「──つまり、貴様も私と同じく、マスターの手によって作り出された存在ということか?」
ルナジリオはにわかには信じ難いと顔に浮かべながら、痴女──フゥリィを睨んでいた。
当然だろう、何せ彼女は自身の人生の中で自分と同じ境遇のものは会ったことがないはずだ。会うはずもない。この
「ええ、私はこの坊やによって作られた──でも予想外ね、私を作った『上位存在』が、こんなに可愛らしい男の子だったなんて♡ ちっちゃくて、細くて、可愛いわ、食べちゃいたい♡」
睨まれた彼女は、鋭い視線を受け流すように頷く。そして、脚の上に乗せたリヒトの身体を、背後からギュッと抱きしめた。
「ちょっと、フゥリィ、その、おっぱいが当たってるよ……」
リヒトの背中には、生乳となんら大差ない僅かな布地を挟んで、巨大な乳房がむにぃと柔らかく押し付けられていた。生暖かく、いやらしい乳肉から彼女の体温が直接伝わってくるようだ。
フゥリィがぺろりとリヒトの耳を舐める。
「当ててるのよ、可愛い坊や♡ 私のおっぱい、嫌いかしら?♡♡ 大っきくて、柔らかくて、貴方が作った貴方好みのデカパイが……ふぅー──♡♡」
「あっ、ちょっと……」
ゾクゾクするような色気の吐息が、耳をくすぐる。少年の頬が紅く染まった。
リヒトの胸板を我が物顔で撫で回しながら、ご満悦といった様子でフゥリィは微笑んでいる。可愛らしい愛玩動物を愛でるような仕草だった。
そのようなイチャイチャ──否、狼藉を許すルナジリオではなかった。
ちゃきりと、殺意の刃が鳴った。
「……貴様、随分と『私の』マスターに馴れ馴れしいではないか」
今にも人を殺しかねない瞳で、ルナジリオはご主人様を取った謎の女を睨みつけている。さながら飼い主を取られた番犬の有様であった。
「あら、長年探し求めていた愛する人だもの、こうして抱きしめるのは当然じゃない♡」
対するフゥリィはどこ吹く風。むしろ挑発するかのごとくリヒトの身体を抱きしめると、なでなでと頭を撫でていた。
火に油を注ぐとは、まさにこの事だった。
「貴様ぁ、私のマスターに……!」
もはや修羅のような顔つきになりつつあるルナジリオ。
リヒトはそんな彼女に苦笑しつつ、剣を下すように告げる。
「ルナ、彼女は僕が作った二人目のキャラクターで、つまり君の仲間なんだ。剣を下げて」
「──し、しかし、あまりに大恩あるマスターに対して馴れ馴れしすぎるかと!!」
「どっちかっていうと、ルナもこうしたかったらこうしていいんだよ?」
「なん……だと……?」
「そんな美味しいイベントを逃していたのか!」と剣を取り落とすルナジリオ。早くも若干ながらキャラが迷子になりつつあった。
リヒトは何度目かの苦笑をしつつ、自分の頭の上に顎を乗せている美女に目を向ける。
「それで、えと、フゥリィ、さん?」
「ふふ、呼び捨てでいいわよ、『創造主様』?」
「うわ、やめてよ、リヒトで良いって」
「そうなの……まぁ好きなように呼ぶわ。それで、何かしら?」
「確認したいんだけど──君も『僕のモノ』?」
自分の発言に、自分で苦笑いする。
初めて会った女性に対して、何を言い出すのかとリヒト自身思っていた。つい先日まで童貞だった自分が、だ。
しかし、ルナジリオを見て、そしてこのフゥリィと会話して、確信に近い何かがあったのだ。
リヒト自らが作った『MODキャラクター』達は、皆リヒトを探していて──そして、創造主であるリヒトに仕える事を望んでいる。そんな確信があった。
何故だか知らないが、見ず知らずのリヒトの事を心底大切にしていて、命令されれば命すら投げ出すような忠誠心がある気がするのだ。
人間として、人格ある存在として、顔さえ知らない人物への絶対の忠誠など、通常であればありえない。であれば、こうして話していても普通の人となんら変わらない彼女たちを、このような考えに当て嵌めてしまうのはおかしな事だ。
