次回からは増やしていきたいですね。
「──という話を司令官から受けました」
「…うぅむ。まさか提督が退役を考えていたとはな…」
百隻以上在籍している鎮守府中の艦娘を全て大広間へと集め、私は司令官が退役を考えている話を全員に共有した。
反応は人それぞれで、涙を流してひどく悲しむ者や現実を受け入れられずに呆然とする者やその場に座り込む者もいた。
「そ、そんな……提督さんと離れ離れだなんて、私は耐えられません!」
鹿島さんは泣き崩れた。
司令官の事を上官としてではなく、一人の男性として慕っている方の一人でした。
彼女にとって、司令官が退役する事の悲しみはどれ程のものでしょうか。
私だって司令官と離れ離れになるなんて絶対にイヤです!なんとしても、なんとしても彼に考え直して貰わないと!
「私も同意見だ。あれほど優秀な人間をむざむざ外へ出すなど、愚の骨頂。 大本営としても彼を退役させる事は本意ではないはずだ」
鹿島さんの言葉に頷いたのは提督代理も務めた事のある長門さんだった。
周囲が混乱に包まれる中、冷静に状況を見定めて解決策を見出す姿は確かに頼もしい。司令官が信頼を寄せていたのも納得です。
他の皆も続々と声を上げる。大本営にも話を倒している、という司令官の言葉に視野が狭くなっていましたが、大本営だって彼ほど指揮能力の優れた指揮官が退役する事は反対しているはずなのです。
「で、でも司令官本人が辞める気なんでしたら、どうにも出来ません」
扶桑さんの言葉に皆が喉を詰まらせる。
そうなのだ。例え私達や大本営がどれだけ留まってくれと願ったとしても、司令官本人にその気がなければ焼け石に水なんです。
「で、でしたら…提督さんにやっぱりやめたくないなと思わせたらいいんです!!」
鹿島さんは立ち上がると、ステージ上へと上がってマイクを片手に持った。
「皆さんは提督さんに辞めてほしいですか!?私は絶対にやめて欲しくありません!!例えどんな手を使ってでも提督さんに辞めてほしくありません!!例えそれで嫌われる事になったとしても!!」
「そうだー!!」
「提督にはまだまだ働いてほしいでちー!!」
「もっともっと一緒にいたいぴょん!!」
鹿島さんの熱弁は皆の心を一つにしたようで、徐々に歓声は大きくなっていった。司令官がこんなにたくさんの艦娘達に慕われている事が分かり、私も初期艦として嬉しいような…少し危機感を覚えるような…。
「司令官を辞めさせない為にどういった行動を取るべきなのか、みなさんどんどん言い合ってみましょう!!何かいい案がある方は挙手願います!!」
「あぁ〜〜〜。じ、じゃあ鈴谷から一ついい?」
一歩前へ出たのは鈴谷さん。
彼女もまた、鹿島さんに並んで司令官をお慕いしている艦娘の一人です。
「ありきたりだけど、色仕掛けなんてどう?ほら、提督って意外と性欲旺盛だし結構皆のおっぱいとかパンツとかチラチラ見てたりするじゃん?
結構効果高そうだけど」
「イイイ!!イ!イロ!いろ!!色仕掛けぇぇ!?!?」
鈴谷さんの提案にざわめきが広がる。
まぁ、当然ですね。そんな方法で司令官が退役を撤回してくれるとは思えません。
確かに、時々愛宕さんや武蔵さんのおっぱいをチラリと覗いていたり、
利根さんや筑摩さんの際どい服を際どい角度から写真撮ってたり、
中破した艦娘達の下着が写った写真をアルバムに入れたりしてますけど、流石にそんな……。
あ、あれ?なんだかいけそうな気がしてきました。
「キキ却下!却下ですよ!!そんなハハ破廉恥な!!」
「えぇ〜〜?結構名案だと思うのにな〜」
「うむ、確かに名案ではないだろうか」
長門さんの言う通り、とても名案で……って、え?
