ベイルのレストランでの打ち合わせの前に、帝都で済ませておく用事が2件あった。
ソマーラの迷宮から、直接、帝都の探索者ギルドにワープする。イリス・フレイヤ・ソフィア・エゲリア・ノラの5人と、一緒に探索者ギルドを訪問するのは初めてかな?
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「やあジャンヌ、また来たよ。」
「マモル様、やっぱり来てくれたのね。お願い、売ってちょうだい! 昨日入れてもらった万能丸、もう全部出ちゃったの。オークションに出た滋養剤も、相場の3倍で落札されたらしいのよ。薬草採取士ギルドの息のかかった仲買人が、マッチポンプで値を釣り上げたに違い無いわ。」
「ジャンヌも大変だね。念の為の確認だけどさ、帝都の探索者ギルドってヤバい仲買人との繋がりってあるの?」
「マモル様は『スパルタクス団』の事を言ってるのよね。大丈夫よ。ウチのギルドは、3代前のオーナーが在りし日のガイウス皇帝のパーティメンバーで、ガイウス皇帝が冒険者を引退する時、爵位代わりに探索者ギルドの経営権を貰ったの。伝承ではガイウス皇帝と『同好の士』だったらしいわ。昔から帝都に住んでる人には、割と知られてる話よ。当代も爵位は持ってない家だけど、帝国騎士団の団員だから、自分が討伐に行くかもしれない相手に塩を贈る真似はしないわよ。」
「それなら盗賊と連むのは割に合わない、売っても安心だね。少ないけど、皮袋に入った分は卸しとくよ。」
ジャンヌに皮袋に入れた万金丹を手渡すと、彼女の目の前の買取トレーにコロコロ取り出して確認を始める。万金丹は万能丸の上位の万能薬、この上はエリクシールになる。
「すごい、万金丹12個ね。@1,200ナールで買うわ。ねえ、生薬だったら何でも買うわよ。弱っちいくせに自分達は強いと誤解してるパーティほど、エルフ貴族に同行しようとしてるのよ。使い潰されるだけなのが理解できないの。せめて生薬だけでも売ってあげないと、誰も帰って来れないわ。」
「よく分からないな。盗賊のバンダナで身体能力が強化されてる奴が相手なのは、冒険者達も知ってるんでしょ。何で、わざわざ強い盗賊を狩ろうとしてるのかな?」
「馬鹿だから、エルフ貴族の戦果を横取りできると思ってるの。お金を出して買った戦闘奴隷は財産なんだから、盗賊狩りの冒険者なんて、一番キツい最前線に押し出されるに決まってるわ。だから大抵の冒険者は、経験を貯める前に死んじゃうのよ。」
なるほど、ジャンヌには、顔馴染みの冒険者の死兆星が見えてるんだ。
万金丹:@1,200ナール*12個=14,400ナール
ジャンヌに銀貨1枚をチップで握らせ、ソフィアが明細書と残りの買取代金を受け取る。今日もエゲリアは渋い顔だ。銀貨数枚の賄賂で取り込めるなら、情報の価値を考えれば安いと思うんだけどな。酒場に飲みに行って情報を漁っても、時間と銀貨の割に、情報の質は玉石混合だと思うぞ。ジャンヌは慣れてるから効率が良いんだよ。
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探索者ギルドを後に、パーティメンバー5人と一緒に帝都の街並みを歩いて、次は商人ギルドに向かう。
「ソフィア、帝都って城壁が無いよね。魔物が市街地に入って来ないのかな?」
「帝都は人が多いですからね。たとえ魔物が出ても、外周部で誰かが倒しちゃいますから必要無いんですよ。」
鑑定で見ても、帝都は騎士やら冒険者やら商人やらのジョブ持ちが多く、村人なんて殆どいない。ギルドへの転職料が払える人なら、何らかのジョブを取得するわな。まあ、帝都の人口が多いと言っても数万人規模だ。それ以上の都市人口を養える生産力なんて、この世界の文明レベルじゃ、とてもじゃないが無理だわ。あのコンスタンチノープルが陥落した時の人口でも、5万人程度だったらしいし。
