確率の見える世界 〜あの子とエッチできる確率は○○%!?〜 作:tomoki/名和朋樹
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【2023年6月24日】
「おにいちゃんっ!体調悪そうだけどどうしたのっ。って、誰そこの女」
聞きなれたいつもの声に思わず顔を上げると、そこには傘を差しながら驚いたような表情で見つめてくる妹の姿があった。
その表情はどこかいつもよりも少し鋭く見える。
「まりな?どうしてここに居るんだ?」
「どうしてって、ここ家の最寄り駅だから買い物しに来たの。そしたらまさか女と2人とはね」
「あの……ちょっと静かにしてもらえますか?あつし君が体調悪そうにしてるの見えてないんですか?」
横に座っている千春ちゃんも、今置かれている状況はなんとなくつかめたようだった。
そして、俺のことは私のものとアピールするかのように、咄嗟に距離を詰め右手を腰に回してきた。
「へ~なるほど。なんでいつも土日には家にいるはずのおにいちゃんが出かけたのかわかったよ」
ゆっくりとまりなが俺の方から千春ちゃんの方に視線をずらしたことで、俺に対して強い好意を抱いてる女同士の視線が初めてぶつかった。
それと同時にこの一帯を雷鳴が襲う。
より一層強くなる雨のカーテンを隔てて、2人の女がバチバチと火花を散らしている。
圧倒的修羅場を予感させるこの場において、このままだと俺の胃がいくつあっても足りそうにない。
「あなたがおにいちゃんの浮気相手ってことね」
「浮気?私はちゃんとあつし君と健全な友達としてのお付き合いをしていますけど?」
「はぁ?勝手に人のおにいちゃん盗っといて健全なお付き合いとかふざけるのもいい加減にしたら?」
「あなたは確かあつし君の妹さんでしたっけ。盗むも何も、あつし君はあなたのものじゃないですよね。あつし君は自分の意志で私と一緒に居ることを選んだんです。それなのに大切なデートの途中で妹に邪魔されるなんてかわいそう。大切な大切なお兄ちゃんのために、この場からいなくなってもらっていいですか?」
「え?なに、あなたがおにいちゃんを唆して無理やり連れ出してたってこと?なにそれ最悪じゃん」
「あなたこそあつし君と兄妹で恋愛ごっこなんてどうかしてるんじゃないですか?」
「ちょっと二人とも……落ち着いて。落ち着いて……」
「おにいちゃんは黙ってて!」
「あつし君は大人しくしていて下さい!」
ちょっっっっと怖い……。
いやめっっっっちゃ怖い。
女の喧嘩は男のくだらないやつよりもはるかに怖すぎる。
いつもならずっとにこにこしてておしとやかなオーラが漂っている千春ちゃんですら、明確な敵意を妹に向けており、その目は真っ直ぐで鋭く、目力だけで刺し殺すのではないかと思うだった。
そして絶対に奪われまいと絡めた右腕に力が入る。
「は?どうせ、ちょっとその大きいおっぱいで誘惑したんでしょ。それかおにいちゃんの弱みでもつかんだんだ。そうでもないとおにいちゃんがこんな最悪な女に捕まるわけないもんね、そうだよねおにいちゃんっ!…………おにいちゃん?」
いや……。ちょっと話を振らないでほしくて黙ってたのに……。
「えっとぉ……その……そうだな」
突然のことに俺は誤魔化すことしかできなかった。
それに、大きいおっぱいは確かに好きだけれども、それ以上に千春の人となりに引かれているのは事実だし、どちらかといえば弱みを掴んだのは俺の方なんだよね…………。
「ほら見たらわかるでしょ。あつし君は、私のことが好きで一緒に居るの。わかった?わかったらさっさと帰ってくれませんか?」
千春ちゃんは俺の歯切れの悪さによって勝ちを確信したのか、もっと身体を寄せて妹に見せつけていた。
