ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
「悠くーん!」
家までの道を歩いていると元気な声が近づいてきた。声を聞いただけで相手の顔が浮かぶ。
「つっかまえたーっ!」
穂乃果が俺に突進するように抱きついてきた。その顔は本当に嬉しそうで。
「穂乃果! 人の往来のある所で過激なスキンシップはしないで下さい! 破廉恥です!」
後から駆け寄ってきたのは海未と、ことりだ。ことりの表情は、自然と笑顔だった。海未は相変わらずだが。
「悠くん、聞いてよ! ことりちゃん留学しないんだって!」
本当に嬉しそうにはしゃぐ穂乃果。その様子だと、自分の気持ちを伝えられたみたいだな。視線をことりに向けると、ことりはにこりと微笑み返した。
「ほのかちゃんの気持ちを聞いて、ことりももっと皆とμ’sを続けたいって思ったの。それに……」
ことりの視線が一瞬地面へと落ちるがすぐに顔を上げて笑顔を見せた。
「ゆうくんにも迷惑かけたよね。ごめんなさい」
「いや、俺は穂乃果の話を聞いただけだからさ。ことりにも事情があったんだし、仕方ないさ」
「ゆうくん、ありがとね☆」
ことりがぎゅっと俺に抱きついてきた。穂乃果よりも胸があるんだな。穂乃果とは違った柔らかさに包まれる。
「ちょ、ちょっっとことりちゃん!? 悠くんは穂乃果の彼氏なんだけどぉ~!」
穂乃果が無理やりことりを引き剥がし、じとりと睨みつける。ことりはうふふと笑っている。
「これは感謝のハグだよ~。えりちゃんに教えてもらったんだ~」
「が、外国の風習でもだめー!」
少し目をうるませながら抗議する穂乃果をことりは優しく抱きしめる。
「じゃあほのかちゃんも、ぎゅ~!」
「きゃ~♡」
抱きしめられた穂乃果は満更でもない表情でことりを抱きしめ返す。押しくら饅頭の様に密着しあう二人を見ていると何だか微笑ましい。
「悠のお陰ですね」
俺がそれを見ていると、海未が隣に並んだ。
「穂乃果がことりに自分の気持ちを伝えるのを見た時、「『これは悠の入れ知恵だな』って思いました」
「入れ知恵って何か言い方ひどくない?」
「いい意味で言ってるんですよ」
ふふ、と海未は少し意地悪そうに笑う。その笑みにつられて俺も笑顔が溢れる。
「俺は大したことはしてないさ。ただこんな考え方もあるんじゃないかって道を示しただけ。実際にその道を選んだのは穂乃果自身だ」
「そうかもしれませんが、悠あってこその選択だと思います。留学のことを伝えた時、穂乃果は本当に落ち込んでいました。そんな彼女に、私たちは声をかけることが出来ませんでした……。悠の導き方が正しかったんですよ」
正しかった、その言葉が俺の胸にちくりと刺さった。脳裏にあの事実を受け入れた穂乃果の悲しそうな表情が過る。
「全部俺が正しかった訳じゃない。俺が示した道にも、でっかい落とし穴があった。100%正しいことなんてないさ」
海未はそのことに関して何も言わないでくれた。少し空気が重くなりかけたので笑ってみせる。
「って、何で俺たちはクサいセリフを言い合ってるんだろうな」
「そうですね、可笑しいですね……」
互いに頬が緩み、笑い合う。こいつとここまで穏やかに話をしたことがあったろうか?
