「.........」
目の前でジャアジャアと音を立て、中の食材に熱を火を通す中華鍋。
以前であれば威勢よく振るっていたそれ。
しかし今の私にその威勢は無く、ぼんやりとしながら必要最低限の動きだけで機械的に振る。
「......はぁ...」
あれから、また暫く経った。
何度も、何度も、圧し潰された。そしてその度に…
考えると脳裏に焼きついた男の声とあの感覚がフラッシュバックする。
蘇った感覚は理性を溶かし、興奮を引き起こし、私の股をじゅん、と濡らす。
股が濡れたタイミングで私は我に返り、かぶりを振る。
「………違う…そんなはず、ない……!!」
自問自答の末に、己に言い聞かせる様に独り言つ。
端的に言うと私は、ただ苦しいだけの行為で性的興奮、及び、快楽を得る様に調教されきっていた。
恐らくは何か細工をされているのだ。
飲まされている薬かもしれないし、あの部屋の空気かもしれない。
ともかく、何か常軌を逸したやり方で私の身体は作り変えられてしまったはずなのだ。
しかし、思い出されるのは喜色に満ちた笑みを浮かべる男の声。
そう思っていた私が、次のセットが始まってまた圧し潰される前に問い詰めた時のことだった。
『あぁ、その手があったか!良い事教えてくれてありがとう!』
『積極的になってくれて嬉しいなぁ…もっと良い物揃えるね!』
その反応は本心から来る嘘偽りの無いものだった。
そして、それが意味する事が問題だった。
私があると信じて疑わなかった細工が存在せず、今のこの体は私自身が元より持つ素質に基づくものである可能性だ。
…そうじゃない。そんなはずが無い。認めてなるものか。
男の反応は演技だ。
そうでなければ私は…私の本性が、潰されて悦ぶ変態になってしまう。
「……あっ…!?」
気がつくと、私の中華鍋を振るう手は止まっていた。
それが齎したのは食材の焦げた臭い。
この様な普段絶対しなかったであろう失敗をするのは、今月で五度目。
これもあの男のせいだ、と私は男に苛立ちを心の中でぶつける。
最近、男からの呼び出しはぱったりと途絶えており、私が抱えるものを解消する機会が無いのだ。
発散と気を紛らわせる事を目的とした自慰もした。
それも、今までした事が無いほどに激しく。
だが、やはりあの快楽には到底及ばず、意味が無かった。
「ぁ…」
そんな折、対処に追われる私の懐からあるものが転げ落ちる。
男からいつ呼び出されても問題無い様、懐に入れていた若返りの薬だった。
***
**
*
「…一度、だけ…だから…」
私は、小さく非力な身体へと自分からなっていた。
だがこれは諸問題を片付けるためであり、決して他意は無いのだと言い聞かせる。
視線の先には吊り下げられた布団の山。
その下に敷かれた布団に、私は裸のままゆっくりと自らの身体を滑り込ませて寝る。
布団の山はタイマー式の吊り下げ機で昇降するようにしていた。
ピー、という小さな電子音が私の鼓膜を震わせ、布団が降りてくる。
ずっしりとした布団の山はゆっくりと、着実に、私を圧し潰していく。
「ふ…………ぎゅ、ぅ……ぁ………………」
身体を頭まで圧し潰していく布団。
吸おうとも吸えない空気。
脳に満ちていく窒息感。
少しずつ意識が遠のこうとする感覚を覚えながら、私の股は更に濡れる。
脳細胞が順に死滅し、血流が早くなり、緩やかに死へと向かう身体。
しかしその一方で、子宮はキュンキュンと疼きを訴えているのだ。
だが、解放されることは無い。
この吊り下げ機はタイマー式で、所定の時間にならなければ吊り上げられることは無いのだから。
「げ…………ぇ”…………ぁ”……………………」
徐々に、苦しさが増していく。
薬で小さく、非力にした身体では這い出す事もできない。
今の私は指先に至るまでぎっちりと圧し潰されており、身動ぎ一つできない。
その無力感が、また何か別のゾクゾクとした感覚を私に覚えさせていた。
私は男とのあの時間を思い出していた。
こうして限界まで私を追い詰め、今わの際へと導き、そこから生還する。
何度も経験させられた、臨死体験とも言えるあの時間を。
そんな時、電子音が再び私の鼓膜を震わせた。
「っはぁっ…!ひゅうぅ…!!はぁ…っんはぁ…はぁ…はぁ…!!」
突如として圧迫感が失われ、空気と共に戻ってきた生。
タイマーで設定した時間になり、布団が再び吊り上げられたのだ。
意識は明瞭さを取り戻し、解放感が身体を満たす。
その解放感に対し、私の調教された身体は毎度の事ながら遅れて応え始めた。
「イ“……グ……!!〜〜〜!!!」
「っはぁ、はぁ、はぁ…!」
新しい血が脳に流れ込み、セイの悦びを噛み締める。
自慰では決して得られないその感覚に、私はその場で強張ってイクことしかできない。
だが───
「………足りない…」
違うのだ。こうではない。
何かはわからないが、何かが足りない。
それが自分で得られるものなのかもわからないが、決定的に何かが足りないのだ。
他に何かないかと模索するが、どうしてもわからなかった。
「そう、いえば…」
そんな時、私はある事を思い出す。
男は圧し潰しのクールタイムに私の下腹部を指圧していた。
その指圧は今のこの物足りなさとは関係が無いのだろうが、今は何とか自分を満たしたい。
試しに自分でその部分を押しても、力が弱くて全くダメだった。
男がやった時にはもっとこう、凄まじい快楽が流れていたのに。
何か無いかと周りを見渡して、見つけた。
「これくらい、なら…」
それは小口径のハンドガン。
威力も低い、梅花園の園児達が持つ様なものだった。
私はその銃口を自らの下腹部、子宮や卵巣のある辺りに向ける。
はっきり言おう。正気の沙汰では無い。
だが、興奮で茹った私にはその判断すらつかない。
そして私はその引き金を、恐る恐る引いた。
「ごっ…!?ほっ、お、お”お”お”ぉぉぉぉぉ…!?!?」
パン、と響いた銃声。
同時に迸る快楽が子宮から脊椎を通り、脳を焼き尽くす。
私は背骨が折れるのではないかと思うほどに仰け反り、絶頂する。
大量のイキ潮を吹き、鼻血や涎、果ては小便までもを拭いてのたうち回った。
あぁ、ダメだ。もうダメだ、私は。
自分の子宮を撃ってイキ果てるなんて、変態以外の何者でもない。
その事を自覚してしまった。
それに、今果てた時にわかった。わかってしまった。
私はもう、一人では決して満足は出来ないのだ。
あの男にそう調教されたのもあるが、私自身が自分の力が及ばない暴力的な快楽を求めている事に気づいてしまったのだ。
「ぁ…ま、待っ…!?ぎゅへぇ…!!」
再度鳴った電子音。
また所定の時間が経ったのだ。
その場に寝そべったままの私にそれが容赦なく私の上に降りてくる。
覚悟をする間もなく、制止なぞできるはずも無い。
こうして私は再度圧し潰され、短すぎるクールタイムによって気をあっけなく失った。
得た自覚を、しっかりと脳に焼き付けて。