確率の見える世界 〜あの子とエッチできる確率は○○%!?〜 作:tomoki/名和朋樹
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【2023年6月27日】
「あぁぁぁぁ……あの時と同じ。男はそうやって逃げていく……わたしに価値なんてないから……」
部屋の中にゆうり先輩の悲痛な叫びがこだました。
その声には声量の割に力がなく、細々と消えていった。
そしてゆうり先輩は千春ちゃんの方にづかづかと歩いて行き、着ていた制服のブラウスをぐっと握りしめる。
おでこが当たりそうなほどに2人の距離が近づき、力いっぱいにブラウスを捻り上げる。
千春ちゃんの身長は150cmくらいで体格も細く小柄であるから、直接力を加えられると一瞬で圧倒されてしまっている。
「お前のせいで。お前がいなければこんなことにならなかった!」
先輩の握りこぶしと、引っ張り上げられたブラウスによって千春ちゃんの首が締まっているのか苦しそうな顔をしているのを見て、慌てて先輩を引きずり離し千春ちゃんを俺の後ろにかばう。
手加減を間違えたか、ゆうり先輩の身体が部屋の床に打ち付けられてどんっという鈍い音がする。
痛みに耐えてか歯を食いしばり、顔は歪んでいる。
「またそうやってわたしの居場所を……。許さないから絶対に」
先輩はふらつきながらも立ち上がり、そのままドアを開け放ち走っていってしまった。
あまりの突然の事象に、脳の処理が追いつかず簡単に部屋から出してしまった。
「おい待て!ちはる大丈夫か?ごめんな俺のせいでこんなことになっちゃって……」
千春ちゃんは大丈夫というように手で俺に静止するようサインを送ってくる。
だがその首は赤くなり少し呼吸がし辛そうにしていた。
「それより追いかけてください。盗撮に脅迫したのがばれるのはまずいことになりかねないです。警察にでも行かれたら……」
くっそ。そのことは全く考えてなかった。
確かに警察に行かれるのはかなりまずい。
今のゆうり先輩の制服と下着がくしょぐしょに濡れていて、それもご丁寧に中出ししてしまった直後。
もしレイプされたとかいう風に言われると、相手が女性ということもあり、こっちには返す術がない。
俺の奥の手とも言える『サーチ』能力も、中出ししたゆうり先輩相手には無制限使用できるようになっているはずとはいえ、直接視界にいれなければ対象に取ることができない。
そもそもこの能力を使えば、相手を確実に丸め込めると思ってたのが誤算だった。
もともと千春ちゃんの時にうまくいきすぎていたんだよ。
楽観的な想定で危ない橋を渡りに行ったのがそもそものミスだ。
この状況は想像を遥かに超えて悪い。
まずは警察にでも行かれる前に先輩の足を止めなければ。
高速で回転させていた思考を一時的に止め、すぐにその辺にあったTシャツとズボンを着て家を飛び出す。
「ちょっと待っとけよ。すぐ帰ってくるから」
千春ちゃんにそう言い残して先輩の後を追う。
といってもどの方向に向かったのかは全くわからない。
とりあえず、一番ありえそうな駅の方向に向かっていくしかない。
こっからどこかに行くとすれば駅に行くのが一番だ。
夕暮れ時の太陽に横から照らされながら、歩きなれたいつもの通り道を今日は高速で通過する。
運動をろくにしていない俺には駅までの数分ですらも息が上がり、きつい道のりだった。
しかし駅にまで行ってもゆうり先輩の姿を捉えることができなかった。
「はぁはぁ。くっそ。どこに行ったんだ……。まずいぞこれ……」
手を膝につきながら、この前修羅場となった駅前のベンチに腰かけて息を整える。
その時念のためズボンに入れておいたスマホに着信が入った。
画面を見ると、そこには『千春ちゃん』の文字があり、何か進展があったのかとすぐに応答する。
『あつし君っ。先輩見つかりましたか?』
「いやとりあえず駅まで行ってみたけど居ないな。そっちに戻ってきてはないか?」
『いいえ。戻っては来てないです。それより連絡したのは、先輩はカバンとか財布とかすべて家に置いて行ってることを教えようと思いまして。なので遠くには行ってないと思います』