「いつの時代も、男を引き止めるのは女の役目だった。大なり小なり効果は見込めるだろう。ただ……」
長門さんは気まずそうにチラリと私の方を見た。
「初期艦であり…唯一の結婚艦の吹雪には複雑だろう」
あぁ、そんなことを気にされてたんですか。
心配は無用ですよ。
「私でしたら大丈夫ですよ。それで司令官が軍を退役しないでいてくれるのなら、何も言いません。 誰よりも司令官に愛されている自信だってありますから」
正妻の余裕…というやつです。
「では決まりだな!試験的な意味も込めて早速今日中に仕掛けてみるとしようか。 頼んだぞ鈴谷!!」
「ハァッ!!!?ちょちょちょ!!な!なんで私が!!?」
「提案者が先陣を切るのは当然だろう。
その覚悟もなく、意見を言った訳でもあるまい」
「そんなつもりないに決まってんじゃん!!とりあえず案を出しただけなんだし!!?」
必死に抗議する鈴谷さんでしたが、長門さんは耳を貸しません。鈴谷さんが一番手というのはもう長門さんの中では決定しているみたいで、鈴谷さんの次の相手をどうするかについて話し合おうとしています。
鈴谷さんがなんだか不憫です。
そんな鈴谷さんを見かねたのか、隣で傍観を決めていた熊野さんが手を上げました。
「私もご一緒しても?鈴谷だけでは何かと心配ですの」
「うん?もちろん構わないぞ」
「熊野〜〜!!!熊野だけだよ!私の味方は〜!!」
「ちょ!ちょっと引っ付かないで下さいまし!!」
〜〜〜
艦娘達が集合した大広間。
その大広間のすぐ近く、陰に隠れて聞き耳をたてる男がいた。
提督だ。
(あ、あいつら…。何考えてんだ…)
最初から最後まで彼は聞いていた。
本当に偶然。
執務が早めに終わったので、のんびり散歩をしていたら近くを通りがかった時に鹿島の演説が聞こえてきて思わず身を隠してしまった。
聞き耳を立てるうちに、吹雪が皆に発表したのだという事は簡単に察せられた。吹雪が皆に話してしまうことは予想していたし、それに関しては何も言わない。
それよりも、まさか自分にやめてほしくない仲間がこんなに集まってくれるとは思わなかった。その事実は素直に嬉しい。
ただ、まさか色仕掛けなんて話になるとも思わなかった。
い、いや確かに俺は艦娘の皆にバレない程度に下着を覗いたり、チラ見をしたりした事はあった。
実際艦娘の皆は本当に可愛い子達ばかりだ。
そんな彼女達から辞めてほしくないから色仕掛けを仕掛けられるなど、男冥利に尽きるというもの。
思わず期待は高まるが、これでまだ辞めるなどと言い出してしまった時に後の事を考えると嬉しい反面、恐ろしくもあるような。
(と、とりあえず司令室に戻るか。鈴谷達が来るみたいだし、な)
心の中で自分自身に言い訳をしながら、俺は司令室へと向かった。
今後の事を、ちょっとだけ期待している自分を自覚しながら。
〜〜〜
「チ、チィーッス提督〜!!いる〜!?入るよ〜!!」
……来た。
鈴谷と熊野が司令室の戸を開き、二人仲良く部屋へと入ってきた。
何も知らない、聞いてないという体でいる以上、俺の方は自然体にならなくてはならない。
仮にも軍人。怪しまれない程度に表情を作る事は出来るし、心に鍵をかける事だって可能だ。
しかしまだ年若い少女の二人には少し難しいのか、表情が固くて動きもぎこちない。
見てるこちらが逆に安心しそうな程に下手な演技だ。
「二人ともどうしたんだ?」
部屋に訪れた二人にとぼけてみせた。
本当は二人が何故訪れたのか知っているのだけど、それを明かしてしまうのはなんだか面白くないのでとりあえず黙っておくことにする。
「あぁ〜…。テ、提督ってば、その〜…、吹雪とセ、セッ……ゴニョゴニョとか、しちゃってる訳?」
いきなりそんな質問するか?
「いきなりどうした?ま、まぁそうだな…。してるよ」
「や、やっぱりそうなんですのね…」
熊野がひどく傷付いたように、寂しげに目を逸らした。
何故お前がショックを受けているのだ。そもそも、吹雪と俺はケッコン艦として結ばれてるのだから別に不思議な話ではないと思うのだが。
「ね、ねぇ提督はさ…。鈴谷の事…その、カ、カワイイとか…思ってたりするかな?」
巷では処女ビッチなどと言われる鈴谷にしては珍しくど直球で勝負にきた。変に誤魔化そうとすると余計に恥ずかしくなると判断したのだろうか?
