確率の見える世界 〜あの子とエッチできる確率は○○%!?〜 作:tomoki/名和朋樹
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【2023年6月27日】
「元カレは他の女に寝取られたの。私の目の前で……」
嗚咽交じりにそう語るゆうり先輩を見て俺は何も言えなくなる。
俺の嫌な想像がまさか当たってしまっているとは……。
途切れた言葉の先を待つ間、ただ隣で背中を擦ってあげることしかできない。
「わたしね、中学生の時は陸上部で、同じ部活の男の子と付き合ってたの……。それは中学生らしい清い交際で、手をつなぐのもやっとみたいな付き合い方をしてたの」
今の貞操観念がおかしい彼女とは似つかないプラトニックな交際に驚くとともに、その概念をぶっこわすほどの特大爆弾が何か爆発したと思うと……。
その答えを今から話すと考えるとものすごく陰鬱な気分になる。
でもこれを聞かないと、彼女のことを知ることができないし……。
「でもね、それがある日から、急に彼氏と距離を詰められて……。もちろん牽制はしてたんだけど、私も良い高校に通うために塾行っててね、彼氏と一緒に居る時間があまり作れなかった。そんなある日、10月くらいだったかな……」
俺はただ無言でゆうり先輩の言葉を聞くしかなかった。
今までずっと隠し続けてきた心の傷を、今俺に見せてくれているんだから。
俺はゆうり先輩の心の深いところまで知らないといけないと感じていたから。
だがそんな俺の気持ちも知らずに、ゆうり先輩は話を続ける。
それは俺が想像していたよりも遥かに重くて、辛そうな過去だった。
◇
「
急に彼氏の湊君に校舎裏に呼び出されて慌てて走ってきた。
こんな時間に呼び出されることなんてほとんどなかったから、どんな用事なんだろうって心配だった。
最近あんまり一緒にも帰れてないし、心配するだけの種はそこら中にあった。
もし別れ話とかを切り出されたりなんかしたら……。
そしたら私立ち直れないかもしれない……。
――――んんんっ。 あはははああ。
そんないやな想像をしていたら校舎裏近くの倉庫の中から、呻き声とも笑い声とも取れるような奇妙な音が鳴っていることに気づいた。
とたんに全身から鳥肌が立ってきた。
この倉庫はほとんど使われていないから、幽霊がいるだの、死体が置かれているだのの噂だってある。
そんな奇妙な場所に呼び出されたのが不気味で怖い。
はっ!
まさかこの中に湊君が……。
さっきのはわたしに対する助けを求めているのかも。
でももちろん今の声は空耳かもしれない。
ここを開けることで何か自分に不利益になることがあるかもしれない。
けど心配だから……。
そう思って引き戸に手を掛け、噛み合わせの悪い扉を全身の力を込めて思い切って開く。
――――ガラガラガラ
「湊君いるの?どうしたの??」
私の声が無意味に反射するだけで、倉庫の中には……誰もいなかった。
――――いなかった。と思っていた時間はほんの一瞬だった。
ただ奥からはさっき私が聞いた声だと思われる声が、倉庫内で反射し耳にしっかりと突き刺さる。
――――あっ♡♡あぁん♡♡ おチンポ気持ちいい♡ はぁはぁ……♡
これってまさか女の人の喘ぎ声……だよね……?
