『私達』が近くまで来ると、『ゲート』は全身が総毛立つような濃密な恐怖を纏っていた。
全てを拒絶する黒い二本角が、尋常ならざる巨眼を挟み込む。滴る赤い液体は血にも涙にも見え、ともすると目玉が泣いているように見えた。
「……マスター、これが貴方様の敵なのでしょうか」
私はマスター同様に『ゲート』を見上げると、剣を構えた。これがこの御方の敵なのかと、改めて敵対勢力の強大さに驚く。
街を一つ、壊滅させるほどの悪魔達。それをいとも簡単に呼び出してしまう『ゲート』の存在。
これらを知性ある人間が保有しているのではなく、未知の存在が手にしている事実に薄ら寒い感覚を覚えた。
……私はこの先も、マスターの剣としてついて行けるだろうか。
「ルナ、かっこいいよ。帰ったらたくさんエッチしようね」
「う──ぁ──は、はい──?♡」
私の弱気な心情を見抜いたのか、マスターは急にそんな事を言ってくる。私とてマスターと交わるのは是非ともお願いしたいところだが、不意打ちも良いところだった。
マスターは私の反応に満足したかのように微笑むと、恐怖を感じさせない足取りで、門の内側に入っていってしまう。
この悪魔の総本山にである。
「あっ、お、お待ちをマスター! まずは私が先に──!?」
まさかなんの断りもなく侵入すると思わなかった。するりと消えていくマスターに面食らいつつ、後を追う。私に気を遣って下さるのは大変に嬉しいのだが、貴方様に傷がついたらとても自分が許せないのだ。許せない、許せるはずもない。
そんな事があれば、うっかり世界の全てを滅ぼしてしまうだろう。
追いかけるように慌てて足を踏み入れると、肉体が強く『内側』に引っ張られる。奇妙な引力、身体が浮くような感覚だった。
「──?」
『ゲート』の裏側に透けて見えるのはそこらと変わらない平原だったにもかかわらず、移動してみるとそこにあったのは確かな地獄だった。
目が潰れそうになる赤く色づいた岩肌、熱気だけで皮膚が溶けそうなほど熱を感じるマグマの流動。空は真紅一色。生物の気配など、まるで感じない。否、生命あるものが到底生きていけない環境。
これを地獄と表現せずに他の何を地獄と言い表すのか。
「なんだ、ここは……」
顔を顰めてしまう私と打って変わって、マスターは落ち着いたものだった。
「うわ、すごい暑いね、ははは」
「……マスター?」
知らぬ者が見れば恐怖で壊れたのかと思うほどだった。若干興奮気味くらいのものである。
とても山賊に怯えていた彼とは違う。
いやしかし、これはどういう反応なのだ……?
「行こうか、ルナ。ふふ、心配しないで、何回もクリアしてるから……でも現実として入ってみると、テーマパークに来たみたいでテンション上がっちゃうね」
「……はい」
黒い瞳に真紅の世界を映しながら、マスターは散歩でもするような気楽さで先を行く。
勝手知ったる様子の彼に、私は言葉を飲み込むと、すぐ後ろで剣を構えた。何かあれば即座に対応出来るように。
外の敵は雑魚も良いところだった。しかしここは敵の本陣、強敵がいるのはまず確定だろう。
神経を張り詰めさせて、周囲を警戒する。
そんな私を見て、マスターが苦笑した。
「一つ目の『ゲート』だから、敵は少ないんだ。何処かのスレでも、明らかに外と内側で数が違いすぎるって話題に上げられてるよ。僕はチュートリアルなんだし良いと思うけどね」
「そんな筈は……いや、そのようですね、悪魔達の気配がない」
恐らく彼の言葉の半分も理解出来てはいないだろうが、言わんとしていることは読み取れた。
そう、マスターの言葉通り、悪魔達の数が、あまりに外と違いすぎる。探し歩いてみても、敵意を全く感じない。
無論、ここに来るまでに外の兵力をどうにか出来なければ話にならないのは理解していたが、こうして力量のあるものが少数でも内側に入り込んでしまえば本陣が破壊されてしまう。あまりにお粗末だ。
それとも奴らはそこまでの知能はないのか。
……いや、もしや罠なのか?
