ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
俺「はい」
海未「読者の方から『続きはまだか』とお叱りも頂いたのにこの投稿の遅さ。何故です?」
俺「君たちのラストライブが迫って気分が落ち込んでいた」
海未「本音は?」
俺「ガンダムブレイカー3、楽しいれす」
海未「貴方は最低です!」
バッファローマンを再現しようとした人間は私だけ位のものです。
誰得な海未ちゃんとの掛け合いも終わりが近づいてきました。寂しいようなそうでもないような。
「ここに戻るのも久々だな」
お昼下がりの電気街。俺は首のネクタイを緩めるとハンカチで額の汗を拭いた。五月の終わりにこの暑さ。今年の夏は猛暑かな。
いずれ来る夏を思い浮かべて苦い顔をしているとポケットのスマホが震えた。電話の相手は、ことりだ。丁度いいタイミングだ。
「もしもし」
『あ、ゆうくん? この時間に帰ってくるって言ってたから電話したけど』
甘々な声は相も変わらず、でもちょっぴり大人びた声。それを聞いて帰ってきたんだなと感じる。
「ああ。今丁度電車から降りた所だ。今家に向かっている」
『研修お疲れ様~。長かったね~』
「まぁな」
俺は大学を卒業した後就職が確定し、今まで研修として別の場所で過ごしていた。二ヶ月ぶりの秋葉原がどことなく懐かしい。
「それより例の件、なんとかなりそうか?」
『うん。お母さんにお願いしたらオッケーしてくれたよ~』
「本当にありがとうな。ことりには頭が上らないよ」
『ううん。ほのかちゃんの恋人のゆうくんの頼みだもん。ほのかちゃんには幸せになってもらいたいもん。だからね、ゆうくん』
ことりの甘い声に少し真剣さが混じる。なぜか俺の背筋が伸びた。
『ほのかちゃんのこと、幸せにしてね? 泣かしたらことり、許さないよ?』
心臓をついばまれるような感覚が身体に走る。この冷や汗が出る威圧感も懐かしい。
『ゆうくん?』
ことりの声で我に帰る。ことりの威圧感たっぷりの声に懐かしさを感じたとは言えない。変な誤解を生まない為にも俺は笑って返事をした。
「ああ。必ず幸せにする。でも、ベッドの上じゃ泣かせるかもしれないなー」
『うふふ~。ゆうくんったら冗談が面白いね~。夜道には気をつけなよ~』
ことりの声から目が笑ってない姿が簡単に想像出来る。
「ごめん、冗談。学園に入るにはどうしたらいい?」
俺の問いにことりはふふ、と柔らかく笑う。
『カギを持ってる人がほのかちゃん家の前にいると思うよ。その人から貰ってね』
「ありがとう、ことり」
通話を切ると鞄を背負い込んだ。
「さて帰りますか、俺の家に」
俺は歩く足のスピードを速めた。
高校生の頃穂乃果と何度も歩いた道を踏みしめた先に、それは建っていた。
「ただいま」
『穂むら』の看板を見た途端、そう呟いていた。穂乃果と過ごした記憶が脳裏を過り、思わず頬が緩んだ。戸を開けようした時、横から声がした。
「悠」
声の主の方へと振り向く。風に黒髪がふわりと揺らぐ。この凛とした声。間違いない、あいつだ。
「久しぶりだな、海未」
「ええ、本当に久しぶりですね」
ことりめ。よりによってこいつを俺に寄こしたのか。俺は彼女の目の前まで歩いて行った。海未はポケットからカギを取り出した。
「ことりから話は聞いてます。これが学園のマスターキーです」
「あ、サンキュー――」
俺がそれを取ろうとすると、海未は拳を握りしめてしまった。まあすんなり渡してくれるとは思ってもないけど。
「ごめんなさい悠。少し、私の独り言に付き合ってもらえますか?」
「ああ。聞くだけなら。テキトーに相槌打ってやるよ」
俺の軽口に彼女の頬が緩んだ。何気にこいつと二人っきりで海未の笑顔を見るのって始めてじゃないか?
