※この作品はR-18です。

もう一人の自分(ボク)   作:koneneko

1 / 3
第一話 終わりの日 前編

 モモンガは天井見上げ、つい先ほど自分に投げかけられた言葉を反芻していた。

 眼下に広がる黒曜石の円卓は人が四十一人座るのに十分な大きさを持っている。しかし、備え付けられた椅子に座っているのはモモンガただ一人だ。

 

 

「またお会いましょう、か」

 

 

 今日、モモンガは似た言葉を三度聞いた。

 いずれも、このナザリック地下大墳墓を拠点とするギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルドメンバーであるモモンガの友人達からかけられた言葉だ。DMMO-RPGユグドラシルのサービス終了の今日、モモンガの呼びかけに応えて集まってくれた三人が去り際にモモンガに送った言葉。

 

 それはかつてのギルドメンバー達がユグドラシルを引退する時に何度も聞いた言葉と同じだった。

 

 今日、彼らが来てくれた事は心から嬉しかった。彼らと交わした言葉には確かな親愛を感じた。しかし、こうも思ってしまうのだ。

 

 会う気などない癖に。白々しい。

 

 四十人いた仲間達が一人、また一人と仲間達が去っていく内に、そんな事を考える様になった。その後に湧いてくる寂しさと、諦念、自分を置いて去っていく仲間達への身勝手な怒り。そんな事を考えてしまう自分への嫌悪。

 

 

(なんでだよ!大切じゃないのかよ!皆で作った場所だろう!)

 

 

 モモンガとて理解している。引退した仲間達はナザリックを大切に思っていなかった訳ではない。ナザリックの他に大切な物を持っていただけだ。現実世界の家族、恋人、仕事、生活、趣味、どうしようもない事情がある人だっている。

 

 それでも、許せないのだ。かつて喜びを共有してきた仲間達が自分と違う事が。

 

 モモンガの大切な物はこの仮想の世界にしかない。現実にナザリック以上に大切な物を持ち合わせていない。家族も恋人もいない。仕事も生活もナザリックの為ならどうでもいい。だから、皆が去ってからもログインし続けていた。

 それが今日で終わる。ならせめて、共にナザリックを作り上げ、喜びを共有してきた仲間達と最後の時も共有したかった。けれど今、モモンガは一人きりだ。

 

 拳を固く握りしめ、円卓に押し付ける。腹から湧き立つ感情が口から溢れてしまいそうだった。

 仲間が去ってからも一人でギルドを維持し続けていた自身の心に溜まった暗い感情。いっそ吐き出してしまえば少しは楽になるだろう。でも一度吐き出してしまえばきっと止まらない。そうしたら、自分が大切にしていた物が壊れてしまう気がする。

 

 深く息を吐き、気を落ち着ける。

 

 

(あと数十分もすればこのゲームはもう終わりだ。せめて最後までこのギルドのギルドマスターでありたい。皆の仲間でありたい)

 

 

 一人になったモモンガに最後に残った意地だった。背もたれに体を預け体の力を抜き、そして視線を壁に飾られた一本の杖へと移動させた。

 

 

「最後くらい、いいよな」

 

 

 そう、言い訳しながらも立ち上がり、飾られた黄金の杖を手に取った。

 

 

『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』

 

 

 栄光あるアインズ・ウール・ゴウンの全盛期、ギルドの力の粋を集めて作成された『ギルド武器』。単なる性能が良いだけの武器ではなくギルドを象徴であり、ギルドそのものともいえる特別な武装だ。この武器を作る為に、仲間たちと共に数々の冒険に出かけたものだ。

 こうして手に取るだけであの楽しかった日々が蘇ってくる。出るはずのない涙がじわりと滲みそうになり、モモンガは堪らず椅子へと引き返し再び腰を下ろした。

 

 

 自分はどうかしている。空っぽだった自分を満たしてくれた仲間達に対し、どうして許せないなどと思ってしまうのか。自分に言い聞かせる。それでも蘇る思い出の分だけ胸がじくじくと痛む。

 モモンガは、気を紛らわせる為コンソールを開いた。

 

(この武器に相応しい装備に変更するか……いや、いっその事)

 

 

 

『おーい』

 

『モモンガさん、聞こえる?』

 

 

「えっ」

 

 

『ボクだよボク、忘れちゃった?』

 

 

 思考の最中、不意にかけられた魔法、伝言(メッセージ)に放心してしまう。

 聞き覚えのある女性の声だ。そして何よりその特徴的な一人称。

 

 

「もしかして、やまいこさん?」

 