そう考えるのも致し方ないと思えるほど、敵の存在がなかった。
「結構近いかもね」
二分ほど赤岩の上を歩くと、マスターが立ち止まる。
「む……」
私はようやくマスターが何処を目指しているのか理解することになった。
少し行った先に、細長い建造物が聳え立っていた。
赤黒い、角のような塔である。凹凸は少なく、表面はなめらかだ。外の物と色味は似ているが、不思議と別物に感じるのは何故なのか。
あれがマスターの言っていた『核』だろうか。ならば一応は目的に近づいているようだ。
「ルナ、まずはこの先に二匹の悪魔がいるはずだよ……ゲーム通りならね……あれ、そういえばなんで山賊の依頼の時はゲームと違ったんだろ……modのせいかな……」
「マスター、来ます」
マスターの『予言』通り、「シャー」と威嚇じみた声をあげて、翼の生えた真っ黒い漢が、こちらを捕捉して飛翔してくる。数は二匹。
鋭い爪を突き出し、着地を考えていないような速度で高所から加速してくる悪魔達。
私は飛び上がると、大剣を軽く振るった。
「ギャッ──ォッ──!?」
奴らは何が起こったのか分からない顔で、真っ二つになりながら地面に激突する。これくらいなら相手にはならない。
しかし相手はこの『異界』の主かもしれない。油断はできなかった。
着地してマスターの御側に立つ。
「かっこいいよ、ルナ」
剣を構えて周囲の警戒を続ける。
一方のマスターは、可愛らしいお手手で私の臀部を撫で回すと、スタスタと先に行く。本当に緊張などはされていないようである。
一応、マスターの手には黒い筒のような物が握られていた。私と出会った時に箱から取り出した装備のようだった。
あの時のマスターの反応を思い出すと今でも股間が疼く。またいずれ乳首もおまんこも丸出しのあの姿で可愛がってもらわねば。
……と、そんな場合ではない。主人に先を行かせるとは何事か。
「お待ちください、マスター!」
慌ててついて行くが、ここまで警戒されていない所を見ると、ここにマスターの怨敵はいないのかもしれない。まずは『向こう』からの小手調べであり、マスターもそれをご理解なさっているからこその態度なのだろう。
「……いや、しかし先日の件もある、油断はできないな」
先日とはもちろん山賊との戦いだ。
あの時、マスターは驚愕して不意打ちを喰らっていた。マスターに限って読み違えていたという事は無いだろうが……あの御身体ははっきり言ってしまえば貧弱だ。戦闘なんてとても出来そうにはない。
それは『私』を作り上げたマスターであれば十分に承知の上だろう。だからこそ、戦闘は主に私達に任せてくださっている。
なればこそ、彼の剣として、例えどんな状況であろうとも、万全の実力を発揮する心積りでいる必要があった。マスターのお力になるためには、いつでも最強の私でいなければならない。
「──この先にボスだよ。確かアラクネかな。特にルナなら苦戦しないと思うから、頑張って」
『塔』の前には、蜘蛛の身体を持ち、その上に女性の上半身が生えた悪魔がいた。全身が紅く輝き、まるで泣いているように黄金色のマグマが垂れ流されている。
女性の頭皮には、尖った赤い角が生えていた。
「あ、一本角か。うーん……多分それでも余裕かな」
「行って参ります」
マスターの声を背にして、アラクネなる悪魔に近づく。
見たことも聞いたこともない悪魔だ。いや、話には聞いていたがそもそも悪魔なんて存在を初めて目にした。
マスターのお言葉を借りればこいつがボス──恐らくここを治めている存在なのだろう。にしては先ほどの悪魔や巨人と大差ない強さのようにも見えるが……いや、油断はしないと誓ったばかりだ。
「──!」
アラクネは静かに跳躍すると、鎧も貫通しそうなほど鋭利な前脚を向けて飛び掛かってくる。無警戒な頭を切り飛ばそうとも思ったが、流石にそこまで甘くはないだろうと回避を優先した。
「ギャォッ──!」
初手を回避された化け物は、近接戦に持ち込むとその前脚を巧みに操って攻撃を仕掛けてくる。並の戦士であれば五秒と持たずズタボロになるような連撃だが、私からしてみれば児戯のような突きである。
「──なにが目的だ?」
これもこちらを油断させる手段なのか……? いかん、考えれば考えるほどドツボにハマっている気がする。
こんな弱気な考えになっている理由はもちろん先日の戦いだ。そもそも私は自分に匹敵する存在に出会った事がないため、あの山賊との戦闘はかなりの衝撃だったのだ。
……私は、本当に強いのだろうか。
つまらない攻撃を捌きながら、いま一度自分が強いのか弱いのか考えてしまう。私だって、この剣だって、他の誰でもない、マスターの手によって作られた物なのに、何故負けたのか。
手数だけの無意味な攻撃は、私を更なる思考の海に誘う。しばらく私は目の前のバケモノに付き合うことにした。
「シャッ──!」
突然、奴の口元から赤い体液が吐き出される。まず満足に喰らえば重傷は免れないだろうが……そもそも当たるはずもなかった。
私は真顔で身を捩って避けると、再び前脚と斬り合う。
……単調で、芸のない仕掛けだ。本当に弱いなこの魔物は。
それとも私が──強すぎるのか?