「気付かなかったかもしれませんが私、ずっと悠の事が嫌いでした」
「うん、知ってた」
むしろ隠していたことに驚きだ。
「始めて私たちと悠が会った時、穂乃果はもう貴方に心を許していました。どうして悠に、会ってすぐの殿方に私たちに見せていた笑顔を簡単に見せるのだろうと」
後ろめたそうに視線を地面へと落とす。すぐに視線を俺に向けると少し苦しそうに微笑んだ。
「嫉妬してたんですね悠に。穂乃果の貴方へと向ける笑顔を見ている内に、私たちに向ける笑顔とは違うものだとわかったんです」
苦笑いの表情を引き締め、俺をまっすぐ見つめる海未。
「あの笑顔を、穂乃果にさせることは私には出来ません。ですから――」
彼女は握り締めた拳を付き出した。俺もそれに応える形で受け止めるべく手を伸ばす。
「穂乃果の事、頼みましたよ?」
俺はそれを硬く握り締めた。その言葉なき返事に、海未はにこりと笑った。
「おめでとうございます。悠」
それだけ言うと、海未は去っていった。俺は、やっと海未に認められたんだろうな。それと同時に穂乃果のことを、穂乃果の全てを託されたってことなんだってこと。
俺はよし、と深呼吸すると戸に手を掛けた。
俺の顔を見るなり瞳を緩ませ穂乃果が抱きつく、それは容易に想像できた。
「悠くん、この二ヶ月で変わったね」
店を終え、今へと歩く廊下で穂乃果が俺の顔を覗き込んできた。
「そうか?」
「うん。なんかこう、かっこ良くなった!」
「たかが二ヶ月で変わらないだろ。そう言う穂乃果だって――」
ふと穂乃果を見る。久々に見る恋人は、何故かより可愛く見えた。
「穂乃果は? 変わった?」
「いんにゃ全然」
照れ隠しに否定すると穂乃果は頬をぷくーと膨らませてしまった。
「ひどーい! 穂乃果だって変わったんだよぉ!!」
「ほぉー、具体的には?」
「ぐ、具体的には――」
思い当たらないのか、目を泳がせる。こいつのころころと表情が変わるのは見ていて本当に飽きないな。はっと言って顔を赤らめる。どうやら思いついたらしい。
「お、おっぱい……、とか……?」
「その話を詳しく」
俺は彼女の両肩をがしっと掴んでいた。胸か? この胸が大きくなったのか?
「もう! 悠くんのすけべ!」
迫る俺にデコピンをかまして穂乃果は離れる。
「悪い悪い。そういったことは、また今度な?」
「も、もう……」
耳まで赤く染まるってしまう。そうだ、今はエッチなどしている場合じゃない。もっと大事なことがあるんだ。
「穂乃果、明日の夜は空いてるか?」
俺の問いに穂乃果は振り返った。
「とくにないよー?」
どうしてそんなこと聞くの、といった表情をしている。切り出すなら今だな。
「実はさ、レストランの予約をしてるんだ。ほら、俺たちが付き合い始めて六年経つだろ? その記念にさ」
記念、と言う言葉に穂乃果は目を輝かせた。
「え、悠くんこの日の為に準備をしてくれたの!?」
「もちろんさ」
そうだ、この日の為に俺は準備をしてきたんだ。ことりに頼んでまで。
「そんな訳で付き合ってくれるか?」
「うん!! そっかー、もう六年も経つんだね!! 楽しみだなー」
よし、上手くのってくれた。後は明日になるのを待つのみ。
楽しそうな穂乃果を見て、決意を更に硬めた。
「はーっ、美味しかったぁ!!」
夕日が傾き、徐々に暗闇へと変わっていく道を腕を組んで歩く。二人での食事はあっという間に終わってしまった。
「穂乃果、鉄板焼きなんて初めて食べたよー!」
「はは、言っちゃ失礼かもしれんが穂乃果のウチって外食とは無縁な感じするよな」
