確率の見える世界 〜あの子とエッチできる確率は○○%!?〜 作:tomoki/名和朋樹
【2023年7月30日】
「ちょ、ちょっと待って!」
「まだ何かあるの?」
引き留めたさやかの顔から、あまりにも激しく凍り付いた視線が向けられた。
人を拒絶しこの世のすべてを切り裂くような雰囲気。
でも俺は止まらない。止められない。
彼女の凍った心を溶かすために、俺の『能力』で燃やしつくす。
本当のさやかを取り戻す。
「あるよ。起死回生の一手がね」
凍てつく視線には燃え上がるような熱い視線で返す。
そしてさやかを対象に起死回生の一打を放つ。
『さやかが告白を受ける確率』は?
表示された数字は―0%―。
1年前から彼女の状況は何も変わっていない。
けれど俺は変わった。
「そんなものがあるならやってみなよ」
何をされるのかわからないはずのさやかは妙に挑発的であった。
一定の距離を保ち、お互いがお互いに牽制を繰り返しているような時間が過ぎていく。
だがその時間はもう終わりだ。
さやかの頭上にある―0%―という数字の上にある矢印に意識を向ける。
この矢印を押した瞬間、俺とさやかの人生がすべて変わる。
この世界を、この未来を、そして彼女の心を捻じ曲げる。
出来ればやりたくなかったこの世界の禁忌に足を踏み入れる覚悟が今の俺にはある。
本来あるべき姿からずれた世界に、どんな結末が待っているかわからないけど、俺はやるしかない。
「いくよ……俺は君のことが好きだ。初めて会ったあの時から今までずっと――――」
上矢印に意識を向けて、その数字を100に――――
[LOCKED]
え?
[LOCKED]
動かない。
[LOCKED]
なんで?何回押しても動かない。は?え?……っちょっと、おい!
「あれ?起死回生の一手があるんじゃなかったの?」
さやかは勝ち誇ったように、そしてどこか哀れむような表情で俺の目の前に立っていた。
くっそ!!おかしいだろ!もう一回だ。もう一回。
『さやかが告白を受ける確率』は?―0%―
表示された数字の上矢印を何度も押す。
ありったけの意識を向けて押す!
[LOCKED]
「おい!どうなってんだ!ラプラス!出てこい!!おかしいだろ!故障してるぞ!おい!」
俺はありったけの声で虚無に向かって怒鳴った。
普段そんなに大声を出すことも、こんなに誰かの名前を呼ぶこともないのに、出せる限りの力を使って出した。
けれど反応は一切返ってこない。
壊れた?故障?何が起こったかわからない。
ただ直感的に俺の望みどおりの展開になっていないことはなんとなく理解した。
けど本能がそれを拒んでる。
「誰に向かって叫んでるの?それとも現実逃避?」
「うるさい!ちくしょう!なんでこうなってるんだよ」
心のどこかでもう答えが出ているのはわかってる。
けどそれを認めたら、これまでの俺の1か月を全部否定することになる。
そんなの認められない。
何度も何度も数字を動かそうとした。
そのたびに俺をあざ笑うかのように表示される[LOCKED]の文字。
一向に打開できそうにないこの状況。
「ラプラス!説明しろ!どうなってんだ!」
≪さぁ?よくわからないわね≫
虚無から現れたラプラスはいつも通りの能天気さ。
あたかも自分事ではないというスタンスを醸し出すこいつに怒りの矛先が向き変った。
「お前がこの『能力』を持って来たんだろ!早くどうにかしろよ!」
「私がさ、そんなしょぼい『確率操作能力』で靡くとでも思ってたの?」
さやかの声で身体中の体温が一気に奪われた。
血の気が引いた。
「お、おまえ……なんでそれを知ってる……?」
俺は口を開いたまま、完全に身体の動きが停止していた。
なぜ俺が『能力』を使えることをさやかが知っている?
知りようのないこの事実をどうして……?
「あははははは。だっさその顔。そうそう、そんな無様でマヌケな顔が見たくてわざわざ出向いて来たの。どうしたの?早く『能力』使わないの?」
さやかが笑ったとき、俺の願いが完全に打ち砕かれた音を聞いたような気がした。
確かに聞こえた。
枝が踏みつぶされ折れるような嫌な音が、しっかりと頭の中に響いた。
完全に心を折られた俺は脱力してその場で項垂れるしかなかった。
「さすが素晴らしいねさやか。まさかここまで素晴らしい顔を見られるとは思わなかったよ」
謎の男がゆっくりと手拍子をしながら迫ってくる。
真っ黒のスーツに身を包んだ大男。身長は190くらいはありそうな長身でところどころから浮き出てくる筋肉。
こいつがさやかの彼氏?
