ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
つうか俺、りっぴーと一つ違いなのか……
おまたせしました。三話目です。
自分の生活用品の買い出しに穂乃果と出かけた二城 悠。そこで彼は穂乃果の顔の広さを知る――
「悠くん、次はこっちだよ!」
オトノキの商店街を俺は穂乃果と共に歩いていた。俺が抱える紙袋の中には湯のみや箸等の高坂家での生活に必要な物が入っている。
「ごめんね、穂乃果の買い物にも付き合って貰っちゃって」
「こっちは俺に必要な物買ってもらってるんだ。それ位付き合うよ」
「えへへ、ありがと」
嬉しそうに穂乃果は微笑んだ。彼女の持つ袋には運動用のジャージ。何に使うのか聞いても、
「そのうちわかるよ」
とはぐらかされてしまった。
「着いたよ、悠くん」
彼女の声で我に返ってその店を見た。穂乃果の家と似たような感じで、その家には老舗のような雰囲気が漂う。不格好な木の看板には達筆で「五本指」と書かれている。
「五本指? また変わった名前の店だな」
「ここはね、御握り屋さんなんだ! お米の仕入れもしてるからウチのもち米はここのを使ってるんだ!」
説明をしながら穂乃果は店の戸を開ける。店はいかにも昔から営業している雰囲気を醸し出していた。
「お、高坂先輩じゃないですか」
店番をしていた男が穂乃果を見るとにやりと笑った。背はかなり高く、170㎝ある俺よりも一頭身以上高い。
「もう、イッキーったら今まで通り穂乃果でいいよ」
「悪い、ちょっとからかいたくなってな」
穂乃果はその男とハイタッチする。穂乃果の手と比べても男の手はデカイ。全て「デカイ」で表現出来る奴だった。
「で、連れてきたのは彼氏さんか?」
「だから、違うってば! どうして皆穂乃果達をそう勘違いするのかな……」
穂乃果はむぅっっと頬を膨らませる。それを見た男は豪快に笑う。
「それだけ仲が良く見えるってことだろ。良いことじゃんか」
「そ、そうかな。えへへ」
今度は頬を掻きながらもじもじとする穂乃果。そんな様を微笑ましく見ていると男が俺に笑いかける。
「こいつ、扱いやすいでしょ」
「そうだな」
その笑みに俺も笑顔で応えた。
「あ、悠くん紹介するね。穂乃果の幼なじみで、このお店の息子さんの。伍原 隼くんだよ!」
紹介されたイッキーこと伍原 隼はども、と頭を下げる。それに続いて俺の紹介が始まる。
「で、ウチの居候になった二城 悠くん。決して穂乃果の彼氏じゃないんだよ!」
穂乃果は「決して」を妙に強調する。それがまた誤解を招く気がして、俺と伍原は苦笑する。
「んで、二城さん、居候ってのはどうして?」
二城の問いに俺は簡単に説明をしてやった。
「へぇ。ってことはここから近い音ノ木坂高校?」
「そう。そこで二年生として転校することになるな」
俺の言葉に伍原は目を丸くする。
「えっ、じゃあ先輩ってことっすか?」
これは失礼、と頭を下げられる。俺はいやいや、と面を上げるように言う。
「失礼されるようなことはしてないよ。ぶっちゃけ、君の方が先輩に見えるよ」
俺のその言葉に彼はあー、と苦笑いする。
「まあこんな身なりっすからね。そう思われても仕方ないっす」
ため息を吐く伍原の瞳は暗い。地雷を踏んでしまっただろうか?