『ふふ、もしかしなくてもボクだよ。ねぇ今そっちに行っても平気かい?』

 

「あ、はい。もちろんですよ。今円卓の間にいます」

 

『うんわかった。すぐ行くよ』

 

 

 伝言(メッセージ)が切れ、円卓の間に再び静寂が訪れる。

 

 モモンガは自分の胸に手を置いた。今の姿、死の支配者(オーバーロード)には無いはずの心臓が激しく動悸している。正直これ以上誰かが戻って来るなんて思っていなかったのだ。それを考える余裕もなかった。

 

 

「驚いた」

 

 

 ぽつりと呟いた。そして安堵もしている。驚いたせいなのか、つい先ほどまで胸を埋め尽くしていた鬱々とした想いも消えていた。

 気を引き締める、彼女はすぐに此処へ来るだろう。誘ったのはモモンガなのにぎこちない態度をとって気を遣わせてしまってはギルドマスター失格だ。せっかく来てくれたのだから少しでも楽しんで貰いたい。やまいこの前に挨拶を済ませたヘロヘロは、彼の体調が悪かったのもあってあまり楽しんで貰えなかった様に思っている。

 

(まるで子供だ。俺は)

 

 仲間が去れば寂しい、一人でいると苦しい、勝手に仲間を恨み、怒りもする。でも、会いに来てくれるとやはり嬉しいのだ。それだけで胸までせり上がっていた感情が消え去っている。

 そんな自分を恥じていると、右手側2mくらいの位置に光で描かれた魔法陣が出現する。そして一瞬にして見上げるような巨体がモモンガの前に現れた。

 

 

「うおっ」

 

 

「なんだよその反応は。女性に対するリアクションじゃないだろ。久々に会ったっていうのに」

 

 

 やまいこが両手の拳を頭上に振り上げた。声にからかう響きがあり、モモンガにはそれが無性に嬉しく思えた。

 やまいこの種族は半魔巨人(ネフィリム)。醜い巨大な体躯と腕部を持つ異業種だ。人型をしているがぱっと見では性別も判別できない見た目を持っている。

 

 

「久々だからですよ。だって、でっかいんですもん。久しぶりですやまいこさん。会えてうれしいです」

 

「うん、久しぶりモモンガさん。ボクも会えてうれしい」

 

 

 立ち上がり右手を差し出すをと、やまいこの大きな手で右手はすっぽりと包まれ、ブンブン振られた。変わってない。大きめなリアクションも当時のままだ。

 

 

「その杖似合ってるよ。やっぱりそれはモモンガさんが持ってこそだね」

 

 

 やまいこがモモンガが手に持つギルド武器に視線を向けて言った。嫌味な響きなど全く感じられない明るい調子だ。それでもモモンガは、ギルドの最重要アイテムであるギルド武器を個人の判断で装備している事に罪悪感を覚えてしまう。

 

 

「せっかくなんで今日は、これを持って終わりの時間を迎えたかったんです。すいません勝手に装備しちゃって」

 

 やまいこが立てた人差し指をゆらゆら揺らした。

 

「いいんだよそんな事は。それはギルド長であるモモンガさんの杖なんだから。ボクはそう思ってるよ。それに、こんな日くらいしか装備できない武器でもあるんだしさ」

 

「ふふ確かにそうですね」

 

 

 ギルド武器の喪失はギルドの崩壊を意味する。だからどのギルドも普段、滅多な事では外へ持ち出さないし、拠点の一番安全な場所で保管している。やまいこの言う通りサービス終了日である今日か、他ギルドから襲撃を受け絶体絶命、といった状況下でしか使えない武器だろう。

 実際モモンガ達のギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは、完成してから一度も外へ持ち出された事はない。性能テストに幾度か使用したくらいで、今日までずっと円卓の間に飾られていたのだ。

 

 

「他の人達は来てないのかい?」

 

「さっきまで、ヘロヘロさんがいましたよ」

 

 

 閑散とした部屋を見回したやまいこの問いに胸に痛みが走る。彼女は何も悪くない。今日という日の意味を考えれば当然の問いなのだから。悪いのは自分だ。

 

 

「そっかヘロヘロさんが」

 

「すごく疲れていたみたいでさっき帰りました。相変わらず仕事が大変らしくて」

 

「なるほどね。ちょっと来るのが遅かったな」

 

 

 やまいこはあちゃーという具合に頭抱えて見せた。

 彼女は言葉遣いこそ男っぽいが案外可愛らしい仕草をする。見た目も合わせてそれがとても滑稽に見えるのだ。やまいこは頭に当てていた手を腰に持っていき、またモモンガに視線を合わせた。

