【R18】冴えないエロゲの作り方(イラスト付き) 作:きりぼー
夕日の朱に染まって少し寒そうな英梨々が立っていた。
白いキャミソールも赤く見える。英梨々は手で腕をさすっている。あたりを見回すと近所の小さい公園のようだ。
英梨々をずいぶんをひさしぶりに見た気がする。こんなところで何をしているのだろう?
俺は着ていた服のボタンを外して脱いだ。それを英梨々に渡す。
「おまえ、そんな寒そうな恰好してどうしたんだよ」
「はいっ?あんたが呼び出したんでしょうが」
「俺が?」
英梨々が若い。昔のままの美少女だ。
「俺・・・どうしてここにいるんだ?」
「大丈夫?あんたさっきも変な作り話していたけど・・・冗談もほどほどにしなさいよ」
「と・・・とりあえず服を着てくれ」
「もう帰るからいいわよ」
英梨々が公園の出口に向かっていった。
「俺は何の話をしていたんだ?」
「・・・何度も『死に戻り』をしている中二病ごっこ」
「そんな時もあった気がするが・・・」
「夏には出海ちゃんとフェラ対決するんでしょ」
「なんだそりゃ?」
「それはあたしのセリフでしょ」
ポケットを探すとケータイが入っていた。昔使っていた旧型だ。日付を確認すると・・・
「もしかして俺たちって高校生?」
「もしかしなくても高校生よ」
「まじか」
「あんた突然人が変ったようね・・・ほんと、精神科の受診が必要なのか、中二病ごっこなのかわからないわね」
「とりあえず考えてみる。呼び出したみたいで悪かったな」
「ほら、服着なさいよ。やっぱりまだ夜は冷えるわね」
四月の下旬で陽気は定まらない時期だ。英梨々のかっこうからして日中は暖かったのだろう。
「悪いな・・・」
英梨々が公園から出ていくのを見送った。
ブランコに座って考えを整理する。
俺は恵と付き合って大学に通い、その後は独立してゲーム会社を作っていた。1つのけじめとして恵と入籍し、結婚式をあげている最中だった。
恵は誓いをせずに俺とキスをした。最期になんと言った?
『バイバイ』とそう言ったのだ。それから、『英梨々を幸せに』と付け加えた。恵はこうなることを知っていたかのようだ。
俺は当時のことをゆっくりと思い出そうとした。恵とは距離があったが、英梨々の手助けもあってだんだんと仲良くなった。
なんで恵が誓わなかったのかわからない。
『ピコーン』とどこかで音が鳴った。
俺はあたりをキョロキョロと見回したが、それらしき音源は見当たらない。その後に脳内に突然言葉が浮かんだ。
① だよな。美智留に頼んでみる。(美智留ルート)
② うーん。詩羽先輩に相談してみるよ。(詩羽ルート)
③ 加藤はワンチャン無理かな?(恵ルート)
④ 自主トレで出海ちゃんと戦ってみる。(出海ルート)
「なんだこれ・・・」
まったく不可解だったが見覚えがある。文字はどれも取り消し線で修正されている。どれを選択することもできなかった。
そういえばこういう妄想をしていたことを思い出す。英梨々との関係はいつも同じ距離で縮まらない。同じ部屋で過ごしているのに性的な関係や雰囲気にはぜんぜんならなかった。
その時の妄想として、懐っこい従姉妹の美智留で童貞を卒業し、詩羽先輩と変態的な性的倒錯を行い、出海ちゃんをセックスフレンドにして弄ぶ。男子高校生らしい何の責任も脈絡もない妄想だ。
そして、俺が今ここにいるということは恵との人生も全部夢だったのだろうか。
この4つの選択肢をみると、そう推測する方が正しそうだ。
まだおかしい。こんな選択肢が脳内に起きることはありえないし、だいたい出海ちゃんとのフェラ対決がまっているなんてバカげた話にも程がある。
導き出される結論は一つ。
これも選択された分岐の1つで夢のようなものだということだ。いったいいつから分岐してここにいたったのか俺はもう思い出せない。あまりにも長い時間をそれぞれの世界で過ごした。
目が覚める、あるいは死に戻りする方法は・・・『キス』か。