だが、この世界はゲームの世界でもある。
ならば、予め仲間になる事を想定し、決して裏切ることなくいつでも隣に付き従い、共に歩み、共に戦う彼女達が、プレイヤーに対してある種の『狂信者』となることは、なんら誤りではないのだろう。
彼女達は、リヒトに対して、絶対の忠誠を誓う。何があろうとも決して見捨てることはない。この世界では、そうと定められているのだ。
……後はルナジリオのせいもあって、ちょっぴり女慣れしつつあるせいもあって、リヒトは積極的だった。
「んー、そうねぇ……」
フゥリィはしばらく瞑目すると、やがて片目を開いてリヒトのおでこに「ちゅ♡」とキスをした。
「──そうよ。私は坊やのもの♡ 私の全てを坊やに捧げるわ、我が愛しの創造主様♡」
そう言うと、彼女はいやらしい手つきでリヒトの股間を撫でた。
自然とリヒトの股間に血が集まりだした。
──この雌も、僕のものだ。
「このぉ、エロ女がぁ……!!」
……そして、何かに敗北したように四つん這いになり、フゥリィのことを睨み上げる彼女もまた、リヒトの所有物だった。
ーーーーーーー
「改めてなんだけど、二人ともよろしくね」
「はい、マスター。御身に仕えさせて頂きます」
「よろしく坊や。なんでも私に頼ってね──どんな事もお姉さんにお任せよ♡」
ひとまず宿で食事をすることになった三人は、下の階で宿主が用意したパンとシチューを堪能していた。
味は格別に美味しいと言うほどではない。どちらかと言うと薄めたミルク味のスープといった印象だ。けれど雪積もる森林を抜けてきたこともあり、冷えた身体の芯から温まる。悪くなかった。
「──それで、これからどうするの?」
麦酒を飲みつつ、パンを摘むのはフゥリィだった。頬杖をつき、味わい慣れたそれらを嚥下する彼女は、何もかも手慣れたファンタジー世界の冒険者のようだった。というよりも、実際にこの世界で冒険者として生きてきたのだろう。非常に様になっていた。
当然、服装を除けば、である。今も乳首が見えそうで見えない。非常に危険な衣装だった。
「……その前に貴様、いい加減マスターに対してその言葉遣いはやめるべきだ。私の──いや、私達の創造主様だぞ、マスターは。絶対の敬意を払え」
頑なに酒を拒み、同時にフゥリィを非難しながら、シチューを丁寧に掬うのは、ルナジリオ。
カッチリ、という擬音が相応しい振る舞いで、こちらもまた乳輪がはみ出るようなビキニを着ていなければ、ファンタジー世界の騎士か何かと思ってしまうだろう。
本当に、美人で、しかもわざとらしく芝居をしている様子もない。彼女達を見ていると、映画が現実になったような……いや、ゲームが現実になったような、そんな気がして仕方なかった。
「いいじゃない別にー……坊やには何も言われてないわよ」
「言われていなかったら不敬を働いても良いと言うことか? 舐めているにもほどがある、やはりあの場で首を跳ね飛ばすべきだったか」
殺気立つルナジリオに、リヒトはシチューに浸したパンを食べながら、「喧嘩はやめてね」と静かに釘を刺した。
「二人が喧嘩してるの、嫌だよ僕は」
「も、申し訳ありません、マスター……」
「ほーら、怒られた。頭固いんだから、もう」
「くっ……! 業腹な女だ……いつか殺す……」
「ちょっと、いい加減にしてよ……それで話を戻すと、これからどうするのか、だよね?」
フゥリィは頷く。
言われてみると、リヒトはとりあえず村に来ただけであって、何か目的があるわけではない。そもそもなぜこの世界に来たのかも分からないし、どうやって来たのかも不明だ。
帰るつもりはない。自由に動ける健康な身体、夢に見たファンタジーの世界、そしてなにより自分を愛してくれている彼女達。これを自ら捨てる真似など出来るはずもなかった。
