確率の見える世界 〜あの子とエッチできる確率は○○%!?〜 作:tomoki/名和朋樹
【2023年7月29日】
夏休み初日の朝7時。
真夏の朝ということもあり、すでに日は高く上り、じんわりとにじむような汗をかいている。
そんないつもの土曜日なら寝ている時間帯に、俺は駅前のロータリーにて待ち合わせをしていた。
昨日の夜もあの4人から精力を搾り取られて、少し寝不足ということもあり目がいつもの半分くらいしか開いてないような気がする。
さやかと告白して付き合ったらもう関係は持たないと宣言してから、どうも執拗に体を求められている。
思春期性欲お化け高校生としては願ったり叶ったりなシチュエーションではあるけど、これから平和な日常を過ごせるのかは甚だ疑問なところだ。
そもそも変な悪魔に憑りつかれている時点で無理か。
にしても待ち合わせ相手が遅いな。
向こうがこんな朝早くを指定してきたというのに……。
そんなことを思いながらあくびをしていると、ようやく待ち人が姿を見せた。
「悪いわね。待たせてしまって」
「れ、れーにゃん。おはよう」
「その名前で呼ぶのはやめてって言ったでしょ。玲奈って呼んでよね」
「ごめん。えっと……玲奈、おはよう」
そう言うとれーにゃんはふふんと嬉しそうな顔を浮かべて「よろしい」と頷いた。
そんな今日の彼女は白を基調とした半袖のブラウスにデニムのショートパンツという格好だった。
下は健康的な生足が出ており、スタイルがいいだけに余計に映えているように見える。
一応顔を隠すためかキャップを被ってはいるものの、髪も今日はサラサラでつやつやで、メイクにも気合が入っているようだ。
「私の私服姿がそんなに珍しいの?」
見惚れている俺にれーにゃんが怪訝そうな顔で話しかけてきた。
「いや……かわいいなって」
「うんっ?そんな素直に褒められると調子狂うんだけど……」
そんな俺の言葉に照れているのか顔を背けて髪をいじるれーにゃん。
そんな姿を見ていると微笑ましく思えてくる。
「で、何なのよその服は。みんなのアイドルとのデートだっていうのに何よそれ。そんなTシャツにジーパンってダサすぎない?」
「ごめん……起きるの遅てくて急いでたから服選ぶ時間がなくて……」
そんな俺の言葉にはぁと深いため息をついたれーにゃん。
「それに髪の毛はぼさぼさ、目は半開き、顔色が悪すぎて死んでるみたい。ちゃんと睡眠取ってないでしょ」
「取ってないです……」
主に性欲つよつよな女の子たちのせいで。
「こんな奴に告白されたら女の子は誰もOKしないわよ。まぁ……私ならOK出しちゃうけど……」
「なんか言った?」
「あ?いや?何でもないよ。とにかく。今のクソださチー牛状態を脱出しないとだから」
口悪すぎだろ。
多分れーにゃんは内心ファンのこともこんな風に思ってそう……。
「とりあえず私の後ろについてきて」
言い終わるや否や、彼女はさっさと歩き始めてしまった。
そんな彼女に慌てて追いつき声をかける。
「そっち改札から逆方向だけど」
「あのね。アイドルが電車なんか乗ってたら大騒ぎよ。ほんと想像力のかけらのないデリカシーない男ね」
「すいません……」
ところどころに出てくる口の悪さが、みんなに笑顔を振りまくれーにゃんの時と違いすぎて少し怖い。
けれどもこれが彼女の素だと思うと、それをさらけ出せるくらいに好感度が高いということ。
今日の服選びにしても忖度無い意見をちゃんと言ってくれそうな気がするな。
そんな彼女の一歩後ろを歩いていくと、そこには見覚えのある車が止まっていた。
誘拐未遂にあったあの車だ。
れーにゃんは運転手の人に一言話しかけると、車の後部座席のドアが開いた。
「ほら乗って。早く行くわよ」
彼女の言葉に頷いて車の中に入ると、すぐにドアは閉められれーにゃんも乗り込み、車は発車した。
揺れる車内で隣に座っているれーにゃんのほうをちらっと見るが、特に何を話すでもなく外を眺めているだけだった。
そんな状況に少しばかり気まずく思っては居たけれども、ここで話す話題についてのカードを持ってはいなかった。
『能力』によって歪に作られた交友関係というのは、距離感を考えるのが難しいな。
さやかに使った場合なら、元の距離感に戻るだけだから大丈夫だと信じたいけれど。
「あのさ」
「ん?」
