ラブライブ! Another 一つ屋根の下で 作:伊崎ハヤテ
それでは第八話、どうぞ。
「ただいま」
「あ、悠くん、おかえり!」
俺が帰宅し居間に入ると、煎餅を咥える穂乃果が俺を迎えてくれた。
「悠くん、今日は遅かったね。いつもは穂乃果より先に家に居るのにね」
「そりゃ俺だって寄り道位はするさ。穂乃果こそ早かったじゃないか」
「うん。練習もあったにはあったけど、根を詰め過ぎるといけないから今日は早めに終わったの」
荷物を下ろし、穂乃果の対岸に腰掛ける。すると彼女は突然立ち上がった。
「あ、お茶持って来るね」
「お、サンキュー」
台所へと穂乃果は走るように行ってしまった。この間の勉強の事を思い出して、気まずいのだろうか?
俺自身もあの時の出来事を思い出すと頬に熱さが蘇る。それを振り払うかのように台所に声をかけた。
「そう言えば、試験はどうだったんだ?」
「うん、バッチリだったよ!」
お盆にお茶とお茶菓子をのせて台所から出てきた穂乃果はとてもいい笑顔をしていた。
「とは言っても、殆どの教科は再々追試をしてやっと、だったりしたんだけどね」
苦笑いしながら湯飲みを俺の前に置く。『You』の文字が書かれている湯飲みを手に取り、お茶を飲む。
「何だ、全然バッチリじゃないじゃんか」
「でもね! 悠くんが教えてくれた教科だけはバッチリだったんだよ!」
ずいとこちらに身を寄せ、鼻息を荒げて力説してくる。サイドポニーもぴこぴこと揺れている。それが可愛らしくて俺も思わず笑顔になる。
「悠くんが教えてくれた教科だけはいい点数取れたんだ! 悠くんのお陰だよ~」
「暗記モノは得意だからな。俺は勉強の仕方を教えただけだ」
「そんなことないよ! 悠くんがあの時教えてくれたから――」
そこまで言って穂乃果の表情が固まる。どうしたんだ、と窺っているとみるみる彼女の顔が赤く染まった。さては俺の肩で寝ちゃったことを思い出しているな。俺の頬も熱くなる。
「……」
「……」
沈黙が二人の間で流れる。俺が穂乃果の方を見ると彼女も俺の方を見ていて、瞳が合う度にまた恥ずかしくなって眼を逸らす。それを何度も繰り返した。
あの夜から俺は自分の気持ちを理解した。穂乃果の笑顔が好きで、そんな笑顔をする穂乃果が好きなんだってこと。それを彼女に告げるべきかどうか、俺は迷っていた。スクールアイドルという活動に専念している穂乃果に、自分が思いを告げることは彼女の妨げになってしまうのではないか。俺はどうすれば――
「ねえ、悠くん」
沈黙と俺の思考を破り、穂乃果が口を開いた。視線を向けると、穂乃果はにこりと笑顔を見せた。元気一杯の太陽の様なそれとは違う、いつもの彼女とは違う笑顔。
「ちょっと散歩しない?」
俺はそれに「ああ」と答えて腰を上げた。
「しかし試験終わって一週間後にライブか。大変だな」
「そうなんだよ! テスト終わった瞬間に練習再開だもん! テスト終わりの解放感を味わう余裕もなかったよ!」
夕陽に染まる音ノ木の町を二人並んで歩く。陽が沈みかけると夏の暑い気候も少し和らいでいる。
「ライブがすぐあるんだろ。しょうがないさ。その分今はしゃいでおけよ」
「うん! こうやって町を廻っているだけでもハッピーになれるよ!」
穂乃果はるんるんと鼻唄を歌いながらスキップしている。スクールアイドルって言ったって学生なんだ。テスト終了後の解放感だって味わう権利はあるはずだ。
「おう、穂乃果ちゃん! 今日も若大将とデートかい!」
商店街に差しかかると以前の様に魚屋のおじさんが俺達を冷やかす。また穂乃果が顔を真っ赤にして抗議するんだろうな。
「もう、おじさん! 今度から近くのスーパーで魚買うようにしちゃうよ!」
穂乃果は顔を赤らめることなく拗ねて見せる。しかもデートってとこ否定しなかった?