商人ギルドの建物に入ると、ロビーにアレックスの姿が見え、誰かと立ち話をしている。今日のオークションは終了したのだろう。アレックスと目が合ったので、軽く会釈して、オークションの下見室をチェックしに行く。
「ご主人様、やはり”身代わりのミサンガ”の出品が多いですね。あ、万能丸*50個ですって。」
「そうだね、イリス。目ざとい仲買人にとっては利確のタイミングだもんな。うわっ、竜肉*100個だって。何でそんなのがオークションに出てるんだろ?」
「竜肉はドラゴンの力が籠もっているとされて腐ることがないし、そのまま食べられます。陣中食として最上級の戦略物資ですから、高値落札が期待できると思います。何処かの貴族家が、換金目的で備蓄品を放出したんでしょう。」
伯爵家で一番奴隷をやってたソフィアは、こういうのが解るんだな。流石だ。
『鑑定!』を発動しつつオークションの下見室を一周するが、目ぼしい装備品は無かった。今回の目玉は”鋼のマジカルアーマー”らしく、鈴生りの人だかりが形成されている。魔法ダメージ軽減の効果がある、ドラゴンのスキル結晶が融合された鋼鉄の鎧だ。しかしウチのパーティにとっては、鑑定で見るまでもなく”お買い損”の品なので、立ち止まらず素通りする。
「マモル様、お待たせしました。臨時の諸侯会議が開催された以降は相場が盛り上がって、息つく暇もない忙しさですよ。もう談話室を取りっぱなしですから、移動しましょう。」
「景気が良いのは何よりだよ、アレックス殿。仲買人としては、稼ぎ時ですよね。」
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アレックスの彼女とおぼしき受付嬢は、前客の片付けをしてテーブルを拭いている。客が多いので忙しいんだろう。この子、ヴァニーユが『スカートの中に武器を隠し持ってる』って警戒してたけど、何処の手の者なんだろうな?
「マモル様、バタバタしてて申し訳ありません。アームロングですが、これも2万ナールで落札出来ました。今は対人戦用の取引で盛り上がってますので、掘り出し物の落札だったと思います。それと、コボルトのスキル結晶も1つだけ落札出来ました。」
鑑定!
アクセサリー:ボディークリップ(空き)
スキル結晶:コボルト
「うん、アレックス殿、上々の成果だ。ところで小耳に挟んだんだが、盗賊のバンダナが出回ってるんだって? 帝都の商人ギルドにも、危ない橋を渡る仲買人っているんだね。食うに困ってる奴って多いの?」
「え、いや、マモル様には敵わないですね。春先に私も『盗賊のバンダナが欲しいから、伝手があったら紹介してくれ。』と声を掛けられましたが、適当に対応しましたよ。どの程度の量を集めたのかは知りませんが、奴は羽振りが良くなってますね。でもねぇ、儲かっても金貨は墓まで持って行けませんよ。マモル様のパーティも、盗賊狩りに参加なさるのですか?」
アレックスは、エルフのハルツ公爵家に聞かれて不良仲買人の名前を喋ってるかな? しかし『羽振りが良くなってる』って事は、既に結構な枚数の盗賊のバンダナが『スパルタクス団』に渡ってるって意味だ。さて、アレックスの彼女とおぼしき受付嬢が、全員分のお茶をサーブしに来た。彼女にもハッキリ聞かせてやらなきゃな。
「いやいや、ウチは女性が多いパーティだし安全第一なんだよ。盗賊狩りより迷宮探索の方が好きだしね。だから、全エルフ最高代表者会議には頑張ってもらわないと。何しろ、その仲買人は自爆玉まで横流ししたらしいじゃん。」
「え、自爆玉の噂なんて聞いてないですけど・・。そう言えば、アイツ、春先から何度も自爆玉を落札してました。考えてみれば、奴に貴族家との伝手なんて無いですから不自然です。って、何でマモル様はそんなに詳しいんですか?」