「むぅ、それはホントに失礼だよ」
「悪い」
実のところ、俺は味なんてよくわからなかった。この後に控えることに緊張してしまっていた。そんな俺の雰囲気を悟ったのか、穂乃果が俺の顔を覗き込んだ。
「悠くんどうしたの? なんか様子が変だよ?」
「ん? そうか?」
こいつ、意外と鋭いんだよな。
「悠くんの恋人ですから」
むふん、と胸を張る穂乃果。そんな彼女を見て、俺の緊張は少し和らいだ。言うなら今だな。
「穂乃果、ちょっと寄り道していいか?」
「わーっ!! 本当に懐かしいなーっ!!」
俺たちの目の前には暗闇に飲み込まれた校舎。音ノ木坂学院だ。かつて穂乃果たちが守った学校だ。
「そう言えば穂乃果が卒業した後、もう一度廃校の危機になったんだっけか」
「ああ、そんなこともあったねー」
穂乃果は目を細め、佇む校舎を眺める。
「でも雪穂たちが、スクールアイドルとして頑張ってくれて、また音ノ木坂は持ち直したんだよね」
懐かしさを感じているのか穂乃果の瞳がうるうると緩んでいく。俺は彼女の肩を抱く。
「そうだな。だからここは、穂乃果と雪穂が守った場所だ」
「違うよ悠くん」
穂乃果は振り返り俺に微笑む。
「穂乃果達と雪穂達が守った――、だよ」
「そうだな」
穂乃果は俺から離れ、門に手をかける。
「うーん、ここまで来ると校舎の中とか入りたくなるなーー」
穂乃果ならそう言うと思ってた。
「その願い、叶えてやろうか?」
「え?」
穂乃果のとぼけた顔に笑いをこらえながら俺は懐から例のアレを取り出した。
「アルパカくん久しぶりーーっ!! 元気にしてたーー!?」
メェ~、と鳴くアルパカ三頭を抱きしめる穂乃果。俺はその光景を後ろから眺めていた。
「ほら悠くんもこっちおいでよ!」
「い、いや俺はいいって」
「遠慮しないで~、ほらほら」
穂乃果に引っ張られ恐る恐る一番小さなアルパカの頭を撫でる。撫でられ慣れているのか、目を閉じて安心した表情を見せるアルパカに俺の頬も緩んだ。
「さて、次は部室でも覗いてくか?」
「うん!」
海未から預かった、学院のマスターキーを使って校舎へと入っていく。まだ夕日が廊下を照らしてくれていて、照明は必要なさそうだ。
「でも悠くんがマスターキー持ってくるなんてびっくりだよ」
「この日の為にことりにお願いしといたんだ。持つべきものは友だな」
あとで、ことりとことりの母親にはお礼に挨拶に行こう。
俺たちは学生時代の思い出を語りながら誰もいない廊下を歩いて行く。
「さて、ここがアイドル研究部の部室だな」
部室前にたどり着くと穂乃果はわぁ、と感嘆の声を漏らした。掲げられている「アイドル研究部」の手書きの表札を懐かしげに見つめている。
「中に入ってみるか?」
俺がドアノブにカギを入れようとすると、穂乃果がその手を止めた。
「穂乃果?」
「あ、あのね、もうこの部室は穂乃果達のじゃないから、いいんだ。ここに連れて来てくれただけで十分だよ」
「穂乃果がそれでいいって言うなら……」
「うん、ありがとう。でもちょっとこのままで……」
穂乃果はそう言うとドアに頭を当て、何かを呟いていた。聞き取ろうとするが、すぐさま穂乃果はドアから身を離し、笑いかける。
「ここまで連れて来てくれて、ありがとう悠くん! そろそろ帰ろ?」
「わかった。だけど一つだけ、俺も寄りたい所があるんだ」
屋上へと繋がるドアを開くともう外は暗闇へと変わっていた。そして差し込む少し冷たい風。
「屋上だー!!」