そして抱きつかれている当の俺としては、この2人を見ているものの、それ以上に今自分が置かれている状況について考えていた。
この2人が喧嘩をするのはいいが、それだとどちらか片方しかとることができなくなる。
それはそれで困る状況に追い込まれている上、実際問題もう一人厄介なやつも抱えているし、その先にはさらにもう一人大切な幼馴染もいる。
どうやったらこの展開を打破することができるのか。
「おにいちゃん?ほんとにこの女のことが好きなの?違うんでしょ?違うって言って!」
……。
「あれ?大好きなお兄ちゃんが黙っちゃったけどどうかしたの?ほら、これではっきりしたでしょ。私たちは健全な友達のお付き合い中なの。不健全で勝手に彼女気取りの妹は、あつし君にとっていらないんじゃないんですか?」
「健全とか不健全とかどうでもいいでしょ!それにおにいちゃんとは毎日エッチしてるもんっ!おにいちゃんの身体は私だけのものだから」
うわっあっさりと近親相姦の話を持ち出して来やがった。
さすがにこの場においてそこまでぶっこんでくるとは予想していなかった。
まりなとしては、ここで何がなんでも取り戻してやるって気合の現れなのか後先考えていないのか。
どちらにせよ、俺が妹とやってることが千春ちゃんにばれてしまった。
それだけは避けたかった展開だったのに。
恐る恐る千春ちゃんの方を見てみると、意外にも冷静そのものだった。
「あら残念でした。私はあつし君に初めてを捧げた。昨日も学校で抱いてもらった。これでもまだお兄ちゃんは私だけのものなんて戯言言えるのですか?」
千春ちゃんが怒涛の勢いで現実を叩き込んだ。
そして俺の耳元で、いつも通りの優しい声でこうつぶやいた。
「妹としてたんですか?だから慣れてたんですね。でも私はあんな妹さんとは違って許してあげますよ。その代わり今日はずっと一緒に居てくれますよね」
あまりの冷静さに怖すぎて鳥肌がぶわっと立ってきた。
「そこの女おにいちゃんに何引っ付いてんのよ!」
完全に言い負かされた妹は、差していた傘を投げ飛ばし、俺に引っ付いていた千春ちゃんを無理やり剥がしてから俺の胸元を掴んだ。
まりなは一緒に歩んできた15年の中で見たことないほどの怒りを露わに。
「おにいちゃん……。やっぱり一昨日女を連れ込んでたんだね」
震えを帯びている声は存分に涙に濡れて掠れるように響き、そして雨音によって消え去った。
「あぁ……。まぁそうだな。ごめん」
圧に完全に押されてつい認めてしまった。
「ごめんで許されることじゃない!!私のこと毎日抱いてくれて、毎日好きって言ってくれてたのに、そんな言葉は薄っぺらい嘘だったんだね。やっぱり、おにいちゃんはまりなのこと嫌いだったんだ」
「そんなことはない!俺だってまりなのこと――――」
「好きだって言うの?そんな見え透いた嘘にひっかるほど私は弱くない」
「まりな。俺の話を――――」
「もうお兄ちゃんの顔なんて見たくないっ!話したくもない。いいよ。そこの女と2人で過ごしたら?もう家には絶対入れないけどね」
片意地になって脅しつけるようにそうとだけ吐き捨てると、傘も持たずに豪雨の中を走り出した。
隣でにやにやとしながら勝ち誇った様子の千春を見る。
俺のことを離すまいと、左手をぎゅっと握りしめていた。
ただ俺はそっとその手を離した。
「ちょっとだけ待っていてくれ、ちはる。それと俺はお前のことが好きだ。だけどな、あんな怖い顔をして威嚇するなんていうのは俺の好きなちはるじゃない」
それだけ言って、俺も豪雨の街の中を走りだした。
千春ちゃんは呆然としながらも、俺の名前を呼びながら手を伸ばしたが、俺はそれを無視した。
雨で視界も悪く、街中は車だらけで速度を上げることもままならない。
そんな中を必死に走り抜ける。
俺にとってまりなは一番近くで生きて、ずっと一緒に居てきた存在。