そう頭が認識すると途端に血の気が引いていき、背筋が凍っていくのを感じると同時に足が震え始める。
今私が聞いているこの声は間違いなく誰かの情事の声なんだと感じると、私はその場にいてはならない気がしてくる。
でもほんの少しの興味に背中を押され、ゆっくりと声の出どころへと少しずつ脚を進める。
それと同時に嫌な予想が脳裏をよぎる。
まさか湊君が……、いやそんなはずはない。
私の彼氏の湊君はそんなことしない。
複雑な感情が絡みつき、荒い呼吸とともにゆっくり奥へ進んでいくと、埃の被った倉庫の端に信じられない光景が広がり始めた。
「あっ……あんっ。あぁん♡ どう?みなと♡私の身体、気持ちいい?」
そこには裸で絡み合う二人の男女の姿。
「あぁっ♡♡♡ぼくもう我慢できない……」
女が男の上に馬乗りになって腰を振り、身体を叩きつけるたびにパンパンっと気持ち悪い高音が倉庫の中に響き渡る。
そしてその女には見覚えがないわけがなかった。
「みなと……? ねぇみなと……桃と何やってるの?」
「あははははは。ゆうりやっと来たじゃん。遅かったね、彼氏からの連絡だったのにね」
湊君の下半身に跨った女――――陸上部の同期でもある もも は、私に気が付くと笑い声を上げる。
けどその顔は全く笑っていなくて、まるで私の反応を楽しんでるかのよう。
ただ私には ももの言ってることが理解できなくて……頭がおかしくなりそう。
なんでこの女は裸なの??
なんで湊君が女の人の下にいるの??? これは一体何が起きているの……?
そんな疑問が頭の中でぐるぐると繰り返されるが、何も答えが出てこない。
ただ目の前の状況が信じられなくて、認識できなくて……ただただ呆然とするしかない。
けどそんな私の目を覚まさせるかのように、私の彼氏の下半身に跨ったくそ女がさらに言葉を続ける。
その口ぶりは私のことを馬鹿にするかのようで、まるで私を煽るかのような口調で
「ねぇ、みなとぅ~?ゆうりが来たよ~~??♡ ゆうりが来たからぁえっちやめちゃう?」
ももは腰を少し上げて、湊のことを焦らしている。
この隙にあの女のことをぶん殴ってやろうと思った……。
私の彼氏に何手を出してるんだ、って。
でも足が私の脳みその指示を聞いてくれない。全く動かない。
この状況を理解して、身体を動かすことを脳が拒否している。
せめてもの抵抗として掠れるような声を上げることだけが、今の私にできる最大限のことだった。
「みなと……やめて……。やめて……」
「ももちゃん……やめないでください」
「あぁん……♡♡ みなとくん激しい♡ みなとくんよくできました♡ おまんこの中で精子ぴゅぴゅしてね♡ 」
私の頭が現状を理解できないで、脳の回路がショートしてる間にも二人の行為はエスカレートしていく。
女が腰を大きく上下に振り始めたかと思えば、今度は前後にグラインドさせ始める。
その腰遣いは、経験のない私ですら慣れたものであることがはっきりと伝わってくる。
「ああぁあん♡ あんっ……あっ♡ 彼女いる浮気おチンポきもちいぃぃ♡♡みなとくん♡彼女より桃のおまんこの方がきもちいいでしょ?♡」
「ああっ、気持ちいいですっ」
「ふふ……でしょぉ♡ 悠里聞いた? 浮気セックスきもちいって♡ 湊くんが私のおまんこに夢中になってるとこ見て?♡」
「やだっ……みなと……お願い……もうやめて……」
やめて……。
やめてよ。
そんな汚い声出さないでよ……。
そんな気持ち悪い言葉使わないでよ……。
1年以上付き合っている私には決して見せてくれなかった表情が湊から見えて、私は絶望する。
彼女じゃない女に何されてるの……。
「あ……もう出ちゃいそうです……」
「いいよ♡ 初めての生中出し、彼女の前でしちゃって♡」
突然湊の身体がぴくぴくと震えた。
「ひぁぁあ♡♡ みなとくんのせーし来た♡」
目の前で初めて見る情事にイケないことをしていることを認識した心臓のドキドキと、その鼓動に対する意味も知らぬ不快感を覚えていると気づけば2人の動きは止まっていた。
「はぁぁはぁ……。みなとくん、彼女の前でするのいつもより気持ちよかったでしょ?」
