ソフィアは、『先触れ』で辺境伯家の帝都事務所まで飛んでいる。
「ねえ、ソフィアって、ブルーノ伯爵家で一番奴隷だったんでしょ。書類処理するの手伝ってよ。国元から追いかけて来るパピルスが溜まっちゃって、大変なの。」
「アーデルハイトさん、私が飛んで来たのは、ご主人様が希望してる面会のアポ取りですよ。私だって仕事が山積みですもん。忙しくて、ご期待に添えず残念です。」
「う〜、我が家の領地は辺境だからか、みんな脳筋の騎士に育っちゃうの。どうしても文官が足りないし、間違いだらけの書類を送ってくるし…。いつまでも、主人のベルガーの所に書類仕事が集まるのも、マズイんだけどね。」
「我が家は全員、ご主人様から一桁の掛け算は暗記させられて、簡単な二桁の掛け算も暗算できるまで練習させられるのよ。ソフィアも計算が得意になったけど、マモル様は『そもそも、その程度の計算に商人ジョブのカルクなんて不要!』って断言してる。若い村娘の子たちには、ブラヒム語の読み書きをガッチリやらせてるし。ご主人様って、賢い女が好きみたい。」
「普通は聡い女は引かれるのに、マモル様は珍しいわね。それはそうと、何人かウチに回して欲しいわ。給料は弾むから、そのうち相談させてよ。あ、『先触れ』の件だけど、今日はベルガーも終日事務所にいるし、マモル様なら何時でも大丈夫よ。でも、早めに来て手伝ってくれると助かるの。」
「それでは夕方くらいに、また来るわ。何やら、辺境伯家にとっても良い話らしいですよ。」
ご主人様は、盗賊令嬢のイシュタルを連れ、辺境伯家の帝都事務所を訪問する。
手土産には、まだ少し早いがブルーベリーを摘みに行かせた。あらかじめ、ソフィアが『先触れ』に飛んだところ、ベルガーもアーデルハイトも書類仕事で忙しいらしい。ベルガーは老眼が始まってる年齢だから、書類仕事は眼精疲労が溜まるだろう。都市伝説らしいが、ブルーベリーのアントシアニンは、目に効くと言うしね。
お付きにヴァニーユを同行させ、4人がソフィアのフィールドウォークで移動する。イシュタルの手前そういう建前だが、4人連れでソマーラの村から帝都までのフィールドウォークは、今のソフィアのMP量ではキツイ。なので実際は、ソフィアはパーティ編成してるだけで、ご主人様がワープで黒い出入り口を作っている。
パーティージョブ設定!
イシュタル・ミナモト:盗賊Lv28 村人Lv5 農夫Lv1 探索者Lv1 魔法使いLv1 商人Lv1 剣士Lv1 戦士Lv1 薬草採取士Lv1 僧侶Lv1 淫乱Lv1
せっかく同じパーティなんだから、イシュタルの個人情報を覗いてみるのは当然だ。実家は貧乏貴族と言っているから半信半疑だったが、イシュタルは魔法使いを持っている。両親が頑張って、自爆玉は入手したんだろう。人間族の女の種族固有ジョブ『淫乱』も持ってるな。
「ねえ、就職先って高級娼館じゃなかったの? ここって『ザビル辺境伯家帝都事務所』って表札が出てるわよ。東部の大貴族じゃないの。どういうこと?」
イシュタルがブラヒム語を識字してるのは良かった。零細だろうが元貴族令嬢だな。イシュタルの疑問は無視してドアノッカーを叩くと、執事服の青年がドアを開けて出てきた。向こうは自分の顔を認識してる様子で、特に警戒もなく中に入れてくれ、執事服の青年はアーデルハイトを呼びに奥へ戻る。
「マモル様、お久しぶり。今日はどうしたの? ザビルの町に提供した不動産に、問題でもあった?」
「いやいや、アーデルハイトさん、忙しいのにお邪魔しちゃって申し訳ない。実は珍しい人材が手に入ったんだけど、ウチで囲ってベイルの騎士団に見つかると、一戦交えることになるジョブなんだ。クセがあっても、ベルガー殿のところなら使いこなせると思ってね。人材紹介に来たんだよ。」
イシュタルは、ぱっと見では盗賊とは思えない。風呂で磨いたら割と良い見た目になったし、女盗賊だがタトゥーは入っていない綺麗な肌だ。
「あー、なるほど。その手の人材なら、人目に付かない部屋で話すべきよね。そうね、最上階が私たちの私室なの。ヴァニーユが知ってるから、先に入っといて。ベルガーを連れて行くわ。情報収集に使える人材には伝手がなくて、困ってたのよ。」
