ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
今回は悠視点以外にも雪穂視点からも書いてみようかなと考えて書いてみました。雪穂のキャラがこれでいいのかわかりませんが……。それではどうぞ。
「あ、悠くんおかえり!」
遅くに学校から帰った俺を迎えたのは居間でうつ伏せになって寝ている穂乃果だった。
「おう、ただいま。練習か?」
「うん。今日もハードだったよぉ~。海未ちゃん本当に鬼軍曹だよ~」
穂乃果がスクールアイドルを始めて一ヶ月が過ぎた。どうやらメンバーが集まり、練習も本格的になっているらしい。俺はそんな彼女の話や愚痴をよく聞いてやることにしていた。なんだかんだで穂乃果の話はこっちにとっては新鮮だったし、穂乃果の方も話し終えるとすっきりとした表情で「ありがとう」と礼を言ってくれる。
「筋肉痛か?」
「うん、練習が終わって家に帰ったら痛み出したの」
ショートパンツから伸びる脚にはシップが貼られていて、その量に痛みの程度が解る。
「ねぇ悠くん。脚揉んで~」
穂乃果の頼みに俺は顔をしかめる。
「いや、それはちょっと……」
居候の身とはいえ、相手は女の子。マッサージするのは少し気が引ける。そう尻ごみしていると穂乃果は脚をばたばたさせる。
「悠くんは穂乃果の相談役で、助けてくれるんでしょ~! 応援してくれるんでしょ~! 穂乃果の脚も応援してよ~!」
「わかった、わかった。揉んでやるから暴れるな」
これ以上放っておくともっとうるさく騒ぎかねない。俺は諦めて彼女の近くに腰を下ろした。
彼女の脚に触れようとした瞬間、手がぴくりと止まった。マッサージするってことは、俺が穂乃果に触れるってことだよな? 揉むってことだよな? その事実が俺を躊躇わせる。
「早く揉んでよぉ~」
そんな俺の葛藤を知らず、穂乃果はばたばたを続ける。そうだ。これはマッサージなんだ。やましいことは欠片もないんだ。何の問題もない。
覚悟を決めて彼女の脚に触れる。ざらつきのある湿布の上からゆっくりと腿を揉み解していく。
「あぁ~、ん、いいよぉ~」
「変な声出すなよ」
平静を装いながら彼女の脚を揉む俺の心臓はばくばくと鼓動を速めていた。違う、これはただのマッサージなんだ。いやらしいことは一つもない。そう言い聞かせ、少しでも筋肉痛が和らぐようにと揉み続けた。
どれ位マッサージを続けていただろうか。とりあえず穂乃果がいいと言うまで揉み続けていればいいかと考えていた。
ふと後ろの戸がごとっと音がした。まさか見られていた? 触れていた手を思い切り離し、音のする方へ向く。
引き戸は開けられていてその先にはセーラー服の女の子。
「雪…、穂?」
俺が声を出すと雪穂はくすりと笑って
「見ちゃった☆」
とぺろりと舌を出すと縁から消えた。
「待て、待ってくれ!」
俺は慌てて彼女の背中を追いかける。雪穂は振り返って口に手を当ててぷぷぷと笑う。
「どこから、見てたんだ?」
「お姉ちゃんの、『あぁ~、ん、いいよぉ~』から、かな?」
ほとんど全部じゃないか。このままではいらぬ誤解をされてしまう!
「ち、違うからな! あれは穂乃果に揉んでくれって言われたから仕方なく……」
「何も言ってませんよ? 言ってないのにそんなに慌ててるのは怪しいなぁ~?」
ぐっ、と後ろへ後ずさってしまう。この子、穂乃果よりも手強い! 俺が顔を歪めていると雪穂は微笑む。
「お父さんにもお母さんにも言わないよ。その代わり……」
「その代わり?」
俺は息を飲む。何を要求されるのだろうか?
