ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
前回からだいぶ時間が開いてしまいました。ごめんなさい。十二月が近づくと忙しくなるので、今後作品を出すペースは遅くなるかもしれません。
それでは穂乃果と悠の物語、どうぞ。
『ただいま~!』
玄関をガラガラと開ける音と同時に穂乃果の声が聞こえてきた。彼女の声の他にも別の声が二つ。
『早速ほのかちゃんの部屋で試してみようか』
『え、いいのことりちゃん?』
『うんっ。これはほのかちゃん用に作ったやつだから』
『穂乃果用って……。本当にことりは手際がいいですね』
甘い声と凛とした声。ことりと海未だろう。三人の声が居間へと近づいてくる。
「あれ、悠くん先に帰ってたの?」
ふすまを開ける穂乃果は俺を見るとそう声をあげた。
「ああ。俺は帰宅部なんでな。先に帰ってお茶してるってわけ」
そう言って湯飲みを手に取り、お茶を啜る。その温かさとお茶のうま味が身体に沁みる。和風な高坂家だからか、お茶が美味く感じる。
「ずいぶんこの家での暮らしにも慣れたみたいですね」
「ああ。二週間も経てば、住めば都ってな」
「あっ、悠くんひどーい!それじゃ穂乃果んちがボロ屋みたいじゃんか~」
穂乃果が頬を膨らませながら抗議してくる。俺は悪い、と微笑みながら再び茶を喉に通す。海未は穂乃果に向き合ってにこりと笑った。
「穂乃果、せっかくですからお茶にしませんか? 悠とも話がしたいですし」
彼女の言葉に穂乃果は満面の笑みで応える。
「うんっ、そうしよっか! ちょっと待ってて、二人のお茶とほむまん用意してくるから!」
ぱたぱたと台所へ消える穂乃果を見送ると海未とことりは俺の真向いに腰を下ろした。
「悠、率直に聞きますが、穂乃果とは何もないのですよね?」
「ん? どういう意味だ?」
質問の意図が解らず、聞き返す。
「それは、その……」
海未は顔を赤らめ、ごにょごにょと呟いて、聴き取れない。それを見ていたことりが補足するように言う。
「ほのかちゃんとは、特別な関係じゃないの、って聞きたいんじゃないかな、うみちゃんは」
「特別な関係?」
俺が聞き返すと海未は更に顔を赤らめながらも、俺を問い詰める。
「で、どどどうなのですか? ほ、穂乃果とは、特別な、かか関係なのですか?」
「落ち着けよ、なんでそんなにどもってるんだ?」
「うみちゃんはこういった恋愛とかに免疫ないからね」
またもことりが補足してくれる。確かにこの動揺ぶりを見れば彼女がそういったことに耐性がないのも納得出来る。
「俺と穂乃果は別にそういった関係じゃないぞ」
そう言う俺の脳裏には彼女の笑顔が過る。あの眩しい太陽みたいな笑顔は魅力的だと思うことは事実だ。しかし魅力的だと思うだけの、はずだ。
「本当にそうなんですよね、ほんっとうに特別な関係ではないのですね?」
顔を強張らせ、ずいと机越しに寄せてくる。その迫力ある顔面に俺は後ろへと下がる。
「ちょ、近いって。そんな般若みたいな顔すんなよ。綺麗な顔が台無しだぞ」
「私の事はどうだっていいんです。正直に答えて下さい」
お世辞も通じない位真剣らしい表情で詰め寄られる。その瞳からは尋常じゃない何かを感じる。
「あれ、海未ちゃん、悠くんに何してるの?」
そんな変な空気を打ち破ったのは、三人分のお茶と饅頭を持ってきた穂乃果だ。海未は瞬時に俺との距離を取り、笑顔を彼女に向ける。
「なんでもありませんよ穂乃果。ですよねことり」
「うんっ!」
ことりの勢いある返事。待ってくれよ、さっきあれだけ詰め寄ったのに何もなかったで済ますのか?