確かに……今日俺と先輩は学校帰りにそのまま俺の家までやってきているし、走り去ったときも俺が見ている限りだと何も持たずに出ていってる。
ただ、今の時代、スマホで改札を通ることもできるので遠くに行ってないと断定するにはまだ早いか。
「スマホもそっちにあるのか?」
『スマホもありますね……。ほんとに何も持たずに家を出てるぽいです』
こうなるとさすがに遠くにはいけないな。
それに向こうのスマホが家にあるなら、俺のスマホから連絡とることもできないのか……。
陽もほとんど落ちてきているし、遅かれ早かれこのままだと女子高生が一人で行方を眩ませていて問題になりかねない。
早くゆうり先輩の姿を見つけないとまずい。
とりあえず何か手がかりが欲しい。
「ちはる。ゆうり先輩ってどこに住んでるんだ?」
『ごめんなさい……そこまでは……。あっ生徒手帳を見ますか?住所書いてると思いますよ』
個人情報を見るのはいささか気が引けるが、今は緊急事態だ。
仕方ないだろう。
「仕方ない。見ようか」
千春ちゃんが生徒手帳を見ているのか少し間が開く。
そのわずかの時間ですら、焦りで長く感じてしまい、無意識にスマホのヘリを叩いてしまう。
『高松町です。ここから15㎞位離れているので電車通学っぽいです。少なくともこの時間から歩いて帰れる距離じゃなさそうです』
高松町といえば俺が住んでいる松崎市の西端。学校や俺の家がある東側からすると相当遠い場所だな。
千春ちゃんの言うとおり、今から歩いて帰ると言う線はあまりにも薄い。
更に電車に乗ろうとしてもその代金を払うことすらできない今の状況なら、俺の家に戻ってくるのが現実的だ。
「分かった。とりあえず一度家に戻ることにする。このままだと家に戻ってくる方が確率が高そうだ。それにもうすぐまりなが家に帰ってくる時間だ。あいつまで絡むとさすがにめんどくさいことになりかねない」
『分かりました。じゃあお部屋でお待ちしていますね。まりなちゃんが帰ってきたらうまく誤魔化しときますので』
「よろしく頼む」
『それと確かゆうり先輩は中学校では陸上部の短距離の選手だったって話を聞いたことがあります。直接追いかけても追いつかないかもです』
「おっけ。覚えとく」
電話を切り、ゆっくりと家への道を歩いて帰る。
時刻も7時を回り街灯の明かりが帰り道を照らし始めた。
「先輩……どこ行ったんだよ……」
まさか誰かほかの男にでも絡まれてないだろうな。
あの雰囲気だと、通りかかった男にでもやられてしまうような色気が出てるだろうしな。
少し安否についても心配しつつ俯きながら歩いていると、通りかかった公園のベンチに1人の女子高生の姿がそこにはあった。
少ない明りの中で、目を凝らしてみるとゆうり先輩で間違いなさそうだ。
その姿はどこか寂しく、どこか悲しげなものだった。
俺はすぐに声を掛けようとしたが、下手に声をかけて逃げられると厄介なことになりかねないと思い直す。
俺が今からすべきことはなんだ、整理しておかないと。
最優先は今日の出来事を外には流されないようにすること。
流石に逮捕か補導か知らないけど、警察のお世話にはなりたくないし、なるわけにはいかない。
親に報告でもされてみたらそれは大問題になるだろう。
なら穏便に解決するには話し合いをするしかない。
どこまでこちらのカードを切るか、そして明かすか。
あとはなぜあのタイミングで飛び出して行ったのかがわからないとだな……。
いや大丈夫なはず。
俺には『サーチ』能力がある。
ちゃんと中出ししといたおかげで回数制限に引っかからない。
こういう時はせっかくの機会だ。
俺の能力をふんだんに使わせてもらうとしよう。
というかそもそも口止めを脳力でしてしまえばいいんじゃないのか?
例えば『今日のことを誰かに話す確率』を0%にしてしまえば。
いやダメだ。高々14%しか操作できない今の状況で、0%になんて到底できない。
1%でも残っているのならそれはただのリスクになりかねない。
結局話し合うしかないんだ。
そのための準備をしていこう。
まずは『10分以内にここから移動する確率』は?