いや……それにしては年齢が……30代?いや20代後半か?
「お前がさやかの彼氏を名乗る男か!?」
「そうですね。まぁ彼氏とは違いますが、それが指す人物は私でしょうね」
余裕のある柔らかい言葉遣いとは裏腹に、圧倒的な敵意、圧倒的な挑発が込められた物言い。
修羅場を何度も潜り抜けたような冷酷さ。
こいつはただ者じゃない。
直感が脳に危険信号を送り続けている。
これがこの世界の圧倒的強者のオーラなのか……?
俺は完全に怖気づいてしまっていた。
「お……おまえ、さやかに何をしたんだ」
「別に何もしていませんよ。あくまで彼女の自由意志ですから。けれど……」
男が言葉を切ったその刹那。
―0%―
「え?」
さやかの頭上には数字が復元されていた。
何度瞬きしてもその忌まわしき数字が目に入ってくる。
けれど俺は何もしていない。
1日で使える上限はさっきすべて使い切ってしまった。
そんなことありえない。
となると……
「まさかお前も……」
「そう。君と同じ。いや君の上位互換と言っておこうか」
この男も『能力』の使い手……。
くっそ!
その可能性は完全に考えていなかった!
まさか同じ能力を持つ人間がこの世にいるとは思うわけがない。
「おいラプラス!お前なんでそれを言わなかった!ほかに能力者がいること教えとけよ!」
≪ごめんごめん☆言い忘れちゃった☆≫
「言い忘れたじゃねーよ!しかもなんでよりにもよってさやかが……」
その瞬間俺の脳に一つの結論が容易に浮かんだ。
さやかはこの男の『能力』によって強制的に人格を捻じ曲げられた。
それしかない。それしか考えられない。
今思えば一年前、ほんの数日会わないだけであんなにも人格が変わったかのように振る舞うことなんておかしすぎた。
数年ならわかる。けれど数日なんてことはありえない。
けれどそれがこの『能力』の影響なら、数日もいらない。1時間でおつりがくる。
俺が恐れて悪用をしないようにと心がけていたのに、その対象に1年以上前からさやかがなっていた。
全く気付かなかった。あまりにも悔しい。
悔しさがよりいっそう心を黒く塗りつぶしていく。
ふつふつと湧き上がる怒りが、感情を支配しようとする。
理性を失ったら、もうおしまいだ。
そんな俺を見透かしたように男は言葉を続けた。
「おやおや。私があたかも悪いように仕立て上げたいみたいだけれど、今日のことを提案したのはさやかの方さ。あくまで私はその付き添いに来ただけですよ。どうです?怒りの矛先をあなたの大切な大切な幼馴染にでも向けたらどうですか?」
俺の心に直接語り掛けてくるような嫌味ったらしい言い方に怒りがまた増していく。
落ち着け……今は悔しいけど……抑えろ。
「そんなわけない。さやかはそんなことする人間じゃない」
「だったら試してみましょうか?『さやかが本心で動く確率』を―100%―にしてみましょう」
さやかの頭上にある数字が―100%―に変化した。
俺が何度も何度も動かそうとしたその数字が、いとも簡単に動くのを見て湧き上がった怒りを、歯を食いしばって抑える。
「さやか。さやかが今一番したいことをしなさい」
男がそういい放った瞬間、さやかは跪いて男の股の間に移動した。
あまりにも突然すぎる行動に、俺の身体は驚いて硬直する。
「わかりました、ご主人さまぁ。ご主人様のぶっといおちんぽ様をご奉仕してよろしいでしょうか?」
耳元にあまりに不愉快な単語の数々が届いてくる。
本当にこれをさやかが発したのか?