「──そうか」
そこまで考えて、フゥリィの言葉を思い出す。
幾ら武器の効果が強いとはいえ、山賊一人に勝てないなんてと自らを嘆いていた私だったが、彼女はあの武器を作ったのはマスターではないかと言っていた。
マスターも、何事もなくあのハンマーを使いこなしている。恐らくその読みは正しい。
──であれば話は簡単だ。
私は山賊に負けたのではない。
マスターに負けたのだ。
「く、ははっ──!」
なるほどなるほど。
ならば、その敗北は当然。私を作ったあのお方に、その創造物である私が敵うはずがない。この身も、この力も、この装備も、全てはマスターの手によるもの。勝てるはずもなかった。
だが、それは逆説的に言えば、マスターがお作りになった物以外に負けるはずがないという事ではないか。
あの愛しい『創造主』様の子である『我等』が、他の塵芥に負ける通りなど無いに決まっている。
「は、はははは──! 何を血迷っていたのだ、私は──!!」
「ギィッ、ァ──?」
高笑いする私に、アラクネは身の危険を感じて飛び下がろうとする。そんな事をさせるわけもない。そんな暇は与えない。
跳躍するほんの僅かな時間。動きが止まる瞬間を見計らって、こいつの体を支えていた後ろ足の四本を切り落とす。
「ギィィィィィィッ──!」
剣の遠心力に身を任せ、化け物の背後に回ると、奴は最後の力を振り絞って顔をこちらに向けてまたあの赤い体液を吐き出してきた。
私はそのままの勢いで軸足を切り替えながらさらに回転して躱すと、そのままアラクネの首を刎ねた。長い髪ごとバッサリと断ち切られると、くるくると血を噴き出しながらアラクネの顔面が転がっていった。
マスターのお言葉通り、雑魚も良いところであった。
「申し訳ありません、警戒しすぎのようでした……」
「ふふ、別に謝らなくても良いよ」
マスターはそう言いながら私に近づくと、正面から私の胸に顔を埋めてくる。谷間に伝う汗を美味しそうに舐めると、「うぅ、ほんとかっこいいよぉ……」と興奮気味に私の身体を抱き締めて下さった。
「ぅ──♡」
敵地のど真ん中だというのに、あまりの愛おしさに、腰が砕けそうなる。
なんと可愛らしい少年なのだろう。
普通の女であれば「かっこいい」は褒め言葉にならないかもしれないが、私はマスターにこうあれと作られた存在である。そんなマスターにこうして抱きしめられて褒められるとは、なんとも幸せな事ではないか。
頬が緩む。剣を地面に突き刺すと、乳房を両脇から抑えて、マスターの顔をおっぱいで優しく包んで差し上げる。豊満な乳肉に少年の小さな顔がもにゅもにゅと埋まっていく。
「おっぱい、柔らか……好き……」
マスターの顔がへにゃりと脱力する。
なのに股間はどんどんと硬くなってきており、膨らんだズボンがつんつんとおまんこをビキニの上から突いてくる。
こんな事をしている場合ではないのに、マスターのおちんちん様が当たる度におまんこから体液が漏れ出てしまう。惚れた弱みというやつだろうか。
ああ、可愛過ぎる。この場で今すぐこの巨根を鎮めて差し上げたい。
しかし、この場は危険地帯に違いない。私は鋼鉄よりも硬い意思でマスターに進言する。
「ま、ますたー、ここは危険ですので、街に帰ってからの方が──んっ──♡」
マスターは私のコートの中に手を入れると、無遠慮に尻肉を掴んだ。「分かってる、あと十秒……」と小さな返答。
仕方なく、私は可愛らしいマスターに十秒間尻肉を揉みしだかれた。おまんこはぐずぐずになっていた。
「ありがとう、ルナ」
マスターは左右の手で十分にお尻を堪能すると、名残惜しそうに私から離れていってしまう。
私の方も抑えが効かなくなりそうだ。早くベッドに連れ込みたい……違う、連れ込んで頂きたい。
マスターの強大な肉棒に貫かれて狂ってしまいたい。肉欲と愛が胸で渦巻く。
いかんいかん、抑えろ……
ムラついたまんこが、とろとろの愛液をこぼしていた。
「さて、ルナの言うとおり──ほら、破壊するのはあれだよ」
マスターが指差す方には、やはりというべきか先程の塔があった。
その塔の根元に、赤黒く輝く宝玉が嵌め込まれている。サイズ感としては人が両手で抱えきれないほどの大きさだった。
近寄って見ると、明らかにそれは人の手では作り出せないような、逸脱した魔力を発していた。
これがマスターの言う『核』なのは一目でわかる事だった。
……こんなものを、誰が作ったというのだろう。或いはこれを作った者こそが、マスターの敵──
「思いっきりぶっ叩いていいよ」
「はい、分かりました」
マスターに指示されるまま、大剣をそれに叩き込む。
──次の瞬間、眩い光が私達を包み込んだ。