 

 

「茶釜とぺロロンチーノは来ていないんだね?あいつ等はいると思ったんだけど」

 

 

 ぶくぶく茶釜とぺロロンチーノ。ギルドの中でもモモンガとやまいこが特に仲が良かった二人だ。 

 

 モモンガはぺロロンチーノと仲が良く、ぺロロンチーノはぶくぶく茶釜と姉弟で、ぶくぶく茶釜はやまいこと仲が良い。そんな感じでよく一緒に雑談したり狩りに行ったりする事が多かった。やまいこと同じく二人ともこのギルド、アインズ・ウール・ゴウンが結成される前からの付き合いだ。このナザリック地下大墳墓も彼らと共に攻略した。

 彼らは今日、来てくれるかもしれない。モモンガもそう思っていた。だからここに彼らの姿がない事はモモンガにとって特別な意味を持っていた。

 

 

「仕方ありませんよ。ぶくぶく茶釜さんは人気の声優ですからね。忙しいんですよ。ぺロロンチーノさんはわかりませんけど」

 

「どうせ、いかがわしいゲームをしているに決まっているよ。賭けてもいい。なんて薄情な奴だ」

 

「ふっ、ははは。確かにしてそうだ。やまいこさんが賭けるなら間違いない」

 

 

 明け透けな物言いにモモンガは思わず吹き出してしまった。

 他の人間が言えば無遠慮で不快に感じる言葉でも、彼女が言うと痛快に感じる。やまいこはそんな一種のカリスマ性を持っている人間だとモモンガは思っていた。まぁ、相手がぺロロンチーノなので遠慮も何も無いのだろうが。

 ぺロロンチーノは重度のエロゲーマーなので、エロゲーをしている可能性は大いにあり得る。それに加え、誰もが認めるほどの強運を持ち、賭け事に強いやまいこが賭けると言うのならばぺロロンチーノがエロゲーをしている可能性は高いだろう。

 不思議な話だ。先ほどまでのモモンガならば、ぺロロンチーノがエロゲーをしていると考えれば怒りが湧いてきたかもしれない。でも今はそれがぺロロンチーノらしいとも思えるのだ。

 薄情者。モモンガの胸の内にあった仲間達に対する身勝手な思いだ。それをやまいこが代わりに口にしてくれたから気が晴れたのかもしれない。

 

 

「まぁぺロロンチーノは置いといて、玉座の間に行かない?」

 

「玉座の間、ですか」

 

 

 言われて、モモンガの脳裏に玉座の間の光景が思い浮かぶ。ナザリック地下大墳墓の最奥。荘厳な装飾で彩られた扉の先にあるナザリックの最重要箇所。扉から続く深紅の絨毯の先に水晶でできた玉座が設置されている。

 確かに終わりの時を迎えるにはふさわしい場所かもしれないが、会話を楽しむには少々落ち着かない。それに、直接転移できない場所なのでやまいこの様に他の仲間が来てくれた際、手間がかかる。

 

 

「うん、どうせならユリの顔も見ておきたいしさ」

 

「なるほど。ユリも喜びますよきっと」

 

 

 ユリ・アルファ。やまいこが作成したナザリックの拠点NPCの一人である。

 拠点NPCとは各ギルドに決められたポイント分作成する事が可能な、ギルド内で様々な役割が与えられるNPC達の事だ。かつての仲間達によって細部までこだわりを持って作成されており、中にはプレイヤーと同等の力を与えられナザリックの各階層や一部の境域を守護している者達もいる。ペロロンチーノが作成したNPCもその一人だ。モモンガが作成したNPCもいるがそれは今はいいだろう。

 ユリは玉座の間のある十階層に配置された戦闘メイドのチーム『プレアデス』の長女であり、やまいこにとってはナザリックにおける我が子のような存在だろう。

 

 

「じゃあさっそく行きましょうか」

 

「うん。せっかくだし歩いて行こうよ。少しナザリックの中を歩きたい気分なんだ」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 

 やまいこと連れ立って円卓の間を後にした。磨かれた大理石の様に輝く廊下を、会話しながら歩きつつ、所々ですれ違うNPC『一般メイド』に手を振った。

 一般メイドはギルドメンバーであるヘロヘロ、ホワイトブリム、ク・ドゥ・グラース達によって容姿、衣装、行動AIなどを細部まで作り込まれて作成されたNPCである。

 

 

「今の子、可愛かったね」

 