「今度でいいから、何でも一つ、わがまま聞いて貰おうかな?」
「わがままって何だよ?」
「私があれやってって言ったら悠さんはそれをやるの。ただそれだけだよ」
「それだけって、何お願いされるのか怖いな」
「いいの? 今日の晩御飯にでもお父さんに言っちゃおうかな~?」
「わかった! 何でも一つ言う事聞くよ!」
脅されては仕方ない。俺はその提案を呑むことにした。すると雪穂は俺に抱きついてきた。
「ありがと、お兄ちゃん☆」
女の子特有の身体の柔らかさが俺を襲う。いきなりの行動に俺は動揺を隠せない。
「ちょっと、雪穂! おい――」
俺が反応する前に身体を離す。それが少し名残惜しい気がしたのは気のせいだ。彼女は自分の部屋がある階段を上る。
「じゃ、その時を楽しみしてるね? あと――」
くるりと振り向くと俺に向かってウィンクしてきた。
「お姉ちゃん、起こしてあげてね」
ふふ、と笑うと二階へと消えていった。真面目でしっかりとしてる子だと思ってたけど、ちょっといたずら好きな子なんだよな。
苦笑いしながら居間に戻る。穂乃果はどうしてるかな、と視線を彼女に送ると穂乃果はうつ伏せのまますうすうと寝息を立てていた。
「人の苦労も知らないで……」
苦笑いと共に独り言がこぼれる。彼女に振り回されながらも、それを楽しいと受け入れている自分が不思議だった。それが穂乃果の魅力なのかも知れないな。
「おーい、穂乃果、起きろ~」
軽く肩を揺さぶって意識の覚醒を促す。穂乃果はうーん、と薄眼を開ける。
「悠くん……」
とろんとした眼で俺を見つめてくる。そのいつもと違う表情に俺はドキリとする。いつも元気な子だと思ってたけど、こんな表情もするんだな、とドキドキしていたが――
「おんぶして」
「は?」
「おんぶして、穂乃果の部屋に連れてってよ~」
前言撤回。どうやらこいつは寝ぼけているようだ。俺の胸の高鳴りを返せ。
「おんぶしてよ~。しないと穂乃果、悠くんを抱き枕にしてここで寝ちゃうから~」
「勘弁してくれ! そんなことになったら俺この家に居られなくなる!」
「だったら早くしてよぉ~ おんぶおんぶ~! おんぶったらおんぶ~っ!」
はぁ、と俺はため息をつく。もうこうなったらなるようになれだ。腹を括って穂乃果に背を向けて屈んでやる。
「ほれ、穂乃果」
「ん~」
のそりと緩慢な動きで俺の背中に這う様に寄り掛かる。彼女の脚を脇で抱え、中腰で立ち上がる。
「じゃ、いくぞ」
「お~う。いけいけ~」
まだ寝ぼけているのか。俺は半ば呆れながら彼女の部屋のある二階の階段へと歩き出した。
少しぎしりと音を立てながら階段を登る。一段一段登ろうとする度に背中に柔らかい二つの感触が襲い掛かってくる。
「っ……」
それに少しドキドキしながらも俺は登り続けた。当の穂乃果は人の背中で気持ち良く寝ている。
「よ~し、行くぞ~。ここでくるっとターン、からの、ステップだぁ~」
こいつ、夢の中でも練習してるんだな。たぶん階段を登るときの揺れをジャンプだと思ってるんだろう。それだけこいつはアイドル活動に全力でやってるんだな。
手が塞がっている状態でなんとか部屋の戸を開け、穂乃果の部屋に入る。ベッドの 脇で背を向けると腰を下ろした。
「ほら、着いたぞ」
「ん~」
転がるように俺の背から落ちていく。そのまま枕に顔を沈める。沈めながら身体を掛け布団の下に潜り込ませると、
「おやすみ~」
とだけ言って寝てしまった。俺が声をかけても何も返さなくなった。
「お前には振り回されてばっかだな」
そう言って俺は笑って彼女の前髪を撫でた。サイドポニーを纏める黄色のリボンを撫でる。こうやって俺の前であどけない寝顔を曝しているこいつが、アイドルの衣装に身を包んで、装飾の施されたリボン着ける、それが少し信じられない。まあどの位先のことになるのかはわからないけど。
「おやすみ、穂乃果」
俺はそう言うと部屋の戸を閉じた。
Side 雪穂
「えぇ~?! どうしてぇ~!」
私が制服に着替えて身支度していると隣の部屋からお姉ちゃんの悲鳴が聞こえる。起きたみたい。昨日の事絡みなんだろうな、と思いながらも様子を見に行く。
「お姉ちゃん、朝からうるさいよ。どうしたのさ?」
お姉ちゃんは脚に湿布をいっぱいくっつけたまま、部屋の真ん中で慌てていた。
私の声を聞くと、お姉ちゃんは慌てた様子で私に詰め寄ってくる。
「ゆ、雪穂~! 穂乃果、どうして部屋で寝てるの?! 居間で湿布貼って横になってたのに~!」
やっぱり、と私は可笑しくなる。
「もう、お姉ちゃん覚えてないの? 居間で寝ちゃってたんだよ。それで、一緒にいた悠さんがお姉ちゃんを部屋まで運んでくれたってわけ。お姉ちゃん、晩御飯の時になっても起きてこなかったんだからね」
「あはは~。そっか、穂乃果あのまま寝ちゃったのか~。悠くんには――」
苦笑いして頭をかくお姉ちゃんの動きがぴくりと止まる。少しずつ顔が赤くなっていく。
「って事は、悠くんがここまで……」
「そ、ここまで悠さんがお姉ちゃんをおんぶして運んでくれたんだよ? あの時の悠さんの顔も赤かった――」
「っ~!」
ぼっと音がするくらい顔が赤くなったお姉ちゃんは勢いよく部屋に戻るとばたんと戸を閉めてしまった。たぶんベッドに顔を押しつけて、「うわぁー! 穂乃果のばかばかばかー!」とか悶えるんだろうな。
「うわぁー! 穂乃果のばかばかばかー!」
ほらね。本当にお姉ちゃんはわかりやすいんだから。
ふふっと笑うと壁に背をつける。悠さんがマッサージしていた時のお姉ちゃんの顔が蘇る。あの位置からじゃ悠さんは見えてなかっただろうけど、お姉ちゃんの顔、すっごく赤かったな。たぶんお姉ちゃんの事だからマッサージしてって駄々こねて自分が何させてるかわかっちゃったんだろうな。
「二人とも、可愛いな」
互いの事で顔を赤らめ合う二人。そんな二人が可笑しくて笑みがこぼれる。それと同時に胸が少しちくりと痛んだ。これは何だろう? 不思議に思いながら居間へと降りた。
「お、雪穂。おはよう」
「あ、悠さん、おはよう」
居間の机で一人、悠さんが朝食を食べていた。彼の姿を見ると自然と笑顔になる。どうしてだろう?