「ですよね? 悠?」
「いやあの――」
「ですよ、ね?」
満面の笑みで同意を求める海未の迫力に押され、俺はただ「ああ」としか言うことが出来なかった。
「三人とも大分仲良くなったね~」
俺達の裏取引など露知らず、穂乃果は嬉しそうにお盆を机に置く。海未とことりに出された湯飲みにはそれぞれ、「Sea」と「Ko」と書かれている。その湯飲みに俺はデジャブを覚える。
「その湯飲み、もしかして穂乃果が選んだのか?」
「うん、そうだよ。二人はよくウチに遊びに来るから二人専用のヤツを買ったんだ」
穂乃果の説明を聞いていた海未は嬉しそうな顔をして「Sea」と書かれた湯飲みを手に取る。
「穂乃果に選んでもらった湯飲みなんですよ」
羨ましいでしょう、と言わんばかりの表情でこちらを見てくる。ふと俺は自分の湯飲みに目を向ける。
「ああ、海未って名前だから『Sea』なのな。俺の『You』って書かれてるし」
穂乃果の方を見ると彼女はえへへと頭を掻いた。
「悠くんに合う湯飲みは何かなーって考えてたら、この湯飲みを見つけてね、これだー!って穂乃果は思ったの」
「あ、俺の名前が『悠』だから『You』なのか」
「うんっ、そうだよ! ていうか悠くん気付くの遅すぎ~」
「穂乃果に、選んで、もらった?」
海未の声を聞いて俺の身体に寒気が奔った。注がれたお茶が波打っている。
「わ、私とことりは幼稚園の頃に買ってもらった、ゆ、湯飲みですし、私達はその頃からの仲ですからね。く、悔しくなんてないですよ」
声を震わせながらこちらを睨んでくる海未に俺は苦笑いするしかなかった。
三人は暫く俺と雑談をした後、穂乃果の部屋へと移って行った。「またね」と手を振る穂乃果の笑顔がまだ脳裏に残っていた。
居間で一人。つん、と空になった自分の湯飲みをつつく。湯飲みに書かれた『You』の字をなぞる。生活用品を買いに行ったあの日の、俺用の湯飲みを探す穂乃果の真剣な顔が思い浮かぶ。
この湯飲みを見つけた瞬間、サイドポニーが揺れた。湯飲みを持って俺の方へ向かって走ってくる穂乃果。
「見てこれ! 悠くんにぴったりだよ!」
揺れるサイドポニーが犬のしっぽみたいに見えた。嬉しそうにする穂乃果の頭を「ありがとな」と言いながら頭を撫でてやると「くぅ~ん」と犬の鳴き真似したっけ。それがまた可笑しくって互いに笑ったのも、いい思い出だ。
「あら、悠くん。何か嬉しいことでもあったの?」
きい子さんの言葉で我に帰る。どうやら表情に出ていた様だ。
「いえ、ただ湯飲みの文字がユニークと思って」
「穂乃果が選んだヤツよね。あの子のセンスはどこか――」
きい子さんはんー、と言葉を選ぶ様に迷うと、にこりと笑う。
「ユニークよね」
それにつられて俺も笑う。流石穂乃果の母親なだけの事はある。
「そうそう、悠くん。穂乃果を呼んでくれる? 饅頭の作業を手伝って欲しいから」
「それ位なら、俺が手伝いますよ」
そう口走っていた。穂乃果はあの二人と何か用事があるみたいだし。
「んー、気持ちは嬉しいんだけど、あの作業はなかなか手順が難しくてね、穂乃果にやって欲しいってお父さんが言ってるのよ」
ごめんね、と手を合わせて謝られる。俺じゃ力不足ってわけか。
「わかりました。そろそろ自分の部屋に戻ろうと思ってましたし、そのついでに伝えときますよ」
「ありがとう。じゃ私も作業に行くから」
申し訳なさそうにするきい子さんに会釈して俺は居間を出た。
俺が居候している「穂むら」は老舗なだけあって、家の作りがやや古い。部屋の声が少し洩れる。
『ほのかちゃん――またおっきくなった?』
『ちょっと――やめてよ~』
『破廉恥で――』
穂乃果の部屋の近くになるにつれて彼女達の会話が聞こえてくる。話の内容は知らないが、俺は自分の役目をやろう。
引き戸を軽く叩いて、開けた。
「穂乃果、きい子さんが呼んで――」
「っ!」
そこで俺の思考は停止した。眼の前にいる高坂 穂乃果は、薄い布切れを二つしただけの姿でいた。現在の彼女を構成する色の大半は、肌色。
「え、ちょ、ごめ――」
謝罪しようと口を開こうとした俺の眼前には、手刀を構え振り下ろそうとする海未。
「せいっ!!」
彼女の気合いの掛け声と共に俺の身体に衝撃が拡散し、俺の意識はブラックアウトした。
同じ屋根の下で暮らすんだもの、覗いてしまうことだってあるはず。まんまエロゲの展開ですけど。
このシリーズを書いていて困るのは海未ちゃんの扱いについて。この台詞を彼女が喋るだろうか? と毎回迷ってます。
穂乃果おとすってことは、あのホノキチ二人をなんとかしないといけないってことだと思う。SID読むと、海未ちゃんのホノキチ具合がヤバい。依存度が尋常じゃない。ある意味姑的ポジションですね。
彼女のホノキチレベルはことりちゃんより高い設定にしてます。ギャグ要因としてこのシリーズでは活躍してもらうことにします。よって海未推しの方はご注意を。
こんなホノキチな海未ちゃんを幸せにしてあげられる、ストーリーをいつか書けるといいなぁ。
長文失礼しました。御意見、ご感想お待ちしてます。