まったく俺の方が白雪姫だとするなら、王子はいったい誰なんだか。
『キィ・・・ キィ・・・』
風に揺れたブランコの金属音が侘しく鳴っている。カラスが鳴きながらそれぞれの巣に戻っていく。いつのまにか夕日はすっかり沈み、空は暗くなっていた。
東京の空だから星はあまりみえない。
俺はできるだけのここに至った経緯を思い出そうとした。この4つの選択肢の前もあったはずだ。最初の分岐はなんだったか・・・
そうだ・・・あの喫茶店で恵に聞かれたのだ。『英梨々と付き合っているかどうか』を。それが最初の分岐だった気がする。俺は英梨々ルートと恵ルートを迷いながら攻略してきた。
けど、まだ何か忘れている気がする。
※ ※ ※
「あんた、いつまでそこにいるつもりよ」
振り返ると英梨々が立っていた。ツインテールはほどけて長い金髪が夜風に揺れている。
ゆったりとしたナイトドレスを着て、こざっぱりとしている様子から風呂でも入ってきたのだろう。
「何だ?俺は監視でもされてたのか」
「バカ。ここはあたしの家の庭みたいなものでしょ。窓から丸見えなのよ」
見上げれば赤い屋根と窓がいくつか見える。小さい頃にこの公園で遊んでいると英梨々が来たのはそういうカラクリがあったからだ。
「なぁ・・・英梨々。唐突だけどお願いがあるんだ」
「いやよ」
「とりあえず聞けよ・・・」
「どうせまたエッチなお願いなんでしょ」
「またってなんだよ・・・」
「はぁ?あんたが波島出海を攻略するために、あたしに練習台になれって言ったでしょ」
「ひでぇな・・・」
「中二病もこじらせると立派な犯罪者ね」
「ごめん」
「ずいぶん素直ね。で、頼みってなによ」
「キスしてくれ」
「・・・っ!・・・バカなの!?」
英梨々が驚いた後、俺を睨んだ。そりゃそうだろう・・・
「・・・はぁ・・・」
英梨々が深い溜息をついた。風に揺れるたびに髪がキラキラと輝いている。半分ぐらいこいつは天使なんじゃないだろうか?背中の羽は見当たらいが。
「理由ぐらい説明しなさいよ」
「恋に理由はいらないだろ?」
「ぶっ」
英梨々が噴き出した。俺はそんなに変なことを言っただろうか?
「これはきっと夢みたいなものなんだよ。それの正体がなんなのか俺はわからないけど・・・だからさ・・・目が覚めるのにはキスが必要だろ?」
「どんな理屈よ・・・」
「今度はちゃんと英梨々を選ぶから」
「いつも 常に ずっと 永遠にあたしだけを選びなさいよねっ!」
「わかった。誓うよ」
「じゃあいいわ・・・ほら・・・ちゅっ!」
【画像33 投げキッス英梨々】
英梨々が投げキッスをした。いやそれじゃ死ななないだろ・・・
と思ったが、案外どうでもいいらしい。俺はだんだんと意識を失って・・・
※ ※ ※
※ ※ ※
なんか走馬灯のような妄想をしてしまった。
いつもの喫茶店。目の前には加藤がセーラー服を着ている。
テーブルの上には小倉トーストと桜あんトーストが並んでいて、2人でシェアして食べている途中だ。
「それってさぁ・・・安芸くん」
「はい」
「付き合うってこと?」
俺はこの質問を受けて、加藤に大きな誤解を与えた事に気が付いた。
『メインヒロインになってくれ』なんていうのは確かに告白に近い。
俺は一瞬の間に加藤と結婚する未来まで妄想した。途中で紆余曲折して女遊びをしたのは加藤は絶対に浮気なんて許さないタイプにみえたからだ。付き合う前に少し経験を積んでおこうというバカげた妄想まで、自分でいうのもなんだがリアルだった。
とにかく今は誤解を解くのが先決だ。
「ごめん加藤。俺には幼馴染の英梨々がいてさ。澤村英梨々ってクラスメートがいるだろ? あの金髪美少女な。でも、中身はけっこうアレなやつでな・・・もしかしたら加藤は寛容だし、真面目でお堅いし、あいつとはいい友達になれるか知れないけど・・・なんていうか・・・ほんとはがっかり美人なんだよ」
俺はいったい何を言っているんだろう?