そして俺よりも早く屋上の床を踏む穂乃果。またも懐かしそうにその床を見つめる。
「絵里ちゃんたちの卒業式の日にね、ここに『μ’s』って水で書いたんだ。あの日は天気も良かったからすぐに乾いちゃったけど」
懐かしそうに、どこか少し寂しそうにする穂乃果。もう終わってしまった事だし、俺は部外者だからその寂しさに対する手を俺は持っていない。
でもそれは過去の話。俺は、今の穂乃果を笑顔にしたい。そしてこれからも。その為には――
「ここの夜景、本当に綺麗だな」
「でしょ~! 最後のライブの前夜に皆でお泊りした時にもここで見たんだ~」
「なあ穂乃果」
「うん?」
俺はその光を指差した。
「秋葉原の光と、音ノ木坂の光、どっちにも共通点があると思うんだ」
「共通点?」
キラキラと輝く、電気街の光。そしてその隅にちまちまと輝く、家の光。どちらにも言えることは――
「どちらも、あの光の中に人がいる。あそこに人の営みがあるんだってこと。あの中で人が笑ったりして、時々泣いて生きているのさ」
「なるほど~、今日の悠くんは詩人だね」
穂乃果の言葉に反応出来ない位胸が高鳴っている。ずっとポッケにしまいこんでいた『ソレ』を握る。
「だからさ、俺たちもさ、一つの光になってさ、営みってのを始めてみないか?」
「え?」
『ソレ』を取り出し、彼女の前で開く。見た途端穂乃果の息を呑む声が聴こえる。
「俺と結婚してくれ」
「悠、くん?」
「俺はもっと穂乃果と一緒にいたい。一緒に笑って泣いて、生きていきたい。だから――」
「はい!」
俺がセリフを言い切る前に穂乃果が抱きついて来た。
「おま、人が人生で一番いいセリフ言おうとしてるのに――」
「悠くん! 穂乃果嬉しいよぉ! う、嬉しすぎて泣いちゃうよぉ~!!」
そのまま俺の胸でわんわんと穂乃果は泣き続けた。
「ご、ごめん悠くん。プロポーズの言葉台無しにしちゃって……」
目元を赤くして穂乃果は申し訳なさそうに俺を見つめる。俺は笑って彼女の頭を撫でる。
「いいさ。『穂乃果はこういうヤツだ』って計算しなかった俺が悪い」
「もう一回プロポーズの言葉やる?」
「それは惨め過ぎるのでパス」
これが俺たちの始まりと思えば、まあいいか。俺は少し身を離し、彼女の左手を手に取る。
「穂乃果」
「悠くん」
俺は指輪を薬指にはめた。
「これからはずっと一緒だ」
「うん!」
少し嬉し涙混じりの笑顔を輝かせると穂乃果は俺に抱きついた。
俺たちはここで――、一つの光になった。
『叶え、みんなの夢――』この「みんな」って誰のことなんだろうとずっと思ってた。彼女達は応援してくれたファンのお陰もあってか、Mステや紅白出場など夢を叶えた。でもすぐに終わりにするというのはおかしい気がする。
「自分達の夢が叶ったからもう終わりにする」って言ってる気がして。「一緒に夢を見ていきたい」っていうファンの願いを無視して。それでいいのかねぇ。こんなこと愚痴ってもしょうがないけど。俺たちの夢を、覚まさないでくれって言いたい。
自分がオリジナルで作った二度目の音ノ木坂の危機。ちょっと疑問に思っていたことがありました。「本編で『スクールアイドルをしない』と言った場合音ノ木坂はどうなるか? 『μ’sのいない音ノ木坂に興味はない』とまた過疎化が進み、廃校への道に戻るのでは?」と。そんなifとして一つ。
この後に一本、エピローグを書いて終わりにしたいと思います。また極秘妄想が浮かんだ場合はこの話の前に書きたいです。ここは終点であって、創作の終わりではないです。多分。
ご意見ご感想お待ちしてます。