確率の見える世界 〜あの子とエッチできる確率は○○%!?〜 作:tomoki/名和朋樹
【2023年7月6日】
高校の学食の一角で、4人の女子高生たちが周りの冷たい視線を気にすることなく、騒がしく恋バナをしてた。
ある意味これは学食名物。
学食の端の4人掛けテーブルをわれもの顔で占拠するこの4人は、吹奏楽部の高校2年生カルテットだった。
「そういえばさ、りんりんは彼氏と最近どうなのよ。全然一緒に居るところ見ないけどさ」
「ん~そのことなんだけどさ……」
「ん?なになに?」
りんりんこと凛は少し恥ずかしそうに下を向きながら、
「私たち別れたんだよね」
と言った。
え?別れた?そんなわけないじゃん。
悠里は凛が別れたことに非常に驚いていた。
だって先週とかあんなにラブラブで駅前歩いてたのを目撃してたばっかだったのに……。
「え~そうなんだ。でも確かにりんりん、今週彼氏と居ないなぁって思ってたんよ。特にここの3日間とか」
「そうそう。私たちも不思議だったんだよね。まさか悠里やった?親友の彼氏にまで手出したの!?」
「そんなことするわけないじゃん!それにもう男寝取るのやめたから。引退よ引退」
急な濡れ衣を着せられそうになった悠里は全力で否定した。
過去色々やりまくってたのは否定しないけど、現在進行形で何かやってると思われるのは心外なのだ。
「まぁ流石にそうよね。でりんりんは彼氏となんかあったの?」
「ん~いや、別にそう言うわけでもないんだけどさぁ……」
凛は周りをキョロキョロと少し気にしながら、4人に顔を寄せるように指示を出した。
残りの3人は凛の言う通りに顔を寄せる。
「一昨日彼氏と大喧嘩しちゃってさ。それでちょっと距離置いたんだ」
「え!?あんなにラブラブだったのに!?」
「そうだよー結構上手くいってたと思うんだけど、ちょっとした意見の食い違いでさ。結構ガチな言い合いしちゃって……。それでちょっとね」
「うわー価値観の不一致……。それはわかるわ……」
何か心当たりがありそうな感じで話しているのは、理央ちゃん。
同じような感じの喧嘩から1年くらい前に別れていたのを思い出す。
その時は結構泣きじゃくってた気がするな。
あ、もちろん、私は手を出してないよ。
「価値観というかまぁ私は夜の方だったけど、彼性欲強いくせに独りよがりでへったくそだったわけ。ほんと最悪。あんなの早く別れて正解だったわ。ねぇそう思わない?」
「まぁ、そうだね……」
「私もそう思うなぁ……」
理央が怒ったように話していたが、当時は結構後悔してた感じだったよね。
1年経って吹っ切れたな。
そんな彼女の意見に同調するように、凛と綾もうなずいていた。
綾は彼氏はいないのに経験人数だけは多いいわゆるヤリマンってやつ。
近くの大学のイケイケなお兄さんたちとよく遊んでるらしい。
悠里は風の噂で綾が40くらいのおじさんとパパ活してたという話を聞いたことがあるが真偽は不明である。
ちなみに悠里も経験人数だけで言えば同じようなものなのだが、お金は1円ももらったことないからまだ大丈夫だと思っている。
正直あまり変わらない気がするが。
「で、悠里は最近どうしたのよ。メイクは薄くなったし、ネイルも質素なものになってるし、制服はきちんと着るようになったし」
「「そうそう!」」
綾の指摘に理央と凛も同意する。
「2週間くらい前までは男子ウケするような濃いメイクして、胸元開けて、スカート短くしてたくせに。急に真面目ちゃんになっちゃったからびっくりだよ」
「それにあの1年生の子――――茉奈ちゃんを引き戻したのもゆうちゃんだって聞いたよ。あの子先輩からの指示でゆうちゃんが彼氏寝取った子でしょ。わざわざ引き戻すっていうのおかしな話だしね~」
綾と凛が次々に疑問点を口にしながら、悠里の方へ詰め寄っていく。
「別に何でもないけど?更生しただけよ。更生」
「更生ね~。まぁ大体の見当はつくけど」
綾がニヤニヤしながら、悠里の耳元まで顔を近づけて内緒話をするように小さな声で耳打ちしてきた。
「悠里が今気になってる男、千春の彼氏でしょ」
「なっ!?そ、そんなことないわよ。違うわよ!」
「図星なんだ~!やっぱり~」
綾と凛が2人で顔を合わせながら、にまにまと笑いながら、悠里のことを見ていた。
理央も興味津々でこっちを見ている。