「噂を聞いただけだよ。エルフは排他的な集団らしいしから、取引のあるアレックス殿から、ハルツ公爵家にそれとなく忠告しとけば死人が少なくなるかもよ。当主とか死んじゃって信用不安になると、アレックス殿も困るでしょ。」
「いやいや、何で私の取引先がバレてるんですか、どっからそんな噂を? う〜、でもねぇ、エルフ貴族から見れば人間族の仲買人なんて、塵芥ごときの存在と思われてるんですよ。でも、先祖から引き継いだ大事な取引先ですし、マモル殿のおっしゃる通り、言うだけ言ってみます。」
アレックス、若いから困ってるのが分かり易いぞ。ここまで情報を流せば、全エルフ最高代表者会議は、賞金稼ぎギルドに不良仲買人の始末をキッチリ依頼してくれるかな。大事な事は、ダメ押ししとくのが定石だ。
毒付与の鉄剣 30,000ナール
ボディークリップ ▲20,000ナール
手数料 ▲500ナール
アームロング ▲20,000ナール
手数料 ▲500ナール
コボルトのスキル結晶▲4,900ナール
手数料 ▲500ナール
合計 ▲16,400ナール
ソフィアに支払いを頼み、アレックスが精算書を書いている。アレックスのジョブは防具商人で、27歳の仲買人だ。この年頃って、百戦錬磨の商家や貴族からすれば経験不足のガキなんだが、本人は見えてないんだよな。アレックス、あと10年もして手駒に使われた事に気付いたら、褒めてやるぞ。
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今日は夕方から、ベイルのレストランを貸し切りにして打ち合わせの予定だ。まだ日の入り前だが、商人ギルドのロビーの壁から、ワープで向かう。
「あ、マモル様、いらっしゃい。皆さん揃ってますよ。」
レストランの奥さんは満面の笑顔だ。まあ貸し切りだからな。
テーブル一面には資料が広げられ、ベルガーは片手でピザを食べながら書類をめくっている。ヴァニーユは、慣れた様子でお茶を入れてる最中だ。あれ、別のテーブルにベイルの奴隷商館のナタリーが来てて、アーデルハイトと話してる。辺境伯家の実務を仕切るベルガーの1番奴隷と奴隷商人、何の商談だ?
「おお、マモル殿、昨日頂いた石鹸は助かった。やはり、その辺で売っている石鹸ではアーデルハイトの肌触りが今一つでのう、すっかりマモル殿の高品質な石鹸に慣れてしまった。それはそうと、このピザという食べ物は初めてだが美味よの。それに手掴みで食べるゆえ、仕事をしながら食事ができる。ウチでも導入できんかのう。」
おいおい、その辺で売ってる石鹸って、何の油を鹸化させてるんだ? それと薄々思ってはいたが、ベルガーはワークホリックの発想だ。こういう人って、仕事をしてる限り死なないんだよな。
「ご主人様、レストランの奥さんに頼んで、奴隷商人のナタリーさんを呼び出してもらいました。『スパルタクス団』と取引してる奴隷商人の話ですから、ベルガー様やアーデルハイトさんも一緒に報告を聞いた方が、話が早いと思いまして。」
「ありがとう、アルフリーダ。ちなみに奥さんやナタリーさんは、ベルガー殿の身分を知ってるの?」
「はい、本当の所を話しています。特にナタリーさんには、裏切った場合の処置も明確に伝えてあります。」
何を伝えたのかは、怖いから聞かないでおこう。
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ナタリーが帝都の奴隷商人ギルドで仕入れた情報だと、『スパルタクス団』との取引を始めたのは、帝都で最大手の奴隷商館だそうだ。
取引スキームは、ほぼ想定通りで驚きは無い。不良仲買人が流した品の対価を、『スパルタクス団』は奴隷の現物で奴隷商人に納入する。奴隷商人は何割かを中抜きし、不良仲買人には金貨で決済する。奴隷商人は、中抜き手数料と奴隷の転売代金で、一粒で二度美味しいスキームになっている。先に金貨が出て行くから運転資金は必要だが、奴隷の売買も大差無いんだろう。