「もちろん。せっかくだからあの男に見せつけてあげなさい」
「もちろんですご主人さまぁ♡喜んで♡」
さやかは男のズボンのチャックを器用に口に咥えて下ろし、露わになった性器にしゃぶりついた。
「じゅぽっ♡♡じゅぽ♡おちんぽさまおいしぃ♡♡ぶっとくてながいっ♡♡おいし♡♡ん、ちゅぷッ♡じゅっぽ♡ぐっぽぐぽ♡♡ぉ゛んッ♡」
「や、やめろ!」
俺はこれが本当にさやかなのかと信じられない気持ちで叫んでいた。
いやこんなことできるはずがない。
さやかはそんなこと絶対にしない!
「おいさやか!お前何やってんだ!今何やってんのかわかってんのか!!」
「え?何ってご主人様にご奉仕してるだけだけど?ごめんね。私の心も身体もぜーんぶご主人様のものなの。ほらちゃんと見ていてね。じゅぷっ♡ちゅっ、ちゅッ♡♡あむッ♡♡♡んぐぅ……っ♡♡♡おいしぃ♡♡ちゅぱっ♡♡♡じゅぷじゅぷっ……♡♡♡じゅぽっ♡♡」
口を大きく開けて自ら首を振る姿なんて見ていられない。
俺が好きだったさやかはどこに行ったんだよ。
いつもクールにふるまっているようで、俺には満面の笑みを浮かべて接してくれたさやかはどこなんだよ。
最初にバスで出会った時から、幼稚園も小学校も中学校も、笑って泣いて怒って喧嘩して、俺との12年の思い出がすべて塗りつぶされていく。
「れろッ♡じゅぷッ♡んちゅ♡はむ、あ゛ぁッ♡ご主人様のおちんぽ様すごぃい♡♡おちんぽさまぁ♡♡」
「さやかしっかりしろよ!やめろ……!やめてくれ……」
俺の声は届かない。
「さやか、君の大事な大事な幼馴染がかわいそうな顔をしてるけどやめてあげないの?」
「え♡♡ごしゅじんしゃまのおちんぽおいしすぎてやめられない♡♡それにあんなやつだいじでもなんでもないし」
「どうですか?悔しいでしょう。その悔しがる顔をもっと見せてくださいよ」
男がさやかの胸を揉みながら挑発するように笑いかけてきた。
なんでこんなやつに馬鹿にされないといけないんだ!
人の心を弄び、壊して楽しむこんな奴に!
くっそ!あいつが!あいつがさやかを……!
こんな状態で体格で劣るなんて関係ない。
さやかを、俺の大切な幼馴染を木端微塵に破壊したこの男を許すことなど絶対にできない。
一発ぶん殴ってやる。
「お前のせいで!!お前のせいでさやかが!!!」
男に向かって拳を振り上げ走り出した時。
「おっと。この状況がわかってないのは君だよ。君の大好きなさやかちゃんがどうなってもいいのかな?」
「くっそっ!!!」
俺は気づいてしまった。
この『能力』の最悪な使い方に。
そして振りかざした手を渋々下ろすしかなかった。
「これ以上近づいたら『さやかが1分以内に死ぬ確率』を―100%―にしてあげるよ。1分だけ彼女と最期の話がしたいならどうぞ、止めはしないけど」
心底愉快そうな表情だ。俺から全てを奪い去った人間が見せる笑顔だ。
屈辱にまみれながら、俺は踏み出そうとする足を止めた。
「んッ♡おちんぽさまらいしゅきぃい♡♡ぢゅぅううっ♡ぢゅるっ、じゅぱぁッ!♡♡ひぃいッ!♡ぁあっ、おちんぽ♡♡すきぃいぃッん♡♡♡ふぅっ、おいひ♡おいひぃのぉ……♡♡」
「あいつをどうにかする術はないのかよラプラス!こっちがさやかの心を乗っ取ったりできないのかよ!」
≪できるわ≫
「早く教えろ!!」
≪この『能力』は基本的に誰に対しても使えるけれど、他の能力者に中出しされた人間には効かないの。それを解くには中出しで上書きするしかないわ≫
「これ以上近づけないのにどうやってそんなことするんだよ!!」
≪さぁ?≫
「さぁじゃねぇよ!」
≪仕方ないじゃない。そういう『能力』なんだから。文句あるならこれを完成させたうちの先祖にでも言ってほしいわ≫
「先祖?」
≪どうもこんにちは。あつし君、そしてラプラス家の末裔マリーン=ラプラス14世≫
男の横にもう一匹の悪魔のような生き物が出現した。
見るからにラプラスと同じ種族。そして『能力』をあの最悪な男に授けやがった黒幕。