アーデルハイトが奥に消え、ヴァニーユからは少しだけ待ってと言われる。ヴァニーユは台所に行って、大きなポットにお湯を貰ってきた。以前に数日出向させただけなのに、ヴァニーユは辺境伯家のメイドと言われても不自然じゃない馴染みっぷりだ。
階段で4階まで登り部屋のドアを開けると、かなり広いリビングが広がる。建物の4階全部を、ベルガーとヴァニーユの居住区に当ててるそうだ。ヴァニーユは、勝手にティーセットを出して、お茶を入れ始めている。当然、イシュタルは何がなんだか分からず混乱してる。
「おおマモル殿、今日も来てくれて嬉しいぞ。私室で密談とは、楽しくなりそうな話じゃのう。うん、ヴァニーユも気が利くの、仕事とはこうでなくてはな。流石は、マモル殿のメイド奴隷よの。ソフィアも来てくれて嬉しいぞ。」
ベルガーはいつも通り、今日も忙しそうな口調だ。それでも、出来る男は女性を褒めることを忘れない。まあソフィアはベルガーのお気に入りだったから、素で言ってるのかも。
「お褒めに預かり、ヴァニーユも光栄でしょう。早速ですがベルガー殿、本日は、こちらの令嬢の紹介にお邪魔したのです。少々クセはありますが、帝都での仕事のお役に立つ人材と思いましてね。」
「初めまして、私イシュタル・ミナモトと申します。もう実家との縁は切れてますが、本日はマモル様のお導きによりベルガー様のご尊顔を拝見でき、嬉しく思っています。」
意外にもイシュタルは、膝を曲げてスカートを摘み、カーテシーを始めた。ビッチだと思ってたが、貴族令嬢の教育は受けていたのか。
「これはこれは、丁寧な挨拶痛み入る。それにしても、ミナモト家の令嬢とはのう。さあ、お掛け下さい。ゆっくり話しましょうぞ。」
ベルガーは、ミナモト家を知っていた。爵位は持たないが、領地と騎士号を世襲する準貴族で、帝都から離れた領地に下向したまま殆ど引き籠っている家らしい。辺境伯家と似た所があるので親近感を持っていたが、初代皇帝以来の古い家柄のミナモト家に比べれば、辺境伯家でも新興貴族になるゆえ少し気が引けると言う。やはり、貴族社会は複雑だ。
「イシュタル嬢ですが、ミナモト家の出と言っても、14歳で家を出て以降は市井の暮らしに身を置いています。故あって彼女は盗賊ジョブに落ちていますが、辺境伯家なら、判明してるジョブのギルド神殿は全て押さえている筈です。転職させれば問題にならないでしょう。アーデルハイトさんの手足として、お使いになっては如何でしょうか?」
「流石はマモル様ね。帝都での諜報関係の仕事には、うってつけって意味でしょ。私達では捕まえられない人材だし、馬鹿じゃなさそうで魅力的よね。帝都では人間族の方が何かと便利だし、盗賊ジョブの件は如何様にもなるから問題無いわ。ところで、マモル様はこの子に入れちゃってるの?」
「いや、イシュタル嬢とは午前中に知り合ったばかりだし、既にウチには11人も女性がいます。イシュタル嬢からは望まれましたが、身体が足りないくらいだし、手出ししてませんよ。」
「そうなのね。ねえ、あなた、私の主人の種で孕まない? ベルガーは、未だに辺境伯家最強の魔導士よ。嫡子は作ったし孫もいるから家督相続の心配は無いんだけど、ご落胤の一人も居ないの。今でも私の中で毎日出してるけど、狼人族と人間族では種族が違うから妊娠しないでしょ。ベルガーは辺境伯家の家令の地位なのに、まるで一番奴隷の私が悋気(りんき)持ちみたいで、恥ずかしいじゃない。」
「アーデルハイトは何を言っているのだ? 正妻に跡継ぎを作り、側室にも子を産ませたのだ。貴族の義務は果たしてるし、庶子など必要ないであろう。部下の女に手を出すなど悪手じゃし、そもそも我は、女を無理矢理に犯す趣味がないのを知ってるであろう。」
「イシュタルさん、我が主人のベルガーにも困ったわね。どうしましょ。」
「いやいや、全く困ってないわ。マモル殿がわざわざ紹介する人材を、採用しない手など有り得ん。うら若きイシュタル嬢が嫌がることなど、本末転倒じゃろ。」