「それでね、ザビルの冒険者ギルドに張った網に、国外に違法奴隷を持ち出そうとした下っ端の奴隷商人が引っ掛かったの。私が尋問しに行って、今さっき帰ったとこ。チャチャと吐かせたんだけど、仕入れルートは、ナタリーの言う帝都で最大手の奴隷商館で一致したわ。マモル様、どうする? 討ち入りして殺っちゃうなら、ヒルデガルドも呼ばないと後で怒られるわよ。」
アーデルハイトが確認した証言なら確かだろう。チャチャっと吐かせたって、やはり、怖い女だわ。
「いやいや、辺境伯家が直接始末しても褒美なんて貰えない上に、目立つと面倒が寄って来るだけで損ですよ。ここは帝国騎士団に、『スパルタクス団』と取引してる奴隷商館の情報を教えてあげて、功績欲しさに働いて貰いましょう。商家の一族の生き残りや『スパルタクス団』には恨まれるでしょうけど、恨みを買うのは帝国騎士団ですから安心ですね。」
「言われてみれば、帝国騎士団にチラつかせる餌として美味しそうに見えるわね。帝国政府は、ここまで何もしてないし。分かった。我が当主のカール・フォン・ザビル辺境伯の名前で、信書を帝国騎士団に送るわ。それにしても、私達が儲からないのは残念ね。」
「エルフ貴族は戦闘奴隷の確保に苦労していて、辺境伯家にも追加の資金拠出を願い出てるんでしょ。全エルフ最高代表者会議宛にも信書を作って、ナタリーさんに持たせるのはどうですか? 『ナタリーさんから買う戦闘奴隷にのみ資金貸付するよ!』って条件にするんです。ナタリーさんから辺境伯家へは、2割程度のキックバックで如何でしょう?」
「マモル殿の提案でアーデルハイトも納得してるのであれば、それが最善の手なのであろう。まあ、実際に信書を書くのは我だがな。朝から、何通書いたことやら。」
「ベルガー様、是非ナタリーを使って下さい。必ずエルフ貴族を言いくるめてベルガー様のご期待に応えます。それに、キックバックは2割5分お支払いします! 辺境伯家とエルフ貴族に入れるなんて望外の喜びですから、ウチの利益は最小で構いません!」
レストランは釜=オーブンを持っている。薄く切ったパンに乗ったテリーヌは美味だった。ゼリー寄せならともかく、手間のかかるテリーヌは家で作る気がしない。ディナー料理のサーロインのローストも、既に包丁でカットされフォークだけで食べられる様式だ。何故かフレイヤ・ヴァニーユ・ノラが給仕をしていて、奥さんはベルガーの左に立ち、お尻を触らせている。
「マモル殿、自爆玉の使用が想定される以上、辺境伯家の騎士団や警備隊にも身代わりのミサンガを標準装備させたい。だがのう、我が領の冒険者達を総動員しても、一朝一夕で必要な芋虫のスキル結晶を用意するのは困難よの。マモル様の見立てでは、どの程度の時間が稼げると思っておる?」
ベルガーは、辺境伯家の家令らしい真面目な話をしているが、左手は奥さんのお尻から離れないな。奥さんは人間族だが、ベルガーに気に入られたらしい。良かったね。
「全エルフ最高代表者会議が組織する騎士団は、完全に帝都西方の統治機構が崩壊する前に、なるべく早く盗賊を根絶やしにするのがベターですよね。じっくり時間を掛けて討伐しても、結局は迷宮が成長しちゃって生存圏を失っちゃうんですから、統治者側の目的としては失敗ですよ。」
「するとマモル殿は、エルフ貴族は積極的な攻勢をやると思っておるのか?」
「ええ。盗賊にしても、略奪で生計を立てるってのは集団が大きくなる程に難易度が急上昇するでしょう。両者共に長期戦を望まないなら、そう長い時間は稼げないと思いますね。あ、ウチも身代わりの装備品は早急に準備しますから、余ったらオークションで売らずにベルガー殿に回しますね。」
「マモル殿、それは有難い。長い時間かけて育てた人材を、むざむざ殺されては勿体無いからの。それにしても、『スパルタクス団』などを相手にする労力と資金を迷宮探索に使えていれば、今頃、迷宮の幾つかは討伐していたろうに、迷惑この上ないわ。」