「すまない、いらんこと言ってしまったかな」
「全然平気っすよ。もう言われ慣れてることですし」
伍原は御握りの入っているショーケースに手を触れる。ショーケースには俺の顔の半分位ある巨大な御握り。個数は少ないが、売れた形跡がない。
「これだけ手がデカイと握る御握りもこん位になっちまう。あんまり握るにゃ適してない手なんすよ。出来る事って言ったらここで店番する位。ロクデナシの跡取り息子っすよ」
「そんなことないよ!」
俺が声をかけようとした時、穂乃果の大きな声が遮った。
「イッキーの大きな身体には穂乃果は何度も助けられたもん! 高い所にあるものとってもらったり、高い所にあるものとってもらったりしてるもん!」
「オレの存在価値、それだけかよ!」
伍原の叫びの様なツッコミが炸裂する。穂乃果はえへへと笑って頬を掻いた。
「それだけじゃないよ、ほらこうやって!」
穂乃果は伍原の二の腕をにぶらさがり始めた。そのままぶらぶらと身体全体を揺らしている。彼女一人ぶら下っても伍原はビクともしない。
「んで、どうなんだ?」
その様が可笑しくて俺は穂乃果に声をかける。彼女は一瞬考えて、
「楽しい」
とだけ答えた。
一瞬の沈黙。それを伍原が破った。
「ぷっ」
彼が噴き出すのを聞いてから、俺や穂乃果も笑いだした。
「楽しいってお前、何なんだよ」
「穂乃果にとってはイッキーはこのオトノキで育った幼なじみだもん! 一緒にいて楽しいのは当たり前だよ!」
その言葉に彼は笑って腕を揺らし始めた。穂乃果はきゃ~とそれを楽しんでいる。もう彼の表情に暗い影はなかった。
「あ、ほのかだ!」
突然外から舌足らずな声が俺達の耳に届く。その声の方向を見ると、黄色い帽子を被った小学生の五人組がいる。
それを見た穂乃果は伍原の腕から飛び跳ねるように降りるとその子供達と同じ高さに腰を下ろす。
「うんっ、穂乃果だよ!」
彼女の声に子供達はわいわいと騒ぎ始める。俺と伍原もそこに近づく。子供達は背の高い伍原を見ると指を指して言った。
「いつはらのおじさんだ!」
「誰がおじさんだ。おにいさんだ!」
きゃははと喜ぶ子供達。彼らは俺を見て叫んだ。
「あ、ほのかの彼氏だ!」
それにいち早く反応したのは穂乃果だった。顔を真っ赤にしながら反論する。
「こ、こらぁ! お兄さんに失礼でしょ!」
子供達はわー、ほのかがおこった~、と笑いながら散り散りに逃げていく。穂乃果もそれを待て~、と追いかけ始めた。
「これがあいつのいいとこっすかね」
追いかけっこをしている彼女達を見ていた伍原が俺に語りかけてきた。その表情は嬉しそうだった。
「気が付いたら周りを笑顔にしてくれる、しかも本人は無自覚ときたもんだ。太陽みたいな奴っすよ」
ふと子供達を見る。追いかけられ、穂乃果に捕まりぎゅーと抱きしめられる子供達。どの子も良い笑顔をしていた。
太陽か。
「そうだな」
そう呟いた俺も笑っていた。
一しきり遊んだ後、子供達は帰っていった。俺達は再び店に戻り、買い物を続ける。
「これが米十キロな」
伍原が軽々と米が入った袋を担いできた。それを床に置く。
「支払いは後払いでいいぞ。そうおじさんに伝えといてくれ」
「うん、わかった! ありがとう!」
穂乃果はそう言うと米袋を掴んだ。そしてその場で固まってしまった。
「ん~っ! んっ!」
ただ唸って米袋を引っ張っている。顔も真っ赤だ。
「重い……」
肩で息をしながらその場にへたりこむ。俺は笑いながら穂乃果の横に並ぶ。
「俺が持つよ。代わりに穂乃果はこれを持ってくれ」
俺の生活用品が入った紙袋を彼女に渡す。俺は米袋の底を持つと一気に力をいれてそれを持ち上げた。伍原程軽々とは持てないが、両手でなら俺も持てる。それを見て穂乃果は手を叩く。
「わぁ~、悠くんすごい!」
「ま、これ位はな」
米袋を持って店を出る。穂乃果は伍原の方を向いて彼に手を振った。
「じゃあイッキー、またね!」
「おう。また来いよ」