「ベルガー様、アーデルハイトお姉様のおっしゃる通り、ベルガー様の地位ならご落胤の2〜3人が普通だと思います。それに私も、辺境伯家最強の魔導士に孕まされるなんて、考えただけで濡れてしまいます。ベルガー様に気に入られる様に努力しますので、ぜひイシュタルの腹に種付けして下さい。3人でベッドに入って、一発目の濃いのは私の身体で抜きましょう。二発目は、アーデルハイトお姉様の身体でジックリ抜くのが良いと思います。」
「まあ、イシュタルさんったら、損得勘定が出来る賢い子だわ。マモル様、彼女は合格よ。」
イシュタルは美人局をやると言ってたが、訳が分からぬままアドリブでここまで喋れるのも才能だな。
思った以上に頭の回転が早いから、諜報にも向いてるだろう。
一番奴隷のアーデルハイトから合格を貰ったのなら、イシュタルの就職は決まりだ。
「おいおい、無茶を言わんでくれ。我はマモル殿には遠く及ばぬ。イシュタル嬢を馬鹿にするつもりは毛頭ないが、今更、アーデルハイトの身体以外で出すのは無理だぞ。」
「ベルガー殿、イシュタル嬢の生まれは貴族家の令嬢ですが、今は市井の民です。市井では良い男から先に死にますから、女が良い種で孕むのは大変なんですよ。彼女にとっても、辺境伯家NO2の種で孕むのは何よりの報酬ですし、諜報の仕事で裏切る恐れもなくなります。女を囲うのも、持てる者の責務とお考え下さい。」
「アーデルハイトお姉様、至らぬ女ですが、イシュタルをよろしくご指導下さい。必ず、ベルガー様の種で孕んでみせます!」
「上手くやれば古き家柄のミナモト家を取り込める可能性があるし、そうそう、イシュタルのドレスを作って、ダンスも教え込まなきゃ。忖度できる子で頭も回るから、並の男なんて手玉に取れる。親子以上の歳の差ならベルガーの女とは思われないから、やりたい放題よ。ふふふ、良い人材を紹介して貰ったわ。」
「アーデルハイト、心の声が漏れてるぞ。ともかく、あまり危ないことは止めとけよ。別に帝都の貴族社会なんて、深入りしなくても何とかなるんだからな。」
「あらあら、私としたことが。それじゃマモル様、イシュタルは辺境伯家で預かるわね。」
「アーデルハイトさん、念のため、イシュタルは魔法使いギルドに連れて行って転職を試してみてよ。ミナモト家が由緒ある家なら、貧しくても幼児期に自爆玉を飲ませてる可能性は高い。魔法使いは辺境伯家だって貴重だろうし、ベルガー殿も、愛人兼弟子ができれば楽しいでしょうから。」
「そうね。男って『女の弟子を犯す』とか大好きなんでしょ。まだまだベルガーは立つけど、イシュタルが魔法使いを持ってると理想的よねぇ。」
本題の話は終わったのだが、アーデルハイトに「お願いだから」と頼まれたら嫌とは言えない。
ソフィア、ヴァニーユともども、少し書類仕事を手伝うことになった。
ヴァニーユを辺境伯家に出向させたのは数日だったのに、彼女は慣れた様子で書類を分類しているな。ベルガーやアーデルハイトが決済するまでも無い当然の案件は、ソフィアが承認書を書いている。しょうがないので、ご主人様が帳簿のチェックをやる。
うわ〜、なんだこれ? 複式簿記じゃない大福帳だわ。こんなんで、辺境伯領レベルの金額が合う訳がないじゃん。
「なあソフィア、ブルーノ伯爵家の帳簿も、こんな形式だった?」
「え、何処の商家や貴族家でも帳簿は同じですよ。と言うか、支出帳or収入帳に以外の帳簿なんて無いです。」
「ちなみに帳簿付けするのに、借方or貸方、もしくはdebit(デビット)or credit(クレジット)、もしくはデビ・クレとかって、聞いた事ない?」
「??? 何を借りるんですか? ご主人様の言ってる言葉が全く理解できません。」
うん、異世界に複式簿記が無さそうだ。少なくとも帝国には無いんだろう。
ミチオ君は17歳で異世界転移してたし、ミナモト家の始祖は名前からして平安期の人っぽい。知識を持ったまま転生した人もいなかったのだろう。まあ元の世界でも、暗黒の中世欧州では複式簿記なんて普及しなかった。当時の世界帝国アッバース朝に比べれば、中世欧州なんて蛮族の住む地だからしょうがない。この世界もナーロッパで、似たような文明レベルだもんな。
これは、アルフリーダとも話すべきだな。知識チートの中でも、複式簿記は効率が良い。アルフリーダに近代経営まで教えれば、勝手にボロ儲けしてくれそうだ。フレイヤ・エマ・ミラ・ノラの教育にも、取り入れるべきかも?