こんなことを加藤に説明してどうする。
「うん?安芸くんは澤村さんと知り合いなんだ?」
「知り合いというか・・・大事な幼馴染というか、ずっと片想いしているというか・・・これは秘密で・・・」
「へぇ・・・」
まぁ俺のような奴が誰を好きだろうが、加藤には関係ないだろう。加藤が俺に都合よく片想いしているなんていうのは、俺の妄想の中だけだ。
「そいつとゲームを作る約束をしていてさ。加藤と春先に出会った桜のイメージが良かったんだよ。それで使用許諾っていうのも変だけど・・・メインヒロインって言ったんだ」
「よくわからないけど」
・・・そりゃそうだよな。
「ごめん。だから、付き合うとかそういうのじゃなくってだな・・・」
「ああ、うん。そうだよね。なら安芸くんは澤村と付き合うんだ?」
「俺の一方的な意思だけじゃどうにもならないんだけどな」
「そうかなぁ」
「恋愛って両想いでなるものだろ」
「そうでもないんじゃないかな。今だってとりあえず面白そうだから、付き合ってみるのもありかな?って思ったし」
「まじかっ!!」
俺はもしかして人生最大のチャンスを逃したのかもしれない。
「高校生だもん。誰か他に好きな人がいないなら、デートくらい経験したい人の方が多いんじゃないかな」
「なるほどな・・・」
「とにかく、わたしの勘違いだったのはわかったけど、それならそれで安芸くんも他の女の子に声なんてかけてないで、ちゃんと澤村さんと話合った方がいいと思うよ」
「・・・だよな」
「うん」
加藤が紅茶を飲んだ。店内ではロマンチックなクラシック音楽が流れている。これはラフマニノフだっけな。
その時、俺のケータイが鳴った。英梨々からのSNS電話だった。
「どうした?」
「あんたどこにいるのよ」
「小倉あんトーストの喫茶店。もう戻るぞ」
「そんなとこでなにしてんのよ」
「戻ってから話すからこっちに慌ててこなくていいぞ」
「べ・・・別に向かってないわよっ!」
位置情報でバレバレなんだがな・・・
「まだ部活あるんだろ」
「ちょっと抜けてきたけど・・・」
「戻っていいぞ」
「べ・・・別に」
「わかったからじゃあ、また後でな」
俺は電話切った。
「というわけで加藤。ごめんな。ここは俺が持つから・・・」
「うん。今の澤村さん?」
「そう。なんか変ったやつでさ。ケータイの位置情報アプリとかいれてんだよ」
「それ、もう付き合ってるんじゃ・・・」
「俺はそういうのよくわからないな」
俺はアイスカフェオレを飲み干して、鞄を持って立ち上がった。
「ほんとごめん」
「いいよ。ごちそうさま。バイバイ安芸くん。英梨々とお幸せにね」
後ろ髪をひかれる思いだったが、俺は会計を済ませて店を出た。
英梨々がいるから、加藤とはそんなに親密な関係にはなれない。当たり前のことだ。
※ ※ ※
「あんたね・・・40枚ってバカなの!?」
「いや、全部ゼロからじゃなくていいぞ。俺もお前のマンガや過去のイラストから切り抜いて作ってみるから」
「人の著作権をなんだと思っているのよ」
「ならゼロから描くか?」
「描かないわよ。まったく。どうしてそんなに膨大になっているのよ。それじゃ正規版ぐらいの容量になるわよ」
「そうなんだよな・・・」
英梨々と帰りながらゲーム作りの話をする。俺がシナリオを書いて、英梨々がイラストを描く。小さい頃からの約束だ。
音楽は美智留にでも頼めば適当なのを作ってくれるだろう。
俺の文章は下手だからある程度まで書いたら、詩羽先輩に校正を頼もうと思う。
簡単なスクリプトゲーなので、1人でプログラムを組んでも十分間に合う。
「あたしは2つの分岐を3回ぐらいの簡単なものでいいって言ったわよね」
「言ってたなぁ・・・」
「どうしてそんなボリュームになるのよ」
「主人公がヘタレで優柔不断だからじゃないか?結局エロゲってところがネックなんだよ。そうなるには成長していかないと無理だろ」
「そこにリアリティーっているかしら?」
「だから、こう・・・エロゲ要素を取り込みつつだな・・・必死な主人公の一途な思いが空回りするのがいいんじゃないか?」
「まっ、よくわからないけど、シナリオみせないよ」
「嫌だよ」
「はぁ?シナリオわからなかったらイラスト描けないでしょーが」
「どんなイラストにして欲しいかはちゃんと描くよ」
「いやよ、シナリオみれないならイラスト描かない」
「それじゃゲームをプレイする楽しみがなくなるだろ」
「どういうことよ」
「俺は英梨々のためにゲーム作りたいんだよ。最初のプレイをお前にやって欲しい」
英梨々と話をしていると時間のすぎるのが早い。電車を一度乗り換える通学なのだが、いつのまにかもう地元の商店街についている。
英梨々は無言で何か納得いかない様子で考え事しながら歩いている。
「・・・まっ、そういうことならしょうがないわね」
俺たちの地元商店街はレトロな雰囲気が残ったまま賑わっている。今時珍しい写真館が商店街の真ん中あたりにあり、そこには英梨々の写真がでかでかと飾られている。
そういうこともあって、英梨々は街の人に『お嬢様』と声をかけれることがある。地元のみんなが英梨々を知っているのだ。小高い丘の上の屋敷が余計にお姫様的な幻想を抱かせるのに一役買っているのだろう。
英梨々がお嬢様なら、さしずめ俺は従者といったところか。
「楽しみにしとけよ」
漠然としたプロットはできた。あとはひたすら妄想に任せて書くだけだ。
「期待しないで待ってるわよ」
「いや待たずにイラスト描けよ」
「40枚かぁ・・・」
英梨々が眉をひそめたあと、ニコっと笑った。笑うと八重歯が少し見える。
笑うととても可愛いし、英梨々が楽しそうだと俺も楽しい。昔からだ。
ず~~~と昔から、そうだった。
(続く)
次回最終回。