先輩の頭上に表示された数字を拡大すると―12%―の数字が見える。
その数字を―0%―に操作しておくことで、とりあえず10分はあの場にとどまることが確定となった。
10分の猶予は稼ぎ出せたので一度心を落ち着かせ、こっからどうするかを考える。
最終的には彼女に話しかけに行く必要がありそうだが、何の策も無しではうまく行かないだろうな。
ある程度は予測しておかないと。
となると彼女が部屋を出ていく直前に言った言葉が引っ掛かる。
『あの時と同じ。男はそうやって逃げていく……わたしに価値なんてないから……』
これを考えるに、ゆうり先輩は昔男がらみの何かしらのトラブルがあったのは間違いなさそうだ。
男が逃げていく、か。
どういう意味なのだろうか。
単純にフラれたというのとは少し違うようなニュアンス。
フラれたのとは違うということは……フル回転させている俺の頭の中に一つの可能性があることに思い至った。
もしかしたら、彼氏を他の女に寝取られてしまったていう可能性があるのか?
もし他の女に彼氏か何かを寝取られたのなら、私に価値がないっていう言葉に筋が通る。
自分に価値がないから男が他の女に目移りしたと考えているのかもしれない。
そしてその腹いせか、反動か、先輩自身も同じ行動に走ってしまっているということか?
本当か嘘かはとりあえず確かめないと。
『ゆうり先輩の彼氏を寝取られた確率』は?
……。
くっそ。これ過去の事象には使えないんだった。
この欠損能力が。
おい。ラプラスどこかにいるんだろう?これも早く修正かけろ。
今すぐにこれが修正されるとは思わないし、違うアプローチをしてみないと。
試しに『今俺に昔の話をしたいと思ってる確率』を見てみるか。
結局直接彼女から話を聞き出せればそれが楽ではあるからな。
彼女の頭上に表示された数字を拡大させるとそこには―50%―。
まさにフィフティーフィフティー。
おそらくいま彼女の中では色々なこと、状況を考えているはず。
その結果どちら側にも振れずに話すかどうかは五分五分ということなのか。
なら俺がそれを話す側の方に振ってやろうか。
―64%―
悩んでいたことにより不安定の中水平を保っていた天秤が傾いていく。
あとは俺を信じるだけ。
もしうまくまとめられなければ俺が不利な状況なのには間違いないのだから。
完全に真っ暗闇に包まれ、かすかな明かりだけが照らすそのベンチに無言で座る女の子の影が一つあった。
「ここに居たんですね。ゆうり先輩。これ飲みますか?」
俺が近づいても全く気づいていなかったゆうり先輩は、俺の声に反応すると一瞬だけ目を合わせそして元の姿勢に戻る。
「なんで私がこれが好きなのわかったの?」
「たまたまですよ。なんとなく好きかなって思っただけです」
「そう……。ありがとう」
差し出したのはペットボトルのジャスミン茶。
もちろんたまたまこれが好きだとわかったわけではない。
飲料水で『ゆうり先輩が○○が好きな確率』をローラーした結果だ。
ローラーするにしてもジャスミン茶はむずいって。
10分越えちゃったから、コンビニ行ってる間にいなくなってしまわないか心配だったよ。
俺から受け取ったジャスミン茶をほんの一口飲んでいるゆうり先輩の隣に俺は無言で座る。
そのまま気まずい無言の時間が過ぎる。
思えば俺と先輩の関係はまだ出会ってから1日しか経っていない、それなのにこの濃密な関係性。
お互いがお互いのことを知らないはずなのに、身体の関係だけはある。
本来ならワンナイトで終わらせるべきのくすぐったい距離感。
ただこのまま沈黙で時間を浪費するわけにはいかない。
俺の目的を果たすためにも。
少し焦る気持ちを抑えながらゆうり先輩が話し始めるのを待つ。
……。
ゆうり先輩は心を落ち着かせるためか、もう一度ジャスミン茶を口に含むが、全く落ち着く気配を見せない。
すると今度はゆうり先輩の目から涙が一筋流れ落ちる。
その涙は頬を伝いやがてスカートの上にぽたぽたと落ちてシミを作っていく。
予想外の出来事に俺はどう声をかけていいか分からず少し焦る。
気の利くようなハンカチもティッシュすらもなく、やさしく背中をさすってあげることしかできなかった。
「ごめんなさい……。ジャスミン茶は元カレがよくくれたの……。それで思い出しちゃって……」
「元カレは他の女に寝取られたの。私の目の前で……」