2皿目のメインディッシュで、ラムチョップもローストされて出て来る。アーデルハイトは兎も角、ベルガーも69歳なのにガンガン食べるよな。
「ねえ、マモル様が拠点にしてる村の周辺に盗賊は出ないの? ベイルの町は帝都に近過ぎるし、いっそ辺境伯領に移住しましょうよ。家ぐらいなら辺境伯家が提供するわ。村ごと移転したいんだったら、ウチの冒険者を動員して引越しの面倒見るわよ。」
「アーデルハイトさん、ご厚意には感謝しますが、ソマーラの村は愛人達5人の生まれ故郷で、彼女達の愛着が強いんですよ。近隣の盗賊は概ね狩りましたから、一時期よりは治安も良くなりましたしね。」
ユリアとエゲリアの、ソマーラの村に対する愛着は本当だ。ご主人様的には、56階層でエリクシールの素材『威霊仙』が採れるお宝迷宮が、秘匿独占できている。望外の僥倖で、捨てるのが惜しいんだ。滋養錠や強壮錠でさえ6,000ナールの売り値で、エリクシールはさらに入手困難な生薬ゆえ、金貨の飛び交う価格だろう。正直、金貨をドロップする魔物の数倍の価値があり、56階層なら”いずれ”突破可能に違いない。これも、内密の一つなんだよね。
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さて、帰ったら、スライムのスキル結晶+コボルトのスキル結晶=物理ダメージ削減を、エゲリアの指輪に融合してもらう。これで、フレイヤ・エゲリア・ソフィア・ノラの4人が、物理ダメージ削減の効果持ちになる。自爆玉はともかくとして、対人戦でも安心が増すな。
身代わりの装備は、ご主人様とソフィアだけが装備している。迷宮で一撃で死ぬような階層に入るつもりは更々ないが、自爆玉は一撃死の可能性があるらしいので、しばらくは上の階層に上がるのを中断し芋虫狩りに専念したい。
今日で、アルフリーダとヴァニーユの出向も終了だ。二人を夜伽で可愛がらなきゃならないが、万金丹で脚の古傷が少し良くなったソフィアも、数の子天井の腰を騎乗位で振るって言ってたな。楽しみなことだ。
【ナタリーと奥さんの友達会話】
「ちょっと、何でザビル辺境伯家の家令なんて大物が、あんたの店なんかに来るのよ、おかしいでしょ!」
「何でって、ウチのレストランが、マモル様の『迷宮の淑女』商会の親密取引先だからに決まってるじゃない。ふふ、辺境伯家との秘密会議にウチの店が使われるなんて光栄よ。ベルガー様も当店を気に入ってくれて、良かったわ。」
「気に入ったのは、あんたのお尻でしょ。でも何で30歳を超えたお尻に価値があるのよ! 性奴隷じゃ売れない年なのに。」
「ナタリーは奴隷商人のくせに分かって無いわね。ベルガー様の一番奴隷のアーデルハイトさんは、獣人だから若く見えるけど40歳は超えてるってアルフリーダが教えてくれたわ。ベルガー様は、小便臭い小娘には興味無いのよ。あれは『女は30歳を超えてからが美味しい!』って思ってるタイプね。大人の女じゃなきゃ駄目って、できる男に結構多いわよ。」
「ねえ、ザビル辺境伯家はその辺の貧乏貴族とは桁が違う裕福って話だし、私も気に入られたいの。」
「う〜ん、ナタリーったら、折角マモル様がキックバック率20%って仰ってくれたのに、自分から25%に上げちゃったわよね。辺境伯家は裕福な家なんだから、5%程度の差なんて気に留めないから下策よ。むしろ『余裕があるならマモル様にお礼しろ!』って、ベルガー様は思ったんじゃないの? 辺境伯家にとってもマモル様が重要人物なのは、話しぶりから確実じゃない。庇護下に入ってる単なる自由民とは訳が違うのに。」
「それはそうと、あんた、最近綺麗になったわよね。何か化粧品を変えたの?」
「ふふふ、そうなんだけど、内密だから何も言えないわ。守秘義務って商道徳の基本よね。」
「内密って、それもマモル様なのね・・・。」
春の60日 夜