本来そこは地下バンカーだった。
この街は大戦時には要衝として機能していた土地であり、大戦後は有事を見越して地上を介さずとも物資の補給、保管、運用ができるように開発されていた。
言うならばアリの巣のように、地下通路と地下倉庫が張り巡らされている。街全体がそういう造りをしている。
ところが、西にも東にもそれほどまでに直接的かつ攻撃的な事案が起きることはなかったので、つまり平和な世の中が数十年続いたので、それら地下通路と地下倉庫は戦時下の運用想定から離れて民間の所有物として扱われるようになったという。
そんな状態が数十年も続けば、一元管理などただの理想。大元はテラグループの所有物だとしても、それを貸倉庫にして、又貸しをして、使用権だけを譲渡して──つまり誰が何を使っているのかという話はもはや意味がない状態であった。
故にとある地下倉庫も、その所有者が比較的自由にして良い状態になっていた。現時点でその倉庫を使っている〝持ち主〟は、倉庫の四隅に目立たない監視カメラを付けた。
仕事で使う重要な書類から、秘蔵のヌード雑誌まで、家に置いていたら奥さんに叱られてしまうものをため込むための〝隠し倉庫〟として運用している。
カメラを付けたことに特別な理由はない。勝手に盗み見るような輩が居れば司法に突き出す材料にする。その程度だ。そもそも出入り口の頑丈なカギを開けられるような素人はいない。玄人が開けたとしてもそこまでの労力に見合うものは置いていない。でもなんとなくカメラは取り付けていた。余っていたから。
そのカメラが、数か月ぶりに人間を映した。
センサーで起動したカメラは、真っ暗闇の倉庫を赤外線カメラと暗視カメラの両方で映し出し、それを録画した。
男がカメラを設置してから初めての侵入者であった。
侵入してきたのは二人。
二人とも十代の若者。服装は緑を基調とした戦闘服。
一方は森林迷彩柄のキャップを被ってコンペンセイターを取り付けた拳銃を持った若者。背中のリュックにKSGショットガンを括り付けてある。
もう一方はヘルメットをかぶり、手にはシルバースライドのM&P9。背中側にM24ボルトアクションライフルを回している。
数日間は補給なしでも行動できそうな大きなリュックサックを背負っていた二人は、荷物を下ろしてランタンに灯りをともし、どうやらこの倉庫で休息をとる様子だった。
そして部屋の隅に積み上げた段ボールを開封し始めた。
中に入っているのは経費の運用履歴書や予算書、企画書、現金出納帳。取引先企業の顧客情報。表には堂々と出せない薬の流れのメモ。
または白人ヌードの水着特集やケツのデカい女特集。入りそうなものを片っ端から股に入れる雑誌の特集やアナルのみをひたすら攻める黒人物。
バラクラバを脱いだ若者二人は、実に顔の良く整った少女たちだった。一人は白金髪でもう一人は黒髪。どちらも髪の長さは肩口にかかるくらい。
白金髪の方がヌード雑誌を読みふけっている。黒髪の方は真面目に書類をチェックしていた。
しばらく手分けして書類と雑誌を見ていた様子だったが、黒髪の方が銃を持って部屋から退室した。出る前に何やら相談ごとをしていた様子で、バックパックや広げた荷物はそのままだったのでどうも移動開始というわけではない。そもそも白金髪の方は部屋に残っている。
そうして一人になった白金髪の少女は、振り返って詰み上がった雑誌を数秒見つめた後、雑誌のすぐそばでズボンと下着を脱いだ。
コンクリの床にズボンを敷いて膝立ちになり、右手は股間を、左手は雑誌をめくっている。
最初はそのまま、膝立ちの姿勢でごそごそと股間をまさぐっていたが次第に姿勢の制御ができなくなったのか、力なくぱたりと床に寝転び、そのままびくびくと何度か痙攣した。右手は股座にうずまり指先がもぞもぞと動き続けている。
横向きに寝たまましばらくビクビクと震えて、それもおさまると十数秒そのまま放心状態に。
ころりと仰向けになって右手の指を股から抜いて顔の前に持ってきた。赤外線カメラは少女の指の間に粘液が橋を作っているのを捉えていた。
そうして数秒すると少女はけろりとした様子で右手の粘液を綺麗にふき取り、股の間も拭ってパンツとズボンをいそいそと穿いた。
出入り口を開けて黒髪の少女を迎え入れると、食事の用意を始める。
部屋の隅には、白金髪の少女が絶頂に至ったページが見開きでそのままになっていたが、さすがにカメラはそのページにどこの何が描写されているのかまでを映し出すことはできなかった。ただ一瞬、食事をとりながら黒髪の少女がその見開かれた雑誌に気が付いた様子はしっかりとカメラに録画されていた。
○
地下倉庫の一部始終を録画、保存している男の部屋は工場地帯のすぐ近くにあった。
社員が寝泊まりする寮であり、長くここに住む者もいれば、数か月のみこの付近の工場に勤務するための仮住まいとして使う者もいた。倉庫の所有者は後者のタイプで、部屋に置かれているPCが地下倉庫の監視カメラ映像を保存している。
寮内で銃声が鳴った。
幾度となく、複数種類が、連続して鳴り響く。
地下倉庫の映像を保管しているPCの部屋に、一人のPMCが入ってきた。そして、その部屋に窓から手榴弾が投げ込まれた。
PMCはいち早く気が付いて廊下に退避。手榴弾は予定通り炸裂して、すぐそばのPCは木っ端みじんに吹き飛んだ。
録画データも当然のように物理的な破壊を受け、もうこの世のどこにも存在しない。
「誰の」「何」とはあえて言いません。
『リコリスinタルコフ』本編の「情報箱」というお話のサイドストーリーかもしれませんがカメラの映像なので確証はありません。
ありませんったらありません。