「そうですね。ヘロヘロさん達の努力の結晶ですから」

 

「そうじゃなくって、モモンガさんの意見を聞いてるんだよ」

 

「俺の意見?」

 

 

 やまいこがそんな事を言い出した。一般メイドは皆、容姿端麗だ。それでいて一人ひとりはっきり見分けがつくほど個性を付けられ製作されている。つまりたった今すれ違った一般メイドの容姿について感想を聞いているのだろう。

 亜麻色の髪の毛を肩まで伸ばした一般メイドだった。

 

 

「うん。確かに活発そうで愛らしい子でしたけど、俺はその前にすれ違った子の方が好みでしたね。優しそうで。確かシクススだったかな」

 

「ああ、金髪のおっぱい大きい子か。しっかり名前まで憶えちゃって、いやらしい」

 

「聞いといてそれですか」

 

 

 そんなしょうもない話をしながら歩いた。仲間達がいた頃、いつもしていたとりとめのない雑談だ。

 

 

(ヘロヘロさんともこうして話せればよかったな)

 

 

 一般メイドの話をふればヘロヘロはもっと楽しんでくれただろうか。あそこまで熱意を持って作ったメイド達だ。きっと話も弾んだだろう。

 少し、後悔しながら廊下を歩き、階段を降りた。降りた先は広間になっていてそこに目的の人物が立っていた。

 

 

「久しぶり、ユリ。相変わらず君は綺麗だね」

 

 

 執事服に身を包んだ老人の後ろに控える六人のメイド達。彼女達こそ戦闘メイド『プレアデス』であり、その先頭にいるのがやまいこの作成したNPC、ユリ・アルファだ。彼女達が着るメイド服は一般メイドが着るメイド服を基本として、個々にアレンジが加えられている。

 やまいこはユリの側まで歩き、肩をポンポンと叩いていた。モモンガもユリの姿を眺める。こうして個々のNPCをじっくりと観察するのは久しぶりかもしれない。

 NPCは基本、個々に設定された領域から出る事はない。モモンガはそれを独断で変更する事は仲間に対する不義理だと考えていた。そして効率を考え各階層、各部屋へ転移で移動していたので普段目にするNPCは限られている。ユリはナザリックの最下層を守護するNPCの一人なので、普段目にする機会はほとんどなかった。

 

 夜会巻きにした黒髪。透き通るような白い肌に、やや鋭い目つき。容姿は非常に整っているが冷たさを感じる顔立ちだ。視線を少し下げると、たわわに実った豊かなバストが目に入る。やまいこがユリの体を揺する度、微かに揺れている。

 

 

「ちょっと、いくらユリが魅力的だからってそんないやらしい目を向けないでよ」

 

「や、そんな目してませんよ。ていうかわからないでしょ」

 

「わかるさ。女性はそういう視線に敏感なんだから」

 

 

 まさか。右目に手を当てる。モモンガが操るキャラクターである死の支配者(オーバーロード)の見た目は骸骨だ。わかる訳がない。

 

 

「ほら、やっぱり。モモンガさんはおっぱいが大きい子に目がないんだ」

 

 

 やまいこが肩を竦めた。

 からかわれたのだ。表情はわからないがドヤ顔をしていそうな雰囲気を感じ、若干イラっとした。しかし、どうにか我慢する。胸に視線がいった事は事実だ。

 

 

「いや仕方ないでしょ。それだけ大きければ男性なら誰でも見ますって。だから、やまいこさんのせいですよ。ユリのビジュアルを設定したのはやまいこさんなんだから」

 

 

 そう、これは仕方ない事だ。男が女性の胸に興味を持つのは当然の事だ。目がいくのも当然だ。そもそも胸だけ注視していた訳ではない。

 元々、ナザリックのメイドが身につけるメイド服は、基本的にバストが強調されたデザインをしている。そしてユリは、ここに来るまでに会ったどのメイドよりも豊かなおっぱいを持っていた。コルセットで強調された胸を包む白いブラウスははち切れんばかりだ。

 そうなる様、やまいこが作り出したのだ。

 

 

「なんて言い草だ。素直に認めれば可愛げがあっただろうに。痴漢だってもっとまともな言い訳をするよ」

 

 やまいこがパタパタと腕をふって言った。

 

「別に男の人の視線を集める為に大きくした訳じゃないよ。ユリは強さと女性らしさを併せ持つ、ボクの理想の女性像なんだ。おっぱいは母性の象徴だろう?だから大きなおっぱいは必要不可欠なんだよ。大きくなくちゃいけないんだ」

 

 