だが、この世界で生きて行くのであれば、今後の身の振り方については考える必要があった。
「うーん、特に目的とかないし、二人と一緒に居られたら……あ」
「どうしました、マスター?」
リヒトは普通に生きていくにも、まず何よりも必要な物を思い出した。何を買うにも、何をするにも必要なものだった。
事前にその流れになることを察していたらしいフゥリィは、こくりとリヒトに頷いた。
「そうなのよ、何をするにせよ、或いはしないにせよ、生きていくには手持ちが少し心許ないわ」
「お金、稼がないとね」
つまりこのまま宿に泊まるにせよ、どこか他の街などに旅するにしても、宿や食費の支払いに金銭は確実に必要だ。『OFS』ではゴールドと呼ばれる金貨が作中で扱われる通貨となっているが、それを稼ぐ必要があった。
「坊や、蓄えはあるの?」
「ううん、恥ずかしい話だけど一文なし。フゥリィは?」
「しばらくは坊やを養っていけるくらいはあるけれど……でも長くは保たないわ」
「……なるほど、話の流れは分かった。私もあるにはあるが、似たようなものだ」
三人は同時に頷いた。
リヒトは思い出す。このゲームにおける、所謂金策と呼ばれる手段を。
基本的には価値のある物を売る事で大金を得ることが出来る。『OFS』はRPGと呼ばれるジャンルのゲームだが、実装されたスキルなどは多種多様で、ほのぼのスローライフとして戦闘をせずともゲーム内で暮らすことが用意だ。MODの力も合わされば、本当に様々な生活が送れるだろう。
しかしそれにはスキルがいる。素材を調達して薬を作るにも、剣を鍛え上げて商人に売るにしても、全てにスキルが必要だ。
ゲーム内ではプレイヤーキャラクターが不眠不休で文句も言わず何ヶ月も掛けて会得するものが多いが、リヒトは今の自分ではそんなことは出来ないと確信していた。試したことは無いが、もし自分の肉体がゲームキャラクターと同じなら、森を歩くだけで疲労感を覚えたりしないだろう。
つまり、夢のない話だが下積みからコツコツ始めていく必要があるだろう。
そこまで考えると、三人合わせての食費や宿代を日々支払いながら、いつまでかかるともしれないそれらに準備を費やすのは得策ではない。
「やっぱり依頼?」
「そうなるわね」
となると、ゴールドを稼ぐ手段は限られてくる。犯罪行為を除けば、今最短でまとまった金銭を得るには、冒険者となり、依頼を成功させてその報酬を得る事だった。モンスター討伐や、ダンジョン攻略、その他様々な依頼を冒険者ギルドから受託して、達成するのだ。
……リヒト自身、このゲームの自由度の高さを知っているので泥棒やら暗殺依頼といった悪どい金策も思いついていたが口にはしなかった。たとえそうなったとしても、恐らく手を汚すの彼女達だ。そんな事をさせたくはなかった。
「まずは依頼を受けるところからね……一つ村を挟んだ南西に街があるわ。あそこにギルドがあるから、まずはそこを目的地としましょう」
「分かった、異論はない」
「そうだね。僕も大丈夫……今更だけど、ごめん二人とも……迷惑かけると思う」
リヒトは自分が不甲斐なく思って、しょんぼりと肩を落とした。
創造主などと二人に持て囃されているが、実際はお荷物でしかないのだ。金もない力もない、性欲だけはある。正しくヒモに近い存在だ。
そんな少年を、とろけるような笑顔で二人のお姉さんが見つめていた。
「マスター、お気になさらず。そんな瑣末な事はこの痴女にでも任せておけば良いのです。貴方様は寝室でたっぷりと私を可愛がって頂ければ……♡」
「坊やが気にすることないわよ♡ このおっぱいまで筋肉が詰まってそうなゴリラがせかせか働いて、私達の愛の営みをたっぷり支援してくれるわよね?」
リヒトの頭上では、二人の美女がばちばちと火花を散らして睨み合っていた。