【R18】冴えないエロゲの作り方(イラスト付き) 作:きりぼー
全裸の詩羽先輩を前にしても、俺は一切興奮もせず英梨々のことを考えていた。
英梨々が死を望むということが何のことかわからない。誰だって健康で長生きしたいもんだろう。
① 英梨々が死んで物語を終わらせる
② ハーレムエンドで目指す
何か勘違いや語弊があるのかもしれない。本人に確認してみないことにははっきりしたことはわからない。
もし、目の前の詩羽先輩を抱いて童貞を卒業するなら選択肢は迷わずに②だ。①があまりにもひどいため、そもそも選択肢と言えるかどうか。
しかし、何度も死に戻りをした俺はもう一つの考えが頭をよぎった。メタ的になるかもしれないが、①こそ英梨々ルートに戻れるのではないか?ということだ。②が詩羽ルートを進めるものなら、その逆こそが正解なはずだ。
10・・・9・・・
カウントダウンが始まる。詩羽先輩は全裸だがエロいというよりは美術作品のように美しい。
「・・・英梨々が死んで物語を終わらせる。俺、英梨々がそう望むなら・・・納得できないけど英梨々の話をきいてみます」
『LOST!』と頭に大きく響いた。失ったのは詩羽ルートのことだろうか?
「そう。不倫理君が選ぶならしょうがないわね。私としてはこのまま楽しくエッチな話をたくさん作ってもいいと思ったけれども」
「・・・すみません」
詩羽先輩は立ち上がった。以前は薄っすらと毛が生えていたきがするが、今はパイパンにしている。大きな胸も、くびれたウエストも、すらりと長い脚も魅力的だった。
恵の時もそうだったけど、肝心なところで俺はバカな選択肢を選んでいるのかもしれない。
「あと1人、まだゴネている子がいるから、それだけは相手してあげなさいよ」
出海ちゃんのことかな?
「じゃあ、さようなら不倫理君。本質的にあなたはやっぱり倫理君なのかもしれないわね」
詩羽先輩はそういうと俺にキスをした。なんだかひどく懐かしい感じがしたのは何故だろう。
意識がやがて薄れていった。
※ ※ ※
いつもの喫茶店。窓の外は日が陰ってきている。
恵がフラットな顔で俺を見上げるようにテーブルの前に座っている。俺の隣には英梨々が口を尖らせて拗ねるように前を見ている。
ここでの選択肢は英梨々か恵かを選ぶものだ。音楽はラフマニノフが流れている。『亡き女王のパヴォーヌ』というらしい。ずいぶんと静かで落ち着いた曲だ。
① 英梨々とは付き合ってないけど、俺は英梨々が好きだ。
② 英梨々とは付き合ってない。俺が好きなのは加藤だ。
完全に決着をつける2択も、今の俺には迷いはない。
目の前の恵がなんらかの俺の知らないイベントにより好意をもってくれたのは嬉しい。もちろん、俺も恵にあの桜の下で一目惚れのような恋をした事も認める。
けど恋は恋だ。英梨々とは違うのだ。俺と英梨々があまりにも近くて、なかなか恋愛的に発展しなかったり、ましてや肉体的な関係にほど遠いとしても、英梨々はとても大切な存在だった。
「英梨々とは付き合ってないけど、俺は英梨々が好きだ。ごめんな加藤。誤解させるようなことして」
恵は目を少し見開いて驚いた表情をしてから目をそらした。
英梨々は怪訝そうな顔で眉をひそめて俺を見上げている。
「そう・・・ならしょうがないよね」
恵が鞄を持って立ち上がった。すぐにでも立ち去りたい気持ちはわかる。
「けどさ加藤。俺・・・加藤の事も好きだ。どうにもならないし、加藤とは付き合えないけど・・・これは本当なんだ」
恵は俺の隣を通り過ぎた。
「それ、何の意味もないよね」
呟いた声は震えていた。立ち止まりもせずドアから出ていく恵を俺は見送ることしかできない。
「ふぅ・・・」
疲れた。長い旅路だった気がする。俺はソファーに座ってアイスコーヒーを飲んだ。苦い。泣きたくなる気持ちを抑えて、呼吸を整える。
「何今の」