 知っている。昔、やまいこがユリを作成する時に同じ事を言っていた。当時は手にした拠点の改装やNPCの作成で頭がいっぱいだったから気にならなかったが、引っかかる言葉があった。

 

 

「母性、ですか」

 

 

 呟きながらもう一度ユリに目をやる。女性にしては高めな身長、艶のある黒髪、美しい顔立ち、豊かな乳房、細い腰、服の上からでもわかる肉付きのいい臀部、手足が長く全体的なバランスが整っている。モモンガから見ても理想の女性像と言うのに異論はない。

 母性。冷たい雰囲気の顔立ちからは母性は感じられない。落ち着いた大人の女性に対する安心感だけがある。それは無機質な表情のせいだろう。NPCなのだから仕方がない。ただ彼女の冷たい表情が柔らかい微笑みに変わり自分へ向けられたとすれば、確かな母性を感じられると確信できる。

 そしてあの胸。あの豊かな胸元に顔をうずめ抱きしめられれば、人は誰しも安らぎに包まれるだろう。

 モモンガには母親に抱かれた記憶がほとんど無い。あるにはあるだろうが遠い昔の話だ。ほとんど薄れてしまっていた。母親は既に他界している。モモンガが小学生の時の話だ。死因は過労。

 

 

「うん確かに。恰好よくて落ち着いた大人の女性って感じで素敵だと思います。なんていうか別の表情も見てみたいですよね。笑顔とか。普段の表情とのギャップがあって、きっとすごく魅力的なんでしょうね」

 

「よくわかってるね。ボクもこの子が無邪気に笑う姿を見てみたいとずっと思っていたんだ。普段の表情からは想像できないくらい、可愛らしい笑顔のはずだって」

 

 

 やまいこが腕を組みうんうん頷いた。胸の話題を避けて思っていた事を答えただけだが悪くない回答だったらしい。

 

 

「それでユリのおっぱいはどうだい?おっぱい好きのモモンガさん」

 

「おっぱいが好きなのはやまいこさんの方です。もう勘弁してくださいよ。やまいこさんのせいにしたのは謝りますから。それにほら、玉座の間に行くんでしょう?話をするなら向こうに行ってからにしましょう」

 

 

 少し強引に話を打ち切った。このまま話していたらおっぱいの話で終わりの時を迎えてしまう気がしたからだ。それに母性と聞いて、母親の事を少し思い出してしまった。今この場では必要がない記憶だ。

 

 

「うーん?まぁいいか。じゃあ付いてきて」

 

 

 やまいこがユリに向かって言うと、執事服の老人セバスとプレアデスは一礼してからモモンガとやまいこの後ろに付き従った。セバスは執事でありプレアデスの六人を率いるリーダー、ユリはプレアデスのまとめ役にして副リーダーである。

 

(ユリだけじゃなくて皆付いてきちゃったけどまぁいいか)

 

 モモンガ達のギルドでは通常、個人の意思でNPCの配置を変えるのは許されない行為だが、まぁ今日くらいはいいだろう。ユリはやまいこが作成したNPCだし、やまいこも全員連れていく気はなかったはずだ。というかもはや、

 

 

「もうこの際、もっとNPCを引き連れてくればよかったですね。玉座の間は広いですから。こんな日にわざわざ襲撃してくる人間なんていないでしょうし」

 

「モモンガさんのとこのNPCとか?」

 

「あいつは……うん、いやどうだろう。まぁ話の種にはなりますかね」

 

「おお!成長したじゃないか。一度は忌避したあの子を、誇りに思えるようになったんだね!」

 

「目の前にいないからですよきっと」

 

 

 連れ立って話をしながら歩いていると、すぐに目的の場所の手前まで到着した。

 半球状の大広間、侵入者を撃退するための様々な仕掛けが施されたナザリックの最終防衛ライン。向かい側の扉の向こうが玉座の間だ。

 

 

「相変わらずすごいね、ここは」

 

「ええ、この部屋の意匠を眺めているだけで時間が立ってしまいそうです」

 

「確かに、でも中はもっとすごいんだ。さっさと入っちゃおう」

 

 

 やまいこが扉を軽くノックする。モモンガの1.5倍はありそうなやまいこが小さく見える女神と悪魔の彫刻が入った石造りの巨大な扉だ。するとゆっくりと扉が開き始めた。

 この奥にナザリック地下大墳墓の最重要施設にして最奥、玉座の間がある。

 

(ていうか椅子どうしよう玉座しかないじゃん)

 

 モモンガは開きつつある扉に目をやりながらそんな事を思った。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。