「千春とあの子と6人で学食に居た次の日からだもんね。悠里がおかしくなったのは。それに私たちの目の前であの彼氏君のこと誘ってたし、2人で居た時にあの子がなんか吹き込んだんでしょ」
悠里は無言を貫く。
けれどもその沈黙は肯定と捉えられていく。
「なるほどね~。だから急に真面目なキャラになったんだ~。今のゆうちゃんってなんか恋する乙女的なオーラが出てる気がするんだよね」
「そうだね。彼氏ができた女子の顔してるっていうか」
「私もそう思う~。今の顔は可愛いって感じがするよね~」
理央、凛、綾の3人は勝手に3人で盛り上がっているようだ。
そんな様子を横目に見ながら、悠里はスマホに入っていた連絡を確認する。
『ゆうり先輩。今度の土曜日はどこ行きますか』
その連絡の相手はもちろん、今私が恋している相手のあつし君だった。
◇
◇
私の名前は
吹奏楽部に所属する高校2年生。
私には決して忘れられない苦い思い出がある。
それは中学3年生の秋、彼氏を同級生の女の子に目の前で寝取られてしまったこと。
元カレは同じ中学の陸上部の同級生で、名前は湊。
陸上部内でもそこまで目立ってもなかったし、どちらかと言えば引っ込み思案な性格。
でもその頃の私も大体同じような感じだったから、おっとりとしたようなそんな緩いお付き合いをしていた。
2人ともアクティブな感じではないし、登下校の時は一緒に話しながら帰って、時々お互いの家で勉強したりゲームしたりとまったり過ごすようなそんな恋人関係だった。
当時の私はそんな彼氏のことを『友だちと大して変わらない存在』くらいの認識。
私の中では、思春期に差し掛かり異性との関係性も変わっていく中で、唯一の気の許せる男の子だった。
だから身体の関係とかとは無縁の生活だった。
今思えば、よくお互いの家に行き来してたのにそういう展開にならなかったなぁと思うけれども、湊はあんまり興味が無かったのかな。
少なくとも私は全然興味が無かった。
だからこそ、あの日受けた衝撃は大きかったのだけれども。
ある日のこと。
彼氏から呼び出されて学校の裏の古びた倉庫へ向かうと、そこに居たのは裸で身体を重ね合う彼氏と、私たちと同級生の女の子。
私は衝撃を受けた。
こんな現場に鉢合わせして、頭の中が真っ白になった。
悲しいはずなのに涙は出てこなくて、なんで自分がこんな場所にいるのか理解ができなくて、ずっとその場で呆然と立っていた。
その後どうやって家に帰ったのかは覚えていない。
これを機に湊との関係は自然消滅した。
次の日の朝、目を覚ますとそこには彼氏がいたとわかるようなものが全て壊され散乱していた。
2人の写真、彼からのプレゼント、彼の私物。
そして脳裏に残っていたのは、あの寝取りやがった最低な女の言葉。
『でもさ世の中簡単なんだよね。あなたよりも、セックスできる私の方が湊くんに価値がある女なの。どうせ処女で世間知らずなあなたにはわからないと思うけどね』
この時はその怒りを受験勉強という場に向けることができていたからまだ安定していた。
この言葉が真の意味で私を貶めることになったのは高校に入った後だった。
高校では陸上部ではなく吹奏楽部に入った。
もともと音楽はピアノを習っていたこともあって好きだったし、陸上はどんなに練習に練習を積んで足が速くなっても越えられない壁がいくつもあった。
それに彼氏と一緒に笑いながらランニングした記憶とかが蘇ってくるのが嫌だったのも大きかった。
ただ、ピアノを習っていたとはいえ管楽器を触るのは初めて。
楽譜とかは難なく読めても、演奏できるかというのはまた別の問題だった。
私が演奏することになった楽器はフルート。
そしてフルートパートに居たのが2つ上の男の先輩。
慣れない私のことをずっと付きっ切りで見てくれて、一通り演奏が何とかこなせるまで練習に付き合ってくれた。
そんな先輩の演奏姿はとてもかっこよく、声が自分好みのイケボ過ぎてときめいたりもして、徐々に惹かれていった。
だからそんな彼に2人で会おうなんて言われたら断ることなんてできなかった。
むしろ自分の方が先輩のこと好きだったからこそ、先輩から誘われた時にはドキドキした。
そしてその日処女を散らした。