英梨々が睨むようにこちらを見た。
「雑な告白で悪かったな」
小倉トーストの残りが固くなりかけていた。英梨々もコーヒーをストローで一口飲んだ。
「・・・それは別にいいけど」
「加藤のことも好きなのを認めたんだよ」
「あんたね、女心ってものもあるでしょ?何勝手に告白して勝手にふってるのよ」
「だよな・・・」
「バカじゃないの?」
「そうだな」
「なんか元気ないわね」
「なぁ英梨々。お前・・・死ぬの?」
「はぁ?」
頭の中は英梨々の事でいっぱいだった。混乱している俺はどこから話を進めていいのかわからない。
「詩羽先輩が英梨々が死を望んでいるって言ってたから」
「はぁ・・・ずいぶんと曲解されたものね」
「曲解?」
「荷物あるから学校もどらないといけないんだけど」
「そうか、なら戻りながら話をきかせてくれよ」
「別にいいけど・・・」
俺たちは会計を済ませた。英梨々がウォレットで清算する。
英梨々が詩羽と議論していたのは、美少女論についてだったらしい。美少女は少女のままだから成り立つのであって、成長したら美少女でなくなる。だから、物語の多くは人生の途中を切り抜いたものだ。
シンデレラの子育てや王位継承の陰謀などは描かれることはない。学園ものなら卒業ぐらいで終わる。それをハッピーエンドという。
「だからね、物語が完結するなら美少女が薄命で終わるストーリーになるってわけ」
「なるほどな」
「そういう悲劇もたくさんあるでしょ」
「そうだな」
「その中には名作だってたくさんあるわよね、読者はその後について悩む必要もないし」
「・・・ふむ」
この後の帰り道で今度は俺と英梨々で美少女論を語り合った。美少女論というよりは物語の構成の話かもしれない。
英梨々は美少女が死んでも、美少女のまま終わるストーリーが好きなようだ。まぁ確かに名作は多い。
俺の家の前に着いて、英梨々は「あんたが浮かない顔してたのって、あたしが死ぬと思ったわけ?」と聞いてきた。
「そうだな。別に体はどこも悪くないんだな?」
「今は至って健康だけど」
「今は?」
「大丈夫よ。風邪じゃないってこと」
「そうか」
「ほんと心配性ね、それがどうして告白につながるのよ」
「ああそうだな・・・ごめん。ぜんぜんロマンチックな告白じゃなくて」
「そうね。告白されたことよりも、加藤さんに告白したことの方が驚いたわよ」
「ごめん」
謝るしかない。
「でもね倫也。知ってると思うけど・・・あたしは告白されても断るようにしていたのよ」
「そうだな。俺は記念すべき100人目ぐらいにならないか?」
「もう数えちゃいないわよ。でもまぁ、倫也なら考えてあげてもいいわよ」
「ん?」
「だから、倫也だったら付き合ってあげてもいいと言ってのよ」
「ほんとに?」
「でも、すぐにいろいろ変えることはできないし、いままでとそう変わらないわよ。あんまり学校に恋愛沙汰なんて持ち込みたくないし、あたしの親衛隊との関係も良好に保ちたいし、倫也だって無駄に敵を作りたくないでしょ」
「そうだな・・・」
「だから・・・その、少し時間をちょうだい」
「わかった・・・」
「じゃ、また明日ね」
「おう、また明日・・・」
英梨々が「うん」とうなずいて少し笑った。はにかむ様に笑うと八重歯が少し見えてカワイイ。
坂道を登っていく英梨々を見送ってから、俺は家へと入った。
※ ※ ※
何事もなく月日は過ぎていった。この世界で変ったことと言えば地下第二倉庫がなくなっていたことだろうか。詩羽先輩は屋上でぼんやりと日向ぼっこをしながらメロンパンをかじることが多く、放課後も学校には残らずにいそいそと帰っていった。
こっちの世界の詩羽先輩と美少女論をかわしてみたが、「それって結局、自分の物語は薄命で終わりたいってことじゃないかしら?」と言われた言葉が心に引っかかった。英梨々の考えや、表に出さない心理を第三者の俺と詩羽先輩が議論して喧嘩をしてもしょうがない。