「……うん」
「いつもって、なに?もしかして何回もこの女とやってたの!?」
「あはははは、そうだよ? みなとくんは私のおまんこが気持ちよくて離れられないんだって。なんなら悠里も一緒にやる? 私と愛しの彼氏がえっちしてるの見て興奮しちゃった??」
そんな訳ない。私はそんな汚い人じゃない。
目の前の女の一言で私の理性は完全に切れてしまった。
「いい加減にしてよ……」
「ん?何言ってんのか聞こえないんだけど~~?」
「いい加減にしてって言ってるでしょ!!!」
怒りを我慢せずに私の彼氏を寝取りやがったこの女の髪の毛をぐいぐいと引っ張る。
髪の毛を全て引きちぎってやろうと力を込めて引っ張るが、ももの表情は気味悪い薄ら笑いを全く崩さない。
ならばと逆の手で殴ってやろうと思ったのだが、そこに湊が割って入ってきた。
「ゆうりごめん……。僕が悪かったから……別れよう。僕には君の隣に居る資格無いから」
「なんで……。なんでなの……みなと……」
なんで彼女の私じゃなくて、浮気した相手の方の味方に付くの? ねぇなんで……。
「あはははははは。みなとくんはちょっと前まで好きだったあなたより私を選んだの。そんな絶望的な顔しないでよ。せっかくの可愛い顔がブスになっちゃうじゃん」
2対1の構図となり形勢逆転した桃が煽り散らかしていく。
ねぇ嘘だと言ってよ。
わたしといつも手を繋いで帰って、一緒におしゃべりして、一緒に笑い合って、そばにいるだけであんなドキドキする時間すらも嘘だって言うの?
「あはは、ゆうりちゃん絶望してる~♡ みなとくんの彼女って立場が奪われちゃって悔しいね~~」
「もも……湊に何をしたの……?絶対許さないから……」
目の前が真っ暗になる感覚に包まれながらも私は憎き桃を睨みつける。
「あらら怒っちゃった?でもさ世の中簡単なんだよね。あなたよりも、セックスできる私の方がみなとくんに価値がある女なの。どうせ処女で世間知らずなあなたにはわからないと思うけどね。行こっかみなと。続きはお家でね」
湊と桃は私の脇を通り過ぎて倉庫の外に消えていった。
そして私は目の前で自分の彼氏が部活の同期に寝取られている現実を受け入れられないでいるまま、ただ立ち尽くしていることしかできなかった……。
◇
彼女の口から語られる衝撃的な出来事に唖然とすることしかできなかった。
彼氏を目の前で寝取られた上に、圧倒的な勝利宣言。
当時のゆうり先輩の心がズタボロに切り裂かれ、完全に砕けて散ってしまったのだろう。
「それからかな。元カレのことを忘れるために必死に勉強した。受験期に呑気にあんなことやってたクソな女と元カレを絶対に見返してやるんだって。そして絶対無理だって言われてたこの学校に受かったの。陸上のセンスはもともとあまりなかったし、元カレのことを思い出したくなかったから、小学生の時にピアノ習ってたのもあって吹奏楽部に入ったの」
だから陸上部からの吹部だったのか。
直接的には関係のないはずの2つの部活をやっていたというのは非常に違和感があった。
「その吹部の2つ上に、かっこいい男の先輩が居てその人から夜のお誘いを受けたの。もちろんその時はそんなつもりなんて全くなかったんだけど、あれよあれよと流されて喰われた。その時は全く気持ちよくなんてなかった。もう2度とやってやらないって思うくらいだった。けどその先輩にも彼女がいて、浮気がきっかけで別れたって聞いた時に気づいちゃったの。あぁ……これが私の価値なんだって。付き合ってた男女を一瞬で引き裂くことができるほどに価値があるんだって。
あとはみんなが知っている通り。彼女持ちの男に近づいて、身体の関係に持ち込む。そのためにひたすら練習した。男が魅力に感じる姿勢、男が好きな行動、気持ちいいフェラとパイズリだって練習した。そこに私の身体の快楽なんてなかった。あの女よりも自分の存在価値が高いってことさえわかればよかった」
ありえないよ……こんなの
元カレが他の女の子と付き合っていたことを目の前で見せつけられた絶望を、彼氏を寝取る側に回って初めて絶望を与える自分に価値を見出したんだ。