急にれーにゃんに話しかけられて、驚き、横を向くが、彼女の視線は窓の外のままだった。
そして彼女は静かに話し始める。
とても静かな声で。
「告白したい友達ってさ、どんな人なの」
その問いに車内には再び沈黙が走る。
どんな人……か。
俺は目をつぶり、さやかの姿を鮮明に思い浮かべた。
幼稚園の時に出会い、小学校、中学校とずっと一緒に居た存在。
あんなに小さかった少女が、いつの間にか大きく一緒に成長していて……。
笑った顔、怒った顔、泣いた顔、悔しそうな顔。
彼女のいろんな表情を見てきたけれど、どんな時でもかわいくて自分の視線を釘付けにする存在。
「3歳の時からの幼馴染で、一番守りたくて、一番好きな人かな」
いつのどんな時の彼女を思い出しても、その可愛い彼女の姿が目に焼き付いて離れない。
俺の中の『アイドル』はさやかだった。
そんな俺の回答にれーにゃんはふーんと言いながら外の景色を見続けている。
彼女は今どんなことを考えているんだろうか。
そんな彼女はひとしきり外を見たあと、また口を開く。
「好きな人がいるって幸せだね」
それは消えてしまいそうなくらいに小さな声だったけれども……。
その言葉はしっかりと俺の耳に届いたのだった。
車は都内のビル群の中を突き進んでいく。
通り過ぎる街並みは見慣れぬものばかりだ。
大通りから離れて少し路地に入った場所に車が到着するとドアが開き、俺とれーにゃんは車から降りた。
何かのお店なのは間違いなさそうだけれど、どうも服屋という感じではなさそうだ。
「あの……服を見に行くんじゃなかったの?」
「そっちも行くけど、先にこっちよ。ほら入るよ」
慌ててれーにゃんに声をかけるが、彼女は平然とした表情でお店に入っていき、その後ろをついていく。
入口から階段を下りていくと、受付のような場所についた。
「予約していた雨宮です」
そう声をかけると、奥からさらっさらな髪を揺らした女性が出てきてれーにゃんに声をかけてきた。
「あられーにゃんお久しぶり!」
「だから仕事以外の時れーにゃんって呼ばないでって言ってるでしょ」
「あ、ごめんごめん。でそっちが玲奈の彼氏?」
そう言われて女性の視線がれーにゃんの後ろにいた俺の方に向く。
「なわけないでしょ。こんな芋っぽい男誰が好きになるっていうのよ」
「そうは言ってるけど、表情に出ているわよ」
相変わらずの悪口を軽く受け流しているのを見るに、相当この2人は仲がよさそうな感じがする。
「自己紹介がまだでしたね。私はMAKO。この子の美容師をしているの。よろしくね」
「よろしくおねがいします」
美容師だったのか。
どおりで髪の毛がつやつやのさらさらだと思った。
それによく見ると、腰のあたりにハサミとか入れてるし、……ってか俺今から髪の毛切るの!?
「じゃあ後は頼んだわ。どうせそんなに髪型にこだわりないだろうから、いい感じに仕上げちゃっといて」
「あ、ちょっと、玲奈?」
れーにゃんはもと来た階段を上りあっという間に見えなくなってしまった。
残ったのは美容師の女性と俺……。
「なんか素直じゃないわねあの子」
MAKOさんがそう呟きながら、美容室の中へと案内される。
俺は基本的に千円カットで済ませているから、美容室に来るのが初めてで少し緊張してしまう。
おしゃれな内装に、おしゃれな店員、そしてオシャレな美容師。
みんなキラキラしたオーラが身にまとっており、正直場違い感凄い。
「とりあえずここに座ってもらえるかしら」
言われるがままに鏡の前にある椅子に座ると、MAKOさんは笑顔で話しかけてきた。
「緊張してるわね。まぁでも大丈夫よ。かっこよく仕上げてあげるから」
MAKOさんは慣れた手つきで櫛で髪を梳かし、霧吹きで髪を濡らしていく。
「れーにゃんとは結構長い付き合いなの?」
鏡越しにMAKOさんの視線を感じながら、質問に答える。
「いえ、そこまで長い付き合いでは……。たまたま高校が同じってだけで」
「それにしては距離感がかなり近いと思うけれど」
「そうですか?」
「そうよ。彼女はいつもアイドルのれーにゃんとしての仮面を被って生活していてね、スイッチの入っている彼女は、さっきみたいに悪態ついたり悪口を言ったりなんて決してしない、まじめで言い方を変えたら使いやすくてプロ意識の塊を演じているの。だからこそ、こういう風に接してくれている方が、彼女が心を許しているってことなのよ」