その日はまぁセックスってそんなものかというくらいだったけれども、その先輩には彼女がいて浮気したことがばれて別れたと聞いた時に、この行為の持つ意味が180度変わった。
私には付き合ってた男女を一瞬で引き裂くことができるほどに価値があるんだって。
それは優越感?劣等感?何かはわからないけれど、私の中にもう1つの感情が生まれた。
そしてあの言葉の意味が分かった。
セックスできる女の方が価値がある。
仲良さそうに付き合っている女よりも、抱かせてくれる女の方がよっぽど男にとっては価値があるって。
それからの私はとにかく色んな男に声をかけた。
可愛い女の子であり、清楚系の女の子を演じて、家出少女を演出して、先輩に説教する後輩を演じて、とにかくいろんな男を誘惑した。
身体の関係を持った男は2桁の後半にまで到達していた。
男女の仲を引き裂いたのも数えきれない。
そしてその数だけ私の価値は上がっていった。
そう思い込んでいた。
自分は破滅への道を歩んでいたとも知らずに。
◇
「ほら見てよ。ゆうちゃん男の子からのお誘い受けてるー」
悠里の手からスマホが奪い取られ、ぼーっと見つめていた彼からのメッセージが3人に見られた。
「へ~今度の土曜日ね……。来週には校内コンサートがあるのにご気楽な身分なこと」
「それはごめんね。でももう決まっちゃったことだからさ」
「あっ、なんか名前に見覚えがあると思ったら、あつしって千春の彼氏の名前じゃない?やっぱ悠里が興味持ってるのって千春の彼氏じゃん」
「あれあれ??寝取り趣味は引退したんじゃなかったの?」
悠里のことを訝しむような目線が3つ向けられていた。
「いや、これは千春にもちゃんと許可取ってるし……。それに……」
「「「それに?」」」
「本当は千春とあつし君は付き合ってないよ」
「「「え~~~!!!!」」」
◇
【2023年7月8日】
「っていう話をしてたわけ。一応弁明はしといたんだけどね、ずっと二股野郎とかクソヤリチンとかそんなことばっか言ってるわけ。あつし君がそう言われるの許せないんだけど」
「でも言えないからなぁ、色々事情があるってのは。非現実的なことも起こってるわけだし。それに実際には四股してるっていうね……」
「そんなこと言うなら私一筋にしてもいいけど?」
「それはご遠慮させていただくよ。今の俺には4人とも大切な女の子だから」
「そんなこと言いながら本命は別に居るんでしょ。ずるいよねぇあつし君は。私たちのことも考えてくれっていう話よ」
「それはまぁ成り行きで……」
悠里とあつしは2人で小洒落た喫茶店の個室でお話をしていた。
ここは2週間くらい前に2人で初めてあった場所でもあり、ある意味でいわくつきの場所。
ただ騒がしい世の中から離れてゆっくりと過ごすのにはとてもちょうどいい場所だった。
悠里は2週間の間にあつしに対してはかなり素で話せるようになり、中学の時の元の性格へと戻りつつあった。
狂った歯車があつしによって元の嚙み合わせに修正されていく。
「で、来週の校内コンサートは来るの?」
校内コンサート。
それはあつし達が通う松崎第一高校の名物的な行事で、土曜日のお昼から3時間程度のコンサートをするというもの。
基本的には吹奏楽部の演奏がメインではあるが、書道部とのコラボがあったり、ダンス部ともコラボしたり、中には先生たちでバンドを組んで演奏したりもするらしい。
生徒の来場自体は休みの日というのもあって自由ではあるが、その人気の高さ故、生徒の参加率は80%を超える年もあるくらいだ。
悠里はもちろん演奏側での参加。
あつしはあんまり興味自体はなかったのだが……。
「行くつもりだよ。千春にも来てくれってお願いされたし、まりなとあやねと3人で行く予定」
「またそうやって他の女と一緒じゃん。いい御身分ね」
見に来てくれるということ自体は嬉しかったものの、それが他の女と一緒、しかも3人だからあつしの両隣になるように女子2人が座る様子を想像し嫉妬していた。
「だからこうして1人ずつ会う日を決めたんじゃなかったの?」
「じゃあ他の女の子の名前を出さないで。私のことだけ見てよ。ね」
先週の彩音の日に引き続き、今日は悠里があつしのことを占有しても良い日だった。
「先週は彩音ちゃんと随分とお楽しみだったらしいじゃない。今日は私のこと満足させてよ」
あつしの唇に、そっと悠里は唇を重ねた。