「待ってな、ご飯持ってきてやるよ」
そういうと彼は立ちあがる。
「あ、いいよ。食べてる最中なのに」
「気にするなよ。お茶漬け取りに行くついでだ」
悠さんの笑顔がちょっと嬉しくて。その背中に「ありがとう」と呟いていた。
「はい、お待ち。ご飯とみそ汁と鮭でござい」
程なく悠さんがお盆を持ってきた。今日の朝ご飯もおいしそう。
「ありがとう、お兄ちゃん☆」
ちょっとからかいたくなってお兄ちゃんと呼んでみる。そう呼ぶと彼は、
「誰がお兄ちゃんだ」
と少し顔を赤らめる。可愛い。
「悠さんって朝ご飯お茶漬け多いよね。どうして?」
もっと話したくて、話題をふってみる。彼はんー、と頭を傾げていた。
「これといって理由があるわけじゃないな。気付いたらお茶漬けにしてるわけで」
「気付いたら、か……。深いね」
「そうか?」
「うん、深いよ」
くすっと笑うとそれにつられて彼も笑顔になる。それが少し嬉しくて。
「おっはよー!」
元気いっぱいの声が後ろから響く。お姉ちゃんだ。もう立ち直ったのかな?
「おう、おはよう穂乃果」
「うん。おはよう悠くん」
昨日互いに顔を赤らめていた二人はもうどこにもいなくて。二人は大人なんだなぁ。もしかして頭の中では意識してるのかも。
「朝ご飯食べるだろ? 持って来るよ」
「ありがと~。もう穂乃果、昨日から何も食べてないからお腹ぺっこぺこだよ~」
「夕飯になっても起きてこない奴が悪い」
「悠くんが起こしてくれてもよかったじゃんか~」
悠さんはくるりと振り返って苦い顔をする。
「あのな、俺は穂乃果の召使じゃないんだよ。何でもかんでも頼るんじゃありません!」
びしりと言うと台所へと消えていった。
「もう~っ。悠くんったら最近海未ちゃんみたいになってきたよぉ~」
お姉ちゃんは座るとぐて~っと上半身を机に倒す。
「そうだよお姉ちゃん。悠さんに頼り過ぎなんじゃない?」
「だってだってぇ~。悠くん頼りがいがあるんだもん~」
お姉ちゃんは唇を尖らせる。それが面白くてくすりと笑う。
「ああ、それは分かるかも。悠さんって何か頼りたくなるよね」
「でしょ~」
お姉ちゃんは同意してもらえたのが嬉しかったのか、ぱぁっと顔を輝かせる。
「悠くんはね、穂乃果の話よく聞いてくれるんだぁ~。雪穂が呆れて聞いてくれない話もみーんな、やな顔しないで聞いてくれるの!」
本当に嬉しそうに語るお姉ちゃんがちょっと羨ましくて。それだけお姉ちゃんは悠さんを意識してるってことで。
「お姉ちゃん」
姿勢を正し、お姉ちゃんに向き合う。お姉ちゃんは私を見てきょとんとしている。
「負けないからね?」
「え? あ、うん……?」
やっぱりわかってないみたいだった。それは言った当の私自身も同じで。何で言ったのかわからなかった。
「それじゃ私、学校行くね?」
「あ、いってらっしゃい雪穂」
「うん」
立ちあがって鞄を手に取り、玄関の皮靴に足を通す。すると後ろから悠さんの声が。
「雪穂、いってらっしゃい」
その声に振りかえり、自分が出来る限りの笑顔をその声の主に向ける。
「はい、行ってきます」
家を出て軽くスキップしてみる。何故だか身体が軽い気がした。
さて、悠さんには何をお願いしようかな。お姉ちゃんみたいに脚を揉んでもらおうかな。
雪穂視点で書いてみるの少し楽しかったかも。ちょっとSIDを書いているみたいだった。何か雪穂って真面目だけど異性の前ではちょっといたずらっ子なイメージがあります。よく薄い本ではそんな風に描かれていた気がするので。参考までに買ってみようかな。
これを読んでいる方が、「雪穂ルートも見てみたい!」と望むのであれば、サイドストーリーとして書いてみることも検討しております。
ご意見、ご感想、ご要望、ふつおた等、お待ちしてます。
それでは皆さん、良いお年を。