そう言われて、あの態度が彼女の誰も知らない一面を知れた気がしてすごく嬉しい。
なんか顔がにやけてくる。
「男の子にそんな関係の子がいたなんて初めてだからびっくりしているんだけどね。あなたあの子に何かしたの?」
うげ。
結構まずいことしましたよ。ええ。
「まぁいろいろと……」
少しの気まずい雰囲気の中、MAKOさんは慣れた手つきでハサミを使って髪の形を整えていく。
素人目から見て思うけれど、こういうのって相当センスと技術が必要だと思うんだよね……。
1分もかからずに俺の髪はさっぱりとしたショートスタイルになった。
想像していたよりも大分いい感じになっているような気がする。
そしてシャンプー台に移動し、シャンプーが始まる。
しっかりと頭皮のマッサージを行い、その後泡立てネットを使って大量のシャンプーを泡立たせる。
美容室でしてもらうシャンプーってなんでこんなに気持ちいいんだろうか……。
それと「かゆいところはないですか」って本当に聞かれるのか……。
そんな気持ちよさとMAKOさんの絶妙な指使いでシャンプーが終わった後、元居た椅子に戻るとれーにゃんもいつの間にか戻ってきていた。
「あら、思ったよりもいい感じじゃない」
俺も鏡越しに見る自分の姿を見て驚愕している。
いやかっこいいぞ俺。
いわゆるマッシュヘアのように整えられた髪の毛に、ワックスで程よく整った髪型。
自分では手入れしたこともなかった眉毛もきちんと形を整えられていて、キリっとしてみえる。
自分が自分でないかのような、それでいて大股で大人への階段をジャンプアップしたようなそんな心持ち。
「どう?気に入ってくれた?」
「もちろんです!なんか別人になったみたいですね」
「よかったじゃない。また髪の毛長くなったらうちに遊びに来てね」
ずっと笑顔で対応してくれたMAKOさんに別れを告げ、今度こそ服を見に行く。
その向かう道中の車で、自分のスマホの画面に映る自分の顔を見て思わずにやけてしまったのは仕方がないことだと思う。
だってなんかウキウキするんだもん。髪型変わっただけで。
そうして向かった服屋では、店員さんと悪ノリしたれーにゃんにマネキンかと思うくらい着せ替えされて、何十着も試着した結果、白の無地のTシャツにダークブルーの7分袖カーディガン。
下はグレージュのテーパードパンツに決めた。
決めたというか決めさせられた。
けれども姿見に映る自分の姿が、自分史上最もかっこよくて、れーにゃんを連れてきて正解だったなと思う。
こういうセンスは俺にはないから。
「さてとお買い物も済んだけれど、まだ時間あるわよね?」
帰りの車に乗り込みながら、れーにゃんからそんなことを聞かれた。
「まぁ夏休みにも入ったし、特に何も用事という用事はないけれど。むしろ玲奈の方こそ、時間大丈夫なの?」
あまりにも画面越しに見る彼女とは性格が違いすぎて勘違いしそうになるが、彼女は現役のアイドルなのだ。
むしろこんな風に時間を取れること自体おかしな話なのだ。
「今日は近々あるライブの振り合わせで午前からやってるんだけど、用事があって午後から行くって言ってあるわ。これでもアイドルやってるときは真面目にこなしてるから、あんまり言われることもないのよね」
そんなことを言うと、運転席の方に身を乗り出し、なにやら運転手と話し始めた。
そして会話を終えると後部座席に戻ってきたのだが、その座った位置が妙に近すぎる。
「ということで、まだ時間があるからさ、行こうよホテル」
れーにゃんがこっちの顔を覗き込むようにしている。
つられて視線を合わせると、今度はれーにゃんの方が視線を外した。
「もう!何なのよ。髪型までかっこよくなって。なんか心臓バクバクしててこんな状態だったら練習も集中できないだろうし、どうしてくれるのよ」
「どうするって、、、」
「ホテルで私のこと抱いてって言ってるの。このために朝早くから出向いたんだから、ちゃんと責任取ってよね。玲奈のことちゃんと見てほしいの」
言い終わるや否や、自分の発した言葉に気づき恥ずかしそうに俯く彼女。
「だめ……かな?」
そうか細い声が聞こえて、返事の代わりに俺は彼女の身体を抱きしめた。
一人の女の子の心の底から出てくる嘘偽りのない本心を見過ごすことなんてできないのだから。