英梨々は明るく元気だったし、俺との関係も発展こそしないものの良好だった。
恵もそんなに俺を避けて過ごすという感じでなく、日直ぐらいしか絡みがなかったが、前世のように嫌われたわけでもないらしい。もっとも笑うこともないし、世間話もしないからただのクラスメートと言った感じだが、それはしょうがないだろう。
美智留に至っては小悪魔モードすら覚えてないし、俺と強引に性行為しようとしたことも忘れてしまったようだ。いつもの元気溌剌として明るくてちょっぴりバカな美智留に戻っていた。
どうやら俺のエロゲライフは終りを迎えたらしい。失格になったというのが正しいかもしれない。ハーレムエンドを目指せなかった俺は英梨々とプラトニックな関係をコツコツと積み重ねるのが精一杯だ。
その後、第二選択肢はずっと現れず、ゴールデンウイークが終り、梅雨が終り、二学期が終わった。
※ ※ ※
夏休みになり、英梨々とプライベートアイランドに行くことになった。澤村家の海の別荘で小さな孤島だ。
小さい頃から何度も足を運んでいる。付き添いが英梨々の両親でなく、だいたいは執事の細川さんが多い。今回も老夫婦で参加していて、英梨々にとっては祖父母みたいなものだ。
東京から南へフェリーで行き、そこからはプライベートヨットに乗ってさらに移動する。
島は小さいコンクリートの波止場以外はほぼ手つかずの自然が残っている。中央の丘に別荘が立てられ、綺麗な砂浜もある。四方が海に囲まれているため、それこそ全裸で過ごしても問題ないような場所だ。
「今回はね・・・デザインした水着を実際に作ってもらったのよ」
「ほう?」
「名付けてエロスク水」
「はいっ!?」
「みたい?」
「・・・みたい」
「あら、素直ね。まぁいいわ。倫也は欲情してもあたしを押し倒すなことはできないでしょうし」
英梨々がアコーディオンカーテンで部屋を区切り、水着へと着替えた。俺は一足先に着替えてビーチにパラソルを立てに行く。
しばらくして英梨々が坂道を下って降りて来た。
「どう?」
「・・・なんていうか、いろいろマニアックだけど、そこまで露出狂的なエロ水着ってわけでもないんだな」
「あんた何期待しているのよ。当たり前でしょ。これはねスク水なのよ。ただ無駄な部分を少し削ることで健康的なエロさを演出しているわけ」
「なるほどなー」
まったくもってエロとは奥深い。確かに露出面積が小さければいいというものでもない。隠す事によるエロさの演出というのもある。
この上下に別れた水着は確かにスク水にみえなくもない。完全に分離せずに繋がっているあたりが妙に色気を感じるのも事実だ。
まぁ学校採用は無理だろう。
【22 英梨々エロスク水】
「ふん。まぁ彼氏候補だからあたしの水着姿が拝めるんだからね、感謝しないよね」
「そうだな・・・」
「感想は?」
「えっと・・・魅力的なちっぱいだな」
「・・・って、倫也~」
英梨々が怒って海の水をかけてきた。
夏らしいイベントだな。
こうして俺は英梨々と楽しく過ごしていくのだろう。
めでたしめでたし。やっとこの荒唐無稽な物語が終わった。
(終り)
「終わらないわよ」
「えっ?」
「まぁあたしとしてはだいぶ時間が稼げたから、あとはなんとか誤魔化したいところだけど、あいつがうるさいのよね」
「あいつ?」
「波島出海よ」
「・・・」
出海ちゃんか。すっかり忘れていた。どうも伊織とのBLルートになりそうだったので疎遠にしていた。
「そういうわけで倫也。ちょっと波島出海の相手もしてきなさいよ」
「あのな・・・」
「あんた負けるんじゃないわよ」
「負けるってなんだよ・・・」
「ふん」
どうやらまだ物語は続いていて、俺はエロゲ主人公として最期の仕事をするらしい。まさか出海ちゃんがラスボスとはな・・・。
(続く)