でもその価値感はあまりにも歪で、ゆうり先輩自身を傷つけていくものに他ならなかった。
そして人の絶望を心の拠り所にして生きる人生なんてあまりに過酷すぎる……。
寝取られた時に言われた最後の言葉が、あまりにも重い楔として打ち込まれてしまった。
だからこそ、ゆうり先輩は自分自身を呪って。責めて。痛めつけて……。
そして自分で自分に呪いをかけてしまったんだろう。
そんな地獄みたいな過去を話したあと、彼女は俺の目を見つめて問いかけた。
「でもさっきのあつし君とのエッチはきもちよかった……。生まれて初めてそう思えた……。わからなくなった……自分の中のセックスの意味が……なんでこんなことを私たちはするんだろうって……」
そう告げる先輩の目はあまりに切なくて、儚くて、痛々しくて、哀しすぎた。。
人間がなぜセックスをするのかと……。
それは哲学的なテーマであり、答えのないものなのかもしれないが……それでもこの問いには真剣に向き合わなくてはいけない気がした。
俺の今の状況だけを考えれば、それはとある目的のため。
ゆうり先輩が悩んでいるような、誰かとエッチしたことによる自分のステータス化ということではなく、かといってカップルのような愛情を確かめ合うものでもない。
欲望を発散するための単純な遊戯としてのエッチでもない。
俺の行為は、ただの手段。そう結論付けることだってできる。
でも本当にそれだけだろうか。
俺は手段としてのセックスをしたことによって、千春ちゃんとの関係性を大きく変化させた。
最初はただの道具として扱うつもりだった……。
なのに相手のことを良く知ることで、彼女に対しての好意が芽生えてきた。
もっと一緒にいたいだとか、一緒に居ると素直に笑っていられるとか、もっと深く彼女を抱きしめたいと思った。
これがただ単に手段とだけ考えていたのなら、俺はここまで千春ちゃんのことを想っていなかったと思う。
そんな経験をしている俺だからこそ、新しい価値観を生み出すことができるのかもしれない。
なら俺の出す結論は――――
「なんでセックスするのか、俺は人と人が繫がって心も身体も1つになっていく感覚を得るためなんじゃないかと思います。
相手のことをしっかりと見て、俺が相手の人のことを本当に大切な存在であることを伝えてあげること。
どんな大切な存在でもいい。
夫婦とか、カップルとか、それこそセフレとか。
でもどんな関係であったとしても、相手のことを大切に想っていること。
そんな2人だからこそ、身も心も満たされるようなエッチができるんじゃないんですか。
ゆうり先輩は、それこそ自分の為のエッチをしてきた。
だから、そんなあなたのためにもう一度しませんか。
ゆうり先輩の新しい価値観を作ってあげれるかもしれない。いや、一緒に作っていこうよ」
俺の目を見つめながら彼女が告げた問いに答えたはずなのに、今度は彼女が呆然としているように見えた。
そしてその目には涙が溜まっていた。
でもそれは悲しい涙なんかじゃなくて……どこか嬉しそうで、どこか嬉しそうでもあり……そしてどこか安心しきったようなそんな涙だった。
彼女からの返答を聞く前に、俺は意志を示すようなキスをした。とても深いキスを。
彼女の口をこじ開けるようにして舌を入れていくと、彼女もそれを迎え入れるかのようにして舌を絡めてきた。
お互いの唾液を交換するかのようにしながら何度も何度も唇を重ね合う……。
そんな時間がしばらく続き、唇が離れた瞬間に彼女は俺に告げた。
「でもあつし君には、ちはるがいるじゃん……。本当に私のことを大切だと思っているんですか?」
「ちはるは俺の彼女じゃないよ。まぁ説明するといろいろめんどくさいことになりますけれど。でもこれだけは信じてほしい。俺はちはるも、もちろん先輩も大切だと思ってる。そして俺はあなたのことを必ず、今の絶望の連鎖から救いあげて見せますから。これでもダメですか?」
俺がそう言うと、彼女は俺に抱きついてきた。
そして泣きながらも小さな声で、ありがとうと言ってくれた。
優しく抱きしめて小さな嗚咽が聞こえなくなるまでぎゅっとそのまま時が流れていった。