「おっとこりゃいけねえ! 赤身ちょっとやるから許してくれや!」
「もう、しょうがないな~。悠くん、食べよ?」
「あ、ああ」
魚屋に寄せられて行く彼女に俺は困惑しながらついていった。
「とうちゃーく!」
神田明神で穂乃果は足を止めた。平日の夕方ということもあってか、境内は閑散としている。
「ここに何か用でもあったのか?」
「うん。テストがいい結果でありがとうございましたーってお礼と、ライブが上手くいきますようにってお祈りしたくて、ね」
「で、俺にも祈ってもらいたくて連れて来たのか?」
「あ、バレちゃった?」
「毎日家で顔合わせて、愚痴やら何やら聞いてるんだ。少しくらいは察しがつくさ」
えへへと笑う穂乃果の顔が夕陽に照らされて赤い。
「悠くんには、何でもわかっちゃうね」
いや、違う。この頬の赤さは夕陽のそれじゃない。オレンジ色よりも赤く、頬を染める。微笑む穂乃果の表情も、いつもと違う。目尻は下がり、空色の瞳がとろんとしている。その瞳を見ていると、吸い込まれそうな気がして。
「は、早く祈りに行こうぜ。そろそろ夜に、なるしな」
「う、うん! そうだね! 急ごっか!」
穂乃果も蕩けた表情を解いて慌てて足を速める。まだ彼女の頬は赤いままだった。
賽銭箱に十円玉を放り込み、手を叩く。
「ライブが上手くいきますように~!」
穂乃果は力強く眼を瞑り、手を擦り合わせている。それに苦笑いしながらも俺は眼を閉じる。
―何事もなく無事にライブが成功しますように―
祈り終えて眼を開けると穂乃果が上目遣いで俺を見つめている。その視線にドキリとする。
「な、なんだよ」
「悠くん、静かに真剣にお祈りしてるから何お願いしたのかな~って思ったんだ」
「そんなに真剣に見えたのか?」
「うんっ。それで何をお願いしたの?」
「秘密だ」
「え~! 意地悪しないで教えてよぉ~」
穂乃果は頬を膨らませて抗議してくる。それが可愛らしくて、更に意地悪したくなる。
「やだよ。人様の願い事を詮索している暇があったら自分の願い事を念入りに願っておけよ」
あっ、そうだ、と穂乃果ははっとすると再び十円玉を放り込んで祈りをささげる。
よし、と気合を入れると俺に向き直る。そして出かける時と同じ笑顔を俺に向ける。
「それじゃ、帰ろっか」
「ああ。辺りも暗くなってきたしな」
夕暮れのオレンジと夜の黒が混じる空が夜の訪れを告げる。そんな空の下で二人黙って歩く。
「……」
「……」
頬を赤くして俺を見つめる穂乃果の顔が忘れられない。穂乃果もそれを意識しているのか、ちらと俺を見ては視線を元に戻すのくり返しだ。
「あの、さ。悠くん」
沈黙を破ったのはまた穂乃果だった。
「あの、ね。穂乃果、ね」
俯いたままモジモジとしていている。頬は真っ赤で瞳はあちらこちらをきょろきょろしながら揺れている。俺は彼女が言葉をまとめるまで何も喋らない。
「っ……!」
意を決したのか、一度きゅっと眼を瞑ると真っ直ぐ俺を見つめた。
「今度のライブが終わったら、悠くんに伝えたい事があるの。だから――」
すう、と一つ息を吸って、吐く。そしてもう一度俺を見据えた。
「ライブ、見に来て下さい!」
「いいぞ」
我ながら早々と返事をしてしまった。その様子に穂乃果も驚きの表情を見せる。
「えぇ~!? 悠くん、少しは戸惑ってよぉ~」
「ああ、悪い。むしろこっちから見に行かせてくれと頼みたいとこだったし」
「ホント?」
穂乃果の眼が丸く見開かれる。それに俺は笑顔で応える。
「俺は穂乃果の相談役としてお前のアイドル活動を応援してきたからな。その成果を見届けたいんだよ。相談役としても、一人のファンとしても、な」
「悠くん……」
そのとろんとした眼で見つめられて、俺の心臓の鼓動は身体中で響きわたっていた。それを悟られないようにするのに俺は必死で、わざと意地悪そうな顔をしてやる。
「穂乃果がドジ踏まない様に見張ってやらないと他のメンバーに迷惑かけるかしれないしな」
「もー! 悠くんのばか!」
頬を膨らませて穂乃果は怒る。見つめ合った瞬間、互いに吹きだして笑い合ってしまう。
「冗談だよ。ライブ必ず見に行く」
「うん」
「だから、ライブ頑張れよ」
「うんっ!」
勢いよく返事した彼女の笑顔は、太陽の様に明るかった。
このシリーズを書いてきて、自分の癖がわかってきました。何故か台詞からスタートさせたがってるなぁ。どうしてだろう。
ラブライブというコンテンツは殆ど男性という存在がいないので、各キャラの男性に対する反応とか自分で考えつつもそのキャラらしいものにしなきゃいけないと言うのが辛いですね。男性キャラの重要性ですね。
だいぶこの物語も佳境に入ってきました。自分でも納得がいくような話を作っていきたいです。
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