そんな妹との歪な愛。
絶対にしてはならなかった禁断の扉の先が破滅であったとしても、今このタイミングにはまだ早すぎる。
まだ俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ。
あの日君が守ってくれたように、今度は俺が妹とさやかを守らないといけないはずなんだ。
まりなが向かった方へ全力で走り続けると、コンビニの前のわずかな屋根の部分で雨をよけているまりなの姿を捉えた。
俺が近づくとまりなも気づいたのかまた走り始めた。
ただそこは男女の差もあり、簡単に追いついた俺はまりなの濡れた手をぎゅっと滑らないように掴んだ。
「はなしてっ。おにいちゃんなんてきらいっ」
掴んだ手を強引にでも剥がそうとしてくる。
ならばと俺はぎゅっと後ろからまりなを抱きしめた。
びしょびしょに濡れた服同士が重く張り付き、体温を奪っていく。
「待てまりな。ちゃんと話だけさせてくれないか。俺の話を聞いてからならなんとでも言っていいし、追い出してもいい。縁切ってもいい。でも一度も話し合わずに感情で動くことは兄として許せない。ちょっとだけ話を聞いてくれないか」
「ちゃんと嘘や隠し事をしないって約束してくれる?」
「あぁ。もちろん」
「大した話じゃなかったら家から追い出すからね」
その声は掠れて泣いているように聞こえた。
ただ本当に涙を流していたかは、抱き合う俺らの顔にあたる大量の雨粒によってわかることはなかった。
コンビニでタオルと傘、それと温かい飲み物を買い、とりあえず濡れ切った身体を肌が見えているところだけでもと拭き上げる。
まりなはすでに少しだけ唇が青紫色になり、身体中の震えが止まらなくなっていた。
ぎゅっと温かい飲み物を手で包み込ませ少しでも暖を取る。
「そろそろ行くぞ。さすがに家に戻ってすぐシャワー浴びた方がいいだろう。それと、服透けてるぞ。かわいい女の子が雨の中走っちゃダメだろ」
さっき買ったタオルをまりなの胸元のあたりに掛け、白いブラウスからにじむように透けているピンクのブラジャーを覆い隠す。
「おにいちゃんのエッチ………………ありがと」
「全身びしょびしょになっちゃったな」
「せっかく髪の毛可愛くしたのに……台無しだよ」
「ごめん」
雨の中を2人で1つの傘に入りながら歩く。
その間に一つだけ、自分の中で決意を固めた。
嘘や隠し事はしないと……。
ほんの数分相合傘のようにしながら駅の方に戻ってきた。
さっきまで居た駅前のベンチを見ると、そこには制服姿でぼーっと遠くを見つめている千春の姿があった。
「ちはる。待たせたな」
千春ちゃんはチラッと俺の横にいるまりなの方を見ると一言だけ。
「さっきはごめんなさい」
「こちらこそ……ごめんなさい」
少し時間をおいて冷静になったのか、2人はお互いに謝りあった。
目は合わせていなかったし本心ではどう思ってるかはわからないけれども、今は一旦これでもいいかなと思っている。
間違いなくこじれたのは俺のせいだしな。
「とりあえず、一旦話をしよう。ちはるも俺の家に一緒に来てくれ。これからも俺はちはるともまりなとも一緒に居たいと思っている。ただ、俺は一つだけ大きな隠し事をしているんだ。それを話したい。そのあとは、ちはるとまりなに任せる。別れてもいいしそのまま友達としてでもいい。家から追い出してもいい。けど最初に俺の話を聞いてくれないか」
「おにいちゃん……」
「わかりました。やっぱり、あつし君は優しい人なんですね」
とりあえずこの2人は大丈夫。
あとは俺がちゃんと誠実に話すだけだ。
それよりも問題は――――。
おいラプラス。お前いるだろ出てこい。
≪何よ昨日の今日で呼ばないでくれる?で?今度は何?≫
俺も寒くて早く帰りたいから簡潔に言うぞ。
お前のことこの2人に話してもいいか?