が返事を出来ないでいると、穂乃果は顔を赤らめながら身を離す。
「えへへ! じゃあライブでね!」
俺の返事も待たず、穂乃果は階段を降りて行った。
「進展しすぎたか?」
俺は頬を撫でた。まだ彼女の言葉が脳裏に残って俺の顔は熱を保ったままだった。
その日のライブは天候が崩れるも、無事に成功した。
文化祭の後、穂乃果が言った「さっきの続き」については、また別の話。
まさかラストダンスでボス完全撃破のドロップがローマだとは……。びっくりしました。
ここでアニメシナリオとは大きく違い、何も問題なくライブが成功するという形にしました。悠という存在で変わった世界線ってことでどうか一つ。
希と絵里を少し掘り下げてみようと考え書いたのですが、キリの良い場所がなく、こんなにも長くなってしまいました。読みづらかったらごめんなさい。
今回微妙にエロい展開にしてみました。エロいと思って頂けたら幸いです。皆様が書いて欲しいと望むなら、R-18として二人の夜を書いてみようかなぁ。
やっと自分が構想した物語の終盤まで話を書くことが出来ました。これも応援して下さったファンの皆様のお陰です。本当にありがとうございました。あとはことりの留学あたりの話に介入していこうかと。もう少しお付き合い下さいませ。
ご意見ご感想、よろしくです。