伍原は笑顔で俺達の背中を見送った。
「じゃあ今日の晩御飯のおかずも買っちゃおうか」
穂乃果の提案で俺達はオトノキの町を歩くことになった。魚屋や八百屋、精肉店を回ったが、どの店の人も穂乃果をよく知っていた。皆俺を見るなり「彼氏」と言い、皆おまけをつけてくれた。
「ちょっと近くの公園で休憩しようか。悠くんもそれ持ち続けて疲れただろうし」
「ああ、そうするか」
町の片隅にある公園のベンチに腰を下ろす。米袋を持っていた手が少し痺れる。流石に長時間持っているときつい。
「はい、お肉屋さんのおまけのコロッケだよ」
穂乃果は紙に包まれたコロッケを差し出してくれた。
「お、サンキュー」
それを受け取ってかじる。揚げたてのコロッケの熱さとじゅわっとした油が身に沁みる。ジャガイモもほくほくで疲れた身体を癒してくれる。牛肉の絶妙なバランスがおいしさを引き立てる。
「美味いな。何て言うか、ご飯が欲しくなる」
「あ、そうだよね! 穂乃果もそう思う!」
自分と意見が一緒だったのが嬉しかったのか、ぱぁっと顔を輝かせる。本当に素直な奴だな。
「しかし穂乃果は本当に顔が広いな。店の人全員がお前のこと知ってて、全員おまけつけてくれるしな」
八百屋ではキュウリを三本、魚屋ではシラスを一パックくれた。穂乃果はこれでキュウリとシラスを和えたサラダを作るらしい。
「よくお母さんと一緒に買い物ついていったから皆覚えちゃったみたい」
えへへと笑う穂乃果を見ているとこっちも自然に笑顔になる。
「通りかかった人も皆お前のこと知ってたな」
「うんっ。穂乃果、オトノキじゃ有名人だもん!」
誇らしげに胸を張られる。その様が可笑しくて少しからかいたくなってくる。
「皆俺を見るなり、『彼氏』って言ってたけどな。魚屋の人なんか俺の事を『穂むらの若大将』なんて呼んでたぞ」
それを聞いた瞬間、穂乃果は顔を赤らめて俯く。
「うう……。どうして皆そう言うんだろ……。誰かが噂として流したのかな……」
「でも皆いい人だな」
俺がそう言うと彼女の表情はまた明るくなる。
「そうなんだ! 穂乃果が生まれる前、お母さんが子供の頃からずっとこうなんだって。そんな町に生まれて、東京の都心でも珍しいよね!」
「そうだな。秋葉原に近いのに何と言うか、人とのつながりが強いってとこかな」
「そうそう! 住み心地のいいとこだよね!」
自分の事のように自慢してくる穂乃果。そこまで自分の町に思い入れのある奴は珍しい。
「穂乃果は本当にこの町が好きなんだな」
自然とそう呟いていた。それを聞いた彼女はその青く澄んだ瞳を輝かせた。
「そりゃそうだよ。この町に生まれてこの町で育ったんだもん! 嫌いにならないわけがないよ!」
その表情が、その笑顔が魅力的で、俺は目が離せなかった。それを誤魔化す様に残ったコロッケを口に放り込む。
「よし、俺もこの町で世話になるわけだからな。好きになってみたいな」
その言葉が嬉しいのか、穂乃果はより一層笑顔を輝かせる。
「うんっ! 悠くんにもこのオトノキを好きになってもらいたいな!」
好きになっていこう、穂乃果の笑顔が明るく照らすこの町を。
穂乃果を掘り下げようとしたら、伍原を掘り下げていた。な、何を言ってるのかわからねーと思うがそうなってた。
申し訳ありません。彼も別のキャラの物語の主人公なものですから……。まあ彼の設定からして、誰の物語かわかりますよね?
次のシリーズは彼主人公で行くか……
そんな伍原のコンプレックスですらも笑顔で吹っ飛ばす、穂乃果ちゃん。SIDを読んでいるとこの子は自分の生まれた町が心から好きなんだなって思い、後半は彼女の顔の広さを表現してみました。うまく伝わるといいなぁ……。
11月1日は凛ちゃんの誕生日ですね!
という訳なので、その日までに前作の方に彼女の誕生日を祝うサイドストーリーを書きたいと思います。そして当日に投稿してみたいです!
作品の質を良くするため、御意見ご感想お待ちしてます。