「あ、あぁ。鈴谷はカワイイぞ」
ほんの少しだけ、この後の事を期待している自分を情けないと思いつつも鈴谷への賛辞は嘘偽りなく述べる。
鈴谷の事をカワイイと言ったその言葉に嘘はない。
「そっか……ね、ねぇ提督。その、ス、鈴谷とそ、その…ナ、ナニシナイ?」
最後の方聞こえないんだが。
「鈴谷…多分今のセリフ。提督に聞こえていませんわよ?」
「え!!?ウッソじゃん!!なんで聞いてないのさ!!」
聞いてないじゃなくて聞こえなかったんだけど。
「コホン!で、では提督……その、私の事は? 私の事はカワイイと思って下さっていますか?」
熊野は不安そうに縮こまりながらも、おずおずと自信なさそうに聞いてきた。
普段から熊野の事はものすごくカワイイと思っているぞ。
でも今の熊野はそこから更に数段カワイイぞ。
「カワイイぞ。熊野も鈴谷もめちゃくちゃカワイイ」
嘘偽りない本音だ。
二人の容姿は世間一般の目から見ても飛び抜けているものがあり、事実として鎮守府外からも二人宛によくラブレターが何件も送られてきている。
まぁ、ラブレターが送られてきているのは何も二人に限った話ではないし、二人ともそれを受け取りこそするものの、いまだに誰とも付き合った事がないらしいのだけど。
「そ、そうですか。では…私と、性行為していただく事は可能ですの?」
思わず頭を机にぶつけた。いきなりぶっ込んでくるな!!?
「何言い出すんだ!!?」
「何言ってんのさ!!?」
俺と鈴谷は同じ反応になった。
しかし、肝心の熊野本人は至って真剣な顔をしており、少し涙の溜まった潤んだ瞳で俺を見つめていた。
「提督…。私は…あなたをお慕いしております。一人の殿方として…誰よりも、誰よりも思っております…」
!!
熊野の声は震えていた。
まるで泣いてしまいそうな自分を必死に抑え込むように。
「私の事を哀れと思し召しならば、少しのお情けを下さい…!!お願いですわ…!!あなたをもっと感じさせて下さい…!!ヤメナイデ…クダサイ…!!」
・・・熊野は今にも泣き出してしまいそうだった。いや…もう半分泣いていると言っていいだろう。彼女の言う通り、今の熊野はあまりにも儚くて、哀れに思ってしまう。
「…提督。鈴谷からもお願いだよ。これ以上、熊野を悲しませるような事はしないで」
……それはもちろんだ。
弱みにつけ込むようで少し気が引けてしまうが、ここで彼女の涙を拭いてやらないほど俺もカッコ悪い男ではない。
「…俺の部屋に来い、熊野。抱いてやる」
「あ、鈴谷も一緒に構いませんか?」
「あぁ、もちろん……へ?」
「はえ?なんで鈴谷も?」
「鈴谷も処女を卒業したいのでしょう?」
そう言う熊野の目からは涙が消えていた。
さっきまでの悲痛な叫びが嘘のようにイキイキとした熊野の姿に俺も鈴谷も違和感を覚え、そして一つの可能性に辿り着いた。
「ま、まさか今の嘘泣きかお前!!?」
「ウフフ!言質はとりましてよ?ごめんあそばせ♪」
いつの間にか、熊野の手元にはスマートフォンが握られていた。録音終了の文字が画面に写っているのが一瞬見え、俺は目を閉じて頭を抱えた。
とんでもない性悪娘だ。やはり鈴谷の妹だな。
「ちょ!!ちょっと熊野ォォォ!!!」
「さ♪鈴谷も連れて提督のお部屋に参りましょう?私達の事を抱いてくださるんですものね?」
怒り狂う鈴谷のことなど気にも介さない熊野は俺の腕に纏わりついて挑発するように笑顔を見せた。当然、その目に光る雫は残っていない。中々心のドス黒いお嬢様がいたものだ。
「……俺にとっては熊野も鈴谷も抱けるのはメリットしかないけど、騙された鈴谷はともかくとして…熊野には一体なんのメリットがあるんだよ」
「あら?先ほども言いましたでしょう?あなたの事をお慕い申しておりますと」
少し顔が熱くなる。熊野を見てみると、少し恥ずかしそうにしながらも目だけは俺に合わせて愛おしそうに微笑みを浮かべていた。
「何度でも言いますわ。お慕い申しております。想いを寄せる殿方に抱いて頂けるなんて、最高のメリットではありませんか」
ふと隣を見ると、再び熊野の大胆な告白を目の当たりにした鈴谷が思わず赤面して固まってしまっている。多分、鈴谷も初めて見たのだろう。こんなにも積極的な熊野を。