イシュタルは、早速、メイド服を着せられ給仕している。
異世界でも貴族家の女性は、コルセットで胴を締め上げた服を着せる文化だ。アーデルハイトのメイド服だろうか、イシュタルの胸の辺りがブカブカだ。これはこれで良いが、ご主人様はコルセットに興味は無い。ソフィアとヴァニーユも、コルセットの締め付けが嫌いだそうで、我が家には導入しない方向で彼女たちとは握っている。そのうち我が家でもメイド服を揃えたいと言ってあるので、良きに計らってくれるだろう。
「マモル殿、すまぬのう。手伝ってもらって、書類が大分片付いた。この埋め合わせも、そのうちにな。」
1時間ほど書類仕事を手伝った所で、あらあら目処がついたらしい。
軽く食べ物とワインが、サーブされる。
「いえいえベルガー殿、この程度の書類仕事なら気分転換に丁度良いですよ。ソフィアとヴァニーユも、まだまだ鍛えれば伸びそうな感じですしね。」
「マモル様って、迷宮探索だけじゃなく文官仕事もできるのね。そんな冒険者なんて、誰に聞いても希少種だって言うわよ。ねえ、本当はマモル様って、何処かの貴族家に連なってるんじゃないの?」
「いやいや、アーデルハイトさん、何度も言うようだけど、本当に単なる自由民だって。この程度の四則計算なんて、ちょっと訓練すれば、誰でもできるでしょ。むしろ、やっとブラヒム語の読み書きを覚えたばかりだし、自分は書類仕事には向いてないと思うけどな。」
「まあいいけど。それより、ヴァニーユの具合はどう? 私たちは最高性能を目指して改良されてきた繁殖の女だから、身体も膣も気持ち良いでしょ。獣人は丈夫だから、安定期に入った妊婦はガンガン突いて大丈夫よ。エステル男爵家は狼人族の貴族だけど、夜伽する繁殖の娘は、狼人族より猫人族の身体が人気だったわ。猫人族の方が、狼人族の女より改良が進んでいるみたいなの。ヴァニーユも、抱き心地最高の妊婦になる筈よ。」
「う〜ん、ベルガー殿、エステル男爵って破綻しませんかね? そもそも獣人は身体能力が高い上に、代々選りすぐられて繁殖されたからか、ヴァニーユも戦闘力は目を見張ります。対人戦では容赦ないですし、その上、知能も高いです。繁殖の奴隷って、みんなこうなんですか?」
「そうよの、今はアーデルハイドもヒルデガルドも百獣王じゃが、獣戦士の頃から普通より一回りも二回りも強かったのう。それにヒルデガルドも馬鹿ではないが、アーデルハイドは辺境伯家で一番頭が良い。繁殖の奴隷は、身体能力だけじゃなく知能も高いかもしれんな。我が主人もヒルデガルドを気に入ってるし、アーデルハイドは我が人生で最高の買い物じゃった。」
「マモル様、エステル男爵家の領地って帝国南西部にあるけど、そんなに豊かな土地じゃないの。だから、男爵家は負債が多いのよね。今年の夏は冷夏になりそうだし、スパルタクス団の件で荒れた帝国西部から難民も流れ込んでいる。食料調達資金が必要になるから、奴隷の換金売りが出る可能性はあるわね。辺境伯家からエステル男爵家への融資も少しあった筈だから、少し追い詰めときましょうか?」
「アーデルハイドさん、資金をロールせず引き上げるとか可哀想でしょ。せめて、デフォルト懸念があるから金利を上げる程度にしてあげなよ。」
「うんうん、マモル殿とアーデルハイドは話が合いそうじゃ。我が死んだ後、アーデルハイドの相続先をマモル殿にしたのは、やはり正解そうだの。」
人間族以外は、見た目が若いまま年齢を重ねる種族特性を持っていて、見た目が若く保たれるのと繁殖可能年齢も比例する。獣人>ドワーフ>エルフ>人間族、の順番らしい。
この世界では、管理されてない迷宮からは魔物が溢れるし、盗賊や強盗騎士も跋扈している。冒険者も男の比率が多く、戦闘で男は死にやすい。他の種族に比べ生殖可能期間が限られる人間族の女性には、特に厳しい環境だわ。
(ねえソフィア、アーデルハイドお姉様たちって3人とも楽しそうよね。話が難しくて理解できないんだけど、大丈夫なのかな?)
(あれは悪巧みしてるだけで、ウチのヴァニーユも理解できてないから大丈夫よ。でも、イシュタルは諜報の仕事もやるから、この程度の話は理解できた方が望ましいわね。寝物語にベルガー様に聞きなさい。バリバリ働いてる貴族って、そういう女が好きなのよ。ベルガー様に気に入られて、孕ませてもらえると素敵よね。)
春の75日 夜