≪あら我ラプラス家の敵にして、あの
≪ノルウェン=ベイズね。以後お見知りおきを。それにしても憑りついた相手が悪すぎたわね。あんなひょろひょろの高校生に憑りついたところで、3年も前から動き出していた私には勝ち目無いわよ≫
≪あら本当にそうかな。意外と人間の想いってものはバカにならないわよ≫
≪それにしてはそこの彼、顔は青ざめて全身震えてるけど。もう勝負あったようなものじゃない?≫
横で何か喋っていることはわかっていた。
けれど俺には今の屈辱的な状況を見つめていることしかできなかった。
「んぅッ……♡ふぁ、おっきいよお♡♡♡あはぁん♡ぁう♡♡んぁ、おちんぽだいすきぃ♡♡♡」
好きだった女の子が嬉々として他の男の性器を飲み込み、異常に肥大した胸を強引に揉まれ、野外にもかかわらず甘い声を上げ続けている惨状が視界から外れることはなかった。
「さやかがこうなったのも、全部お前が仕組んだんだろ……」
歯を食いしばりながら、押し殺した声で言う。
せめてもの抵抗だった。
「いいえ?これは彼女自身が選んだ結果だ。私は選択肢を与えただけにすぎない」
「選択肢……? ふざけるな……こんなものはただ単に洗脳じゃないか!お前のせいでさやかは変わってしまったんだろ!」
「それの何が悪い。君だって何人もの女の子を自分勝手に狂わせ、そして捨てたんだろ。それも洗脳と何ら変わりないはずだ。所詮君も自分のことを棚に上げて正論を言った気になってるだけのクズだ」
俺がただのクズ……
俺があいつに異常なほどの嫌悪感を抱くように、俺も同じように思われていたというのか……?
その時脳裏に浮かんできたのは5人の女の子の顔だった。
まりな、千春、ゆうり先輩、彩音ちゃん、れーにゃん。
けどその顔は黒く影になり、眼だけが赤く光り亡霊のようにじりじりと俺のもとに迫ってくる。
『おにいちゃんはこんな最低な女のために兄妹がどうとかこうとか言った訳?さやかさえいなければ、大好きなおにいちゃんを独り占めできたのに』
『あーくんはさぁ、期待だけさせといていざと言う時には振る最低な男だったんだね?それで本命の彼女には振られるとか情けない。こんなのが好きだったなんてどうかしてたなぁ』
『囚われたヒロインを救うヒーロー気取りが思い上がってんじゃねぇよ。お前は今居る女を捨てて新しい女に飛びついて、結局両方失うクソ男共と一緒なんだよ』
『せっかく信頼できる男の人見つけたと思ってたのに、結局は自分がヤリたかっただけなんでしょ?飽きたら捨てて、捨てた女のことなんて何も考えてないじゃん。自分のことばっかな自己中おにいさん?』
『結局してることって握手会でペタペタ触ってくるキモオタと同じ、いやそれ以上に最低なことしてきたもんね。自分勝手に人の初めて奪ってさ。こんなキモい男の顔二度と見たくない。さっさとここから消えたらどうかな?』
俺は5人を『能力』で洗脳して、それぞれの人生を壊したというのか?
おい教えてくれ。
君たちが俺に見せてくれていた好意はすべて虚構で嘘にまみれたものだったのか?
俺のすべての行動は全員を不幸にするだけだったというのか?
『この世からもさぁ消えたら?あーくん。ほらこれ見て、あーくんの弁当作るために買った包丁。毎日研いでるから切れ味鋭くて使い勝手が良いんだ。いくつに切り刻んであげようかな。バイバイ大好きだったあーくん』
まりな?千春?ゆうり先輩?彩音ちゃん?れーにゃん?やめて。やめてくれ。あぁ、あぁ、ぁああああああああ
「なんか他の女の名前叫んでるけど、一言言ってあげたら?」
「所詮男としてもその程度な癖にどうして付き合えると思ってたの?ご主人様とは男としての格が違うの。身体も精神も考えもおちんぽ様も全然話にならない。過去の恋愛ごっこを引きずって子どものままの馬鹿とは違うのよって聞いてないか。行きましょうご主人様♡。もちろんご褒美いただけますよね?」
薄っすらと聞こえたその言葉を最後に、俺の記憶は途切れていた――――。