「とにかく、あんなことにならなくてよかった……」
「あんなこと?」
笑い合っている中でぽつりと海未が漏らした。自分で口にしたと思っていなかったのか、海未は視線を落とした。
「夢を、見たんです」
「夢ってどんな?」
海未の笑顔が曇り始める。どうやらいい夢ではないみたいだ。
「学園祭でμ’sのライブ中に穂乃果が倒れる夢でした。ことりの留学のこともあって、穂乃果が『スクールアイドルを辞める』って言い出して……」
彼女の言葉を聞いて、俺もいつか見た夢が浮かんだ。穂乃果が頬を抑え、海未の身体が震えていた、あの夢を。
「その言葉を聞いた私は穂乃果を――」
「海未」
俺は彼女の言葉を遮った。いつも海未には理不尽な目に合わされているが、それでも友達だ。友達の辛そうな顔は見たくない。
「所詮は夢だ。起きてないことに怯えたって何の意味もない。それよりもそうならなかったことを喜べばいいんじゃないか」
海未はため息をつくとにこりと笑った。
「そうですね。起こらなかったことにうじうじ悩んでもしょうがないですよね」
ありがとうございます、とお辞儀をすると海未は改めて俺に向き直った。
「悠、これからも穂乃果の事、よろしくお願いしますね。私たちでは出来ない支え方で、穂乃果を支えて下さい」
ぺこりとお辞儀までされると何だか申し訳ない。ふと俺の中に小さな疑問が生まれた。
「ってことは、海未はやっと俺のこと認めてくれたってことか?」
「な! 勘違いしないで下さい!」
海未は顔を真赤にして詰め寄って俺を睨みつけた。
「穂乃果のこと、少しは貴方に任せてもいいかなって思っただけです! 完全に貴方のことを信用したわけじゃありません!」
「それって認めたってことなんじゃ……」
海未の鋭い眼光に俺は言葉に詰まってしまう。これ以上言ったら更なる理不尽が襲いかかって来るに違いない。
「悠くん!」
海未を押しのけて穂乃果が俺に近寄って来る。俺の肩に手を置くとつま先立ちしながらキスをしてきた。俺の唇に柔らかくて甘い感触が伝わって来る。
「えへへ、改めて悠くんへのお礼♪」
俺が何も言えずにいると、海未の震えた声が聞こえてくる。
「ほ、穂乃果……、私はさっき『人の往来のある所で過激なスキンシップはしないで下さい』と言いましたよね……?」
ワナワナと海未の身体が震える。彼女の周囲の空間が歪んでいるように見える。穂乃果は負けじと俺の腕に抱きついた。
「だって、悠くんと穂乃果は恋人同士だもん。キスぐらいするもん!」
べー! と舌を出す穂乃果。それが海未の臨界点だった。重苦しい殺気にも似た威圧感が俺を襲う。
「悠、貴方がいなければ……」
「だよね、全部俺に向かうんだよね。知ってた」
俺が呆れながらため息をつくと、穂乃果が俺の手を握った。
「悠くん、逃げよ!」
穂乃果の言葉に返そうとしたが、その時には俺は彼女に引っ張られていた。次の瞬間、海未の顔が般若へと変貌した。
「待ちなさい、ほのかぁ! ゆう!」
「結局またこのパターンか!」
俺も足に力を入れる。穂乃果は俺を引っ張りながら笑顔で走り続ける。
「走ろう! 私たちの家まで!」
「あぁ!」
穂乃果が自分の足で走りだす。俺は引っ張られながらも足並みを揃えようとする。その後ろを鬼のような形相で、でもどこか楽しそうな海未が、楽しそうな表情でことりが追いかける。
俺たちは笑いながら家へと走っていった。
前回の後書きを読んで、ご不快な思いをした方々がいた様なので、この場を借りてお詫びします。本当に申し訳ありませんでした。
大多数の方がアニメを良いと考えていて、自分はその方への配慮を忘れていました。本来ならああいった意見は執筆中に書いて、配慮を考えて削除していたのですが、前回は自分がこのシリーズで一番に書きたかった要の部分だったので、自重出来ませんでした。
アニメの世界は悠や海未が見た夢として少し出しました。この物語とアニメ、どっちを夢とするかは読者の皆様にお任せします。圧倒的にこっちが夢だろうけど。
今回でこのシリーズの本編は終了とさせて頂きます。R18やデュエルなどはアフターや外伝として書いていこうと考えてます。いい加減かよちんも幸せにしてやらなきゃならんし。執筆速度は遅くなると思いますが、今後もご愛読して頂けると嬉しいです。
ご意見ご感想お待ちしております。